質実剛健ブランドの矜持、アライテント「SLドーム」レビュー

2023年6月20日、アライテント社(製品ブランド名RIPEN)がダブルウォールで1kgを切る超軽量テント「SLドーム」の販売を開始しました。

製品名の由来はおそらく「Super Light」。質実剛健なモノづくりを旨とする同社が「Ultra Light」まで振り切らない、山岳用テントの新たなスタンダードを提示しました。

床面積は長辺210cm×短辺120cmで2人用をうたい、ゆったり1人用として利用できます。単独行を愛好するけれど痩せ我慢は嫌だという登山者のわがままに答えてくれます。

仕様
重量(乾燥時平均重量)
980g(本体+フライシート+フレーム)
<乾燥時平均重量>
専用アンダーシート重量200g(210×120cm)
サイズ
間口210cm 奥行120cm 高さ95cm 前室張出 38cm
収納時 27X21X9cm(フレーム38cm)
<付属のコンプレッションベルトを使用するとさらに小さくなります>
カラー
本体:クリーム
フライシート:ライトグレー
グランドシート:ブラウングレー
専用アンダーシート:チャコールグレー
素材
本体:12dnリップストップナイロン
フライシート:15dnリップストップナイロンPUコーティング
グランドシート:30dnリップストップナイロンPUコーティング
専用アンダーシート:40dnナイロンタフタPUコーティング
フレーム:NFL8.7 フェザーライト(DAC社製)

開封の儀

同梱物

いちばん大きい袋にストラップで外付けされているのはアンダーシートです。

価格タグ

本体、フライシート、ペグ

いちばん大きい収納袋のなかにテント本体、フライシート、ペグが入っていました。

フレーム

収納袋の口は巾着式で、コードストッパーは付いていません。

フレームには「DAC Featherlite NFL GREEN」と印刷されています。アライテントのホームページには仕様について記載が見当たりません。「2022/2023 RIPEN」カタログには「NFL8.7 フェザーライト(DAC社製)」と記載されています。

スペアスリーブ(9g)が1本付属します。

フレームを折りたたんだときの長さ(仕舞寸法)は38cmとされています。実測は39cm。ちがう理由は不明です。

ペグ

ペグの収納袋は初めて見るタイプで、巾着式ではありません。出し入れ口がフラップになっています。

「隙間から出し入れするのが面倒くさい。コストカットのために使い勝手を犠牲にしたのか」と一瞬思いました。が、フラップを完全に裏返してやると、むしろ出し入れしやすいではありませんか。

巾着式だと、絞った口の隙間からペグが飛び出すことがあります。フラップ式ならそんな心配はありません。目からウロコでした。

ペグはアライテントオリジナル?の「スティックペグ」(重量10g)が12本付属しています。

ヘッド部を叩いて打ち込みやすく、ガイラインやストラップを引っかける「返し」が比較的深く、角ばった断面が地面に喰いつきやすそうな形状です。

正直、「アライテントがこんな現代風モダンな洗練されたペグを作ったのか」(失礼!)と感心しました。

シームコート

アライテントのオリジナル目止め剤「Seam Coat」が付属。テントの四隅の縫い目(外側)を処理するように取扱説明書に図解つきで記載されています。

重量の詳細

アイテム 本体の重量 収納袋の重量
テント本体(張り綱を含む) 429g 17g
フライシート 281g
フレーム 287g 9g
アンダーシート 188g
ペグ 120g 6g
合計 1,337g

本製品がうたう「980g」は、本体+フライシート+フレームの重量です。実測値の合計は997gとなりました。これは「張り綱+自在」×4セットを含んでいるからです。

アンダーシートの重量は公称200g。実測は収納袋込みで188gでした。

なんだかんだで収納袋を含む全重量は1,337gです。

設営

外観

八ヶ岳の赤岳鉱泉に出かけて試し張りしました。落ち着いたアースカラーなので、中にいると心安らぎ、虫が寄ってきにくいというメリットがあります。

逆光気味だと本体の透け具合がきわだちます。半円の開口部は右寄りにオフセットされています。

近寄るとこんな感じ。赤いシュラフや、プラティパスやレジ袋が透けて見えます。

フライシートの向かって右側を絞ってまとめておくためのタッセル(ループとトグル)を備えています。

フライシートの裾に製品名のタグが縫い付けられて存在を主張しています。

ファスナーのスライダー(ツマミ)を引き上げる際、生地に無理な力がかからないよう指でつまむためのループが端に縫い付けられています。

ファスナーは信頼のYKK製。

フライシートのファスナーも同様。残念ながらダブルファスナーにはなっていないので、上部だけ開いて景色や空模様をうかがう使い方はできません。

内観

テントの内側から開口部側を見るとこんな感じ。山の稜線が透けて見えます。

下部の小さな半円形を開放するとメッシュのベンチレーションとなっています。この小ささは、ファスナーの長さを最小限に切り詰めて軽量化するための苦肉の策だと思われます。本製品のなかで唯一、痩せ我慢の感覚をおぼえる設計です。

フライシートのファスナーを閉めると、登山靴を余裕綽々で置ける広さの前室ができます。

天井には黒いユーティリティーループが天辺に1箇所、フレーム沿いに4箇所縫い付けられています。軽量のLEDランタンやギアハンモック(別売)を装着可能です。

出入口と反対側の壁にポケットあり。

四隅を内側から見たところ。暗い生地の外周に沿う縫い目には薄っすらと目止め処理がされています。

その他

出入口と反対側にある吹き流し式ベンチレーション。テント本体側のベンチレーションはメッシュとの二重構造になっています。コードストッパーは付いていません。

本体とフライシートは樹脂製のバックルで連結し、張り具合を調節できます。

アンダーシート四隅のループをこうしてフレームの外側にかぶせると、本体との一体感が増します。

アンダーシート四隅のループをフレームの内側にかぶせる方法もありそうです。が、こうすると、撤収時によくやる「本体を逆さまに持ち上げて、内部に入り込んだ泥や砂をバサバサと振り落とす」ルーチンで、アンダーシートがいっしょに持ち上がってしまいます。せっかくアンダーシートで分離した水分や汚れがテント本体に降りかかるおそれがあります。

張り綱はテント本体側に接続されており、フライシートのスリーブから引き出す方式です。

本体とフライシートを連結するために、別途ベルクロテープ等で留める手間(ダンロップの吊り下げ式のような)がいりません。

ダブルウォールテントの宿命として、テント本体とフライシートとのあいだに十分な隙間ができるように、フライシートの四辺(うち一辺は前室)をペグダウンする必要があります。黒と白のまだらの紐には伸縮性があります。できるだけ本体から遠い位置にペグダウンします。

12箇所をペグダウンした立ち姿を別の角度から眺めてみました。

一夜を過ごす

個室空間に寝そべったまま、雄大な景色をほしいままにするのはテント泊の醍醐味です。

ひとりだと、シュラフに寝そべったわきに適当にモノをほったらかしても十分な余裕があります。火器ストーブを焚いたとき壁に燃え移らないようビクビクしなくてすみます。

寝静まったテント場で、ランタン(ほんとはヘッドランプ)の灯りに浮かび上がる光景を眺めて悦に入りました。

撤収

夜中、雨が降りました。特に長辺側の上部はフライシートが垂れ下がり、テント本体と密着しがちです。四辺をもっと強く張るべきだったかもしれません。

フライシートの外側にはびっしりと水滴が付いています。

アンダーシートのうえに水溜りができていました。アンダーシートはテント本体の床からはみ出さないほうが良い。かと言って、テント本体の床が地面に接触すると汚れる。加減が難しいところです。床の防水性が高いうちは、この水溜りが浸水することはありません。

フライシートの宿命で、ファスナーを開けて垂れ下がった瞬間に地面の泥汚れが付着します。

撤収しようとフライシートを引き剥がしたとき、フライシートの泥汚れがテント本体に滴り落ちました。引き剥がす前にフライシートをバサバサ振って、できるだけ水滴を落とすべきでした。

がっかりしながらティッシュペーパーで泥汚れを吸い取りました。床はウレタンコーティングされているので、拭き取りやすいです。

本体は通気性がある素材なので、いたずらに触ると泥汚れが広がったり、繊維の奥に入り込むおそれがあります。帰宅して十分に乾燥させたのち、ブラシで掃き落とすのが得策です。

ペグも泥にまみれます。互いにこすり合わせて、こそぎ落とします。残った泥は気にせず収納袋に突っ込みます。帰宅したら、ペグも袋も丸洗いすればOKです。

アンダーシートの地面側は全面びっしりと湿った砂や泥がこびりついており、ちょっとやそっとでは払い落とせません。収納袋に隔離して、帰宅後にジャブジャブ洗うしかありません。

お手入れ

帰宅後、バルコニーでしっかり乾燥させました。

特に四隅のバックルまわりに泥汚れが付着していました。ブラシで丹念にこそぎ落しました。

テント本体とフライシートを取り込んでみると、いったいどこが汚れていたのか判別できなくなっていました。

水分が蒸発したあとには細かいサラサラの土埃しか残らず、雲散霧消?したようです。気休めにバサバサ振って、見えない土埃を払い落としました。生地の撥水性(≒防汚性)が高いうちは、多少の泥汚れは気にせずにすみそうです。

アンダーシートは、浴室でシャワーの最強の噴流を当てながら、スポンジで泥や砂をこすり落とし、バルコニーで干しました。

まとめ(総合評価)

個人的にはシングルウォールテント推しファンです。

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アライテントの「SLドーム」は、もう一度ダブルウォールに立ち帰る気にさせるほど画期的な製品です。

長所

こうした超軽量テントは通常、居住空間を極端に切り詰めて幅が90cmくらいしかなく窮屈だったり、床の生地が極端に薄くてアンダーシートなしでは実用に耐えなかったりします。

「SLドーム」は2人用の広さを確保しながら980gという軽さを実現し、その一方で床の厚さは「雪の上ならアンダーシートなしで安心して使える30デニール」を堅持したところに質実剛健ブランドの矜持がうかがえます。

短所

何と言っても生地の薄さが際立っています。うっかり尖ったモノと接触すると裂けやすいはず。木の枝が折れて降ってくるような場所には設営しないことをおすすめします。

本文でも言及したとおり、開口部側のベンチレーション(メッシュ)の面積が狭いことは、明確な痩せ我慢ポイントです。夏に森林限界以下で使うことが多い人は注意する必要があります。

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