最果ての忘れ物~残雪の利尻山【リゾート編】2018年4月20日~21日

こちらの記事から続きます。

最果ての忘れ物~残雪の利尻山【下山編】2018年4月19日
この日の登頂者は私を含めて4人。ほかのお三方はスノーボードやスキーを駆使して、とっくに下山したはずです。いま利尻山で雲海の上にいるのは私ひとり。最果ての絶頂で、孤立無援、無防備。この非日常的な感覚をしばらく味わいました。

リゾート


貧乏学生の頃、山から下りたあと観光地を訪ねることを「リゾート(resort)」と呼びました。文字通りの意味ですが、資金が乏しいため、できることは限られています。ホテルや旅館やペンションに泊まるわけではなく、相も変わらずテントに泊まり、余った行動食で食いつなぎながら、景勝地に足を延ばしました。そんな涙ぐましい活動が計画書には麗々しく「〇月〇日、リゾート」と記載されていました。

今回は「リゾート」として、旅館から「オタトマリ沼」まで徒歩で往復しました。一応路線バスが走っていますが、便数は少ない。登山の疲れを解消する積極的休養(active rest)を兼ねてノンビリと歩きました。

色褪せた写真

オフシーズンの景勝地の寂しさを表現すべく、「色褪せた写真」風にフィルターをかけてみました。

※ Windows10の「フォト」アプリの「slate」フィルター


瀟洒な団地の上にも利尻山はそびえています。こんな稀有な土地で暮らす人達の心持ちはどんなだろうかと想像します。利尻山は、きっと見慣れた背景として無意識化するでしょう。宿のご主人は、利尻山に登ったことも、登ろうと思ったこともないと話されていました。


利尻島に限らず、稚内の市街地でも、ヒトが道を歩いてるのを見かけませんでした。建物の内部には明かりが灯っていますし、国道にはクルマが行き交っていますが、生身のヒトが視界に入ってこないのです。ゴーストタウンともちがう不思議な光景でした。

オタトマリ沼へ向かう舗道で珍しく、前方をご老人が歩いていました。もうすぐ追い越そうとしたとき、舗道の縁石にしゃがみこみます。歩き疲れたのでしょうか。その目はぼんやりとアスファルトを見つめているようでした。


通り過ぎてしばらくしてから振り返ると、同じ姿勢のままでした。


路傍には熊笹が風に揺れています。

利尻島にはヒグマが生息しませんが、熊笹は生息しています。

それがどうしたって? 三好達治の詩「霾」に「熊笹から笹熊が顏を出す」という軽妙な一節がありまして、熊笹と笹熊は不可分なのですよ。笹熊とヒグマは別物ですけどね。


残雪の雑木林に廃屋が雨ざらしになっています。


広い屋根の向こうに海が見えます。朝のひととき、逆光の海にウミネコの鳴き声が響きわたっていました。


熊笹越しにオタトマリ沼を見下ろしました。


オタトマリ沼の撮影スポットに到着。残念ながら、利尻山はガスに覆われています。


沼の奥のほうに白い水鳥が集まっています。一羽、桟橋の近くに居ましたが、私が近づくと飛び立ちました。


なーんにもありません。なにせオフシーズンの平日です。引き返すとしますか。


おっ、「くまざさ茶」。営業していたら、ソフトクリーム、食べたかったな。


帰路、北海道・東北地方でドミナント戦略を展開しているセイコーマートに寄りました。

折からトラックで乗り付けた力仕事らしい二人連れの方。頬っぺたの血色がよくて、三十代、ひょっとすると二十代後半だと思うのですが、お腹のほうの恰幅が実に立派です。日常的に海の幸をふんだんに食べ、呑まれているのではないでしょうか。旅館でも昨夜、お一人そんな宿泊客がおられ(内地から出稼ぎ?)、朝食の膳にはカニが並んでいました。


宿に近づくにつれて、また利尻山が姿をあらわしました。

パステルカラーの家。雑木林。こんな所に住んでみたい。


宿から300mくらいの場所になんちゃってファミリーマートがあります。中には入りませんでしたが、生鮮食料品の棚が見えました。食糧、飲料関係はたいてい揃っていそうです。

宿に戻りました。まだまだ時間はたっぷりあります。ノートパソコンを持ってきたので、ブログの記事でも書こうかと思いましたが、昼寝したり、ゴロゴロするうちに夕食の時間を迎えました。

利尻山の上と下


最終日の朝。窓ガラスに雨粒が付いています。

「登山天気」で天気予報を確認しました。山麓は曇っていても、山頂は雲海の上で晴れているようです。

【山麓の天気予報】

 

【山頂の天気予報】

 

宿のご主人に鴛泊フェリーターミナルまで送ってもらいました。
「また東稜を登りに来ます」
と言って別れました。

はたしてその日はやってくるでしょうか。

利尻山、遠ざかりゆく


フェリーの後部甲板から遠ざかる利尻山を眺めました。

地元・北海道の岳人は、

  • 金曜日の夜に稚内フェリーターミナル近くの公園でテント泊または車中泊する。
  • 土曜日の朝一番のフェリーで利尻に渡り、バリエーションルートの雪稜を詰めてテント泊する。(たとえば、東稜の鬼脇山直下のキャンプ適地)
  • 日曜日に山頂を踏み、北稜を下山して、夕方のフェリーで内地に戻る。

という山行を定番にしているそうです。

達成感と疲労感にあふれて、フェリーから眺める利尻山はさぞ素晴らしいことでしょう。酒杯が進むことでしょう。

北アルプスや南アルプス、八ヶ岳でも、今日登ってきたばかりの山をJR線から眺めることができますが、前衛峰やビルですぐに見えなくなってしまいます。

利尻山は好きなだけ眺めていられます。この時季は寒いですけどね。

青い海に浮かぶ白く尖った峰は「洋上アルプス」と呼ばれます。空に浮かぶ白い要塞のようでもあります。ジブリ映画のファンならロボット兵が手を振るのが見えるかもしれません。

(完)

全編のリストはこちらです。

オマケの事件はこちらです。

ガスカートリッジを空港(飛行機)で没収された
稚内空港でザックを検査機に通すやいなや、係員のお姉さんの顔から笑顔が消えました。「何か危険なものは入っていませんか?」ガスカートリッジはヘルメットの内側に入っていました。少しくらい輪郭がぼやけそうなものですが、X線はお見通しです。
活動記録

コメント