雪山の稜線をテント泊縦走するとき大量の水を担いでいくわけにはいきません。雪を溶かして水を作ります。雪を溶かすには次の3点セットが必要です。
- バーナー(コンロ、ストーブ)
- 燃料(ガスカートリッジ、ホワイトガソリン等)
- クッカー(鍋)
大きなポリ袋に雪を詰めてテント内に取り込んでおき、シェラカップなどの小さなカップですくってクッカーに投入します。硬い雪なら手づかみでいけます。
大原則として、クッカーに雪だけを投入してはいけません。雪のかたまりはクッカーの底に対して接触面積が小さいため、バーナーの熱が伝わりにくく、クッカーが空焚き状態になる危険があります。
必ず種水(呼び水?)をクッカーの底に満たしたのちに雪を投入します。水の量をケチると、たちまち雪に吸い上げられて、やはり空焚きの危険があるので気をつけてください。
種水がない、もしくは乏しい場合は、できるだけ弱火でじわじわと雪を溶かして、クッカーの底に十分な種水を作るところから始めます。
燃料については、大人数で5泊も6泊もするような登山でないかぎり、取り扱いが簡単なガスカートリッジを選択する場面が多くなります。
雪山ではガスカートリッジの保温に気をつかいます。気化熱を奪われて容器が冷え、内部圧力が減るにつれて、火が衰えて、ついには立ち消えます。カートリッジを振るとシャカシャカ音がするので、まだ燃料が残っているはずなのに……。
仕方なく、バーナーヘッドを取り外して、カートリッジをふところに入れて温めたり、カートリッジの底をライターで炙ったり😱と、悪あがきしがちです。
通常、ガスカートリッジ型のバーナーには熱を還流して燃料の気化を促進する機構はありません。EPIの「フリーライトチャージャー2」のように熱を還流するアクセサリを導入するのが解決策のひとつです。
すれっからしの山屋なら、カートリッジをお湯にひたす荒っぽい方法を提唱するでしょう。メーカーが厳禁とする方法です。筆者も警戒して避けてきました。が、思い切って試した結果、「特別な道具を必要とせず、実はもっとも安全な方法ではないか」と、考えを改めるにいたりました。
お湯にひたすといっても、沸騰した湯である必要はありません。ぬるま湯を2~3㎜、広口の容器にはって、カートリッジの底をひたすだけです。すると、キンキンに冷えていたカートリッジがシュコォォォと音を立てて、ほぐれていく?のがわかります。火の勢いが復活します。
湯たんぽ代わりにプラティパスに貯めておいた湯ならいつでも使えるでしょう。人肌に冷めていても問題なし。なんなら冷えた水でもOK。液体の形状をたもっているなら0℃以上なので、マイナスまで冷えたガスカートリッジを温める効果があります。
先の「フリーライトチャージャー2」はオーバーヒートに注意する必要があります。
使用時は熱くなるため、本体及び熱伝導パイプには触れないでください。高温になると「EPIgas」のロゴが「高温注意」の文字に変わるので、それを目安にしてください。
一方、このぬるま湯ブースター方式は絶対にオーバーヒートしない(冷えていく)ので、むしろ安全だと言えないでしょうか。
ぬるま湯はカートリッジに熱を奪われて急速に冷えていき、やがて凍ります。凍りついて、カートリッジとクッカーが固着すると厄介なので、早めに外します。
ぬるま湯をはる容器はなんでもよいですが、アルミやチタンなど金属製のほうが使い回しがききます。凍りかけた水をバーナーの火で温め直して、再度カートリッジの底をひたすという無限ループが可能です。
エバニューの「Ti 570FD Cup」(写真のもの)ならレギュラーカートリッジがぴったり入ります。ぴったり過ぎて、しかも深いので、凍り付くと外しにくいのが難点か。「Ti U.L. Deep pot 900」のフタ(フライパン)ならガスカートリッジの周囲に2~3mmの隙間ができます。おそらく最軽量の流用可能アイテムです。
ぬるま湯ブースター方式なら、寒冷地用のガスカートリッジではなく、いわゆる「ノーマル缶」でも大丈夫。無雪期に使い残したガスカートリッジを翌年に持ち越すことなく、雪山シーズンのはじめに使い切ってしまいましょう。
雪を溶かしていると、クッカーの外側に水滴が発生します。冷たいコップに水滴がつくのと同じ現象です。バーナーの火のほうに垂れてくると熱効率を悪化させるので、タオル等で拭き取ります。
筆者は手にはめた軍手(綿100%)で拭き取ります。テント内で炊事するときは「左手に軍手、右手は素手」が基本。とっさに熱いものを掴む必要が生じたときにも対応しやすいです。多少の濡れは体温で乾きます。手から外して、鍋敷きにすることもあります。もちろん本来の用途である手袋として使えます。化繊や毛の手袋ほど暖かくありませんが、無いよりマシ。オールシーズン活躍する必須オブ必須のアイテムだと言えるでしょう。
雪山テント泊(赤岳鉱泉)にて、プラティパス湯タンポで濡れ物を乾かせるか試しました。湿った軍手を上に置くと、トイレに行ってくるあいだに乾いていました。お湯は人肌プラスアルファ程度の温度でも、直付けなら「着干し」より温度が高い。火で炙るより効率が良さそうです。 pic.twitter.com/iut0pDQ0w9
— 神山オンライン (@kamiyama_online) January 28, 2020
クッカーの形状については、いわゆる角型クッカーがおすすめです。バックパックに詰める際にデッドスペースが生じにくく、プラティパスのような口が小さいボトルに水を注ぎやすいです。
EPIのサイトには、平出和也さんと谷口けいさんがヒマラヤで角型クッカーを使う写真が掲載されています。
と言いながら、筆者は最近、雪山でもジェットボイルを起用することが多いです。何と言っても熱効率が良いので、携行するガスカートリッジを減らせます。装備を極力軽量化したい登山ではジェットボイルに行き着きます。ネオプレンゴムカバーにおおわれているので、水滴がつく現象に悩まされずにすみます。
ジェットボイルは水を細く注ぐのが苦手です。溶かした水をプラティパスに移すときは特製の漏斗(じょうご、ろうと、ファンネル=funnel)を利用すると便利です。
プラティパスに湯をためて、就寝時の湯たんぽにするのは、よく知られた雪山のノウハウです。
行動中には保温ボトルにレモンティーやお湯を詰めて持ち運びますが、ペットボトルに詰めてジャケットのポケットに収納すれば凍らせずにすむという説もあります。
雪山でどんなガスカートリッジを選んだらよいのか考察してみたのがこちら。
今回紹介した「ぬるま湯ブースター」を利用すれば、ガスカートリッジにあまりこだわる必要はなく、素直にバーナーと同じメーカーのものを選べばよい、という結論になります。
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