はじめに:アクティブインサレーションとは?
登山やトレイルランニング、冬季ハイク、スキー、さらには普段使いまで。寒冷地で動き続けるシーンにおいて、汗冷えを防ぎながら快適な体温をキープしてくれる「アクティブインサレーション」は、アウトドアウェアの進化系とも言える存在です。
従来の保温着と異なり、「動的保温性」を追求したこのアイテムは、行動中にも着たままでいられることが最大の特長。暑すぎず、寒すぎず、体温調整をサポートしてくれる新世代のミッドレイヤーです。
なぜアクティブインサレーションが必要なのか?
登山やアウトドアの課題:汗冷えと気温変化
登山では「行動中は暑く、休憩中は寒い」という状況が頻繁に発生します。この温度差に対応するために、従来は頻繁な着脱が必要でした。
しかし汗をかいた直後に冷風を浴びると、「汗冷え」による体温低下で低体温症のリスクが高まります。
アクティブインサレーションは、通気性と保温性の絶妙なバランスによって、この問題を解決します。
常時着用できる=安全性と快適性の向上
「一度着たら脱がずに行動できる」──この点は、特に風雪の中や岩場での行動中に大きな安心感をもたらします。着脱の手間を減らすことで、行動の中断が減り、集中力の維持にも貢献します。
アクティブインサレーション中綿の構造的な工夫とは?
化繊が主流、その理由とは?
アクティブインサレーションには、ダウンではなく化繊(化学繊維)中綿が用いられるのが主流です。これには明確な理由があります。
- 濡れても保温性が落ちにくい(疎水性が高い)
- 通気性・速乾性を調整しやすい
- 耐久性・洗濯性に優れる
- 行動中でも蒸れにくく、快適な体温管理が可能
これらは、従来の静的保温着(ダウンなど)では難しかった「動きながら着続ける」という使用ニーズに対応するために求められる要素です。
密度を下げて「通気」を確保
従来の中綿(たとえばダウンやプリマロフト)は、熱を閉じ込めることを最優先に設計されています。密に詰まった繊維は保温性に優れますが、水蒸気や熱の排出が苦手で、行動中に着ていると蒸れやすくなります。
アクティブインサレーション用の中綿では、繊維密度をあえて下げ、空気の流れを部分的に許容することで、汗による水蒸気や熱を外に逃がす構造にしています。
立体構造・グリッド構造の採用
Polartec AlphaやAlpha Directでは、繊維をメッシュ状またはグリッド状に立体的に組み上げています。
- 繊維と繊維の間に空気の通り道ができる
- 断熱層としての厚みは維持しつつ、通気層の役割も果たす
このように「かさ高はあるが抜けやすい」という相反する特性を実現しています。
中空繊維や異形断面による軽量・通気構造
たとえばOctaでは、断面が8本足の中空繊維を使用することで、繊維一本一本が「空気を保持しながらも水分を通す」特性を持ちます。このような中空または異形断面の繊維は、
- 軽量
- 通気性・吸湿性に優れる
- 肌離れが良い
というアクティブ用途に最適な特徴を備えています。
動作に応じて開閉するスリット構造
Ventrixのように、「スリット(切れ込み)を入れた中綿層」を用いる手法もあります。
- 体が動く → スリットが開いて熱を逃がす
- 静止時 → スリットが閉じて冷気を遮断
このように、着用者の動きと連動して機能が変化する“可変通気構造”も、最新技術のひとつです。
従来の中綿との違い まとめ
特性 | 従来の中綿(ダウンなど) | アクティブインサレーション中綿 |
---|---|---|
保温性 | ◎ | ○〜◎(やや控えめ) |
通気性 | ✕(ほぼゼロ) | ○〜◎(汗抜けが良い) |
動きへの追従性 | △ | ◎(ストレッチや柔軟性あり) |
使用シーン | 静的(休憩・ビレイ) | 動的(行動中に着用可) |
アクティブインサレーションの代表的な中綿
Polartec Alpha(ポーラテック・アルファ)
- アメリカのPolartec社が開発。世界初の「通気する中綿」として画期的存在。
- メッシュ状で、汗を素早く外に逃がす構造。
- 軽量で速乾性があり、行動中でも快適
Polartec Alpha Direct(アルファ・ダイレクト)
- Alphaの発展型。裏地不要で直接肌に触れても快適。
- 網目状の通気構造がより明瞭で、超軽量化も実現。
- UL(ウルトラライト)装備として人気。
Octa(オクタ)
- 帝人フロンティアが開発した日本製の高機能中綿。
- 中空×多足断面という特殊な繊維構造で、通気・軽量・吸湿性に優れる。
- 触感はサラサラで、裏地なしでも肌離れが良い。
Coreloft(コアロフト)
- Arc’teryx独自開発の中綿素材。
- ポリエステルの太い繊維(ロフトの低下を防ぐ)と細い繊維(温かい空気を閉じ込める)の二種類を使用。ダウンに近いかさ高と保温性を持ちながら、圧縮性・復元性・耐久性が非常に高い。
- 通気性はやや抑えめで、静的保温寄り。
Ventrix(ベントリックス)
- The North Faceが開発した可変通気構造をもつ中綿。
- 小さなスリットが身体の動きに応じて開閉 → 蒸れを排出しつつ、停止時には保温。
- 「行動中は通気」「静止時は保温」という理想に近い挙動。
ファインポリゴン(Fine Polygon)
- ファイントラック(finetrack)が開発した独自の化繊中綿。
- 極細・多角断面繊維をシート状に折り重ねた構造で、保温性と通気性をバランスよく両立。
- 通気層としても断熱層としても使える設計で、軽量かつコンパクト。
FullRange Insulation(フルレンジ・インサレーション)
- Patagoniaが開発した通気性重視の化繊中綿。
- Polartec Alphaに近いが、ストレッチ性を加えた設計が特長。
- 肌触りが柔らかく、行動中に着たままで快適。
Primaloft Gold(プリマロフト・ゴールド)
- 元は米軍用に開発された、合成中綿の最上級グレード。
- 非常に細かいマイクロファイバーで高い保温性と軽さを実現。
- ダウン並のかさ高ながら濡れても性能低下が少ない。
- 行動中よりも、静的保温や冬季のビレイウェアに強み。
エクセロフト(EXCELOFT)
- モンベルの主力化繊中綿で、3種類の太さのポリエステル繊維をランダムに配列。
- ダウンのようなふんわり感と、化繊らしいメンテナンス性を両立。
- 日本人向けの裁断・価格設計とあいまって、国内でも非常に人気。
アクティブインサレーションを選ぶポイント
中綿素材は「通気性」「保温性」「軽さ」「肌触り」などのトレードオフの上に成り立っているため、使うシーンやスタイルに合った素材を選ぶことが重要です。
素材名 | 通気性 | 保温性 | 重量 | 肌触り | 用途の傾向 |
---|---|---|---|---|---|
Polartec Alpha | 非常に高い | 中 | 軽量 | やや硬め | 登山・バックカントリー |
Polartec Alpha Direct | 非常に高い | 中 | 超軽量 | 柔らかい(裏地不要) | UL登山・スピードハイク |
Octa | 高い | 中 | 超軽量 | さらっとして快適 | 通年トレイル・普段使い |
Coreloft | 中 | 高 | やや重め | やや滑らか | 厳冬期の登山・稜線 |
Ventrix | 可変(高〜中) | 中〜高 | 中 | 柔らかめ | オールラウンド・運動量の多い活動 |
ファインポリゴン | 中 | 中 | 軽量 | 標準的 | 高通気ミドル・防寒レイヤー |
FullRange | 高い | 中 | 軽量 | 非常に柔らかい | 行動中の着用を想定したアクティブ保温 |
Primaloft Gold | 低め | 高 | 軽量 | 滑らか | 静的保温・冬季登山・ビレイ |
エクセロフト | 中 | 中〜高 | 中 | 標準的 | 静〜動対応の幅広い保温着 |
保温性と通気性のバランスで選ぶ
重量と収納性で選ぶ
携行する前提なら、300〜400g程度が目安です。
スタッフサックに収納できるタイプはバックパック内でもかさばりません。
肌触り(フィット感と動きやすさ)で選ぶ
アクティブインサレーションはミッドレイヤーとして着用するため、適度なフィット感が必要です。
登山などでは腕の上げ下げや前傾姿勢の妨げにならない「立体裁断」や「ストレッチ素材」が望まれます。
用途で選ぶ
- 登山・縦走・クライミング:通気性と保温性のバランスが重視される。風の強い稜線や気温差に備えて耐候性も重要。
- トレラン・スピードハイク:より軽量で薄手のモデルが向いています。コンパクト性も重要。
- タウンユース・普段使い:デザイン性や着心地、ストレッチ性が重視されます。
いちばん重視する要素で選ぶ
重視する点 | おすすめ素材例 |
---|---|
通気性重視 | Polartec Alpha / Alpha Direct / Octa / FullRange |
保温性重視 | Coreloft / Primaloft Gold / EXCELOFT |
バランス型 | ファインポリゴン / Ventrix |
価格・扱いやすさ | EXCELOFT / ファインポリゴン |
アクティブインサレーションおすすめモデル10選【2025年最新版】
アクティブインサレーションを名乗る製品が近年ぞくぞくと登場しています。ペラペラのシェルに保温材をマッピングしたものから、逆にフリースに部分的にシェルを貼ったものまで、見境がなくなっている定義があいまいになっている感じがします。ひと頃のソフトシェルを彷彿とさせます。
筆者がアクティブインサレーションを選ぶ場合、以下の4点を重視しています。
- 厚過ぎない。
一枚羽織っただけで一気に保温性が上がると、オーバーヒートしやすくなります。重量500g以下、できれば400g以下のボリュームに抑えたいところです。 - 胸ポケットを備えている。
昨今、登山におけるスマホの役割を無視できません。スマホを出し入れしやすい胸ポケットはぜひ欲しい。 - フードが付いている。
アウターとして使うにはフードが必須です。 - シェルに覆われている。
部分的にフリースが露出するくらいはOKです。
もちろん最終的には、あなたが何を重視するか、デザインが好みかどうかで選びましょう。
- シェルの耐摩耗性を重視する → ARC’TERYXのプロトンフーディー
- 防水性を重視する → THE NORTH FACEのフューチャーライト ベントリックス フーディ
- 脇下のベンチレーションを重視する → finetrackのポリゴンアクトフーディ
patagonia ナノエア・フーディ
「アクティブインサレーション」と言えば、真っ先に思い浮かぶ製品です。2014年の秋冬に初代モデルが登場し、盛んに誉めそやされる様を横目で眺めていました。
「保温着でありながら、行動中に着てもオーバーヒートしない? そんな虫のいいウェアがあるはずがない」と眉に唾をつけたものです。が、他のアウトドアブランドが追随し、「アクティブインサレーション」というカテゴリが定着しました。
中綿素材「フルレンジ」が開発された経緯については、こちらの記事が参考になります。
2020年秋冬シーズンに登場した「DAS Light Hoody 」はより軽量で、フロントファスナーがダブルジッパー仕様となっています。
Millet ブリーズバリヤー トイ ジャケット
2023年秋冬シーズンに登場。ミレー社の代表的なアクティブインサレーションです。
旧モデルは保温素材にポーラテックアルファ ダイレクトを採用していました。
- 2021年秋冬シーズン、「ブリーザートイ アルファ ダイレクトフーディ」発売
- 2022年秋冬シーズン、「ブリーザートイ アルファ ダイレクトフーディ」の撥水性能を強化
保温素材を独自の「スルーウォーム®」で置き換え、商品名から「アルファ ダイレクト」が消えました。やや保温性重視(354g→392g)に寄せて、腕部分については「メッシュ+起毛」構造を裏返しに使い、袖通しがよくなりました。
裏地がないぶん通気性に優れ、かつ半袖Tシャツの上に羽織っても肌触りが良い。両脇ハンドポケットが高い位置にあり、フロントファスナーはダブルジッパーで温度調整しやすいです。
モンベルの「ライトシェルパーカ」と同様、汎用性が高いソフトシェルとして通年活躍します。
Mountain Hardwear コアエアシェルウォームフーディ
2022年春夏シーズン登場。中綿としてオクタエアを採用したアクティブインサレーションです。(旧モデルの製品名は「~ジャケット」)
前出の「Millet ブリーズバリヤー トイ ジャケット」と比較すべき製品です。
両胸と両脇で合計4つのポケットをそなえる点に魅力を感じるなら、こちらを選択しましょう。
STATIC アドリフト フーディ ウィズ シェル
Octaが登場して以来、アクティブインサレーションは花盛りです。ミレーの「ブリーズバリヤー トイ ジャケット」やマウンテンハードウェアの「コアエアシェルウォームジャケット」と比較したいモデルです。
フードの内側全体にOctaが貼られているので、かぶったとき頬や首筋に冷たいシェルが触れずに済みます。
左胸の内側に大ぶりなメッシュポケットを備え、小物の収納力が高いです。
finetrack ポリゴンアクトフーディ
2020年9月登場。前世代の「ドラウト ポリゴン3 フーディ」に両脇ハンドポケットを備えて死角がなくなりました。
「中綿」ではなく、「シート状立体保温素材のファインポリゴン」を採用。通気性が高く、濡れてもロフトを保ち、保温性が低下しにくい、という独自の発想が光ります。
いわゆる「中綿」が表生地の縫い目から抜け出したり片寄る心配がありません。縫製の自由度が高まりコールドスポットが発生しにくい。近未来的な質感に抵抗がなければ有力な選択肢となります。
フロウラップEXPフーディ
もっと雨・風・雪に強いウェアが欲しければ、最新の防水透湿メンブレン「エバーブレス®エア」を採用した「フロウラップEXPフーディ」(2021年秋登場)がおすすめです。
ポリゴンバリアフーディ
旧モデルの「ポリゴンバリアフーディ」にも注目。アクティブインサレーションと言うよりは速乾性が高い保温着ですが、見かけのズッシリ感と、手で持ち上げたときの軽さのギャップに驚かされます。両胸ポケットと両脇ハンドポケット、内側左右に大型メッシュポケットを備えた理想的なデザインです。
THE NORTH FACE フューチャーライト ベントリックス フーディ
最強のアクティブインサレーション
「ベントリックス」テクノロジーを採用。シート状の中綿にもうけられたスリットが開閉することによって、静止時の保温性と行動時の通気性を両立。「コロンブスの卵」とも言える発想に感嘆します。
独自開発のナノフィルム状防水通気素材、「FUTURELIGHT」を3層構造で採用。一般的な防水透湿素材の約20倍の通気性を誇ります(具体的な数値は不明)。
ブラックを選べば、寒い時季の通勤着としても違和感がなく、多少の雨や雪に見舞われても中綿を濡らす心配がない最強のアクティブインサレーションだと言えます。
MAMMUT Flex Air IN Hooded Jacket AF Men
ハイブランドのMAMMUTも標準的な価格帯のアクティブインサレーションを販売しています。
今回紹介するなかでは最軽量。左胸にナポレオンポケットを備え、両脇ポケットはザックを背負ったときにもアクセスしやすい高い位置にあり、高い利便性を確保しています。
地味好みならミレーの「ブリーズバリアー」、派手好みなら本製品を選択することをおすすめします。
Black Diamond アルパインスタート インサレーティッドフーディー
アクティブインサレーション
POLARTEC®アルファフリースをライニング。フード、襟、脇下のライニングを無くすことによって、静止時の保温性よりも、動き続けるときのオーバーヒート防止を優先しています。
フードが大きいのでヘルメットと相性がよく、裾が長いのでハーネスからはみ出しにくい。アルパインライマーのためのアクティブインサレーションです。
ARC’TERYX プロトン フーディー
アクティブインサレーション
1990年代、アークテリクスと言えば、クライミング用のハーネスとかザックとか、安価なブランドと認識していました。が、いつの間にか押しも押されぬ高価格ブランドとして復活しました。ハードシェルは目の玉が飛び出そうな価格帯ですが、ミッドレイヤーは穏当な価格帯です。
表地のフォーティアス™ エア 20 は、非常に通気性が高いことに加え、耐摩耗性が高く、摩耗試験では業界基準の60倍以上の耐久性を示したとされています。クライミングギアを身にまとって激しく登攀するような場面で心強いアクティブインサレーションです。
Rab ゼネアアルパインジャケット
アクティブインサレーション
暖かく、通気性に優れ、様々なコンディションに対応する合成繊維のインサレーションフーディです。ボディマッピングされた2重構造のインサレーションと通気性の高い素材により、頂上を目指しながら、頂上でも暖かさを保つことができます。
胸ポケット×2、ハンドポケット×2の収納力が魅力です。
アクティブインサレーションの着こなし術
ベースレイヤーとの相性がカギ
汗処理能力が最優先。吸汗・拡散 → 保温 → 防風 の順です。
アクティブインサレーションの下に着るベースレイヤーは、吸湿速乾性が高く、肌離れのよいものを選ぶことが重要です。おすすめはメリノウール混紡やグリッド系フリースなど。
- 基本構成は以下のとおり:
-
- ベースレイヤー(吸汗速乾)
- アクティブインサレーション(動的保温)
- シェル(必要時のみ、風雨から保護)
上からシェルを重ねるときの注意点
ハードシェルを重ねると、アクティブインサレーションの「通気性」が損なわれます。風雪時以外は可能な限り単体での着用が理想です。
たとえば積雪期に八ヶ岳の赤岳に登る場合、赤岳鉱泉や行者小屋まではアクティブインサレーションですごし、地蔵尾根や文三郎道にさしかかったらハードシェルを羽織るというレイヤリングがおすすめです。
7. アクティブインサレーションに関するQ&A
Q1. ダウンとアクティブインサレーションの違いは?
A. ダウンは静的保温、アクティブインサレーションは動的保温。
ダウンは軽くて高い保温性を誇りますが、行動中には暑すぎたり、汗で濡れると機能が落ちます。アクティブインサレーションは多少の保温力を保ちつつ、通気性を確保して汗を逃がす構造になっています。
Q2. どの季節に使えばいいの?
A. 秋〜春にかけて、特に気温0〜15℃前後の行動時に適しています。
夏にはオーバースペックですが、朝晩の冷え込みや高山帯では通年使うことも可能です。積雪期にはハードシェルの中間着として、春秋にはアウターとしても活躍します。
Q3. 撥水性が落ちてきたらどうすればいい?
A. 専用の撥水スプレーまたは洗剤で再加工できます。
表地の撥水性は時間とともに低下します。DWR加工(耐久撥水)を施した製品であっても、定期的なメンテナンスが必要です。
Q4. 下半身のレイヤリングはどう考えるべきですか?
A. 頻繁に着脱できない環境だからこそ、「放熱と保温のバランス」を重視すべきです。
【基本前提】なぜ上半身と同じにはできないのか?
視点 | 下半身 | 上半身 |
---|---|---|
発汗量 | 少なめ | 多め(特に背中・脇) |
動きの多さ | 常に動く(登り・下り・踏ん張り) | 一定(特に胴体は静止時が多い) |
保温の優先度 | 低め(コア温度に影響しにくい) | 高め(臓器保護に直結) |
着脱の自由度 | 非常に低い(靴・アイゼン等の影響) | 比較的自由 |
下半身は靴やハーネスの都合でレイヤーの脱ぎ着が困難なため、着たまま行動し続けられて、汗をこもらせないウェア構成がより求められます。
【考え方の軸】下半身レイヤリングで両立すべきは3つ
- 通気性・蒸れにくさ(オーバーヒート回避)
- 動きやすさ(ストレッチ性・立体構造)
- 必要最低限の保温性(静止時の冷え対策)
アクティブインサレーションの中綿(Octa、ファインポリゴン等)は、これらの条件を高いレベルで同時に満たせる素材です。
【極地・稜線での静止時間】ではどうするか?
たとえば岩稜登攀のビレイ中など、下半身も静止状態が長くなる場合には、以下のような保温寄り構成が必要です。
- ミドルレイヤーに高ロフトの中綿パンツ(ExceLoftやPrimaloft系)を重ねる
- 防風性重視のシェルパンツを上から被せる
- 脚部の保温が全身の寒冷感の主観を大きく左右する場合もあるため、無視できない
【行動主体の日帰り登山・トレッキング】では?
こちらはむしろ「着たまま快適である」ことが最優先されます。
- 厚手ベースレイヤー(ポリウールなど)
- アクティブインサレーション入りタイツやパンツ
- ソフトシェルパンツ or ストレッチ性のあるアウター
→ 蒸れず、冷えず、動きやすく、着脱不要という理想的な構成
- 答えのない問いに“最適解”を出すには?
-
- 「行動中か」「停滞中か」を明確に切り分ける
- 着脱しづらい=着たまま快適に過ごせる装備を選ぶ
- アクティブインサレーション+ストレッチシェルは現状のベストプラクティス
- それでも寒いなら「軽量な中綿パンツを上から履く」というレイヤー追加型戦略で対応
メンテナンスと長持ちさせるコツ
アクティブインサレーションは、適切に扱えば3〜5年は高性能を維持できます。
洗濯方法
- 洗濯機OK(ネット推奨・中性洗剤使用)
- 乾燥は自然乾燥または低温乾燥
- 柔軟剤NG(通気性・撥水性が低下)
保管のポイント
- スタッフサックに長期間入れっぱなしにしない
- 吊るすか、ふんわりたたんで収納
- 湿気の少ない場所に保管すること
アクティブインサレーション(動的保温着)の歴史
山と渓谷2018年11月号の「GTR vol.07 アクティブインサレーション」にこう書かれています。
2012年にポーラテック社のアルファ素材が登場して以来、秋冬用の山岳ウェアに「アクティブインサレーション(動的保温着)」というカテゴリーが広まった。
その記事で紹介されているのが、アウトドアリサーチの「アセンダントフーディ」です。
マウンテンハードウェアの「エイサームフーデッドジャケット」も「シェル+裏地フリース」構造を踏襲していました。
個人的にはこのタイプのアクティブインサレーションがもっとも汎用性が高いと感じています。しばらく見かけませんでしたが、2021年秋冬シーズンにやっとミレーの「Millet ブリーザー トイ アルファ ダイレクト フーディー」が登場しました。
その後、ポーラテックアルファではなく、帝人のオクタヤーン(Octayarn)を採用した製品が増えています。
まとめ:アクティブインサレーションは“動く保温着”の新定番
アクティブインサレーションは、「行動中に着られる保温着」として、近年注目を集めている新しいカテゴリーです。
- こんな人におすすめ
-
- 着たり脱いだりが面倒な人
- 登山やトレランで汗冷えに悩む人
- 気温差の激しいアウトドア環境に対応したい人
- 通勤や日常でも高機能ウェアを活用したい人
価格こそやや高めのモデルもありますが、機能性・快適性・安全性のすべてにおいて納得できる投資となるはずです。
筆者は現在こんなアクティブインサレーションを利用しています。



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