
雪山用グローブとして「防寒テムレス」を利用する登山者が増えています。
もともとは寒冷地の現場作業用に開発されたアイテムですが、その優れた性能とコストパフォーマンスが雪山の達人たちを惹き付けました。
一部のマニアにとどまらず、プロフェッショナルな山岳救助隊員が利用する場面も見受けられます。

雪山で遭難者を抱きかかえて、ヘリコプターに吊り上げる手に燦然と輝く青い防寒テムレス。

雪崩救助でスコップをふるう手に防寒テムレス。

雪壁をダブルアックスで登るクライマーの手に防寒テムレス。
防寒テムレス 進化の歴史

マニア御用達(~2018年)
ひと頃はSNSの写真やYoutube動画で、登山者が青くて光沢のあるグローブをはめているのに気づくと「道具マニア発見! 俺の目はゴマかせないぜ」と思ったものですが、今ではとくに珍しくありません。雪山のトレースですれちがったパーティーのなかに一双や二双、「防寒テムレス」がまぎれこんでいても空気のような存在になりつつあります。初心者が「その手袋、何ですか?」と質問して、ベテランが「ふふ、これはね……」と自慢げに講釈する光景は減ったのではないでしょうか。
黒テムレス登場(2018年12月)

土木作業感あふれる外観に対して、誰もが「このロゴを消したい」「黒バージョンを出してほしい」と考えます。その声が製造元のショーワグローブに届き、2018年12月ついに「黒テムレス」が発売されました。

TEMRES 282-01
サイズは様子見のためかLLまでの展開でした。店頭に並ぶや売れ切れて再入荷待ち。ネットショッピングでは一時期、プレミア価格で取引きされていました。
アウトドアブランド「TEMRES」誕生(2019年9月)


TEMRES 01winter
前年に登場した黒い防寒テムレスが「TEMRES 01winter」としてリニューアルしました。
TEMRES 02winter
バックルとドローコードを備えたカフ付きモデルが登場。私は店頭販売初日(9月13日)に入手しました。

黒テムレス、ボアなし登場(2020年9月)

TEMRES 03advance
カフ付き黒テムレスにボアなしタイプが登場しました。好みのインナーグローブで使用できます。
TEMRES 04advance
カフなしもあり。(TEMRES 03advanceと同じタイミングで登場したかどうか不明)
トリガーフィンガー化(2025年10月)

2025年10月の秋冬シーズンにトリガーフィンガー化した商品が登場しました。
2022年に予想(願望)して、やっと実現しました。
テムレスの04シリーズ(ボアなし)も好調ですね。自分は3Lでも指の長さが足りないのがアレですが…。来季はミトンタイプが出ると予想しています。 pic.twitter.com/x59rtfYwFw
— 神山オンライン (@kamiyama_online) February 14, 2022
防寒テムレスの特徴

防寒テムレスの特徴を箇条書き風に表現するとこうなります。
- 濡れない。
- 保水しない。
- 蒸れにくい。
- 滑りにくい。
- 極低温でも柔らかい。
- 軽い。
- 安価。
- 裏ボアで温かい。
- 指先感覚良好。
防寒テムレス 開封の儀
パッケージ

防寒テムレスの外観とサイズ感

L, LL, 3Lサイズをまとめ買いしました。サイズによって手首のラインの色がちがいます。
- Lサイズ……素手にはめる
- LLサイズ……薄手のインナー手袋と併用する
- 3Lサイズ……厚手のインナー手袋と併用する
と想定したのですが、実物はなんと3Lサイズを素手にはめてちょうど良いくらい……というか、3Lサイズでも指の長さが足りない。指の股に「水かき」ができる。インナーグローブをするのは厳しい。素手専用としましょう。

私の中指の長さは9cmくらいです。私より手が大きい人なんてゴマンといるはずなので、もっと大きいサイズを製造してほしい。そもそもサイズ設定が古いのではないでしょうか(ショーワグローブの創業は1954年)。
| サイズ | カラー | 製品寸法 | |||
|---|---|---|---|---|---|
| 本体 | 裾 | 全長 | 手のひら まわり | 中指長さ | |
| M | ブルー | レッド | 27.0 cm | 21.5 cm | 7.8 cm |
| L | ブルー | グリーン | 27.5 cm | 24.5 cm | 7.8 cm |
| LL | ブルー | ブラウン | 28.0 cm | 26.5 cm | 8.3 cm |
| 3L | ブルー | レッド | 30.0 cm | 28.0 cm | 9.0 cm |
※ ショーワグローブのホームページより引用
防寒テムレス 使用感

防寒テムレスの防水性・防風性

防水性、防風性は完璧です。湿雪を掴んでも保水しません。風はまったく通しません。
防寒テムレスの保温性

指先のボアは決して厚くありません。が、防水性・防風性が完璧なので、見た目以上に暖かいです。表面が保水しないので、グローブ自体が冷却されにくい。
私は、気温マイナス10℃、風速10mまではこれでいけます。
防寒テムレスの蒸れ感
5~6時間の行動ではまったく気になりませんでした。私はあまり手汗をかかないほうです。
ただしゴアテックスみたいに透湿性が高いわけではありません。実験として、熱湯を入れたカップを内側に置いてみましたが、白い湯気が立ち上がることはありませんでした。過大な期待は禁物です。
防寒テムレスのグリップ力

ピッケルのリーシュに手首をスムーズに出し入れしにくいほど表面のグリップ力が強いです。
ザックを担いだりおろしたりする際、不意に着衣に触れると、まとわりついて煩わしいほどです。
防寒テムレスの指先のフィット感、操作性
内側のボアはシェルに接着(パンチング?)されており、無駄なたわみがないため、指先の動きを忠実に伝えてくれます。
コンパクトデジタルカメラの小さめのシャッターボタンを押す操作は問題なし。指先が太いので、近接した上下ボタンや十字ボタンを押す操作はある程度の慣れ(見た目とどれくらいズラせばよいか学習)が必要ですが、可能でした。
防寒テムレスの匂い
いわゆる「ゴム臭い」です。素材はゴムではなく、ポリウレタンなんですけどね。寒冷地では匂いが発散しにくいので気になりませんが、自宅で収納棚をあけた瞬間などは気になります。
防寒テムレスでスマホをタッチ操作できるか

特筆すべきは、テムレスにはわずかながら導電性があることです。ボアなしの ジャージテムレスとテムレス(後述)はスマホをタッチ操作可能です。強めに押して、指先とテムレスを密着させるのがコツです。なにぶん指先が太いので、細かいリンクなどを正確にクリックするのは困難ですが、大きなボタンであればクリックできます。フリック、ピンチイン、ピンチアウトもできます。ただし、本人の体質や周囲の環境、スマホの機種によって感度が違うため、安定した操作は難しいかもしれません。
残念ながら、防寒テムレスはボアで隔てられているので、まったくもってタッチ操作できません。 ただし防寒テムレスを長時間着用して、ボアが湿っているとき限定ではありますが、導電性が高まるらしく、タッチ操作ができることがありました。YAMAPの地図をフリックしたり拡大縮小したりするには十分です。
防寒テムレスをビレイで使用するのは要注意

八ヶ岳山荘(赤岳鉱泉や行者小屋の登山口)で、登山用の食料やガスカートリッジといっしょに防寒テムレスが販売されているのを見かけました。雪山での浸透ぶりがうかがえます。 ところが、ほかでもない赤岳鉱泉のアイスキャンディでは、テムレスグローブを用いたビレイ行為が禁止されています。 ☞ 鉱泉日誌 – 「今冬からアイスキャンディでのテムレスグローブを用いたビレイ行為を禁止します。」
この冬からアイスキャンディでビレイを行う際のテムレスグローブ使用を禁止します! テムレスグローブを使用してのビレイを行う危険性については、
- 滑り止めの為に樹脂をコーティングしていて、ビレイデバイス内に指を引き込まれる可能性があること。
- 高い滑り止め効果によって、円滑なロープ操作を行うことが困難であること。
SHOWAが発表するテムレスの使用上注意には、「回転体を伴う作業には使用しないでください。手が巻き込まれるおそれがあります。」と記載があります。 ビレイデバイスにロープが入ることも同様に解釈すべきと考えます。
これらはあくまでもビレイヤー(安全確保者)の話です。クライマー(登攀者)は使用してもかまわないと付記されています。
ビレイを行う方のテムレスグローブ使用は禁止しますが、登攀する方は使用していただいても構いません。
テムレスのグリップ性能は、アイスクライミング競技ではクライマーの強い味方になるでしょう。 では、本番の登攀では? クライマーとビレイヤーはその役割を交代しながら登攀することが多い。そのたびに登山用のグローブと防寒テムレスを交換するなんてやっていられません。各人が道具の長所と短所をわきまえたうえで使いこなすしかないでしょう。
防寒テムレスの改造
防寒テムレスのロゴを消す

防寒テムレスの甲にでーんと鎮座するロゴ。いかにもブルーカラーな色合いとあいまって、ドカジャンを登山で着ているようなダサダサな雰囲気を発散します。このロゴを消したくなる人は多いでしょう。女性がマニキュアを剥がす「除光液」を塗ると良いとの情報があります。しかし、そんなものを持ち合わせない男性はどうしたらよいでしょうか。除光液を決死の覚悟で入手する必要はありません。「シール剥がし剤」で間に合います。
防寒テムレスを100均の腕カバーでロングカフ化する

防寒テムレスの弱点は、手首が大きく開いているところです。ハードユーザーの皆さんは、手首に布地を縫い付けたり、ベルクロテープやドローコードで絞れるようにされています。
もっとお手軽な方法として、お役所で事務員さんがはめているような腕カバーをかぶせれば、深雪のラッセルにだって対応できます。100均のペラペラの品でも十分に役に立ちます。

このまま使い続けることも可能ですが、手首側を防寒テムレスに縫い付ければ万全です。
ジャージテムレスと、普通のテムレスも購入してみた
内側にボアがないタイプのテムレスも購入してみました。
ジャージテムレスの外観

手首を伸縮性のあるジャージで絞ることができます。手首をジャケットの袖に入れやすい。適当なインナー手袋と併用すれば、防寒テムレスより温かく過ごせるでしょう。
テムレスの外観

手首は切りっぱなしです。無雪期の雨天時に防水手袋として使えそうです。岩稜ではグリップ力の高さがモノを言うでしょう。
肌触り
どちらも内側に細かい畝のような加工がなされているため、素手にはめても汗で貼りつく感触はありません。
サイズ感
どちらも最大サイズはLLです。サイズ感は防寒テムレスと同じでした。私にはLLサイズでも小さく感じます。インナーグローブと組み合わせて使えないかと思って購入したのですが、無駄になりました。
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