1980年代、無雪期でも積雪期でも使えるコストパフォーマンスの良いテントとして、考えに考えたあげくにムーンライトテント1型を購入しました。現在の軽量化されたテントと比較すると重量面では不利ですが、耐久性は申し分なく、三千メートル級の稜線で十分に通用しました。
私の使用経験を書いてみます。このテントを検討中の方のご参考になればと思います。
ムーンライトテント1型の特徴
1979年から続くロングセラー
モンベルのヒストリーによると、ムーンライトテントは1979年に初登場しました。外観や仕様に大きな変更点はなく、30年以上製造・販売され続けています。
現在のウルトラライトの潮流からすると、ジェラルミン製のポールは重く、ナイロン生地は分厚いですが、その完成された佇まい、素朴な味わいには根強い人気があります。オールウェザーブランケットや固形燃料と似た安心感を与えてくれます。
安価
「ムーンライトテント1型」の価格は2018年現在、22,000円+税です。私の記憶に間違いなければ、1980年代(たしか2万円前後)と変わりません。物価の優等生(何十年前と比較して実質価格が変わらないか、むしろ下落している)と言われる「卵」や「バナナ」を彷彿とさせるものがあります。
ものぐさテント
私は昔、池袋東口にあった秀山荘で購入しました。地下1階のフロアで店員さんが試し張りしてくれました。
店員さん曰く「このテント、ものぐさテントって言われてるんだよなぁ」。
頂点の高さは内寸で100cmくらいあるのですが、なにしろ三角錐の形状なので、すわった体勢で前後左右に動くとすぐに頭がつっかえます。着替えるために手足を伸ばすと、あちこち内壁と接触します。いきおい寝転がって過ごすことが多くなります。
「キャンプやツーリングに最適」と位置付けられているだけあって、食事や焚火や唱歌(?)などはテントの外ですませて、テントに入ったらほぼ寝るだけ、という使い方を想定しているのでしょう。
設営が簡単
denchu30さんの「mont-bell ムーンライトテント1型 初めての設営」(Youtube動画)が全体と細部を丁寧に撮影されています。
本体側の黒いゴム製のループをハブに引っ掛ける方法が公式の取扱説明書(PDF)の図Dとは異なります(3:36付近)。私はdenchu30さんと同じやり方でした。購入時に実演してもらったのか、旧モデルの取扱説明書がそうだったのか記憶にありません。
新しいやり方はもしかすると、先端のリッジポールの根元(1節目と2節目の接続部)を押さえ込むぶん、根元の破損を抑制する効果があるかもしれません。ここはフライシートが強風であおられたときいちばん負荷がかかる箇所です。長年使い込むあいだに裂けてきたので、私は一度修理に出して交換してもらいました。
吊り下げ式
吊り下げ式テントは強風下の設営で便利さを実感します。
私はこんな感じで設営していました。
- 本体を地面に敷き、風上側(足側)の2箇所をペグダウンします。
本体が吹き飛ばされないようにザックを載せておくと安心です。 - 風下側(頭側)の2箇所をペグダウンします。
ザックを載せたままだと床の形状を整えにくいので除けておいたほうがよいでしょう。 - ザックを本体の中に放り込みます。
本体をポールに吊り上げたり、フライシートをかぶせるあいだ、少しでもテントが吹き飛ばされにくくします。 - ポールを組み立てて、本体の四隅と連結します。
ポールは風がすり抜けるので、吹き飛ばされるようなことはありません。 - 本体をポールに吊り下げます。
- フライシートをかぶせて、本体の四隅と連結し、リッジポールの前後に引っ掛けます。
フライシートが強風にあおられると、前後左右、裏表を確認するだけでも大変です。風上側(足側)の2箇所をカラビナ等で本体と連結したままにしておいてもよいでしょう。 - フライシート左右の張り綱をペグダウンする。
正規の設営方法では、本体をフライシートと連結し、フライシートから張り綱をとることによって、間接的に本体の内部空間を広げます。初期モデルでは本体を引っ張る力が今ひとつ弱い感じだったので、私は張り綱の末端を本体に連結し、V字型にした張り綱の途中をペグダウンするようにしていました。 - 前室をペグダウンする。
雪山ではペグの代わりにピッケルを打ち込みます。テントから出るときピッケルのヘッド部を手すりにして、よっこらしょっと立ち上がります。ヘッドカバーをしておかないと、ピッケルが倒れたときフライシートの生地を裂くおそれがあるので注意が必要です。
ポールは全部つながっている
ポールは前後2箇所のハブ(樹脂製のソケット)を介して、ショックコードで全部つながっています。どのポールをどう連結するか迷うことはありません。ポールの収納袋から取り出して、適当に広げてやれば、バチッバチッとあらかた組み上がります。
雨に強い
本体とフライシートのクリアランスが大きい
風雨に打たれて弛んだフライシートが本体とぺったり密着し、内壁が結露する現象が起こりにくいです。
床は「バスタブ形状」になっている
防水コーティングした一枚生地を20cmほど巻き上げて、四隅の縫い目をシームテープで防水処理してあります。現在では(当時も?)当たり前の構造ですが、当時の私には新鮮でした。それまで使っていたドーム型テントは激しい雨に降られると、どこからともなく浸水して床がビショビショになりましたが、ムーンライト1型は床下を水が流れていても浸水しませんでした(温度差でうっすらと結露はする)。床の生地を手のひらで押さえると、地面にたぷたぷと水が溜まっているのがわかって感心したものです。
前室がリッジポールで張り出している
出入口の壁は垂直に近く立ち上がり、しかもリッジポールが張り出しているため、短辺側の前室としては予想外に広いです。通常のドーム型テントの長辺側の前室より広く感じるくらいです。雨天時に登山靴を置きっぱなしにしても安心(ポリ袋くらいはかぶせたほうがよい)。雨が降りしきっている最中に出入りしても、本体の床まで降り込みにくくなっています。
私は長辺側に前室を備えるダブルウォールテント(メスナーテント2~3人用)を持っていますが、雨が降りしきっている最中の出入りのしやすさや、内部で寝そべっているときの「守られている」感はムーンライトテント1型のほうが強かったです。
風に強い
全体が低いため、意外と風に強いです。特に、低い側(足側)を風上に向けて設営した場合、ドーム型テントよりもうまく風を受け流してくれます。ただし、本体とフライシートのクリアランスが大きいぶんフライシートはあおられやすい。雪山では風上側の隙間をできるだけ雪で埋めたほうがよいでしょう。
全長が長いので頭や足先が内壁とつっかえにくい
長辺は220cmと長く、頭側の壁が垂直に近く立ち上がっているため、寝袋の頭や足元が内壁に接触しにくいです。横幅は狭いですが、サイドの張り綱を強めに引くとかなり広がります。
厳冬期の雪山で通用した
冬山(雪山)には向かない、と言い切る人もいますが、私は厳冬期に遠慮なく使っていました。雪の中でツェルトを引っかぶっただけで寝る強者がいるくらいですから、フレームがあるだけで快適そのものです。
メリット、デメリット含めて、雪山で使い込んだ感想を思いつくまま書いてみます。
狭いから暖かい
テント内部で動き回るには狭いですが、逆に言えば寝そべった体勢プラスアルファの空間しかないため、暖房効率は良いです。厳冬期であっても、三角錐の頂点に頭がくるように座ってガスストーブを炊くと、上半身がほっこりします。顔は熱くなるくらいです。もちろんガスストーブを消すと暖気は10秒くらいで外に抜けてしまうのですが、時々その儀式をおこなって、リラックスしたものです。
広めのドーム型テント、たとえば私が所有しているゴアライト(3~4人用)だとガスストーブをガンガン炊いても、ムーンライトテント1型のような暖かさは到底感じられません。
足側のベンチレーション用のメッシュに雪が溜まる
足側のベンチレーション用のメッシュは外側に付いています。足側から風雪に吹かれ続けた翌朝、テントを撤収しようとすると、メッシュとフラップのあいだに雪が溜まっていることがありました。テントを撤収する前に内側のフラップを開き、鍋などに掻き出して捨てたほうがよいでしょう。
フライシートのハブ周辺が擦り切れやすい
長年使いこむと、フライシートがハブ(ポールを連結するソケット)と接触するあたり(頭側と足側の2箇所)が擦り切れてきます。生地が補強されてはいますが、なにせ三角形に突き出たポールの末端と接触するため、強風でバタつくと激しく擦れてしまいます。
破れがひどくなったら、修理するよりも、別売のフライシート単体(5,800円+税)を購入したほうがよいでしょう。本体、フレームセットも単体で購入することが可能です。
リッジポールの根元が裂けやすい
長年使い込むと、先端のリッジポールの根元(1節目と2節目の継ぎ目)が裂けてグラグラになりました。フライシートが強風であおられると、いちばん負荷がかかる箇所なので、これは仕方がありません。なにしろバットで殴るような突風を横から受けたこともありましたから。
ICI石井スポーツに持ち込んで修理を依頼したところ、500円で交換してもらえました。おそらく部品の実費です。特に工賃のようなものは請求されませんでした。ありがたい。現在はどうかわかりません。
ムーンライトテント1型の使用例
フィルムカメラ時代に撮った写真から、使用例を掘り起こしてみました。
厳冬期の八ヶ岳全山縦走
初めて雪山で使ったのは厳冬期に八ヶ岳(北横岳~編笠山)を縦走した時でした。
赤岳からキレット小屋まで降りてみると、そこから先にトレースはありませんでした。猛ラッセルで日が暮れて、ノロシバ(権現岳~編笠山間のピーク)で幕営しました。
春の白馬岳
白馬乗鞍岳でオーバー手袋を吹き飛ばされたときのベースキャンプです。背後に写っている栂池ヒュッテは現在では新館の奥に移設されて記念館になっているそうです。
春の槍平
新穂高温泉から入山し、槍平をベースとして、槍ヶ岳を往復しました。
春の小川山・廻り目平キャンプ場
学生時代のワンダーフォーゲル部の仲間と小川山(と言うより金峰山?)の麓・廻り目平で焚火キャンプを楽しみました。現在ほど大人気ではなく、キャンプ場内をちょっと歩けば豊富な焚き木を集めることができました。奥に写っているのは、旧金峰山荘(ほぼ避難小屋)だと思います。
廻り目平の標高は1,500メートルくらい。3月。翌朝は銀世界でした。思わぬ雪中行軍で川端下のバス停まで歩きました。
奥武蔵の縦走路でステルスキャンプ
特に計画を立てずに歩きました。日が暮れようとする頃、杉林を縫う縦走路のかたわらに小広い場所を見つけて設営。翌朝、ハイキング客が来る前に撤収して歩き出しました。
夏の燕山荘前
このころはまだニッカーボッカを履いていました。背後に写っているダンロップのテント(吹き流し!)が時代を感じさせます。
夏の徳沢キャンプ場
毛ズネ失礼。よくある縞柄レジャシートをムーンライトのフットプリントとして利用していました。
夏の上高地・小梨平キャンプ場
川べりのサイト。すぐ隣にもムーンライトテント1型を設営した人がいました。通りかかった家族連れの子供が「イモムシみたい」と言っていました。ここをベースとして、日帰りで前穂~奥穂~西穂を周遊しました。
夏の剣沢
ここをベースとして、剣沢~長次郎谷~剣岳~別山尾根を周遊しました。
厳冬期の合戦尾根第一ベンチ
孤独感に心折れて、ここで下山しました。
丹沢のとある河原
知る人ぞ知る丹沢のとある河原で焚火キャンプ。都会の生活に疲れると(?)、よくここを訪れて一夜を過ごしました。
春の西俣出合
鹿島槍ヶ岳に登る赤岩尾根の麓。鹿島の集落まで路線バスが通っていた時代です。バスの運転手さんに「おばばのとこ寄って行くかい?」と聞かれました。
春の八方池
前日は強風に苦労しながら八方池でテント設営。翌朝はドピーカン。
春の五竜山荘前
五竜岳の山頂付近の地形がよくわからず、今にも雪庇を踏み抜くんじゃないかとビクビクしながら登頂。登り着いてみれば、南側がなだらかな穏やかな山頂でした。
厳冬期の表銀座縦走
先年敗退した厳冬期の表銀座に再挑戦。入山初日、ほとんど同じ場所にムーンライトテントを設営しました。
翌日はラッセルに苦しみ、合戦小屋までしか行けませんでした。
燕岳を往復し、大天井岳を目指しました。風雪のなか切通岩から大天井岳へ直登している最中に日が暮れました。風雪と暗闇のため、さほど遠くないはずの大天荘を目指すのを諦め、山頂にムーンライトテントを設営して転がり込みました。翌朝はドピーカン。
ひきつづき東鎌尾根を進軍したものの……。
春の甲斐駒ヶ岳・黒戸尾根
これが20世紀に本格的な雪山に出かけた最後でした。以後、フリークライミングに傾倒しました。フリークライミングのベースキャンプ用にゴアライトテントを購入。ムーンライトテント1型の出番はすっかりなくなり、やがて断捨離しました。
ムーンライトテント シリーズに憧れた
ムーンライトテント3型
ひと回り大きいムーンライトテント3型、買おうかどうか迷った時期があります。とある雪山の下山中、このテントが入った収納袋+ポール袋が丸々落ちていたことがあります。たぶん先行者がザックの上にいい加減に括り付けていたモノが脱落したのでしょう。ひとまず拾って、手にぶら下げて下山を続けました。憧れのテントとの意外な邂逅に、よこしまな思いが首をもたげましたが、しばらくすると下から持ち主がキョロキョロしながら登り返してきました。
ムーンライトテント5型
クライミングのベースキャンプ(小川山とか瑞牆山とか)として、ムーンライトテント5型の導入を検討しました。このテントの良いところは、密閉性と開放性が融合しているところです。前室と後室が大きく張り出し、雨の最中でも出入りしやすい。左右の窓を開放したままでも降りこみにくい。リッジポールが四方に張り出すため、本体とフライシートがぺったり密着して離れなくなるトラベルが発生しにくい。
ファミリーキャンプにも最適。伴侶や子供たちの手を借りなくても、ひとりで簡単に設営できます。
もう一度、ムーンライトテント1型を購入する?
今となっては、ムーンライトテント1型を断捨離したことを後悔しています。
では、もう一度、購入するか? 悩ましいところです。現在ではもっと軽量化されて、居住性が高いテントがたくさんありますからね。
しかし、もし手元に色々なテントが転がっていて、
「40秒で支度しな。ロングトレイルを歩くかもしれない。険しい岩山を登るかもしれない。台風が来るかもしれない。吹雪に叩かれるかもしれない」
と言われたら、とっさにムーンライトテント1型を引っつかんでザックに放り込む可能性が高い。なにしろ使い慣れて、良いところも悪いところも熟知していますから。
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1979年に発売されて以来、超ロングセラーとして販売されてきたムーンライトテントが2020年シーズンにリニューアルされました。
やはり居住性の高いドーム型テントが欲しい、という人はこちらの記事をご参照ください。
コメント
ソロキャンプ用のテントを購入検討していたのでとても参考になりました。
最後の文章が気になったんですが、
「現在ではもっと軽量化されて、居住性が高いテントがたくさんありますからね。」は例えばどの商品でしょうか?
今使っているテントや、おすすめの安くていいテントを教えてください。
あたん さん、コメントありがとうございます。
記事の最後にシングルウォールテントやダブルウォールテントについてのリンクを貼りましたのでご参照ください。
キャンプ向きで安価、そこそこ軽量なテントでは「ネイチャーハイク」というブランドが気になっています。デザインはなんちゃってMSRですね。(インナーがメッシュだったりするので要注意)
80年代~90年代にかけて登山してました、大人数の時はダンロップ吊り下げ式、2人の時はマジックマウンテンのドームテント、ソロの時はムーンライトⅠ型使ってました。
ムーンライトⅠ型はGWの剣沢や鳳凰三山、夏の大雪山、十勝岳、秋の穂高~槍~笠ヶ岳縦走等で使用しました、当時は最も軽量コンパクトで使い勝手が良かった。
登山やキャンプから離れて大分経ちましたが、還暦過ぎてキャンプやりたい病が騒ぎ出してます、今月のBE-PALにムーンライトⅠ型の最新モデル紹介されてたので、実物見てみたいです(横浜のIBS閉店してから山道具屋に足運ばなくなったな)
ひがわり様、コメントありがとうございます。
ムーンライトⅠ型といっしょに映っている写真を見るだけで、私は胸キュンです。
定期的にモンベルストアを巡回して、新型の入荷を待っています。
初めての登山用テント購入に悩んでいる30代女性です。
新型のムーンライト1型を購入したいのですが総重量1.65kg、キャンプでも使う事を考えてドームと接続出来るのが非常に魅力的なのですが1.5kgを切るテントも多く出てる中多少重くても購入する魅力があるでしょうか?大人しく軽量特化のテントの方が良いのでしょうか……
えにし様、コメントありがとうございます。
登山、キャンプ両方に対応できそうなムーンライト1型は魅力的ですね。
逆に言うと、どちらにとっても中途半端なので、悩ましいです。
これから登山をハードにしていく予定なら、軽量さ優先でステラリッジになるかと思います。
キャンプ用で多少重くて良いのであれば、もっと安価な製品がありますし、やはり2つ所有して使い分けるのが得策かと。
それでも欲しくなるムーンライト1型ではあります。まずはリーズナブルな価格のムーンライト1型で行けるところまで行って、軽量さの重要性を痛感する段階になったらステラリッジを買い足すと割り切るとよいかもしれません。
ご返信ありがとうございます!!方向が固まりました!やはりムーンライトは憧れなので初代として手に入れてみようと思います。