小説家がダウンジャケットを脱ぐと、なかはTシャツだった

昔、雑誌で「小説家がダウンジャケットを脱ぐと、なかはTシャツだった」というキャッチコピーの広告を見たことがあり、妙に印象に残っています。

その小説家とは開高健。キャッチコピーの正確な文言はおぼえていません。何の広告だったかさえわかりません。氏は趣味の釣りについて世界各地での体験を綴ったエッセイ『フィッシュ・オン』『オーパ!』を書いており、それに関連するアウトドア系の広告ではなかったかと思います。

なぜ印象に残っているかというと、

  • 「Tシャツの上に直接ダウンジャケットを着るなんて、素肌が直接ナイロン生地に触れたら気持ち悪いし、ダウンジャケットが汚れるだろう😥」
  • 「成功者だからできる贅沢な無頓着さだな。裸足でローファーみたいな😏」

などと貧乏くさい感情にとらわれたからです。

誤解でした。開高健のダウンジャケット着用法は実に合理的であったと後年思い知りました。

いまやダウンジャケット好きに転身した筆者が、ダウンジャケットの選び方とおすすめについて解説します。

ダウンジャケットの選び方

まず一般論を述べ、つづいて登山やクライミングを愛するマニアの視点を付記します。

保温性

ダウンジャケットの最も重要な役割は、体を暖かく保つことです。高品質なダウンを使用したジャケットは、軽量でありながら優れた保温性を提供します。選ぶ際には、ダウンのフィルパワー(FP)に注目しましょう。600以上のフィルパワーがあると、厳しい寒さの中でも暖かさを感じられます。

登山・クライミング系のブランドでは800フィルパワー以上が当たり前になりつつあります。ただし、フィルパワーの数値だけで暖かさを判断してはいけません。絶対的な封入量が少なければ、当然ながら保温性は限られます。ダウンジャケット全体の重量からある程度ボリュームを判断できますが、その重量はダウンの重量とは限らず、表生地や裏生地が厚ぼったいだけかもしれないので注意してください。

フィット感

自分の体にぴったり合うダウンジャケットを見つけることが大切です。試着する際には、肩幅や袖の長さ、ウエスト周りなどをしっかり確認しましょう。自分に合ったフィット感は、寒さをシャットアウトするだけでなく、見た目もスマートにします。

いくらダウンが厚くても、裾からスースー冷気がはいりこむと意味がありません。ドローコードで裾を絞れるかも大切なチェックポイントです。「なかにセーターやフリースを着るから、ゆとりのあるサイズを選ぶ」というのは実はまちがい。薄着でダウンジャケットを羽織るほうが体熱が伝わりやすくダウンがよく膨らむと心得てください。テント泊登山では携行できるモノが限られるため、あるものは全部着込んでシュラフにもぐりがちですが、余分なウェアは身体の下に敷いたり、シュラフとシュラフカバーとのあいだに詰め込んだりするほうが合理的です。

素材と防水性

雪や雨に備えるため、防水加工が施された素材を選ぶことが重要です。表地が防水加工されているダウンジャケットは、雪や雨から体を守り、内部のダウンが湿らないようにします。

防水加工には一長一短があります。防水加工によく使われるポリウレタン系の素材は加水分解により3~5年で劣化して剥がれてきます。高品質なダウンはこまめにメンテナンス(クリーニング、洗濯)すれば10年くらい平気でもちますが、かんじんの表生地がボロボロになったら持ち腐れです。また、ゴアテックスなど劣化しにくい防水透湿性の生地であっても、ナイロン系の生地より湿気が内側にこもりやすく、長時間着用しつづけるとダウンが湿って保温性がおちるのではないかという懸念があります。着用後や洗濯後にしっかり乾燥させる必要があります。防水性よりも撥水性を重視するほうが賢明です。撥水性は生地の通気性を阻害しません。

コンパクトさと取り扱い

表生地や裏生地が薄いダウンジャケットは、軽くてコンパクトに収納できるため、持ち運びに便利です。しかし、生地が薄い分、取り扱いに注意が必要です。引っかかりや摩擦に弱いため、着用時や収納時には丁寧に扱いましょう。

ダウンウェアの表生地は7デニールあたりが最薄です。重いバックパックを地面から持ち上げて、よっこらしょと片掛けしただけでも肩周辺の生地が摩擦で傷みそうで心配になります。肩周辺だけやや厚手の生地を採用したツートンカラーのダウンジャケットが耐久性の面からもデザイン性の面からも狙い目です。バックパックの隙間に押し込むときは、ほかの角張ったモノ、尖ったモノに引っかけないように気をつけましょう専用のスタッフバッグが付属するとうれしい。ダウンジャケットのポケットが収納袋になる製品もあります。

ダウンジャケットのおすすめ

THE NORTH FACE「アルパインヌプシフーディ」

軽くて暖かいの決定版
ダウンの品質 CLEANDOWN 900(ダウン95%、フェザー5%)
生地 Alplight 7D Ripstop Recycled Nylon(ナイロン100%)
ポケット ファスナー付ハンドウォーマーポケット
左胸の内側に縦ファスナー付きポケット
重量 約350g(Lサイズ)

ノースフェイスのロングセラー「ヌプシ」シリーズのひとつです。

手に取ったときのフワフワ感は今回紹介するなかで随一です。現在、公式サイトでは特にフィーチャーされていませんが、コールドスポットを作らないシェイプトバッフル構造を採用しています(旧モデルを踏襲しているはず)。この構造は「内側と外側を非対称としたユニークな構造により、ダウンが最大限膨らむスペースが確保され、優れたフィット感も相まって保温性がより向上」と説明されています。

生地は7デニールの薄さで、ダウン製品のなかでは最高に薄いです。これより薄い製品を見かけません。

最高品質のダウンを最大限に膨らませ、かつ圧縮すると驚くほどコンパクトになる「軽くて暖かい」の決定版です。

旧モデルにはジャケットタイプが存在し、内襟に起毛素材が貼られていました。

patagonia「フィッツロイ ダウン フーディ」

収納力ナンバーワン、価格もナンバーワン
ダウンの品質 レスポンシブル・ダウン・スタンダード(RDS)認証済み(Control Unionによる認証880272)の800フィルパワー・ダウン100%。
生地 シェル(20デニール)と裏地(10デニール)はブルーサインの認証済み
ポケット ハンドウォーマーポケットが2つジッパー式チェストポケットが2つ。左側のフロントポケットに本体を収納可能。内側に伸縮性の開口部を備えた大型ポケット付き
重量 485 g (17.1 oz)(Mサイズ?)

パタゴニアのロングセラーです。

ポケットが多く、収納力が高い。ハンドウォーマーポケットは高めの位置に付けられており、バックパックのウエストベルトと干渉しにくいです。

内側の大型ポケットは別名「ガラクタ入れ」。寒冷地でクライミングするとき、休憩中やビレイ時にシューズがカチコチに冷えないように収納する人がいるくらい大きいです。

サイズ選びが悩ましい。公式サイトの着用写真には「身長185cm Mサイズ」なんてキャプションが付いています。アメリカ人の平均身長はそんなにデカいんでしたっけ?🤔

かと思えば、レビュー欄に日本語で「172cm、70kg 筋肉質体系でMサイズを購入。R2の上に羽織るとちょうど良い感じ」と書かれていたりします。

ちなみに、テント場や岩場でコレを着た人と出会うと、筆者は気持ち後ずさりします。

FORCLAZ「ダウンジャケット TREK 500」

庶民のフィッツロイ ダウン フーディ
ダウンの品質 ダウンフィルパワー800CUIN/30gと優れた保温力を発揮。ダウン90%、フェザー10%。-12℃まで快適なダウン。
生地 不明
ポケット ハンドウォーマーポケットが2つジッパー式チェストポケットが2つ内側左右に開放型の大型ポケット付き
重量 中綿の重量
S:130g。M:139g。L:148g。XL:159g。XXL: 170g。XXXL: 180g。

フランスのモンベル?デカトロン(フォルクラ)が展開するお手頃価格な商品です。

「フィッツロイ ダウン フーディは魅力的だけれど、価格的に手が出ない」という人におすすめします。内側左右に開放型の大型ポケットをそなえ、収納力に関してはまさっています。

公式サイトではフィーチャーされていませんが、首回りにフリースが貼られています。羽織った直後に首回りの生地の冷たさを感じずにすみます。

登山・クライミング志向が強い人は、ユニクロやワークマンよりこちらを選ぶほうが幸せになれるでしょう。

L.L.Bean「ウルトラライト 850 ダウン・ジャケット」

保温性は控えめ、アウトドア愛好家の街着
ダウンの品質 850フィル・パワー
生地 Pertex社の再生ナイロン製クアンタム素材
ポケット 両脇と左胸(ジッパー開閉)、左内側(オープン)
重量 約445g

L.L.Beanのロングセラー。ダウン品質は850フィル・パワーと高いものの、封入量は控えめな印象です。

旧モデルでは内襟に起毛素材が貼られていました。それを目当てで、街着として検討したことがあります。

結果的には、似た仕様のアウトドアリサーチ「トランスデントセーター」(廃版)を購入しました。

NANGA「マウンテンロッジダウンフーディージャケット」

暖かさ重視、機能性重視のベストマッチ
ダウンの品質 グースダウン93%フェザー7%、860フィルパワー
生地 10D
ポケット 両脇ポケットと胸ポケット、左前見頃の内ポケットにジャケットを収納できるポケット
重量 不明(ダウン量100g)

NANGAはダウンシュラフで定評がある国産メーカーです。同社が作ったダウンウェアが悪かろうはずがありません。

キルトステッチの幅が広く、860フィルパワーの高品質ダウンが最大限に膨らみます。ゆったり、もこもこの着心地です。これ大事。ダウンウェアの暖かさは見かけの数字だけでは決まらないことをダウンパンツで経験済みです。

Naturehikeのダウンパンツ、ぶっちゃけどうなの?
ぶっちゃけ登山で通用するの? 雪山テント泊など厳しい条件で使うなら、目先の安価さに惑わされずNangaを選択することをおすすめします。もっとゆるい条件で、コストパフォーマンスを重視するなら、もちろんNaturehikeも悪い選択ではありません。

公式サイトでは特にフィーチャーされていませんが、内襟(首の後ろ側)に起毛素材が貼られています。

フロントファスナーはダブルジップで、下から開くことができます。ビレイジャケットとして利用しやすいです。

MAMMUT「グラビティ インサレーション フーデッド ジャケット アジアンフィット」

ハイブランド発、お値ごろミドルハイ
ダウンの品質 140g 90/10グースダウンを使用(750cuinフィルパワー
生地 10デニール
ポケット ・撥水ファスナー付きチェストポケット
・撥水ファスナー付きフロントポケット×2
・内側にファスナーポケット
重量 470g

いつもは値札を見るのが怖いマムートが、こんなお値ごろなダウンジャケットを発売しています。

750フィルパワーは十分に高品質ダウンの範疇ですが、昨今の高フィルパワー競争のなかでは一歩控えた印象です。着心地も、800超フィルパワーの製品群と比較すると、やや重たいのは否めません。

フロントファスナーはスムーズな動作が可能なYKK VISLON(R) 2ウェイフロント、下から開くことができます。ビレイジャケットとして利用しやすいです。

本モデルはアジアンフィット。欧米製品にありがちな「デザインは洒脱なんだけれど、やたら細身だったり腕が長かったりする」という残念さを味わわずにすみます。

両胸にポケットをそなえる「プロ」モデルもご検討あれ。

mont-bell「イグニスダウン パーカ」

「2019 Editors’ Choice Snow Award」
(エディターズ・チョイス賞)を受賞
ダウンの品質 1000フィルパワー・EXダウン
生地 ウィンドストッパー®ファブリクス
(表:13デニール・裏地:7デニール)
ポケット ポケット5個
(ジッパー付き〈左胸1、腰2〉、ジッパーなし〈内2〉)
重量 平均重量278g

モンベルのダウンウェアは個人的に選びにくいです。何といっても「胸ポケット」がない製品が多い。重量が500gを超える重厚なモデルにはあるのですが……。

そう思っていたところに登場したのがコレ。表生地にゴア社のウインドストッパーを採用し、高い防風性と優れた防水透湿性をそなえています。

縫い目が露出しているので完全防水ではありませんが、独自のキルティングパターンで縫い目を減らし、風や雨が浸透しにくくしています。

縫い目を減らしたいなら、縦方向の縫い目をなくせば良いのですが、なぜそうしないか。「最高品質で最小重量?(モンベルのダウン製品はもれなく封入量が非公開)のダウンが片寄って、コールドスポットが発生するのを防止するためか?」なんて思っていたら、筆者が最近注目しているギョーカイの方がYouTubeで「どうもデザイン性を高めるためらしい」という話をされています。

登山・クライミング向きと思われがちですが、筆者は通勤着として注目しています。自宅から駅近くの駐輪場まで5分ほど自転車をこぐのですが、冬の朝に冷たい雨が降っているとダウンジャケットが濡れて困ります。さらに一枚、防水系のウェアを羽織るのは面倒くさい。イグニスダウン パーカなら短時間の雨くらいしのげそうです。

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