シュラフカバーは、テント泊登山において最大の中綿入り装備である寝袋を濡れから守り、保温性を高め、単体で寝袋として利用でき、非常時には人間サイズのシェルターとなり、行動中はパックライナーとして応用できる、地味ながら大変便利な装備です。
シュラフカバーは必要か? 不要か? と言うよりも、シュラフカバーを持たない理由が見つかりません。持って行って損した記憶がありません。
シュラフカバーの効果
寝袋を雨や結露や霜から守る
寝袋の保温性を高める
単体で寝袋として利用できる
非常時にシェルターになる
パックライナーになる
仮に渡渉でザックが水没して寝袋が水浸しになっても、シュラフカバーがあれば急場をしのぐことができます。寒がりのパートナーに貸し出すこともできます。
今となってはシュラフカバーなしで過ごした歳月が見知らぬ他人の人生のようでさえあります。
シュラフカバーの選び方
防水透湿素材を選ぶ
テントのなかで寝袋にかぶせる場合、雨が直接降りかかるわけではないので、過度な防水性能は不要です。それよりも透湿性能を優先したい。人間の体から出る蒸気(不感蒸泄)がシュラフカバーの内側で結露すると、寝袋に濡れ戻り、保温性が落ち、不快な思いをします。
有名アウトドアブランドの製品なら、防水性能についてはどれも合格点。透湿性能は素材によって差があります。
- いちばんのおすすめはゴアテックス製。
ゴアテックス ウインドストッパーなら、さらに通気性が高く、結露しにくいです。 - 透湿性能=20,000g/㎡/24h以上を目安に。
ブランド独自の防水透湿素材では必ず透湿性能をチェック。就寝中は行動中のような多量の発汗はありませんが、「発熱による透湿促進」や「運動にともなう蒸れの排出」をほとんど期待できないため、レインウェアと同じくらい高い透湿性が欲しくなります。 - 透湿コーティングにご用心。
安価な製品によく見られる「ポリウレタンコーティング」「PUコーティング」といった記載を見落とさないよう注意してください。たいてい透湿性=10,000g/㎡/24h未満なので、相当に結露すると覚悟しなくてはなりません。
縫い目の目止め(シームシーリング)をチェック
シュラフカバーの頭の周囲や足先はどうしてもテントの内壁と接触しやすくなります。そこに縫い目があると、水分が侵入しやすくなります。
よほどマイナーなブランドの製品でないかぎり、目止め(シームシーリング)を省略しませんが、念のため商品の説明文で「縫い目」「目止め」「シームシーリング」という文言を検索しましょう。
裏地で選ぶ
- 3レイヤーが無難。
表生地+防水透湿メンブレン+裏地という構造です。裏地はたいてい化繊のトリコットやニットで、身体から出た蒸気を吸着・拡散する役割を果たします。 - 2レイヤーは繊細。
表生地+防水透湿メンブレンという構造です。軽量コンパクトですが、防水透湿メンブレンが内側に露出しているため耐久性が低くなり、結露しやすくなります。 - 2.5レイヤーも悪くない。
3レイヤーと2レイヤーの良いところどり。裏地に特殊な加工をほどこすことによって、耐久性を高めつつ、結露を少なくしています。
ファスナーの有無で選ぶ
おっ、このシュラフカバーは軽い。…と思ったら、軽量化のためファスナーを省いている場合があるので、見落とさないように。
ファスナーがないと出入りが面倒です。雪山で寝袋に入ったまま、ものぐさな体勢で雪を溶かすときなど、ファスナーがないと肩口まで露出しなくてはならず寒い思いをします。
軽量化と利便性のどちらをとるか悩ましいところです。
肩幅で選ぶ
厳冬期用の分厚いシュラフを入れる場合、肩幅や胴回りが窮屈にならない余裕のあるサイズを選びしょう。水(プラティパス)や電子機器、皮革製登山靴を寒気に晒したくなければ、シュラフカバーの内側に入れるため、なおのこと余裕が必要です。
たいていの製品にラージモデルやワイドモデルが用意されています。
シュラフカバーのおすすめ
シュラフカバーのおすすめを
- ゴアテックス系のシュラフカバー
- 独自の防水透湿素材によるシュラフカバー
- 変わり種
に大別して紹介します。
ブランドもののアウターを何着も使い分けるのと比べれば、いちばん高いシュラフカバーを買ってもたいした出費ではありません。
ゴアテックス系のシュラフカバー
ISUKA – ゴアテックスインフィニアムシュラフカバー ウルトラライト
質実剛健さナンバーワン
ゴアテックス素材はポリウレタン系素材と比べて経年劣化しにくく、今回紹介する製品の中でいちばん耐久性が高く、長く使えるはずです。
2021年シーズン、防水透湿素材をオーソドックスなゴアテックス3レイヤーからゴアテックス インフィニアムに変更し、透湿性を向上させました。
特徴的なのは立体裁断のフード。半円形に広がった頭部をコードで引き絞る方式とはちがい、少ない手間で調節できます。
ワイドモデルのサイズは87(肩幅)×209(全長)cmで、一見レギュラーモデルと同じですが、肩から足先まで全体にゆったりした形状になっています。
HERITAGE – eVent® WINDPROOF ファスナー付シュラフカバー
総合力ナンバーワン
防水性、透湿性だけでなく、通気性も備える防水透湿素材eVent(ゴアテックスと同じePTFE素材)を採用。オーソドックスなゴアよりも結露しにくいです。
正面のファスナーは左寄りにずらしてあり、スライダーが顔に当たりにくい。寝そべったまま炊事するとき、左右どちら側でも手を出しやすいのが便利です。
mont-bell – ブリーズ ドライテック プラス スリーピングバッグカバー
軽量コンパクトさナンバーワン
えっ、これゴアテックスなの?
ブリーズ ドライテックはモンベル独自のポリウレン系防水透湿素材。この製品に採用されたブリーズ ドライテック プラスは単なる強化版ではなく、ゴアテックスと同じPTFE系防水透湿素材です。実態は別物なのに紛らわしい名称になっているので、モンベルのカタログを読むときは「プラス」の有無に注意するべし。「通気性」をうたっているあたり、ゴアウインドストッパーと似た性能を期待できます。(個人的には隠れeVentと呼びたい)
独自の防水透湿素材によるシュラフカバー
PuroMonte – ライトウエイト3レイヤーシュラフカバー
新素材ナンバーワン
高通気エントラントという素材は2017年頃から注目を浴び始めました。レインウェアの試作品が出たものの、その後音沙汰なく、2019年にProMonteがテント(VBシリーズ)で採用。同時期にこのシュラフカバーが登場しました。
RIPENが同素材でファスナーを省いた軽量モデルを発売。厳冬期用の分厚い寝袋を余裕をもってカバーしたいならラージモデルを選択できます。
mont-bell – ブリーズドライテック ウォームアップスリーピングバッグカバー
合わせ技ナンバーワン
いかに透湿性や通気性が高いシュラフカバーであっても多少は結露します。「身体が発する湿った暖気」と「冷たい外気」とが、シュラフカバーを境界として急激な温度勾配を形成するのですから仕方ありません。冷たい氷を入れたグラスに水滴がつくのと同じ現象(内と外が逆ですが)です。そうして発生した結露は寝袋に濡れ戻り、中綿を湿らせ、保温性を低下させます。
シュラフカバーの内側に起毛地(クリマプラス®メッシュ)を貼ることによって、
- 単純に保温性が高くなる。
- 温度勾配が緩やかになるぶん結露しにくくなる。
- 多少結露しても、起毛地が水分を保持するため寝袋に濡れ戻りにくい。
- 起毛地は薄いので、濡れても乾かしやすい。
- 単体で使う場合にも肌触りが良い。
と良いことずくめです。
finetrack – エバーブレススリーピングバッグカバー
影の実力者ナンバーワン
伸縮性が高く、寝返りを打つのが楽です。
一般に、
- ゴアテックス系は耐久性が高いけれど伸縮性が低い。
- ポリウレン系は伸縮性が高いけれど耐久性が低い。
というトレードオフの関係が成立します。
ところが、finetrackの独自素材エバーブレスはポリカーボネート系ポリウレタンを採用しており、加水分解による劣化が発生しにくいとされています。
透湿性の数値は10,000g/㎡/24h以上と一見低いですが、テスト法が他メーカーとは異なるJIS L 1099 A-1法であることに注意。このテスト法で達成できる最大値は12,000g程度といわれています。理論値の上限に近い。
ファスナーを省いた軽量モデルも用意されています。
oxtos – 高透湿防水 シュラフカバー レギュラー
ダークホースのナンバーワン
独自素材の透湿性は20,000g/㎡/24h以上と合格点。
「SOFANDE」は旭化成が開発したポリウレタン系防水透湿素材。同シリーズには
- 「SOFANDE Dry」:多孔質(通気性あり)
- 「SOFANDE LT」:無孔質(※推定)
が存在します。ウェアの世界でメジャーなPertex Shield Pro(多孔質)とPertex Shield(無孔質)との関係に相当。この製品で使われているのは「SOFANDE LT」の“従来品”だと思われます。
コードで引き絞らなくても最初から立体的に裁断されているフードが扱いやすい。軽量コンパクトさと安価さを重視する人に向いています。
変わり種
MURACO – タイベックスリーピングバッグプロテクター
ウルトラライトマニア御用達
タイベック素材は軽く強度が高く、防水性、透湿性、通気性を備え、安価です。ただし、汚れやく、表面が毛羽だって保水しやすいのが難点。紙のような手触りで、基本的に洗濯はできません。
耐水圧はタイベックの種類によります。「粉じん対応防護服」のカタログでは1,165mmとされています。傘の耐水圧が500mm程度、レインウェアが10,000mm以上ですから、どちらかと言うと傘に近い。テント内で寝袋を水滴から守るには十分ですが、野外でビビィ代わりに使うのは厳しい。グランドシートとして使うと、地面の湿気が滲みてくるでしょう。
いちばん気になる透湿性能についてはモンベルのカタログが参考になります。「mont-bell 2020 Gear Catalog」において同社の「タイベック スリーピングバッグカバー」の透湿性は7,000g/㎡/24h(JIS L-1099B-1法)と記載されています。過大な期待は禁物です。
SOL – エスケープ ヴィヴィ
ウルトラライトマニア御用達
初めてこの製品を見たとき「古き良き『オールウェザーブランケット』を最新技術で焼き直すとこうなるのだろう」と思いました。
薄いのに暖かい。内側の全面にアルミ蒸着をほどこし、体温の70%を輻射します。透湿性能は限定的で、雪山で使ったところ結露が多めでした。まぁ、一泊二日で逃げ切りの登山なら、すこしくらい寝袋が濡れても、あとは帰宅して寝袋を乾かすだけなので、この製品の良さを最大限に活かせるでしょう。
ベースキャンプから山頂を往復するとき、アタックザックにツェルトといっしょに詰めておけば、緊急時のビバークで低体温症から身を守る強い味方となります。
快適性は普通のシュラフカバーより劣るものの、だからこそ快適性をあまり重視しない特異な状況に向いています。TJAR(Trans Japan Alps Race)の2016年大会では、参加者29人中25人がSOLの「エスケープ ヴィヴィ」または「エスケープ ライト ヴィヴィ」を携行したと報告されています。
店舗で購入時に「使った後はよく干してください」とアドバイスされました。アルミ蒸着は極薄でいかにも劣化しやすそうです。剥がれると、この製品の売りである「薄いのに暖かい」メリットが損なわれます。
finetrack – ポリゴンネストグリーン
寝袋そのもの
濡れても保温性が落ちにくいシート状立体保温素材「ファインポリゴン」を何層にも重ねた構造になっています。
昔は、内側が「保温性に優れた羽毛」、外側が「濡れに強い化繊」という凝った構造の寝袋が販売されていました。最近とんと見かけません。ならば自前で、羽毛の寝袋に化繊の寝袋をかぶせれば良い。
- どうせ余分な重量を運ぶなら、化繊の寝袋のほうが保温力を大いに高めてくれる。
- 特に雪山では寝袋が水滴で直接濡れる場面は少なく、あまり防水性が高くなくて良い。
- 防水透湿メンブレンがなければ、そもそも結露しにくい。
という発想です。
HILLEBERG – ビバノラック
究極のマニアック製品
こうした超変形合体ギミックはすこぶる男心をくすぐります。
ゆったりサイズで、野外でビビィ風に使えるかと思えば、下半身をたくしあげて背中のザックごとポンチョ風にかぶって歩くことができます。テントや雪洞のなかでシュラフカバーとして使う場合、凍らせたくない水や登山靴、手元から離したくない装備を内部に取り込んでも窮屈になりません。
いろいろ応用が利くと重宝するか、いずれも中途半端と切り捨てるか、ユーザーの登山哲学が問われます。
SEA TO SUMMIT – サーモライトリアクター
汎用性が高いシュラフライナー
シュラフカバーと寝袋のあいだにシュラフライナー(本来は寝袋の中に入れる)をはさむと結露が発生しにくく、寝袋に濡れ戻りしにくいです。シュラフライナー自体は極薄なので、少しくらい濡れても乾かしやすい。
個人的なシュラフカバー遍歴
シュラフカバーなんて知らない
遠い昔、私が在籍したワンダーフォーゲル部でシュラフカバーを使っている者はいませんでした。 豪雨で家型テントのグランドシートに泥の河ができようが、暴風で潰されて掛け布団になろうが、化繊のシュラフを濡らしながらグーグー眠りました。
ツェルトで代用
雪山単独行を志向し、部室にころがっていた山と渓谷のバックナンバーを読み漁るうち、シュラフカバーの必要性を痛感するようになりました。 「でもお金がないなぁ。ほう、ツェルトをシュラフカバー代わりに使う裏技があるのか」というわけで、地方の小さな山道具屋で小遣いをはたいてモンベルのU.L.ツェルトを購入しました。 しばらく試しましたが、いや~取り回しが悪い。寝袋にかぶせても隙間だらけで、はだけた生地がコンロの火に落ちて危なっかしい。
ブランド不明のシュラフカバー
結局、ちゃんとしたシュラフカバーを買いました。 いちばん愛着があるのは、ブランド不明(たぶん国産)のシュラフカバー。防水透湿素材は所謂なんちゃらテックスで、計画書には「エキスパート・テックス」と記載が残っています。ゴアテックスのシュラフカバーは高価で、なかなか手が出ませんでした。内側に縫い付けられた化繊のライナーが保温力を高め、結露を吸収・発散。背中側肩口のスリットから1mm厚くらいの銀シートが全身に挿入されており、マットレスがなくてもある程度断熱してくれました。 とうの昔に断捨離ずみ。写真の一枚さえなく、懐かしく思い出すのみです。
数世代をへて
現在はモンベルの「ブリーズドライテック サイドジップスリーピングバッグカバー」(廃番)に落ち着いています。
まとめ
テント泊の寝具として、寝袋、シュラフカバー、マットレスは三位一体です。
マットレスについては、こちらの記事をご参照ください。
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