賢者はEXPEDのダウンマットで眠る

ダウンマットとは「羽毛を詰めたエアマット」のことです。

登山用のマットレスのなかで最高レベルの断熱性・保温性を誇ります。

雪山テント泊で普通のエアマットを使うと、背中側で温まった空気が対流し、地面側で冷やされ、熱が奪われます。ダウンマットなら、羽毛が対流を抑制します。

また、いくら厚いダウンジャケットを着て、厚いダウンシュラフにくるまっても、地面側(背中側)は体重で押しつぶされて、体熱を蓄えるための膨らみを失います。

ダウンマットなら内部の羽毛がつぶれないので、羽毛本来の断熱性・保温性を発揮します。

余はいかにしてダウンマット信者となりしか

【理論】ダウンマットは重量に対するR値(断熱性)がズバ抜けている

ダウンマットは、羽毛を詰めたぶん普通のエアマットより重くなります。とは言え、自然界で最強の保温素材なので最低限の重量ですみます。

ダウンマット製造販売の代表格といえばEXPED(エクスペド)社です。同社の現行ラインナップ(2020年2月時点)で雪山向きの「Ultra 7R M Mummy」と「他の構造の代表的なマットレス」とを比較してみました。

外観 構造 商品名
サイズ(長さ×幅×厚さ) 重さ R値
ダウンマット EXPED Ultra 7R M Mummy
183×52(35)×9cm 495g 7.1
エアマット NEMO Tensor Regular Mummy
183×51×8cm 365g 2.5
クローズドセル THERMAREST Z Lite Sol
183×51×2cm 400g 2.0
自動膨張式 THERMAREST PROLITE R
183×51×2.5cm 510g 2.4
熱反射式 THERMAREST NEOAIR XTHERM R
183×51×6.3cm 430g 6.9

ダウンマットは重量に対するR値(thermal resistance value=熱抵抗値)がズバ抜けていることがわかります。唯一、最近流行の「熱反射式」が拮抗しています。

私がEXPED(エクスペド)のダウンマットを知ったのは、故・新井裕紀氏がRock&Snow誌で連載していた「ハードコア人体実験室」を読んだときです。エアマットに羽毛を詰める発想に目からウロコが落ちました。新井氏は第11回(033号)、第12回(034号)で、雪山登山におけるレイヤリングや防寒について濃密な知見を披露しています。そのノウハウの一部を京都北嶺会のホームページ「山の小わざ 雪山編」で読むことができます。

【実践】EXPEDのダウンマット「DOWNMAT UL 7 S」購入

現在、日本で入手しやすい登山向きのダウンマットとしてはEXPED一択です。

2012年頃、極上の寝心地を求めて、EXPEDのダウンマット「DOWNMAT UL 7 S」を購入しました。フリークライミングの岩場の近くでテント泊するとき、できるだけ良質の睡眠をとり、活動のパフォーマンスを上げるためです。小川山の廻り目平キャンプ場とか、伊豆・城山近くの河原とか、有笠山近くのキャンプ場とか。

20年以上ぶりに雪山登山を再開したとき、最初に携行したのがEXPEDのダウンマットでした。軽量コンパクトさや性能の高さを追求した道具は、対極的な活動エリアにあっても通用することを実感しました。

厳しく冷え込むテントのなかで膨らまし、身を横たえて、羽毛の温もりがほんのりと伝わってきたとき、EXPEDのダウンマットは本来あるべき場所に、私自身も本来あるべき場所に帰ってきたのだと感じました。

スタッフバッグに記載された仕様

  • Size: 163×52×7cm / 64×20×2.8inch
  • R-Value: 5.9
  • weight: 500g / 17.6oz

スタッフバッグの内ポケットに補修用品入り

スタッフバッグの内ポケットに補修用品が入っています。

中身は取扱説明書と接着剤、生地です。

本体の質感

表面に亀甲模様の滑り止めがほどこされています。左右両側のチューブは大きめで、身体がずれ落ちにくくなっています。

空気の出し入れ口

空気を注入するバルブ(INFLATE)と、空気を排出するバルブ(DEFLATE)が別になっています。

実測重量

実測重量は以下の通りです。

  • 本体:495g
  • ポンプバッグ:62g
  • スタッフバッグと補修用品:33g

EXPEDのダウンマットを使いこなす

ポンプバッグを大きく膨らますには15cm程度離れた所から強めに息を吹く

羽毛は濡れたり湿気を帯びたりすると、ロフト(膨らみ)を失い、保温力を発揮できません。呼気で膨らますのは厳禁です。付属のポンプバッグで空気を送り込みます。

お手本となる動画がYouTubeの公式チャンネルで公開されています。

2~3回で素早く満タンに膨らみます。

ポンプバッグを大きく膨らますには一瞬フッと息を吹き込むのがコツです(動画の2:35付近)。ポンプバッグに顔を近づけすぎず、すこし離れて吹き込んだほうがよく膨らみます。この程度なら、呼気に含まれる湿気がダウンマット内部に盛大に侵入することはありません。

NEMOのポンプサックの説明には《15cm程度離れた所から強めに息を吹くと、周囲の空気を巻き込んで口から吹いた量の10倍以上の空気がポンプ内に送り込まれます。》と記載されています。

ポンプバッグを膝で押して空気を送るとラクチン

動画の男性はポンプバッグを両手で床に押し付けて空気を送り出しています。私は片膝で体重を乗せて送り出しています。このほうがラクチンです。

狭いテント内で膨らませるにはマットを側壁に立てかけると良い

風雨や吹雪の真っ最中にテント設営した場合、狭いテント内でマットを膨らます必要があります。動画のような快適な体勢で作業するのは困難です。マットを長く伸ばすと、自分の居場所がなくなります。マットを折り曲げたり、ポンプバッグの吹出し口を曲げたりすると、空気がスムーズに入っていきません。

これを解決するには、マットは床に敷くものだという先入観を捨てる必要があります。

マットを長く伸ばしたら、テントの側壁に立てかけます。自分はテントの真ん中に陣取り、ポンプバッグの接続部を180度回転させます。こうすれば、マットは折り曲がらず、ポンプバッグの吹出し口も折り曲がらず、自分は広い場所で作業できます。

マットはテントに入ってすぐに膨らませる必要はありません。ひとまずダウンマットを広げて、その上にシュラフカバーやシュラフを敷いて、ダウンパンツやらダウンブーツやら保温着を着こんで、ガスバーナーで温かい飲み物でも作りましょう。人心地ついてから、落ち着いてダウンマットを膨らませばよいではありませんか。

銀マットと併用する

ダウンマットとは別途、銀マット(銀シート)を敷けば、

  • テント設営時、ダウンマットを膨らませる前
  • テント撤収時、ダウンマットを畳んだ後

の床の冷たさを軽減できます。ダウンマットと併用することによって保温力が確実に向上します。

ダウンマットに手を突いて底付きさせると、銀マットがある場所とない場所とでは手に伝わる冷たさが明らかにちがいます。

銀マット偉大なり

もし銀マットなしに直接ダウンマットを敷いた場合、背中にはっきりと冷たさを感じなくとも、大いに保温力を損なうことは想像に難くありません。

寒い朝には防水手袋をして丸める

雪山の朝、ダウンマットをたたむ際、床側は結露で濡れて、キンキンに冷えています。

素手で丸めようとするとツラい。そんなときは防寒テムレスのような防水性の高いグローブを付けることをおすすめします。

空気を抜くには前腕で押し出す

ダウンマットは内部に羽毛が詰まっているぶん、普通のエアマットより空気を抜きにくいです。

いきなり丸めようとしても抵抗が強くて苦労します。

私は次の手順で空気を抜いて畳みます。

  1. マットの上に寝そべったまま、排出バルブ(DEFLATE)を開放する。
  2. 体重であらかた空気が抜けるのを待つ。
  3. マットを細長く三つ折りにする。(※EXPEDのダウンマットの場合)
  4. 前腕を伏せて、排出バルブに向かって空気を押し出す。(上の写真)
  5. 排出バルブの反対側から丸めていく。
    最初が肝心。巻き始めをできるだけコンパクトにする。あとからコンパクトにしようと思ってもできない。
  6. 巻き切ったら排出バルブを閉じる。

ポンプバッグをコンパクトに畳む

ポンプバッグをスタッフバッグにいっしょに収納するなら、ポンプバッグもコンパクトに畳む必要があります。

私は次の手順で空気を抜いて畳みます。

  1. ノズル(象の鼻のような空気の送り出し口)のキャップを開放する。
  2. ポンプバッグ開口部の硬めの芯(テープ)にきつく巻き付けながら空気を抜く。
  3. ノズルのキャップを閉じてバックルを接続する。
  4. 硬いバックルを先端にしてスタッフバッグに挿入する。
  5. ポンプバッグが入りきったらスタッフバッグのドローコードを絞る。

ポンプバッグをドライバッグとして兼用する

ポンプバッグはドライバッグとして兼用できます。マットを膨らますしか用途がない無駄な装備ではないので安心してください。

「手荒に扱って、もし破れたらダウンマットを膨らませることができない」と心配性の人は、予備(単体で売られている製品)を携行しましょう。軽量コンパクトさは通常のドライバッグと遜色なく、空気の抜きやすさではむしろ勝っています。

2つ携行する場合、

  • 1つにはテント内でしか使わない保温着(ダウンシュラフ、ダウンパンツ、ダウンブーツ等)を入れる。
  • もう1つには行動中に羽織るダウンジャケット等を入れる。

というぐあいに使い分けると良いでしょう。

なお、枕として使えるこんなユニークなポンプも用意されています。

私はポンプバッグをスタッフバッグに収納したつもりで忘れた経験があります。羽毛が湿ることを覚悟のうえで息で膨らまそうとしましたが、Expedの空気注入バルブは口にくわえる形状になっていません。あきらめてザックを背中に敷き、不快な一夜を過ごしました。以後、予備のポンプバッグを携行するよう心がけています。

ポンプバッグ(ポンプサック)の悲喜こもごもについてはこちらの記事をご覧ください。

ポンプサックは生ものです
極薄のナイロン地、極薄のコーティング、極薄のシームシーリングと切り詰めた設計となっているため、ポリウレタンの劣化にともない気密性を失いやすいです。マットレスとポンプサックを早いサイクルで使い倒すのが賢いと考えるようになりました。

登山から帰宅したら適当に広げて2~3日放置する

羽毛のシュラフと同じで、ダウンマットをスタッフバッグにギュウ詰めしたまま長期間保管すると、羽毛の復元力を損なったり、生地の溶着部の劣化を早めたりする心配があります。

私は登山から帰ると、スタッフバッグから出して、適当に広げた状態で2~3日放置し、湿気や濡れを飛ばすように心がけています。(シュラフ、シュラフカバー、テント等も同様)

長期間使わない場合、空気を入れた状態で部屋の隅に立てかけています。

まとめ

極寒地で暖かく眠りたいなら、シュラフを厚くするよりもマットレスの断熱性・保温性を上げたほうが賢いというのが定説です。

シュラフの背中側の羽毛を極小ないしは皆無(キルト型)にして、そのぶん厚いダウンマットを奢るほうが得だと主張する人がいるくらいです。

私は以前、暖かい季節にはクローズドセルや普通のエアマット、冬季にはダウンマット……と使い分けていました。現在では、夏山でもダウンマットを利用します。

何故、方針を変更したか。

温存したところでマットの溶着部や羽毛の劣化は容赦なく進むからです。最高の性能を存分に享受し、春夏秋冬使い倒すのが賢いと考えるようになりました。

マットが暖かければ、そのぶんシュラフは薄くて済みます。余分な重量増にはならず、装備の軽量コンパクト化に貢献します。

他のタイプのマットレスを検討している人はこちらの記事をご参照ください。

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