雪山におけるオーバーシューズの歴史とロングスパッツ(ゲイター)の立ち位置

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オーバーシューズの歴史

「革と脂」から「ゴムの要塞」へ

かつての重厚な革靴は、雪解け水を吸い、夜には氷の塊と化す欠陥を抱えていました。

その救世主として1970年代に現れたのが、「スーパーゲイター」やBerghaus(バーグハウス)の「Yeti(イエティ)」に代表されるオーバーシューズです。強力なゴムで靴を密閉し完全防水を実現しましたが、その装着は並大抵でない力と忍耐を要し、岳人たちを苦悶させました。

プラスチックの革命と、ネオプレンの功績

1980年代、水を吸わないKoflach(コフラック)などのプラスチックブーツが登場すると、中級山岳でのオーバーシューズの地位は揺らぎます。

しかし極地では、Forty Below(フォーティービロウ)が採用したネオプレン製カバーが、圧倒的な断熱性でその命脈を保ちました。「見た目は野暮ったいが、命は守る」——その分厚い姿は高所登山の守護神でした。

そして「融合」へ

21世紀、La Sportiva(スポルティバ)やSCARPA(スカルパ)の最新高所靴において、オーバーシューズは姿を消したかに見えます。しかし、それはゲイターが靴と一体化(融合)したに過ぎません。かつての「鎧」は、今や皮膚の一部となったのです。

ロングスパッツ(ゲイター)の立ち位置

ロングスパッツは、オーバーシューズが登場する遥か昔から存在し、そしてオーバーシューズが廃れた現代でも生き残っている「生きた化石」であり「現役の主役」です。

  • 〜1970年代: 革靴 + ロングスパッツ(靴は濡れるが、中への侵入は防ぐ)
  • 1980年代: 革靴 + オーバーシューズ(靴も濡らさない完全防御へ進化)
  • 現在: 冬靴(保温・防水完璧) + ロングスパッツ(靴が強くなったので、オーバーシューズは不要になり、再びスパッツに戻った)

つまり、オーバーシューズは「革靴の性能不足を補うための進化形態」でしたが、靴自体の性能が向上した現代では、「単なる雪の侵入防止」であるロングスパッツがあれば十分、という結論に回帰したのです。

日本国産のオーバーシューズ

靴を守るために靴を履く。

冷静に考えれば、これほど滑稽で、かつ愛おしい矛盾が他にあるでしょうか。

かつてオーバーシューズは、我々の足元における頼もしい官軍でした。

あれから幾星霜。防水透湿素材というハイテクな魔法が標準化され、重く、蒸れ、装着に手間取るオーバーシューズは、博物館のガラスケースへ――あるいは記憶の彼方へと――静かに退場しつつあります。

しかし、驚くべきことに、彼らはまだそこにいるのです。

まるで終戦を知らされないままジャングルに潜む老兵のように、ひっそりと、しかし確固たる質量を持って販売され続けています。

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