ワンゲル野郎がゆく~表銀座ゴールデン【燕岳編】

前の記事から続きます。

ワンゲル野郎がゆく~表銀座ゴールデン【入山編】
我がワンダーフォーゲル部では、表銀座~槍コースを「ゴールデン」と呼んでいました。途中の峰を別コースから登ったことはありますが、つなげたことはありませんでした。 本格的な山登りを再開して初めて、テントをかついだ縦走に出かけました。 登山の醍醐...

欲張りな計画

天気さえもてば、表銀座から東鎌尾根を経由して槍ヶ岳に登り、大キレットを越えて西穂高まで、北アルプス南部の岩稜コースを一気に踏破しようという欲張りな計画です。体調不良や天候悪化の際にエスケープするルートは豊富です。食糧と燃料は五日分。60㍑のザックはずっしりと重い。昔、表銀座を歩いたときよりもザックが重い気がします。しかも、昔は入山初日の行程は燕山荘までだったのに、今回は大天井岳まで行こうというのです。計画を立てるのは自由だけれど、歩き抜く体力はあるの?

フリークライミングの経験を山歩きに活用する

フリークライミング、とりわけオーバーハングしたフェイスのクライミングの経験を山歩きに活用しました。クライミングでは速筋を使う瞬発的な動きを多く繰り出すと、前腕がすぐにパンプアップして、墜落してしまいます。指先がホールドを保持できなくなったら、即刻ゲームオーバーです。山歩きのように立ち止まって息を整え一歩一歩足を出していくという粘り勝ちがきかない世界です。そこで学んだ経験を今回、山歩きに活用しました。

「遅筋で登れ」作戦

太ももにぐっと力を入れる動きを回避して、ゆっくりゆっくり歩きます。大きな段差は、すこしでも小さな段差に分割できないか、ちょっとした石でも踏み段にできないか、周辺を素早く観察して利用します。どうしても大きく踏み越えるしかない場合には、膝を両手でポーンと押します。同時に、下の足で蹴ります。つまり両手両足で負荷を分散します。誰しも疲労すると自然とそういう動きになりますが、歩き始めから意識的にそうしました。

今回、トレッキングポールは携行しませんでした。後半の岩稜帯では使い道がなくて無駄な重量になるだけだと思いました。

コースタイムと同じくらいの速度でも気にしない

休憩を含めてコースタイムと同じくらいの速度で歩きました。ゆっくりゆっくり登ると、多くの登山者(子供連れのお父さんや、ご年配の夫婦)と抜きつ抜かれつになります。軽装の登山者には簡単に追い抜かれます。昔の自分は、軽装の登山者をぐいぐい追い抜いていくのがプライドのひとつでした。テント泊らしい登山者にも追い抜かれます。私より重そうなザックを見かけなかったことがせめてもの慰めです。

明日のために今日の屈辱に耐えるんだ、それが男だ。

宇宙戦艦ヤマトで沖田艦長がはなった名言です。今日の行程は長い。ちっぽけなプライドに固執すると、あとで自分が苦しむだけです。

2017年9月30日、合戦尾根から大天井岳まで

中房温泉


未明、トイレ脇は、深夜バスやマイカーで到着して、そのまま登り始めるらしい登山者の憩いの場となります。なんとなく、誰が先発するかお見合いするような雰囲気が生まれます。

第一ベンチ


第一ベンチでは懐かしい水場を見に行くつもりでしたが、まだまだ真っ暗だったのでやめておきました。

第二ベンチ


第二ベンチが近づいた頃、東の空が赤くなりました。


第二ベンチで一服。粉末ドリンクを水に溶かして飲みます。

合戦小屋


合戦小屋で温度計が5℃くらいをさしていました。

合戦沢の頭


合戦沢の頭付近より燕山荘。テント場の下にスパッと切れた岩壁に目が引き付けられます。クライミングを経験すると視点が変わります。

燕山荘


燕山荘より燕岳を望む。

燕山荘に着いた時にはかなり消耗していました。燕岳の往復を割愛しようかと思いました。

そんな弱気でどうする! 四半世紀以上ぶりにこの名峰に登頂するのだ。

燕岳


燕岳山頂より北燕岳方面。


ナナカマドの実と燕岳。


イルカ岩。


燕山荘に戻り、さあ、表銀座の稜線漫歩へ。漫歩と言いながら、そこそこ起伏があります。昔はスタスタ歩いた記憶しかないのですが、やはり体力不足だとひとつひとつの起伏が印象に残ります。稜線の西側に出ると、風が冷たい。フリースを着るか、ゴアテックスのジャケットを着るか迷いました。通気性を重視してフリースを選択しました。が、ゴアテックスのジャケットのほうがよかったようです。身頃はともかく、頭部の冷えが辛かった。フードが欲しい。それこそライトシェルパーカが最適だったかもしれません。

蛙岩


蛙岩付近の岩を縫って歩きます。


蛙岩の基部。夏道は左に巻きます。白ペンキで「冬ルート」と書かれています。積雪期にはこの岩の狭いトンネルをくぐるのが一番通過しやすいルートになります。自然の妙ですね。

大下りの頭


大下りの頭へ続く稜線。


大下りの頭にある道標。写真ではよく映っていませんが、支柱の左側面に「大下り」と書かれています。ガスに巻かれたら迷い込みそうな支尾根が分岐しています。そちらに進まないように要注意。


下りきったあたりで大下りの頭を振り返りました。


登り返していきます。途中にある岩場が「為右衛門吊岩」らしいのですが、気づきませんでした。


鉄兜をかぶった西欧の騎士のような岩を見かけました。


だいぶ登り返したところで大下りの頭を振り返りました。


しばらくなだらかな稜線が続きます。奥に大天井岳の登りが待ち構えています。

切通岩


切通岩のコル。小林喜作レリーフが岩に嵌めこまれています。


大天荘と大天井ヒュッテの分岐。ここからの最後の登りがきつかった。山が大きく見えます。昔来た時にはほとんど印象が残っていません。体力十分でスタスタ歩いていたからでしょう。


大天荘のテント場にゴアライトを設営してほっと一息。テントを設営する一挙手一投足がしんどかった。

大天井岳


大天荘からひと登りで大天井岳の山頂です。狭いので人が多いとこんな感じです。

山頂が狭いとは言っても急峻ではないので、すこし下りた場所でコーヒーを飲みました。テントで沸かしてきたお湯とスティックのインスタントコーヒーです。


日没の頃、テント場近くの小ピークに人が集まりました。槍ヶ岳方面の絶好の展望台です。


槍ヶ岳のスカイラインが浮かび上がります。

今日は疲れました。明日の行程も長い。果たして歩き通せるでしょうか。

天気予報を見ると、好天は明日までしか続かないようでした。

次の記事に続きます。

ワンゲル野郎がゆく~表銀座ゴールデン【槍ヶ岳編】
前の記事から続きます。 2017年10月1日、東鎌尾根から槍ヶ岳へ 大天荘のテント場 一晩寝ると、思ったより体力が回復しました。最悪、水俣乗越あたりからエスケープするなんて案が頭をよぎっていたので、少し安心しました。 大天荘のテント場から槍...

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