雪山テント泊のペグとスノーアンカー

雪山テント泊のペグとスノーアンカー(体験と考察)

雪山縦走であれば、ピッケル、ワカン、スノーシュー、トレッキングポール等、テントの固定に利用できる装備には事欠きません。しかし、テントを張りっぱなしにして、山頂を往復する場合、それらの装備を置き去りにするわけにはいきません。登頂に成功し、意気揚々と帰還したら、テントが吹き飛ばされていたなんて羽目に陥らないよう、別途しっかりしたペグを用意する必要があります。

日本式の定番

竹ペグ

重量は1本あたり約30g。価格は250円くらいで販売されています。オンラインショップでは見つかりませんでした。石井スポーツやカモシカスポーツなど実店舗でひっそりと販売されています。

日本の雪山で伝統的に使われてきました。竹ペグは金属製よりも凍り付きにくい。凍り付いたほうが安定するとも言えるため、評価が分かれる点です。教科書的には2本を十字に組んで雪に埋めます。1本でも真ん中あたりに張り綱をまわして、しっかり埋めれば十分な支持力を得られます。合わせ技として、麻紐を結んで雪面から出し、張り綱に連結する方法が知られています。もし雪がガチガチに凍って回収不能になったら、麻紐を切って残置します。「竹や麻紐ならいずれ自然に帰る」という発想ですが、雪解け後にキャンプ場の管理者が回収し処理しなくてはなりません。自分が持ち込んだモノは自分で持ち帰るようにしましょう。

竹ペグのメリットは

  • 価格が安い。
  • 万が一残置する際に心が痛みにくい。

という2点に絞れそうです。

現在では軽量コンパクトで丈夫な金属製のペグやアンカーを容易に入手できるので、あえて竹ペグを選択するメリットは薄れたと言えます。

昔ながらの方法を安上がりに踏襲したい人は、代用品として割り箸を試すと良いでしょう。私も1980年代に割り箸を使った時期があります。もし使うのであれば竹製の粘りのあるモノがおすすめ。安価で軽い素材のモノは回収時にいとも簡単に折れてしまいます。

エキスパートオブジャパン「クロスペグ」

1個あたりの重量は17.5g。竹ペグを十字に組む伝統的な方法を簡便化し、軽量コンパクト化した製品です。エキスパートオブジャパンは他にも木製のワカンをジェラミルン素材に置き換えたり、ピッケルに取り付け可能なスコップを開発するなど、日本の雪山に向けた製品を作っています。

MSRの定番

海外メーカーの代表としてMSRの製品を取り上げます。

MSRの社名「Mountain Safety Research」には、「山での安全」に対する意識の向上を図る、という創業者の意図がこめられています。その初期製品はスノーアンカーだったとされています。(☞ MSR® STORY:51年間の歩み

深紅に統一された製品群は雪の中で目立ちやすく紛失しにくい。軽量コンパクトさと頑丈さを両立し、審美的にも機能的にも、あえて他メーカーの類似品を選ぶメリットは薄いと思わされます。

MSR「ブリザード ステイク」

日本の雪山でもよく見かける軽量かつ支持力が高い製品。1本あたりの重量は20g。真ん中あたりに張り綱を引っかけて、T字型にして雪に埋めます。締まった雪なら無雪期用のペグのように雪面に立てて刺す使い方ができます。汎用性が高い。いろいろなタイプのペグ、アンカーを組み合わせるとして、そのうち最低でも4本はコレにすることをおすすめします。(もちろん全部これでもOK!)

連結用のコードを現地でいちいち結ぶのは大変です。クローブヒッチ等、摩擦を利用した仮留めだと、左右にズレやすかったり、すっぽ抜けたりしないか心配です。私は輪にしたコードをペグの中央あたりの穴に通して、カウヒッチで留めています。

これをテント側のガイラインにカウヒッチで連結し、雪の中に埋めます。

MSR「タフステイク スノー/サンドステイク」

1本あたりの重量は40g。「ブリザードステイク」に対して重量(≒面積)は2倍ですが、価格は割安です。

付属のワイヤーとリングを面積の広い部分の穴に取り付けて支点とします。全体を埋めるのではなく、通常のペグのように立てて雪に刺せば支点が深く埋まります。ワイヤーの硬さが雪面を切り裂くため、事前に雪を掘らなくてもテントに向かって真っすぐ張ることができます。設置の簡便さと支持力を両立しています。

公式サイトの「標準的なテントステイクの約10倍の固定力」という説明は「M」(157g)を対象としているようです。

MSR「スノー/サンド テントアンカー」

1枚あたりの重量は10.3g。雪をくるみこんで雪に埋めると高い支持力を発揮します。無雪期に大きな石が転がっていないテント場で、小さい石をかき集めてアンカーとするような使い方も可能です。ひと手間かかりますが、融通無碍さでは随一です。

使用法の動画

実際に雪山テント泊で使う様子を「Access 2」の設営動画(24秒目付近)で見ることができます。テントのプロモーションであると同時に、MSRのステイク、アンカーのプロモーションとなっています。

ペグの埋め方の基本を「ブリザード ステイク」の設置方法に見ることができます。T字型の溝を掘って、横倒しにしたペグの真ん中に張り綱をかけます。テントが風で煽られると、ペグが横壁に押し付けられます。上方向には雪が薄いですが、横方向には雪が厚いので踏みこたえやすい仕組みです。

応用と代用

MSR「ミニグランドホグステイク」

1本あたりの重量は10g。無雪期用の超軽量ペグかと思いきや、雪山テント泊で役に立つことがあります。シーズン初めや人気のあるテント場では、雪が浅くすぐに凍った地面があらわれます。そんなときは「埋める」より「打ち込む」系のペグがモノを言います。全体が金属製でたわみがないためハンマーで打ち込みやすい。張り綱をループに通せば、脱落や紛失を防止できます。撤収時に引っこ抜くのも簡単です。

コング「アルパインピトン ワーティ」

1本あたりの重量は100g。国内の冬季アルパインクライミングを想定した支点で、「凍った草付きで威力」というキャッチフレーズが付いています。こいつを1本ザックに忍ばせておくと、ガチガチに凍った雪面でテントを吹き飛ばされない支点を作ることができます。ハンマーで打ち込み、回して引き抜きます(ハンマーイン・スクリューアウト)。

余談ですが、カラビナといっしょに握りしめて、短剣のように雪壁に突き刺し、ダブルアックスもどきにするという涙ぐましい応用が可能です。

イーストン「ゴールド24″ ペグ」

60cmもの長さがありますが、1本あたりの重量は30g。刺すだけでバチ効きする……かどうかは雪質によります。刺しやすいと言うことは抜けやすい。刺す場所を事前事後に踏み固めたほうが良いでしょう。雪が浅いと無用の長物(まさしく)となります。これだけ長いと、ハンマーの打撃力が先端に伝わりにくいため、凍った地面に打ち込むのは困難。雪に横倒しに埋めても、滑りが良いので安定しにくいです。

100均のトートバッグ

私が買ったモノは1袋の重量が20g。見栄えは悪いですが、支持力は優れています。そのへんの雪をバサバサと掻き入れて、持ち手に張り綱をかけます。

まとめ

この記事で紹介した製品を設置法で分類すると下の表のとおりです。

設置法 製品
埋める
  • 竹ペグ
  • エキスパートオブジャパン「クロスペグ」
  • MSR「ブリザード ステイク」
  • MSR「スノー/サンド テントアンカー」
  • 100均のトートバック
打ち込む
  • MSR「ミニグランドホグステイク」
  • コング「アルパインピトン ワーティ」
刺す
  • MSR「タフステイク スノー/サンドステイク」
  • イーストン「ゴールド24″ ペグ」

「埋める」系を中心として、「打ち込む」系、「刺す」系を組み合わせるとよいでしょう。

「打ち込む」系は一定水準の硬さが必要となるため他で代用がききません。MSR「ミニグランドホグステイク」×4本(合計40g)をザックに忍ばせておくと、オールシーズン心強いです。

雪山で使える独自の張り綱システムについてはこちらの記事をご参照ください。

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雪山で通用する様々な軽量テントについてはこちらの記事をご参照ください。

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