NORDKAMMのバックパック「ANTARES(アンタレス)」50L+10Lを購入しました。
本製品はドイツ本国で年間7,000個売れたというふれこみで、2020年8月に日本で販売開始しました。
フロントオープン、サイドポケット、ウエストポケット、7段階の背面調整機構といった豊富なギミックを備えながら1.7kgと軽量に仕上がり、レインカバーまで付属して2万円台前半というお手頃な価格を実現しています。
登山・アウトドア系YouTuberがこぞって取り上げ、気になっていました。
この記事では、主として「雪山登山で通用するか?」という観点でレビューします。
結論を先に言うと、雪山登山で十分に通用します。ただし、雪山登山にターゲットを絞ったバックパックではないため、ある程度の割り切りや使いこなしの工夫が必要です。
ノードカム「ANTARES 50L+10L」開封の儀
バックパックの概要
バックパックの概要については、付属のリーフレットがわかりやすいので引用します。
構造(各部名称)
バックパックの調整方法
保証タグ
「1年間正規保証」「30日間無料返品」をうたっています。ノードカムの日本における販売代理店は「合同会社ジャパングローバルトレイド」です。
ノードカム「ANTARES 50L+10L」は雪山登山で通用するか?
ピッケル ホルダー
ピッケル(アイスアックス)を固定するストラップを正面左寄りに備えています。
ピッケルとトレッキングポールのアイコン(広告サイトの画像では「ICE AXE」という文字になっている)がプリントされたスリットの内部にループが収納されています。ループを引き出して、ピッケルのスピッツェ(スパイク、石突き)を上から差し込みます。ピックが外側に突き出さないように内側に向けます。
ヘッドの根元まで差し込んだら、裏返してスパイクを上に向けて、上部のフック付きショックコードで留めます。
さらにピックをスリットに収容できるとよいのですが、ループとスリットの位置関係から難しいです。
公共交通機関で移動する場合には、どっちみちブレード(アッズ)やスピッツェにカバーを付けるのが最低限のマナーです。
ワンドポケット(トレッキングポール、スコップ ホルダー)
側面下部のオープンポケットは「サイドポケット」と呼ばれることが多いですが、「ワンドポケット」(wand=杖の意)という呼称のほうが相応しいです。
ピッケルに加えて、トレッキングポールも持ち運びたい場合、左右どちらかのワンドポケットに差し込み、サイドストラップで留めます。
このバックパックの場合、左側が本体と同じ厚い生地(マチ付き)、右側がメッシュになっています。メッシュポケットは2つに仕切られています。メッシュの耐久性に不安があるので、左に差したいところですが、するとピッケルと同じ側になって、重心が左に片寄るのが気になります。
正面右寄りにおあつらえ向きに「謎のループ」があるので、ホルダーを自作して取り付けるとよいでしょう。50cmくらいのショックコード(バンジーコード)を輪にして、両端をコードロックでまとめます。これを「謎のループ」にカウヒッチで取り付けます。
トレッキングポールの石突をメッシュポケットに差し込み、ショックコードの輪をびよーんと伸ばして柄をくぐらせ、コードロックを絞れば固定できます。スノーバスケットはいっしょにメッシュポケットに入れておきましょう。
さらに小型のスコップ(ショベル)を持ち運びたい場合、本体と柄を分解して、どちらかのワンドポケットに差します。サイドポケットが中のモノで膨らんでいると差しにくいため、メインローダーに収納するしかないかもしれません。
サイドポケット
このバックパックを購入する際、いちばん期待したのはこのサイドポケットの利便性でした。容積は3リットル×2(左と右)。縦ファスナーで開閉します。メインローダーとは独立しています。マチ付きで縦に長く、ドーム型テントのフレーム(ライズ1の仕舞寸法38cm)をぎりぎり(少し斜めに)収納できます。
右側に900ミリリットルくらいのペットボトル、左側に500ミリリットル+350ミリリットル容量の保温ボトルを収納してみました。
メインローダーに荷物がパンパンに詰まっていると、縦に真っすぐ収納するのは難しく、斜めに差し込むはめになります。ボトルの形が浮き出て、やや不格好。平べったいソフトボトル(プラティパスの1リットルサイズ等)ならすんなり収納できるでしょう。
サイドポケットを快適に利用するには、メインローダーにモノを詰め過ぎないことが肝要です。
ハイドレーションポケット
背面内側にはハイドレーション用のソフトボトルを格納できる大きなポケットがあります。この記事では「ハイドレーションポケット」と呼ぶことにします。
雪山ではホース内部の水分が凍りやすいので、トレイルランニングのような給水の仕方は向いていません。しかし、このポケットが貯水ボトルを格納するのに絶好の位置にあることに変わりはありません。入山初日には行動中に飲む水分以外に余分な水を持ち込むはず。プラティパスに1~2リットルの水を詰めて、ハイドレーションポケットに格納すれば、背中の熱が伝わって凍りにくいことが期待できます。
フロントオープン
このバックパックの最も特徴的なギミックです。
テント泊の撤収時、バックパックを床に伏せたままパッキングできます。また、行動中に防寒着やクッカーを気軽に出し入れできます。
フロントオープンの上部は3枚重ねのベルクロになっています。
両サイドのジッパーを連結するハンドルが木の枝などに引っかかって意図せず「御開帳」とならないようにベルクロの内側にくるむことをおすすめします。
フロントオープンを快適に利用するには、メインローダーにモノを詰め込み過ぎないことが肝要です。パンパンに詰めた状態でフロントオープンすると、二度と閉じることができなくなり、パッキングをやり直すはめになります。床に伏せたままパッキングを完遂できるくらいの荷物量に留めるとフロントオープンやサイドポケットを快適に利用できます。
デイジーチェーン(スノーシュー、ワカン、アイゼン ホルダー)
スノーシューやワカンを携行する場合は、正面のデイジーチェーンを利用して、括り付けることになります。別途ワカンケース(ワカンスタッフバッグ)を用意してデイジーチェーンに取り付け、その中に収納するほうが着脱の手間が減ります。
アイゼン(クランポン)は比較的コンパクトなのでメインローダーになんとか押し込みたいところ。どうしても外付けしたいなら、これまた別途アイゼンケースを用意してデイジーチェーンに取り付け、その中に収納するのが無難です。ワカンケースを利用すれば、ワカンといっしょに押し込めるでしょう。
ワカンだけなら、トップローダー(雨蓋)のストラップをワカンのフレームに通してぶら下げるという簡便な方法があります。
いずれにせよ、フロントオープンを活用しづらくなるのは避けられません。
左側面の容量調整ストラップ×2本に通してぶら下げても良いですが、重心が左に片寄ってしまうのが悩ましいところです。右側面には容量調整ストラップが1本しかないので固定しづらいです。
トップローダー(ヘルメットホルダー)
トップローダー(トップリッド?天蓋?雨蓋?)のファスナーは止水タイプではなく、フラップが覆いかぶさっています。
内部には、貴重品入れを想定したファスナー付きメッシュポケットが縫い付けられています。メッシュポケットの内側にはキーチェーンが付いています。財布やクルマのキーの指定席です。
有力メーカーのバックパックは、トップローダーの裏側に隠しポケットを備えているのが常ですが、本製品にはそのようなポケットは存在しません。サイドポケットにその代わりをつとめてもらいましょう。メインローダーの出し入れ口は2本のコードで絞ります。
ヘルメットはトップローダーの下にはさみます。もし無理なら、トップローダーの上に外付け……したいところですが、本製品にはそのためのループの類が存在しません。
ヘルメットのストラップをデイジーチェーンに通して固定するか、別途ヘルメットホルダーを用意してデイジーチェーンに取り付ける必要があります。
ウエストポケット
付属のリーフレットでは、ウエストベルトの外側に付いたポケットを「サイドポケット」と呼んでいます。紛らわしいので、この記事では「ウエストポケット」と呼ぶことにします。
ここにはバックパックを背負ったまま取り出したい小物を入れます。行動食、ヘッドランプ、地図、コンパスの特等席です。パートナーがぶら下がったロープを切るためのナイフ(マルチツール)を常備するのも良いでしょう。
ボトムストラップ
デイジーチェーンの最下部は、ワンタッチバックルで開閉可能なループ状のストラップになっています。この記事では「ボトムストラップ」と呼ぶことにします。
ここには「軽いけれどバックパック本体に収納するには嵩張り過ぎる装備」を括り付けます。
クローズドセルタイプのマットレスの指定席です。個人的には、横幅が大きくなると岩稜帯や急峻な斜面で周囲のモノと接触してバランスを崩しやすくなるので滅多に利用しません。クローズドセルを持って行くなら工夫してメインローダーに収納します。最近ではコンパクトに圧縮可能なインシュレーションタイプのマットレスを選ぶことが多いです。
しかし、なだらかな樹林帯をアプローチして、ベースキャンプを設営し、そこから山頂を往復する定着型の登山なら、過度に横幅を意識する必要はありません。インシュレーションタイプのマットレスに加えて、リッジレストやZライトを敷けば、寝床の保温性を思い切りブーストできるにちがいありません。
雪山特有のウェア(ダウンジャケット、手袋、オーバーミトン、ゲイター、目出し帽、等々)が増えて、メインローダーの容量が不足気味なら、それらのウェアを防水スタッフバッグに収納してボトムストラップに追い出すのも悪くありません。
アイゼンケースを外付けする場合はデイジーチェーン付きのモノをおすすめします。さもないと雪道で脱落しても気づかず、あとで落とし物ツイートが拡散されるはめになります。上の写真はモンベルのサイドポケットを流用した例です。
専用レインカバー
標準で付属。重量は専用のスタッフバッグ込みで110g。ドイターやカリマーのバックパックのように底部に収納用のポケットがあるとなお良いのですが……。
そもそも雪山にレインカバーを持って行く必要があるのか? もし余裕があるなら、あって困るものではないです。狭いテント泊で不要な装備を外に出してレインカバーをかぶせておいたり、雪洞泊で万が一の崩落に備えて装備をまとめておいたり、テント撤収時にザックに詰め込む前の装備をまとめておいたり。こうしたシンプルなシート、袋状のモノは応用範囲が広いです。
冬季の高山帯では季節風が強いため、バックパックにレインカバーをかぶせると風をはらみ、バランスを崩しやすくなると心得ましょう。また、バックパックを雪の斜面に置いたとき、滑り落ちやすくなる点にも注意。森林限界より上ではかぶせないほうが良さそうです。樹林帯のラッセルで雪まみれになる場面では、かぶせておくと気休めになるかもしれません。
背面調整機構
背面はXXL、XL、L、M、S、XS、XXSの7段階の調整機構により、身長150cmから200cmまで対応するとされています。
私はLに調整。そこで、あれ?と気づきました。背負わない状態ではショルダーベルトの付け根が宙に浮いており、だらりと落ちてきます。上部のリフトストラップを最大限に絞ってもグラグラします。これは「背面パネルの吊り上げ」と「ショルダーベルトの引き付け」の両方の役割をリフトストラップが担っているためです。
いったん背負ってしまえばバックパック本体に密着するのですが、問題は床から背中にドッコイショと担ぎ上げる瞬間です。ショルダーベルトの付け根が安定していないため、少しばかり振り回されます。背負ったあとも、背面の剛性が物足りない感は否めません。前向きに捉えれば、身体の動きにしなやかに追従するとも言えます。本製品の軽量化の影響が強く出ている部分だと思います。
ショルダーベルト、背面、ウエストベル個々の作りは十分な剛性とパッドを備えているため、身体へのフィット感は良好です。ただし、メッシュ仕様となっているため、降雪中に行動すると雪が詰まりやすい。手で払ってもなかなか落ちてくれません。
ストラップホルダー
ほぼ全てのストラップに末端を留めるストラップホルダー(赤い輪)が付いています。最少の素材で出来ているため軽量で、脱落する心配がありません。この構造を他メーカーも真似して欲しいくらいです。
例えば、リフトストラップやチェストストラップの余長が強風でバタつくと、顔を叩いたり、目に飛び込んだりしてうるさいものです。こうした配慮が行き届いていると、安心して背負うことができます。
また、紺色タイプのバックパックでは、ストラップホルダーの赤が差し色となって、外観をスタイリッシュに引き立ててくれます。
ノードカム「ANTARES 50L+10L」総評
NORDKAMM(ノードカム)のバックパック「ANTARES(アンタレス)」50L+10Lを、主として「雪山登山で通用するか?」という観点でレビューしてきました。
気になる点をまとめると、以下の通りです。
- ピッケルホルダー(トレッキングポールホルダー)が左側にしかない。
- 右側面の容量調整ストラップが1本しかない。
- トップローダー(雨蓋)上面に拡張用の機構(四隅のループ等)がない。
- トップローダー(雨蓋)に隠しポケットがない。
- 背面の剛性が物足りない。
- 背面がメッシュ仕様で雪が詰まりやすい。
もし、これらが許容範囲内なら、雪山登山の相棒となりえます。もちろん、気楽なスノーハイクから夏の北アルプス縦走、海外旅行まで幅広くオールシーズン活用できます。
初めて登山用バックパックを購入する人が選んでも大失敗したと感じることはないでしょう。
容量が30Lや40Lのモデルも用意されています。
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