登山マットレス(スリーピングパッド)の選び方とおすすめ

登山マットレス(スリーピングパッド)の選び方とおすすめ

登山用マットレスについて固定観念、先入観にとらわれていませんか。

エアマットはパンクしやすいからクローズドセルしか使わない? ギリギリボーイズの皆さんが「32日かけて厳冬期の黒部横断」したとき、はたまた舟生大悟さんが「厳冬期にテント泊で 27日間の大縦走!」したとき、その装備にはエアマットが含まれていました。

クローズドセルは2020年から採用された新しいR値の規格によって軒並み低い数字に改訂されました。

暖かい季節と寒い季節でマットを使い分ける? 最高性能のマットを惜しみなくオールシーズン使い倒すほうが賢いかもしれませんよ。

登山マットレスの選び方

登山マットレスを選ぶには、まず構造による長所と短所をおさえましょう。

登山マットレスの構造

登山マットレスの構造は大まかに次の5種類に分類されます。

エアマット(ノーマル)

浮き輪やビーチマットのように空気で膨らませて、クッション性を確保しています。

エアマット(インサレーション)

エアマットの内部に羽毛やプリマロフトなど保温材(中綿)を封入して断熱性を高めています。

エアマット(熱反射式)

エアマットの内部に熱反射板をはさんで断熱性を高めています。

クローズドセル

発泡ポリエチレンやEVA素材を使用し、断熱性と弾力性をそなえています。パンクの心配がなく、取り扱いが容易ですが、とても嵩張ります。

セルフインフレータブル

広義のエアマットですが、自動膨張式(Self Inflating)という特徴に焦点を合わせた分類です。内部にスポンジ状の素材(オープンセル)が詰まっており、バルブを開けて放置すると8割がた膨らみます。

登山マットレスの構造ごとの性能を5点満点×7要素で評価

要素\構造 エアマット
(ノーマル)
エアマット
(インサレーション)
エアマット
(熱反射式)
クローズドセル セルフインフレータブル
断熱性 ★★★★★ ★★★★★ ★★ ★★★
寝心地 ★★★★ ★★★★ ★★★★ ★★ ★★★★★
重量 ★★★★★ ★★★★ ★★★★ ★★★★★ ★★★
容積 ★★★★★ ★★★★ ★★★★ ★★★
耐久性 ★★★ ★★★ ★★★ ★★★★★ ★★★
利便性 ★★★ ★★★ ★★★ ★★★★★ ★★★★
価格 ★★★★ ★★★★★ ★★★
合計点数 25 24 24 25 24

ハイブリッド型も存在するため、あくまで一般的な傾向として理解してください。

各要素について説明します。

断熱性
「見かけの厚さ」≠「断熱性」です。エアマットは「冷たい地面」側と「温かい人間」側とで熱が自由に対流するため、断熱性をあまり期待できません。エアマットにダウンを詰めたり、熱反射板をはさんだりすれば、対流が起こりにくく最高に暖かくなります。セルフインフレータブルも暖かいですが、軽量化のために縦穴があいた製品は「冷たい地面」側と「温かい人間」側とで対流が起こりやすいので要注意です。クローズドセルは見かけが薄いものの、微細な気泡に空気を閉じ込めているため対流が起きません。断熱性の指標としてR値(熱抵抗値)が使われます。R値が高いほど、断熱性が高くなります。

夏:0~2春秋:2~4冬:4以上が目安となります。

寝心地(厚さ、弾力性)
一般に厚いほど弾力性(クッション性)が高まり、寝心地が良くなります。とは言え、エアマット系はふわふわし過ぎて落ち着きません。セルフインフレータブルのやや硬めの寝心地が最高です。クローズドセルも悪くありませんが、なにぶん厚みが2cm程度なので、弾力性は限られます。
重量
エアマット(中身がない)とクローズドセル(外皮がない)がいちばん軽量です。エアマット(熱反射板)とエアマット(インサレーョン)を同じ4点としましたが、前者のほうがやや軽い傾向にあります。セルフインフレータブルがいちばん不利ですが、中身に大胆なダイカット(肉抜き)をほどこした製品はエアマット(インサレーション)なみに軽くなります。
容積
前項の「重量」と比例します。が、クローズドセルだけはひどく嵩張るため1点という正反対の評価となります。このデメリットは、次項の「耐久性」「利便性」とトレードオフの関係にあります。
耐久性
クローズドセルにはパンクの心配がありません。他のエアマット系(空気で膨らませる構造)には常にパンクの心配がつきまといます。ただし、セルフインフレータブルはパンクした場合もスポンジの厚さ分の断熱性と弾力性が担保されるという安心感(気休め?)があります。
利便性
クローズドセルには空気で膨らませたり、たたんだりする手間がかからず、取り扱いの容易さでは随一です。セルフインフレータブルは自動膨張する利便性を評価しました。
価格
安価さでは、クローズドセル > エアマット > セルフインフレータブル > エアマット(インサレーション)またはエアマット(熱反射式)の順となります。

登山マットレスのおすすめ

登山マットレスの構造ごとにおすすめの製品を紹介し、簡単なレビューを付記します。

  • 長さが180cm程度
  • 重量が600g以下

という条件でピックアップしました。

特筆すべき製品についてはこの条件に当てはまらなくても取り上げました。

2020年から採用されたASTM FF3340規格によるR値が公開されているモデルについてはR値:2.3 というぐあいに赤字で表記します。

エアマット

THERMAREST – ネオエアーウーバーライト

表面素材は15Dナイロンという軽量化を極めたモデル。ウルトラライト志向だけど、ふかふかの寝床は譲れないという人に向いています。

保温性はエアマットには珍しくクローズドセルに匹敵します。熱反射フィルムこそ搭載しませんが、「トライアンギュラーコアマトリックス」により空気層を二層に仕切っています。

厚さ1cmくらいのクローズドセルのマットと併用すれば、冬季でも通用し、万が一のパンクに保険をかけることができます。

NEMO – テンサー レギュラーマミー

エアマットとは思えないほど横揺れしにくく、肘をついても底付きしません。艶消しされた表面は肌触りが良く、身体がズリ落ちにくくなっています。寝心地を重視する人に向いています。

個人的には、なぜか菓子パンのように食欲をそそる風合いが好ましく、スペックを度外視して強く惹かれる製品です。

SEA TO SUMMIT – ウルトラライトマット

NEMOの「テンサー レギュラーマミー」と比較したいモデル。横揺れしにくく、ズリ落ちにくい寝心地をちがう設計で実現しています。やや重いのは、厚めの生地を使い、溶着に工夫をこらしているからです。

比較的軽量で、寝心地が良く、耐久性が高く、ポンプサック(スタッフサックにビルトイン)が付属しながら、価格がこなれています。

夏はこれ、春秋冬は保温性が高いモデル、と使い分けるのが賢いやり方のひとつです。

BIG AGNES – エアコアウルトラ

オーソドックスな縦長チューブを並べたモデル。両サイドのチューブが太く、寝返りを打ったとき脱落しにくい。頭周辺や足元に余裕があり、ゆったり寝ることができます。

無雪期はどうせ荷物が軽いので、そのぶん多少重くてもマットを奢りたい人には、コストパフォーマンスが高いこのモデルがおすすめです。ポンプサックは付属しません。

ピンポイントで登山のタイプを決め打ちするなら、涸沢のテント泊。ゴロゴロした石の上でも快適に眠れるはずです。

mont-bell – U.L. コンフォートシステム エアパッド 180

国内の有名アウトドアブランドで純然たるエアマットを作っているのは今やモンベルくらい。一世を風靡したキャラバンのエアマットを現代に引き継ぐものと言ってよいでしょう。

かつては縦長のチューブを並べるのが主流でしたが、揺れを防ぐために短いチューブを横向きに並べる構造に進化しました。いかにも合理的ですが、かつてキャラバンのエアマットで幾多の眠りをむさぼった者としては一抹の寂寥をおぼえなくもありません。

このモデルの良いところは枕の連結を考慮しているところ。衣類を詰めたスタッフバッグをピローストラップに巻き付けても良いですし、専用まくら「U.L.コンフォートシステムピロー」をトグルで連結しても良いです。

KLYMIT – INERTIA-O zone

大胆に肉抜きされた異形のデザインに怯みます。その一方、頭にはしっかり枕が付いているというアンバランスさ。昔懐かしい「筋肉大移動」をほうふつとさせます。

こんなに底が抜けていたらスースーして寒いだろうと思いきや、寝袋のロフトが穴に入り込んで膨らむので、むしろ暖かいとされています。販売サイトには、寝袋の内側に敷いた写真もあり。なるほどそうすれば穴が外気に直通しません。まぁ、そうは言っても、下に薄い銀マットを敷くくらいの配慮は必要でしょう。寝袋は横幅がゆったりしたタイプでないと窮屈になるので要注意です。

実売価格が安い(半額近い)、マニア向きの一品です。

エアマット(インサレーション or 熱反射式)

インサレーション式と熱反射式とを併用する場合があるので、まとめて取り扱います。

THERMAREST – ネオエアー Xサーモ

最高の保温性能と軽量コンパクトさを追求したモデルです。

ちとお高いですが、これを通年使うので他はいらないと割り切るのもひとつの考え方です。夏にはオーバースペックですが、マットが暖かいぶん寝袋を思い切り薄くして荷物を軽量化できます。

暖かい季節と寒い季節でマットを使い分けるのは一見合理的ですが、マットの溶着部の経年劣化を考慮すると、こうした最高性能のマットをひとつ購入し、惜しみなくオールシーズン使い倒すほうがお得です。

NEMO – テンサーアルパイン レギュラー マミー

THERM-A-RESTの「ネオエアー Xサーモ 」ほど先鋭的ではありませんが、通年使えるモデルとしてぐっとお手頃な価格です。

ノーマルな「テンサー レギュラーマミー」と同様、数字にあらわれにくい寝心地、質感、風合いに惹かれます。

KLYMIT – Insulated Static V

75Dの厚手シェルにプリマロフトを封入。今回取り上げたなかで最重量です。

  • V字形のチューブのひだのおかげで上下左右にズレにくい。
  • 左右のふちが高いので寝返りをうった拍子に落ちにくい。
  • 寝袋のロフトがひだに入り込むので潰れにくい。
  • 少ない息でフルに膨らますことができる。

といった特徴があります。

アプローチが短い登山や、オートキャンプに向いています。

BIG AGNES – インシュレーテッドエアコアウルトラ

断熱材THERMOLITEと熱反射フィルムのハイブリッド構造で熱損失を防ぎます。NEMOの「テンサーアルパイン レギュラー マミー」と比較したいモデルです。やや重いですが、別売のポンプサックを購入しても十分に安価です。

EXPED「ダウンマット HL ウィンター」

元祖ダウンマット。天然素材として最高レベルの保温性を誇る羽毛を詰めれば、暖かいに決まっています。

ライバルは熱反射式の「ネオエアー Xサーモ」。R値でも価格面でも拮抗しています。どちらを選ぶべきでしょうか。

  • 羽毛は保温性
  • 熱反射板は断熱性

なので、体温が下がる就寝中は、暖気をくるみこむ羽毛のほうが有利という主張があります。また、熱反射フィルムのカシャカシャ音が気になる人がいるはず。寝心地を重視する人はダウンマットを選ぶと良いでしょう。

クローズドセル

THERMAREST – リッジレスト ソーライト

1986年発売。それまではKarrimorのカリマット(1970年発売)に代表される平坦なロールマットが主役でした。

2019-2020シーズンに
お目見えしたカリマットの復刻版

この製品を初めて見たとき「この凹凸は嵩増しのためのごまかしではないか。隙間が多いぶん保温性が低いなら意味がない」と思いました。しかし実際には、寝袋の背中側の生地や中綿が凹凸に入り込こんで膨らみが確保されるぶん保温性が高まります。

THERMAREST – Zライト ソル

1989年発売。リッジレストの収納性を高めた製品です。

面積や重量は同等ですが、厚さは4/3倍(1.5cm→2cm)と見かけの体積が大きい。寝心地はすこし向上します。厚いぶん保温性が高いのかと思いきや、R値は微妙に低い(2.1→2.0)。凝ったデザインのせいか少しお高い。いろいろ悩ましい製品です。

リッドレストは広げたとき巻き癖を直すのが面倒ですが、Zライトはパタパタと簡単に広げることができます。折りたたむと、凹凸がぴったり噛み合って、コンパクトになります。

クローズドセルにはパンクの心配がないので、安価な類似品も十分に選択肢となりえます。

NEMO – スイッチバック

長年クローズドセルのマットレスはTHERMARESTの独壇場でしたが、2018年にNEMOから新手の製品が発表されました。

THERMARESTの「Zライト ソル」と比較したい折りたたみ式です。見かけの厚みはちょいと増しで、寝心地もちょいと向上。R値は同等。銀面を裏側(地面側)に配したのがNEMOのこだわりですが、表裏は利用者が自由に選べるので決定打にはなりません。

スイッチバック」という名称が鉄道マニアに訴求するかも。他人とちがうブランドを所有したい人に向いています。

銀面を上にするか下にするかは諸説紛々。「暑いときは銀面を下、寒いときは銀面を上」説が主流ですが、「寒いときも銀面を下にしたほうが地面の湿気を吸いにくいので保温性が高まる」という説もあります。

Sirex – カンチェンジュンガ195

クローズドセルなんてどれも似たり寄ったり。裁断の工夫で差を出しているにすぎない…と思いきや、素材のあくなき改良により軽量化をすすめたマットです。

サイズ感はキャラバンの「ロールマット」と同等ですが、重量は半分以下(420g→150g)と大幅に削減。195cmと長めなので、切り詰めればもっと軽くなります。

同種の製品にEVERNEWの「EXPマットUL180」や山と道の「UL Pad 15+」がありますが、この製品がいちばんお手頃な価格です。

やや厚手で耐久性を高めた「エベレスト10」でも十分に軽く、安価です。

セルフインフレータブル

THERMAREST – プロライト

1973年に初登場したセルフインフレータブルの直系モデル。

オープンセルを肉抜きする縦穴が斜めになっており、体重をかけると潰れて対流を最小限に抑えます。

セルフインフレータブルのどれを買うか迷ったら、これを選んでおけばひとまず後悔しません。

SEA TO SUMMIT – コンフォートライトS.I.マット

THERMAREST の「プロライト」と同サイズのモデルが存在しますが、あえてこちらの厚手のモデルに注目したい。

やや重い(510g→600g)ものの、2倍の厚さ(2.5cm→5cm)で、R値がやや高く、実売価格はすこし安いです。

MAGIC MOUNTAIN – スーパーライト

オープンセルを肉抜きする穴が横方向にうがたれ、熱損失は最小限です。逆流防止バルブを表裏付け替えことによって、空気の注入と排気を効率よくおこなうことができます。

別売の「ポンプスタッフバッグ」はTHERMARESTのマットにも適合するという報告あり。

NEMO – ゾア 20R

オープンセルを肉抜きする穴が縦方向と横方向にうがたれ、セルフインフレータブルと思えないほど軽量で、コンパクトに収納できます。ただし、縦方向の穴は断熱性という面ではマイナス要素となります。

PuroMonte – エアーマット180

名前は「エアーマット」ですが、れっきとしたセルフインフレータブルです。

サイズ展開は世界最多? 長さ105cm、120cm、135cm、150cm、165cm、180cmの6種類。チビッ子から巨人まで、きめ細かく対応できます。

チビッ子が「枕を床に直置きする」「足元はザックに乗せる」なら105cmで足ります。いや、巨人でもいけるかも…。

まとめ

登山用マットレスの何を重視するか、利用者の事情によって選び方が変わります。たとえば、

  • 荷物のコンパクトさを重視する。
    エアマット(ノーマル)
  • 雪山テント泊で保温性を重視するので、金に糸目を付けない。
    エアマット(インサレーション)
    エアマット(熱反射式)
  • 登山を始めたばかりで予算に余裕がない。
    クローズドセル
  • 他の構造の良いところどりをする。
    セルフインフレータブル

というぐあいです。

私自身は、最高性能のマットをひとつ購入し、惜しみなくオールシーズン使い倒すほうがお得だと考えています。エアマットにしろセルフインフレータブルにしろ、空気で膨らますタイプのマットはまったく使わずに温存したとしても経年劣化によりパンクの心配が高まります。クローズドセルだって経年劣化と無縁ではありません。

エアマットの悲喜こもごもについてはこちらの記事をご参照ください。

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私自身は現在、ダウンマットを愛用しています。

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