雪山テント泊の凍える夜、プラティパスを湯たんぽにしてみた

初冬の西穂高にて。雪山テント泊の凍える夜。

そんなもんオンナコドモがやることだ」という偏見を捨てて、プラティパスを湯たんぽにしてみました。

これまでは水筒(プラティパス、ナルゲンボトル、ペットボトルの再利用)の中身が凍らないように、おそるおそるシュラフとシュラフカバーの間に入れるぐらいしかしたことがありません。

プラティパスの耐熱温度

プラティパスの耐熱温度を正確に把握していなかったので、沸騰しない程度に湯を沸かしました。

購入時のパッケージに耐熱温度について記載されています。以前は、輸入販売元のモチヅキのホームページにも記載されていました。

耐熱温度
本体:90度
フタ:90度

Amazonのページにはこんな説明があります。

三層ラミネート構造の本体は漏れない・破れない驚異の耐久性。
そのまま冷凍・ボイルもOK。
コンパクトに折りたためる。

 

標高と沸点

標高が高くなるほど、水の沸点は下がります。沸騰させても100℃にはなりません。

標高0m地点で気圧1013hPa、気温25℃だとして、標高ごとの沸点を「標高から気圧を計算 – motohasi.net」から抜粋してみました。

標高(m) 気圧(hPa) 気温(℃) 沸点(℃)
0 1013 25 100
1,500 851 16 95
2,000 802 13 93
2,500 756 10 92
3,000 711 7 90
3,500 669 4 89
3,800 645 2 88

次に、日本アルプス界隈の標高が高いテント場を抜粋してみました。

場所 標高(m)
西穂山荘(北アルプス) 2,367
行者小屋(八ヶ岳) 2,350
黒百合ヒュッテ(八ヶ岳) 2,400
北沢峠 こもれび山荘(南アルプス) 2,032
七丈小屋(南アルプス) 2,400
白馬大池山荘(北アルプス) 2,380
穂高岳山荘(北アルプス) 2,983
涸沢ヒュッテ(北アルプス) 2,309
早月小屋(北アルプス) 2,200
剣沢小屋(北アルプス) 2,500

標高2,000mを超えれば、沸騰させても93℃。少し冷ませばプラティパスに注いで大丈夫です。

こうしてテント場の標高を比べると、おもしろい発見があります。アプローチがハードな七丈小屋と、雪山入門でよく紹介される黒百合ヒュッテが同じ標高だとは驚きます。早月小屋が剣沢小屋より低いのも意外です。

雪山では角型コッヘルが便利

お湯が熱すぎるかな、と思ったら、プラティパス側から水を注いで温度を下げてから、注ぎ込みました。

この作業には角型コッヘルが便利です。広口で雪のかたまりを投入しやすく、プラティパスの狭い口に注ぎやすい。

私が使っている角型コッヘルは古いMORITA製です。近い製品はこちら。

太腿にはさむ、または下腹部にのせる

シュラフの足元に押し込んでみました。じんわりと暖かい。が、ぬるめなので効き目は穏やかでした。

横向きに寝た体勢

横向きに寝た体勢で内腿にはさんでみました。ナルゲンボトルやペットボトルだと固いので違和感がありますが、プラティパスは柔らかいので身体の曲線になじみます。抱き枕のようで心地良いです。

仰向けに寝た体勢

仰向けに寝た体勢ではどうでしょうか。内腿のあいだに立てると、身体と接触する面積が少ないため物足りません。そこで下腹部(有り体に言えば股間)に寝かせてのせてみました。このあたりは(平常時は)窪地なので、プラティパスがぴたりと落ち着きます。身体にモノが乗っかるので気になって眠れないかと思いきや、小さな子供が親の布団にもぐりこんで足をからめて抱きついてきたような感覚です。

身体の中心を暖める

植村直己さんの「極北を駆ける」にこんな描写があります。

素手でいると一分たたぬうちに手先がこごえて、自由がきかなくなる。そんなとき私は、まず手袋をおとさないように尻の下に敷き、こごえきった素手を白熊のズボンの下につっこんで、○○をしっかり握ることにした。まるで股に氷のかたまりでもつっこまれたようで、○○はスルスルと縮みあがる。まるで体温が○○から全部逃げていくようだ。それでも五分ばかりじっと握っていると、あるていど指先の感覚がもどってくる。

この本を読んだのは高校生の時です。このくだりが強烈に印象に残っています。極寒地のノウハウに昔から興味があったのかもしれません。今回Kindleにダウンロードして「○○」を検索したら即座に発見できました。

ちょっと「○○」を連発しすぎましたか。要は身体の中心で体温が高い部位だということです。寒いときは身体の末端を暖めるのはもちろんですが、身体の中心を暖めるのも効果的ではないかと言いたいのです。

寝相が悪いと、プラティパスに思い切り体重が乗って破裂するのではないか。プラティパスの角がシュラフの生地を切り裂くのではないか。最初はそれが心配で、たまたま持ってきたICI石井スポーツの買い物袋に包んでいました。しかし、シュラフのなかでいつのまにかスルリと抜け落ちてしまいます。そのうちどうでもよくなり、じかに内腿に挟んだり、下腹部に乗せたりしました。

ぬるま湯でも心地良い

プラティパスのお湯はだんだん冷めてきて、体温に近づきます。積極的に熱をくれることはなくなりますが、それでも接触しているだけで心地良い。

たとえるなら、湯船で長湯しすぎて、お湯の温度が体温に近づき、じっとしているぶんには心地良い、けれど、湯から出ると一気に冷えそうだ、だから身動きできないまま、ぬるま湯につかり続ける、そんな心地です。

ようやく起きだして、プラティパスからコッヘルに水を注いでみれば、しっかり湯気が立ちます。朝の炊事を速やかに済ませることができます。

こんな一石二鳥の技、なぜこれまで実行しなかったのでしょうか。次の雪山テント泊では、もっと熱い湯で試すつもりです。

濡れたものを安全に効率よく乾かす

プラティパスは濡れたものを安全に効率よく乾かす「お湯アイロン」としても利用できます。

「プラティパス」という名称

「プラティパス」という名称は「プラスチックのパス、登山者が道を通るとき使う、くらいの意味を短縮したのだろう」と勝手に解釈していました。カモノハシ(platypus)という哺乳類(鳥ではない)のくちばしの形に似ているからだそうです。

ペットボトルで代用

厳冬期に27日間(2016年12月24日〜2017年1月19日)、ノンサポートで北アルプスを単独縦走(親不知~上高地)した舟生大悟さんは、軽量化のためにペットボトルを携行し、湯たんぽとしても利用したそうです。

ペットボトルの耐熱温度は、素材のポリエチレンテレフタラート (PET) 自体は50℃程度で、耐熱ボトルは85℃程度だとされています。

耐熱ボトルは飲み口が白くなっています。

キャップの色でも見分けることが可能です。温かいお茶やホットレモンのキャップはオレンジ色になっています。

耐熱ボトルの飲料は500mlくらいまでしか見かけません。湯たんぽとして流用するには小さいです。舟生さんはどんなペットボトルを利用されたのでしょうか。

耐熱温度、耐久性を重視するならナルゲンボトル

「プラティパスだと寝返りを打ったとき破裂させる心配がある」「ペットボトルだと耐熱性に不安がある」という方にはナルゲンボトルをおすすめします。

ナルゲンボトルの耐熱温度は本体が100℃、キャップが120℃です。

雪山登山でテルモスとナルゲンボトルを使いこなす
登山用魔法瓶のデファクトスタンダードとなる製品を販売していたThermos社のドイツ語読みが呼称として定着しました。英語読みだと「サーモス」です。1988年に登場したチタン製の魔法瓶に憧れましたが、高価で手が出ませんでした。現在ではステンレス製でも同等の重量で、保温性も申し分ありません。

商品リンク

Platy Bottles / プラティパス

元祖プラティパス。テント泊で水場が遠い場合、2つ携行すれば翌朝、翌日の行動分まで確保できます。

Platy Bottles / デュオロックソフトボトル

片手で開閉できるフリップキャップとハンドルが付いています。湯たんぽには向きません。元祖プラティパスとあわせて2つ携行すれば、利便性の高さと安心感を両立できます。

nalgene / フォールディングカンティーン 1.5L

ナルゲンと言えば、ハードボトルのイメージがありますが、ソフトボトルも販売しています。耐熱温度がプラティパスより少し高い。広口なので内部を洗浄しやすく、氷を入れたり、フルグラを入れたり、応用範囲が広がります。

雪崩事故救出の動画で、この広口ボトルにお湯を入れて湯たんぽにする場面(1:25付近)を見ることができます。

YouTube
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EVERNEW / ウォーターキャリー2L

キャップの形状が昔懐かしい「ポリタン」風味。安価なのでプラティパスと2つ携行するならコレもおすすめです。持ち手の紐が付いているのが嬉しい。カラビナに連結したり、チューブを通したりすれば、ぶら下げて持ちやすくなります。

マルカ / 湯たんぽ

普段使い、オートキャンプには定番のこちら。直火で熱することができるので、温度が下がってきたら、素早く再加熱できます。

Tips
神山オンライン

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