雪山テント泊の凍える夜、使い捨てカイロを解禁した【高温タイプをダウンブーツに入れる】

インターネットで「使い捨てカイロ 雪山」といったキーワードでリサーチすると、あまり評判がよろしくありません。

曰く、

  • 「酸素が薄い高所では発熱しない」
  • 「氷点下では発熱しない」

しかし、どの商品をどのような条件で使用したのか具体的な記載がない。また、ほとんどが「通常タイプ」の発熱が穏やかな商品を評価しているように見受けられます。

意外と「高温タイプ」を知らない人が多いのかもしれません。

雪山テント泊では高温タイプの使い捨てカイロを使おう

通常タイプと高温タイプの比較

使い捨てカイロの代名詞とも言える「ホッカイロ」の発売元であるコーワ(興和産業)の商品ラインナップから、「通常タイプ」と「高温タイプ」のスペックを比較してみましょう。

通常タイプ代表 高温タイプ代表
商品名 ホッカイロ ヒートチャージャー

サイズ 132mm×100mm 132mm×100mm
最高温度 66度 76度
平均温度 52度 63度
持続時間 20時間 8時間

最高温度の10度の差は大きい。通常タイプは街中では有効ですが、雪山では圧倒的に力不足です。

その他、高温タイプの使い捨てカイロ

アイリスオーヤマ「ぽかぽか家族 屋外専用カイロ 貼れないレギュラー 10個入り」

最高温度 79度 サイズ 125mm×95mm
平均温度 62度 発売開始
持続時間 12時間

私が調べた範囲では最も早い時期(2013年9月1日?)から高温タイプを販売していました。

コーワ「ホッカイロ高温 貼らないタイプ ヒートチャージャー」

最高温度 76度 サイズ 130mm×95mm
平均温度 63度 発売開始 2015年10月1日
持続時間 12時間

個人的にいちばん使用歴が長く信頼している商品です。

現行モデルでは「ヒートチャージャー」という名称が片隅に付記されるのみとなりました。使い捨てカイロの代名詞である「ホッカイロ」と「高温」をアピールするためでしょう。

「桐灰化学 めっちゃ熱いカイロ マグマ」

最高温度 73度 サイズ 130mm×95mm
平均温度 61度 発売開始 2017年9月6日
持続時間 12時間

ドラッグストアで陳列されているのをいちばんよく見かける商品です。

「オカモト 貼らないカイロ 快温くんプラス 即暖」

最高温度 86度 サイズ 9cm×7cm
平均温度 70度 発売開始 2016年8月1日
持続時間 2時間

持続時間が2時間と短いですが、なんと最高温度が86度。素早く温めたい用途に向いています。

「オンパックス 極熱」

最高温度 73度 サイズ 125mm×95mm
平均温度 61度 発売開始 2018年9月12日
持続時間 14時間

「オカモト 貼らない快温くんプラス 鬼熱」

最高温度 79度 サイズ 130mm×95mm
平均温度 61度 発売開始 2019年11月28日
持続時間 12時間

雪山テント泊での使い捨てカイロの使用体験

1回目の使用条件:初冬の西穂高岳

時期 2017年12月21日~12月22日
場所 西穂山荘のテント場 標高2367m
気温 朝方のテント内  -8℃
使い捨て
カイロ
「興和新薬 ヒートチャージャー」 重量52g/個
シュラフ イスカ Air 900 SL Winter Model 重量1410g
シュラフ
カバー
mont-bell ブリーズドライテック サイドジップスリーピングバッグカバー 重量405g
ダウンブーツ mont-bell ベーシック ダウン フットウォーマー 重量114g
マットレス リッジレスト ソーライトS (51×122×1.5cm/R値:2.8) 重量260g
ウールソックス FITS Expedition Boot 重量139g

使用した部位=足裏に2個

ダウンブーツに入れました。土踏まずあたりに当たります。

「うおぉ、暖かい。いやぁ、なぜこれまで使わなかったんだろう。寒さにふるえる夜をいくつ越えてきたことか」

などと感激しながら、まどろみ、15分、20分。……。ん? あれ?

「熱い!!」

飛び起きました。うわさに聞く低温ヤケドの危険を感じました。「自覚症状がないまま」ではなく、はっきりと危険を自覚しました。

パッケージには「絶対に就寝時には使用しないでください」と記載されています。インターネットでは「ダウンシューズに入れたカイロは酸欠で発熱しない」という評価が見受けられましたが、「興和新薬 ヒートチャージャー」ではそんなことはありません。シュラフカバー、シュラフ、ダウンブーツで三重にカバーされていても、酸素は供給されることが確認できました。むしろ酸素が薄めなので、高温が抑制され、長もちする点が雪山テント泊に適しています。

フリースのグローブを即席のカバーにする

熱をやわらげるために、フリースのグローブをカバーにしました。が、使い捨てカイロはどうやら「熱が熱を呼ぶ」ようです。パッケージには「暖房器具の近くでは絶対に使用しないでください」と記載されているくらいです。足裏に直接感じる熱は若干緩和されましたが、フリースのグローブの内側ではより高温になっている気がしました。

毛細血管が拡張しっぱなし?

翌日、無事登山を終えて、東京へ帰る道すがら、公共交通機関を乗り換えて歩くたびに、なんだか足の裏がジンジンしました。もしかするとこれが低温ヤケドの症状なのでしょうか。ソックスを脱いで確認したところ、見た目には特に問題ありません。低温ヤケドとまではいかないものの、足裏の毛細血管が拡張しっぱなしのような気がしました。二、三日はその感覚が残りました。

次の機会にはよりカバーを厚くするか、むしろ「従来タイプ」を使うほうがよいのではないかと思いました。

2回目の使用条件:厳冬期の八ヶ岳

時期 2018年1月20日~1月21日
場所 行者小屋のテント場 標高2350m
気温 朝方のテント内  -12℃
使い捨て
カイロ
「興和新薬 ホッカイロ 衣類に貼るカイロ」 重量20g/個
シュラフ mont-bell / U.L.スーパー スパイラルダウンハガー #3 重量600g
シュラフ
カバー
mont-bell ブリーズドライテック サイドジップスリーピングバッグカバー 重量405g
ダウンブーツ mont-bell ベーシック ダウン フットウォーマー 重量114g
マットレス mont-bell フォームパッド 150 (151×51×1.6cm/R値:不明) 重量297g
ウールソックス FITS Expedition Boot 重量139g

「通常タイプ」の衣類に貼る用を使用しました。1個あたり約20gですので、最高温度が下がる(76℃→63℃)だけでなく、熱の総量が下がると思われます。

テントが極薄のシェルターで、シュラフを薄くした影響もありますが、寒くてほとんど眠れませんでした。足裏はほんのり暖かい気がしましたが、安眠を誘うほどではありませんでした。

もうこの商品を雪山で使うことはないだろう

と思ったので、10個すべてを体中に貼り付けました。

  • 足裏:左右に1個ずつ
  • 膝がしらの上あたり:左右に1個ずつ
  • 太腿の外側:左右に1個ずつ
  • 背中:縦に並べて2個
  • 肩のうしろ:僧帽筋のあたりに左右1個ずつ

これだけ貼っても暖かいとは感じません。貼ったあたりを手で押さえ付けると肌に熱が伝わってくるのですが、手を離すと熱を感じません。実際にはシュラフ全体の温度をほんのりと底上げしてくれていたにちがいありませんが、恩恵をはっきりと自覚できません。暖かいような冷えるような、ちょうど体温に近い湯船に浸かっている感覚でした。

雪山では通常タイプは力不足だ」というのが結論です。

3回目の使用条件:初冬の黒百合平

時期 2021年12月4日~12月5日
場所 八ヶ岳・黒百合平 標高2400m
気温
使い捨て カイロ 「興和新薬 ヒートチャージャー」 重量52g/個
シュラフ mont-bell / U.L.スーパー スパイラルダウンハガー #3 重量1410g
シュラフ カバー mont-bell ブリーズドライテック サイドジップスリーピングバッグカバー 重量405g
ダウンブーツ mont-bell ベーシック ダウン フットウォーマー 重量114g
マットレス エクスペド ダウンマット UL 7S 重量500g
ウールソックス FITS Expedition Boot 重量139g

ほとんど発熱しませんでした。ダウンマットを敷いたものの、三季用の寝袋だったせいもあり、ほとんど眠れませんでした。翌日は体調が悪く、山頂を目指す途中で引き返す情けない結果となりました。

あとで装備点検しているとき、半年以上前に使用期限切れになっていることに気づきました。前回の登山で使ったときにはちゃんと発熱したのに……。同じパッケージ(10個入り)でも個体差があるわけです。

インターネットでは使い捨てカイロについて毀誉褒貶が交錯していますが、報告者が気づいていないだけで、実は劣化していたため発熱しなかった事例が少なくないと思われます。使い捨てカイロはナマモノであることを忘れてはいけません。

4回目の使用条件:冬の黒百合平

時期 2022年1月9日~1月10日
場所 八ヶ岳・黒百合平 標高2400m
気温
使い捨て カイロ 「オカモト 貼らない快温くんプラス 鬼熱」 重量41g/個
シュラフ イスカ Air 900 SL Winter Model 重量1410g
シュラフ カバー mont-bell ブリーズドライテック サイドジップスリーピングバッグカバー 重量405g
ダウンブーツ mont-bell ベーシック ダウン フットウォーマー 重量114g
マットレス エクスペド ダウンマット UL 7S 重量500g
ウールソックス FITS Expedition Boot 重量139g

シュラフはイスカの「Air 900 SL Winter Model」、マットレスはエクスペドの「ダウンマット UL 7S」、使い捨てカイロはAmazonで買ったばかりの最新鋭「鬼熱」という最強の布陣でリベンジに臨みました。

いざダウンブーツに仕込むと、足裏の熱さが過去最高レベルでした。最高温度は79度はダテじゃありません。ヒートチャージャーより3度高いだけですが、差をはっきり感じました。西穂のときと同様、フリースの手袋に包みましたが、それでもまだ熱くて、さらに別の手袋をあいだに挟まないと耐えられませんでした。湿った手袋を乾かすのにちょうど良いかもしれません。

おかげで朝まで暖かく眠れました。6時くらいには天狗岳往復に出かけるつもりが、すっかり寝坊して8時くらいになりました。

「ヒートチャージャー」は翌朝の行動始めにはまだ温かくて、アウターシェルのポケットに突っ込んで、気休め程度に手を温めるのに使えました。一方「鬼熱」は朝にはもうほとんど余熱がないようでした。最高温度が高いと、そのぶん平均温度は低くなることも確かに実感できました。

まとめ

以前「雪山テント泊の凍える夜、プラティパスを湯たんぽにしてみた」という記事を公開しました。

雪山テント泊の凍える夜、プラティパスを湯たんぽにしてみた
初冬の西穂高にて。雪山テント泊の凍える夜。 「そんなもんオンナコドモがやることだ」という偏見を捨てて、プラティパスを湯たんぽにしてみました。 これまでは水筒(プラティパス、ナルゲンボトル、ペットボトルの再利用)の中身が凍らないように、おそる...

プラティパスを湯たんぽにして足元に置いたものの、あまりお湯を熱くしなかったせいもあり、今一つその恩恵を感じられませんでした。結局、内腿にはさんだり、お腹にのせたりするほうが気持ちよかった。いちばん冷える足元については、使い捨てカイロで解決できました。

使い捨てじゃないカイロについては以下の記事をご参照ください。

灰式カイロを登山で使う
2012年頃、灰式カイロを購入しました。gelertブランドのその名もズバリ「ハンドウォーマー」という製品です。寒冷地でカメラを保温するために使う人が多いようです。私は岩場で自分のクライミング動画を撮影する際、デジカメにつないだモバイルバッテリーを温めるために使っていました。

こうした灰式カイロやハクキンカイロのほうが燃費が良く、絶対的な温度が高いですが、身体のあちこちに同時に配備するわけにはいきません。2~3泊のテント泊であれば、使い捨てカイロを必要な個数だけ携行するほうが効率的です。


最後に、使い捨てカイロの限界についても触れておきます。

使い捨てカイロは過保護な環境でないと性能を発揮できないと肝に銘じましょう。雪山でカメラを保温するために貼り付けてもほとんど効果はありません。カイロの発熱のしくみから言って、低温に晒すとほとんど化学反応が進みません。鉄分の酸化を促進するために添加されている水分があっという間に凍ってしまいます。寝袋の中など暖かい環境では熱が熱を呼んで過熱するけれど、寒いと一向に働かない「褒めて伸ばす」べきやつなのです。

コメント

  1. crossroader より:

    こんばんは。最近このブログを見つけて、興味深く拝見させていただいております。
    私もテントで寝ていて足が冷えたことがありますが、ふくらはぎ、足首、土踏まず、足指をマッサージしたら治り、その後も冷えることはありませんでした。寝る時はほぼ脚を伸ばした状態なので血流が阻害されることはなく、一旦血行が戻れば大丈夫なのではないかと思います。今度冷えた時はお試しください。

    • kamiyama kamiyama より:

      crossroader様、コメントありがとうございます。
      テントに転がり込んでからの身体のメンテナンスが効果的なのですね。何時間も登山靴で締め付けられたあと、足の血行が悪くなっているのでしょうか。厳冬期に北アルプス大縦走した舟生大悟さんは寝袋に包まれながらできる筋トレ(腹筋?)で体を温めたそうです(PEAKS 2017年12月号)。今度試してみます。

  2. crossroader より:

    登山靴の締め付けもあるかもしれませんが、テント内では長時間座りっぱなしなので血行が悪くなるのだと思います。

    • kamiyama kamiyama より:

      crossroader様、こんばんは。
      シュラフに下半身を入れて、雪を溶かすために片肘ついて上半身をねじった不自然な体勢を長く続けるのも血行にはよろしくないですよね。余裕のある無雪期にはテルモスを足腰の下に敷いてマッサージしたりすることがありますが、膝より下はあまりケアしていませんでした。いろいろ出来ることはありそうです。