母さん、ぼくのあの黄色いヤッケどうしたでせうね?
ええ、冬、韓国岳(からくにだけ)から新燃岳(しんもえだけ)へいくみちで、
稜線(りょうせん)で羽織っていたあの黄色いヤッケですよ。
母さん、あれは好きなアウターシェルでしたよ。
ぼくはあのときずいぶん初心 だった。
だけど、とても山に魅せられたもんだから。
混紡のヤッケ(アノラック)
南アルプス・北岳山荘
南アルプス・北岳山荘のテント場にて。キスリング部隊のお通りだい。うっすらと富士山が見えます。中央の二人は色違いのヤッケです。両端の二人はナイロン製のペラペラのウインドブレイカーです。
ワンダーフォーゲル部の夏合宿にそなえて、ダイエーのアウトドア用品コーナーで黄色いヤッケを買いました。雪山ではありませんが、この合宿でデビューしました。
素材は綿と化繊の混紡だったと思います。ほどほどにコシがあり、肌触りが良かったです。防水性はありませんが、軽い雨なら弾くぐらいの撥水性はありました。胸にカンガルーポケット、両脇のハンドポケットは真ん中でつながっており、収納力抜群。一度かぶると、包み込まれた感が強く、脱ぎたくなくなりました。
冬の霧島山
我が部に冬山合宿はありませんでしたが、有志が個人山行で冬山に出かけました。大学一年生の冬、先輩に誘われて九州の霧島山へ。雪はほとんどありませんでした。
初めての雪山で着たのは混紡のヤッケ(アノラック)でした。
ニッカーボッカに毛のソックスを二重に履くスタイルが早くも確立しています。靴はキャラバンシューズです。
ガスった縦走路で休憩中。右手には何やら禁断の白い細長い筒。ン十年前の出来心なので見逃してください。
下山後、カンガルーポケットにハクキンカイロを入れたまま、空港の搭乗ゲートを通ろうとしたら、金属探知機に引っかかり、すかさず止められました。カイロを没収されることもなく、搭乗したと記憶しています。昔は規制が緩かったですね。
秋の根子岳
九州の阿蘇山・根子岳のふもとに広がる鍋の平キャンプ場にて。
肌寒ければとりあえずヤッケを羽織ります。
雨模様だったので、根子岳往復はキャンセル。一晩キャンプだけして帰ったという贅沢な合宿でした。なんでポリタン持ってるの?
現代のウェアで置き換えるなら
アノラック(ヤッケ)はレトロファッションと捉えられがちですが、実はエキスパート好みです。行動中、腹部はザックのウエストベルトやハーネス類で塞がれるので、上部だけ開放できれば十分。腹部にファスナーの嵩張りがないので足上げしやすい。ウェアが軽量化される。隙間が少ないぶん保温性が上がる、とメリットが多いです。
THE NORTH FACE / コンパクトアノラック
カンガルーポケット、左右貫通したハンドポケット等、昔着ていたヤッケにそっくりです。お値段がお手頃なので、マスタード色があれば思わず買ってしまいそうです。
ゴム引きのカッパ
冬の祖母・傾山系
黄色いヤッケを携行していましたが、けっこうな風雪だったので、防雪重視でカッパを着て山頂を往復しました。いわゆるゴム引きで、透湿性はまったくありません。
さすがにこれじゃまずいので、登場するのはこのときだけです。
現代のウェアで置き換えるなら
透湿性がないカッパに相当する現代のウェアを探すというのもおかしな話です。透湿性があるんだかないんだかよくわからないレインウェアを挙げてみます。
Columbia / アウトドライ エクストリーム レイン ジャケット
防水透湿メンブレンが表面に露出しています。GORE-TEXシェイクドライと同じ発想です。表面はテカテカで撥水性と耐久性が高いのは確かですが、透湿性能は限定的です。
ランニング用ウインドブレイカー
初冬の富士山
初冬の富士山に吉田口から登りました。前日、井上小屋(4合目5勺?)にテントを設営したのち、偵察と称して八合目まで往復したので、当日は疲労が残っていてキツかったです。
さいわい風が弱く、夏と同じくらい快適に登れました。夏に登ったことはありませんが。赤と黒のツートンカラーのウインドブレイカーはたしかアシックスのランニング用でした。普段着として羽織ったり、本来の用途であるジョギングで重ね着したり、山でも街でも大活躍でした。
丹沢の河原
丹沢の河原で焚火キャンプをするときも……。
春の鹿島槍
鹿島槍の登山口・西俣出合で風雪のなかテントを撤収するときも……。
春の八方尾根
ピーカンの八方池でも……。
春の五竜岳
五竜岳の山頂でも……。手前のシュイナード・ドラゴンのデイパックが懐かしい。
パンツは釣具屋さんで千円くらいで買ったナイロンパンツです。
このコーディネート、長らくお気に入りでした。
上も下も生地は一重ですが、腰から胸までもぐる深雪のラッセルをしても何ら問題ありませんでした。いまどきのどんな高性能なソフトシェルよりも透湿性が高く、少々濡れてもすぐに乾きました。
現代のウェアで置き換えるなら
THE NORTH FACE / ジェミニフーディー
PERTEX® QUANTUM AIRを採用。樹林帯のラッセルをこれでこなし、稜線に出たらハードシェルを羽織るという運用が考えられます。両脇の広大なポケットに濡れた手袋を入れて、体温で乾かすことができます。ポケットの中にさらに貴重品用ポケットがあるという至れり尽くせりぶり。トレイルランニングのような激しい動きを想定しているらしく、タイト目のシルエットなので、下にフリースなどを着込みたいならワンサイズ上を選ぶ必要があります。
ナイロンのダブルジャケット、ダブルパンツ
春の白馬岳・天狗原
たしかICI石井スポーツのオリジナル商品です。ナイロン?生地が二重になっていました。現在ならソフトシェルに相当します。安価で良い商品でしたが、いつの間にか販売されなくなりました。
この日、みぞれに叩かれて濡れたため、翌日は前出のウインドブレイカースタイルで行動しました。
現代のウェアで置き換えるなら
撥水性主体の生地を重ねることによって、透湿性を確保しつつ、濡れにくくするという発想のウェアは現代では見当たりません。ここ数年でいちばん注目された高透湿素材と言えば、ミレーのティフォン5000シリーズです。
登山用品店で「透湿性重視のアウターシェルを探している」と伝えると、これを紹介されることが多いです。
エントラントのレインウェア
晩秋の北鎌尾根
1989年10月8日~9日、季節外れの風雪によって立山で8人が遭難した夜、北鎌尾根でビバークしていました。
春の五龍岳・遠見尾根
全身真っ赤っかです。背中のガッシャブルム(ICI石井スポーツの大容量ザック、ウエストベルトがない初期型)も懐かしいアイテムです。
2017年頃、高通気エントラント製品が噂されました。まもなくテントやシュラフカバー製品が販売されましたが、ウェア類では音沙汰がありません。東レが開発した高通気・高伸縮性の「タズマ」が実質そうなのかもしれません。
ゴアテックスのレインウェア
春の甲斐駒ヶ岳
ゴアテックスのレインウェアにレベルアップしました。ノースフェイスの黄色と黒のツートンカラーは憧れでした。前出のダブルジャケット、ダブルパンツはお払い箱です。
冬の金峰山・大日岩
このツートンカラーがプロっぽいんですよ。まぁ、見る人が見れば、レインウェアであることは一目瞭然で、「雪山でレインウェアを使うのは素人だ」と言われそうですが。
現代のウェアで置き換えるなら
THE NORTH FACE / マウンテンレインテックスジャケット&パンツ
伝統のツートンカラーを再現するならコレしかないでしょう。
このあと雪山専用ハードシェルに進化することなく、フリークライミングの世界に転進するのでありました。
アシックスのウインドブレイカーも、ICI石井スポーツのダブルジャケット、ダブルパンツも、ノースフェイスのゴアテックスのレインウェアも断捨離してしまいました。
雪山に復帰するにあたって、ついに買ったハードシェルとは……。
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