
風雪の甲斐駒ヶ岳から下山しました。
アイゼンをはずして、ザックに収納しようとしたとき、アイゼンケースを紛失したことに気づきました。たぶん五合目で、爆風で吹き飛ばされたか、雪に埋もれたか、どちらかです。

30年来の相棒との別れはあっけないものでした。
さて、どうしたものか。いつもザックのいちばん上に詰める薄い銀マットにくるむことにしました。100円ショップで買った安物なので、すこしくらい痛んでも気になりません。左右のアイゼンの刃を向かい合わせにして重ねれば、貫通することはありません。前刃は水平方向に突き出しますが、よほど荷重がかからなければ大丈夫。多少の雪濡れは銀マットのウレタンが吸ってくれるので好都合です。
「思わぬ軽量化ができたわい」などと強がってみたものの、どこか侘しい。新聞紙で包まれた名刀のような居心地の悪さを感じるのです。やはり、専用の「鞘(さや)」が必要だ。
そう決意して登山用品店へ向かった私を待っていたのは、意外にも深い「収納文化の対立」でした。
欧米と日本、「アイゼン収納」における文化摩擦
~なぜ海外ブランドは「メッシュ」で、日本は「完全密封」なのか~
売り場に並ぶきらびやかな海外ブランドのケースたち。欧米の雄は、判で押したように「メッシュ素材」を採用しています。
「濡れたまま入れても乾くように」 「中身が見えるように」
合理的な理由です。しかし、ここに日本の雪山事情との致命的なズレがあります。
欧米のアルパインクライマーは、基本的に車で登山口までアプローチします。空気は乾燥し、雪はサラサラ。下山後はトランクに放り込めばいい。だから「通気性」が正義となります。
対して、我々日本の登山者はどうでしょうか。 湿り気を帯びた重たい日本の雪。下山手段はバスや電車が少なくない。 想像してみてください。帰りの特急「あずさ」の車内で、網棚に上げたザックから、アイゼンに付着した泥水がポタポタと垂れてくる地獄絵図を。
日本では「乾燥」よりも「防御」と「密封」が優先されます。ザックの中身を、そして公共の場での社会的な死を守るために、私たちは頑丈なナイロンの袋を求めるのです。
アイゼンケースの「素材進化論」
~ゴム引きの重厚感から、X-PACの軽快さへ~
アイゼンケースの歴史は、鋭利な爪との戦いの歴史でもあります。
- 第一世代:重戦車時代 かつてのマジックマウンテンやイスカのケースは、まるでトラックの幌のような厚手のナイロンやPVC加工が施されていました。「絶対に穴など開けさせぬ」という鉄の意志を感じますが、その代償として鉛のように重い。重力と仲良しすぎました。
- 第二世代:軽量化の模索 UL(ウルトラライト)の波が押し寄せると、タイベックシートや、果ては郵便封筒で代用する猛者も現れました。「破れたらガムテで貼ればいい」というパンクな精神です。しかし、命を預けるギアの相棒としては少々心もとない。
- 第三世代:X-PACという福音 そして現在。X-PACやダイニーマといった高機能素材の登場により、「軽くて、水を含まず、突き刺しに強い」という夢のようなケースが実現しました。ただ、お値段だけが可愛くないのが玉に瑕です。
伏兵:カモシカスポーツのアイゼンケース
2018年3月、カモシカスポーツ本店(高田馬場)に立ち寄ったところ、こんなオリジナル商品を見つけました。
前面

| 素材: | 210Dナイロン |
|---|---|
| サイズ: | マチ幅×横幅×長さ 9cm×14.5cm×28cm |
カラーはネイビー(青)、バーガンディー(赤)、グリーン(緑)から選択できます。ネイビーを購入しました。
背面

6段のデイジーチェーン付きです。
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サイズ感

グリベルのアイゼンと並べてみました。グリベルのアイゼンにはジョイント部にかぶせるアコーディオン状のアンチボット(雪除け)が付属します。それを装着すると短くたたむことができず、このケースには入りきらないでしょう。
開口部

重量

重量は108gと軽量です。
ザックのサイドポケットとして

デイジーチェーンが同じ面に2列あるため、ザックのサイドコンプレッションストラップを通せば安定して装着でき、外観はほぼサイドポケットとなります。
ただし、色味が合うかどうかが問題。カモシカスポーツさん、ぜひグレイやブラックを商品化してください。
後継商品
本製品は販売終了となりました。
その後、軽量で強度が高いX-PACを使用したアイゼンケースが登場しました。
モンベルのバックパック用のオプション「サイドポケット」がアイゼンケースにもなり、汎用のスタッフバッグにもなるという記事はこちらです。








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