間違いだらけのミレー「ティフォン50000ウォーム」レビュー

ミレーの「ティフォン50000ウォーム」シリーズはハードシェルではありません

ハードシェルという呼び名は「固い殻=hard shell」に由来します。しなやかさゆえ、強風に晒されると身体に貼り付いて寒気が染み入るウェアには相応しくありません。実際、公式サイトの説明文にハードシェルという言葉は見当たりません。あえて呼ぶなら、ソフトシェル寄りのハードシェル、ないしはハードシェル寄りのソフトシェルといったところでしょうか。

また、裏地に起毛トリコットを貼ってあるにもかかわらず、保温性は高くありません。筆者は「防水性があって、透湿性が高くて、暖かいなら万能じゃないか。ひょっとするとアクティブインサレーションの決定版かもしれない」と期待して買ったのですが、予想を裏切る保温性の低さに戸惑いました。

「ティフォン50000ウォーム」シリーズ(体験と考察)

冬の低山トレーニングで汗冷えした

遠出しない週末はよく高尾山の稲荷山尾根を速足で往復してトレーニングします。この時季、上半身は中厚手のカットソーを着て歩きます。

FoxfireのPPウールハーフジップならドライレイヤーが要らない
Foxfireの「PPウールハーフジップ」ならドライレイヤーが要りません。 21世紀になってfinetrackが提唱したドライレイヤーは、すっかり登山・アウトドア業界に定着し、ベースレイヤーの下に薄手メッシュを着こむ人が増えました。 実は、...

山頂に着くと、アクティブインサレーションを羽織って汗を吸わせます。

既存のミドルレイヤーを駆逐するミレー「ブリーズバリヤー トイ アルファ ダイレクト ジャケット」レビュー
「アクティブインサレーション」のなかで特殊な位置を占めています。素肌に直接羽織って気持ちが良い「フリース」であり、ポケットが豊富で防雪・防風・撥水性能を備えた「ソフトシェル」でもあります。実に汎用性が高く、私は登山に普通の「フリース」を携行しなくなりました。

試しにカットソーの上に「ティフォン 50000 ウォーム ストレッチ ジャケット」を着て、登ってみました。はたして謳い文句どおりに透湿性が高いでしょうか。

歩き始めてしばらくすると、やけに上半身が冷えます。染み通る寒気がウェア内部の蒸れをキンキンに冷却する感じ。山頂で休憩し、下山するまで「冷たく蒸れる」感覚が持続しました。

思わず心の中で「着ないほうが快適なのでは?」とつぶやきました。

次の週、前述のアクティブインサレーション(これもミレー製品)を羽織って登ったところ、こちらは呼び名通りの機能を遺憾なく発揮しました。一枚余分に着ているぶん、オーバーヒートしそうなものですが、防水透湿膜がないため蒸れず、余分な熱を速やかに発散します。「暖かくて蒸れない」感覚を確認できました。

雪山テント泊で就寝中は脱いだ

ダウンシュラフにもぐりこんで寝るとき「ティフォン 50000 ウォーム ストレッチ ジャケット」を着た場合と着ない場合を比較してみました。

結論は「着ても着なくても温かさは変わらない」。むしろ着ないほうが窮屈さを感じなくて良い。

一般に、ダウンシュラフに潜り込む場合、薄着のほうが体熱がダウンに伝わりやすく、よく膨らんで断熱効果が高まると言われます。特に防水透湿膜を備えたシェルは、シュラフの下に敷いたり、上に被せたりするほうが有効活用できます。

アクティブインサレーションと併用するとすごく良い

春めく三月、縞枯山に出かけたときのこと。風もなく、カットソーの上にアクティブインサレーションを羽織れば丁度良いくらいの気温です。試しに「ティフォン 50000 ウォーム ストレッチ ジャケット」を重ね着して歩いてみました。

汗だくになるかと思いきや、さしてオーバーヒートすることなく、小一時間歩いて登頂しました。アクティブインサレーションが緩衝地帯として機能し、「冷たく蒸れる」感覚をおぼえずにすみました。

おそらくミレーのこの2製品の組み合わせはベストに近い。快晴無風ならアクティブインサレーションだけで歩く。風雪に見舞われたらシェルとして「ティフォン 50000 ウォーム ストレッチ ジャケット」を重ね着すると良さそうです。

オーバーパンツとしても直履きパンツとしても使える

今季の雪山登山では、厚手タイツのうえに「ティフォン 50000 ウォーム ストレッチ パンツ」を着て過ごしました。往復の交通機関では若干蒸れを感じなくもありません。登山口から歩き始めるとき、あらためてオーバーパンツを着こむ身支度が必要ありません。

雪山登山の厚手タイツ、エクスペディションホットトラウザーズ
雪山登山では厚手の裏起毛トレッキングパンツの上にアウターシェルを履くという最低限のレイヤリングで過ごしてきました。ついにタイツを購入することにしました。白羽の矢を立てたのはTHE NORTH FACEの「エクスペディションホットトラウザーズ 」です。

ただし、裏起毛があるぶん、タイツとの摩擦が生じるため、足の屈伸を阻害するキライがあります。

春先の高尾山に直履きして登ったところ、なかなか快適でした。ミレーは裏地の起毛トリコットがない「ティフォン 50000 ストレッチ トレック パンツ」も発売しています。ホーボージュンさんは「山と渓谷 2018年6月号」(p.151)で《僕は山だけでなくこのまま街での生活でも着用し、さらに2晩テント泊したときには、これをはいたままシュラフに入ったが、ぜんぜん問題なかった。》と評されています。

「ウォーム」はさらに肌触りが良い。雨が降りそうな天気予報だったら、これを履いて出かけると賢いかもしれません。いざ降り始めてもそのまま歩き続けられます。

いっそ上下とも素肌に直接着てしまえ

小雨のなかジョギングをする際、ジャケット&パンツを素肌に着てみました。内側にはボクサーパンツだけ履いています。

登山家の下半身事情~理想のボクサーパンツを求めて
アウトドア雑誌のアンダーウェア(ベースレイヤー)特集において、シャツやタイツはよく取り上げられるのに、パンツ(トランクス)については滅多に言及されません。 パンツ(トランクス)はバラクラバと同様に選び方が難しい。ゴムが緩ければズリ落ちて気持...

シェルを着ているのに、腕振りする前腕に涼しさを感じました。

本来の使い方ではありませんが、雨の日のロードワークに向いていると言えます。

「ティフォン50000ウォーム」シリーズのサイズ感

ヘルメット対応

公式サイトには《ヘルメット対応調整可能な立体裁断フード》と記載されています。首が窮屈でないか、はたまた、前立ては口元をどれくらい覆うか試しました。デカ頭系列の筆者でも問題ありませんでした。

オンラインショップでの注文時に指定するサイズ

ミレーのウェアはいわゆる欧米サイズの表記を採用しています。筆者は日本サイズでLを着ることが多いので欧米サイズのMを選択します。……と言いたいところですが、ミレーのウェアは全般に細身。筆者は肩幅が広く腕も長いほうなので欧米サイズのLを選択しました。

オンラインショップの選択メニューでは欧米サイズなのか日本サイズなのかわかりにくいので要注意。販売店が気を利かせて?日本サイズで表記している場合があります。販売店に問い合わせるのがいちばんですが、Amazonに限って言えばこんな見分け方が可能でした。

「ドライエッジ ティフォン50000」の経歴

豆知識として「ドライエッジ ティフォン50000」という防水透湿メンブレンの経歴をまとめておきます。

  1. もともとミレーには同じスペックで「ドライエッジ W7 50000」という独自素材があった。「W7」は防水透湿メンブレンが7ミクロン、裏地が7デニールであることに由来する。 ☞ 24時間着続けられるストレッチレイン
  2. ミレーの「ティフォン50000ストレッチ ジャケット&パンツ」は2017年春夏に登場し、50,000g/m2/24hというずば抜けた透湿性が評判となった。 ☞ ずっと着続けられる全天候型ストレッチレインシリーズ「ティフォン5000」日本上陸!
  3. 2017年秋冬には、裏地に起毛トリコットを配した「ウォーム」シリーズが登場した。 ☞ 驚異の透湿性能「50,000g/m2/24h」としなやかさを誇るストレッチプロテクティブシェル

「ティフォン50000ウォーム」シリーズのまとめ(総評)

これから雪山登山を始める人には入門用のウェアとしておすすめできます。将来的に本格的なハードシェルを買い直すハメになったとしても、そのしなやかさ故に普段着として快適に着回せるので損になりません。

個人的にはファスナー付きのナポレオンポケットがないのが残念。ぜひ左胸の外側に付けて欲しい。内側のメッシュポケットはもっと大型化して右側に移動して欲しい。

パンツについては換気用のサイドジッパーがあればさらによろしい。

ミレーさん、よろしくお願いします。

2024年シーズン、ミレーのロゴが一新されました。

創業から百余年。今季、ロゴを気品高く、より洗練されたデザインへと変更したフランスの老舗アルパインブランド、ミレー。「M」かたどったワンポイントロゴはシンプルかつエレガントで意匠性に富む。(山と溪谷 2024年 4月号 p.19より引用)

個人的に旧ロゴは好みではありませんでした。新ロゴはすこぶる好みで、積極的にミレーを選びやすくなりました。

旧モデルがアウトレット価格で出回っています。

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