アクティブインサレーション(動的保温着)とは
近年、「動的保温着」が脚光を浴びています。
英語にすると「アクティブインサレーション」(Active Insulation)。「インサレーション」の本来の意味は「絶縁」ですが、登山ウェアの場合には「寒気からの絶縁」、転じて「中綿を封入した保温着」くらいの意味で使います。
停滞時や休憩時に着こむ「静的保温着」と対比して、行動時に積極的に着用することから「動的」と形容します。通気性を重視するため、シェルの防水性は低く、小雨を弾く撥水性や雪を付着させない平滑性にとどまる製品がほとんどです。
中綿の種類は「羽毛」と「化繊」に大別されますが、「動的保温着」では通常、発汗で湿っても保温力が低下しにくい「化繊」を封入します。中綿の量は控えめで、通気性を高める工夫により蒸れを軽減します。
行動時には身体の動きにともない熱をポンプのように排出し、停滞時や休憩時には一定の保温力を発揮。脱いだり着たりを繰り返す必要がなく、着っぱなしで過ごすことができます。
アクティブインサレーション(動的保温着)のレビュー
自分がアクティブインサレーションを選ぶ場合、以下の2点を重視しています。
- 厚過ぎないこと
一枚羽織っただけで一気に保温性が上がると、オーバーヒートしやすくなります。重量500g以下、できれば400g以下のボリュームに抑えたいところです。 - 胸ポケットを備えていること
昨今、登山におけるスマホの役割を無視できません。スマホを出し入れしやすい胸ポケットは必須だと考えています。
これからアクティブインサレーションを導入する人には以下の製品をおすすめします。
patagonia ナノエア・フーディ
元祖アクティブインサレーション
「アクティブインサレーション」と言えば、真っ先に思い浮かぶ製品です。2014年の秋冬に初代モデルが登場し、盛んに誉めそやされる様を横目で眺めていました。「保温着でありながら、行動中に着てもオーバーヒートしない? そんな虫のいいウェアがあるはずがない」と眉に唾をつけたものです。が、他のアウトドアブランドが追随し、「アクティブインサレーション」というカテゴリが定着しました。
初代モデルは両胸ポケットを備えていました。2020年現在の最新モデルでは、胸ポケットは左側ひとつだけになっています。
中綿素材「フルレンジ」が開発された経緯については、こちらの記事が参考になります。
2020年秋冬シーズンに登場した「DAS Light Hoody 」はより軽量で、フロントファスナーがダブルジッパー仕様となっています。
OUTDOOR RESEARCH アセンダントフーディ
ウインドブレイカーとフリースのハイブリッド
山と渓谷2018年11月号の「GTR vol.07 アクティブインサレーション」にこう書かれています。
2012年にポーラテック社のアルファ素材が登場して以来、秋冬用の山岳ウェアに「アクティブインサレーション(動的保温着)」というカテゴリーが広まった。
その記事で紹介されているのが、このアウトドアリサーチの「アセンダントフーディ」です。
ポーラテックアルファ採用。「裏地がフリース」と表現するほうがわかりやすい。モンベルの「ライトシェルパーカ」に通じるものがあります。
この構造の製品がもっと登場してほしいのですが、なぜか各アウトドアブランドは関心が薄いようです。ときどきジャケットタイプの商品は見かけるのですが、フード付きはとても少ない。マウンテンハードウェアの「エイサームフーデッドジャケット」も早々に廃番となりました。
「山と道」の「Alpha Anorak」はアノラックタイプですが、ポケットが豊富で利便性が高いです。

ノローナの「ビティホーン アルファ フーディー シャツ」はアノラックですが、フロントファスナーがヘソ近くまであるため温度調節しやすいです。フェイスマスクを内蔵しているのが面白い。ハンドポケットは備えていません。
Mountain Hardwear コアシラスハイブリッドフーディー
オーソドックスかつ軽量かつお手頃価格
PRIMALOFTゴールドアクティブ使用。ボリューム感や構造が似ているモンベルの「サーマラップ パーカ」と比較すると、両脇ハンドポケットが若干高めの位置にあるので、足の付け根に中のモノがパタパタ当たりにくいです。
- 高橋庄太郎の山MONO語り「一枚あれば登山の幅が広がる! マウンテンハードウェアのアクティブインサレーションを瑞牆山で試す」
マウンテンハードウェアのウェアは、登山用品店の店頭で手に取って質感を確認しやすく、シーズンオフにはセール価格で出回りやすいです。
finetrack ドラウトポリゴン3フーディ
近未来的アクティブインサレーション
「中綿」ではなく、「シート状立体保温素材のファインポリゴン」を採用。通気性が高く、濡れてもロフトを保ち、保温性が低下しにくい、という独自の発想が光ります。いわゆる「中綿」が表生地の縫い目から抜け出したり片寄る心配がありません。縫製の自由度が高まりコールドスポットが発生しにくい。近未来的な質感に抵抗がなければ有力な選択肢となります。
2020年9月に両脇ハンドポケットを備えた後継商品「ポリゴンアクトフーディ」が発売されて死角がなくなりました。
従来から販売されている「ポリゴンバリアフーディ」もおすすめです。アクティブインサレーションと言うよりは速乾性が高い保温着ですが、見かけのズッシリ感と、手で持ち上げたときの軽さのギャップに驚かされます。両胸ポケットと両脇ハンドポケット、内側左右に大型メッシュポケットを備えた理想的なデザインです。
THE NORTH FACE WPBベントリックスフーディ
防水性まで備えた最強のアクティブインサレーション
「ベントリックス」テクノロジーを採用。シート状の中綿にもうけられたスリットが開閉することによって、静止時の保温性と行動時の通気性を両立。「コロンブスの卵」とも言える発想に感嘆します。
表生地に防水透湿性を持つ2層構造のハイベント®ストレッチ素材を使用。小雨や湿雪に降られる状況で心強い。ハイベントは透湿性があまり高くないと思われがちですが、店頭でこの商品のタグを見ると「耐水圧:2,000㎜以上/透湿量:30,000g/㎡/24hr以上(B-1法)」と記載があり、透湿性を重視した仕様になっています(公式サイトでアピールしない理由は不明)。
たしか2018年秋冬シーズン発売商品なので、そろそろカタログ落ちするか、定番として継続するか注目していたところ、2020年秋冬シーズンに表生地を「フューチャーライト」(この素材自体は2019年に登場)に変更したモデル「FLベントリックスジャケット」がお目見えしました。
店頭で手に取ってみたところ、表生地が滑らかで外観がすっきりしているせいか、重量475gとは信じられないほど軽量に感じます。寒い時季の通勤着としても違和感がなく、多少の雨や雪に見舞われても中綿を濡らす心配がない最強のアクティブインサレーションだと言えます。
MILLET ブリーザー トイ フーディー
お洒落な外観なのに3層とも最先端素材
2019年秋冬シーズンに登場。
表生地に「BREATHER(ブリーザ)」を使用。通気性を保持しながらも圧倒的な撥水性能を備えています。通常は防水透湿素材でおこなう「水張り&泡ぶくぶくテスト」に驚きます。
中綿に東レの「3DeFX+」を使用。4種類のらせん構造の繊維が複雑に絡み合うことで、高ストレッチ性、従来にない嵩高性を実現しています。フロントファスナーを下側から開放できるダブルジッパー仕様も嬉しい。
ミレーのウェアはマウンテンハードウェアと同様、登山用品店の店頭で手に取って質感を確認しやすく、シーズンオフにはセール価格で出回りやすいです。
ARC’TERYX プロトンLTフーディー
高価格ブランドのお手頃アクティブインサレーション
1990年代、アークテリクスと言えば、クライミング用のハーネスとかザックとか、安価なブランドと認識していました。が、いつの間にか押しも押されぬ高価格ブランドとして復活しました。ハードシェルは目の玉が飛び出そうな価格帯ですが、ミッドレイヤーは穏当な価格帯です。
表地のフォーティアス™ エア 20 は、非常に通気性が高いことに加え、他に類を見ないほど耐摩耗性が高く、摩耗試験では業界基準の60倍以上の耐久性を示したとされています。クライミングギアを身にまとって激しく登攀するような場面で心強いはずです。
やや薄手で両胸ポケットを備えた「プロトン FL フーディ」もおすすめです。
公式サイトではあまりアピールされていませんが、裏側のメッシュの肌触りが良く、半袖Tシャツの上に羽織っても素肌に貼り付きにくくなっています。
まとめ
取り上げた製品の多くが30,000円前後の価格帯です。どれを選んでも大きな当たり外れはありません。何を重視するか、デザインが好みかどうかで選びましょう。
- シェルの耐摩耗性を重視する → ARC’TERYXのプロトンLTフーディー
- 防水性を重視する → THE NORTH FACEのFLベントリックスフーディ
- 脇下のベンチレーションを重視する → finetrackのポリゴンアクトフーディ
私個人は現在こんなアクティブインサレーションを利用しています。



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