オープンハンドが強いクライマーはクリンプも強いって本当?

オープンハンドとクリンプ

オープンハンド

指を伸びし気味に持つのがオープンハンドです。

クリンプ

人差し指の第一関節を深く反らすように持つのがクリンプです。

オープンハンド(タンデュ)が強いクライマーはクリンプ(アーケ、カチ持ち)も強い」とよく言われます。

運動生理学やトレーニング理論の上ではそうなのかもしれませんが、実践の場ではしばしば「いや逆ではないか」と思える場面に出会います。

「オープンハンド(open hand)」と「クリンプ(crimp)」は英語の用語です。「タンデュ(tendu)」と「アーケ(arque)」はフランス語です。「カチ持ち」はもちろん日本語で、「カチ持ちする」ことを俗に「カチる」と言います。

スローパー核心の課題をカチ持ちしたら登れた

ジムのボルダー

ジムのボルダーでスローパー核心の課題に打ち込んでいました。どうしてもスローパーで吐き出されてしまい、次のホールドをとることができません。

同じ課題をやっていた女性が「カチ持ちしたほうが持てる」と言うので、スローパー面にある微細なシワをカチ持ちしたら、あっさり完登できました。

女性はなんでもかんでもカチ持ちで登る人が多いですが、そのほうが有利な場合もあるのですね。

外岩のボルダー

外岩のボルダーでも似た経験があります。外傾気味のカチをハーフクリンプで持つと、どうしてもそこで指が開いてしまう。思い切りクリンプで持つことを意識したとたんに登れました。

岩面の粗い結晶に指皮をひっかけて保持するような課題をトライしたとき、最初は保持できたのにだんだん保持できなくなってきます。指先が熱をもって汗ばみ、フリクションが悪くなったのかと考え、しばらく休んでからトライしてもダメです。どうやら最初は得意のオープンハンドないしはハーフクリンプで押さえ込めたけれど、だんだん疲れて押さえきれなくなったようです。これもクリンプに変えたとたんに保持できるようになり、完登につながりました。

これらの課題はもともとクリンプで持つのが正解だったのかもしれませんが、ハイレベルなボルダリングコンペでも同様の事例を発見できます。

ボルダリングジャパンカップ 2016 「準決勝」

53:22付近の楢崎智亜選手の登りをご覧ください。

最上部の青いハリボテのスローパー部分をカチ持ちしています。遠目にはスローパーにしか見えませんが、カチ持ちできるような窪みかシワがあるのでしょう。実況解説者がわざわざ「上部をカチで持っていますね」とコメントするくらいです。これをオープンハンドで持つとムーブを起こしたとたんに吐き出されてしまうでしょう。

BLoC 7th Rd.3 Quail エントリー&レギュラー男子決勝

2:32:20付近の竹内俊明選手の登りをご覧ください。

最上部の紫色のハリボテの壁際をカチ持ち
最上部の紫色のハリボテの壁際をカチ持ちしています。

凹面に親指をかけてピンチ持ち
他の選手は凹面に親指をかけてピンチ持ちしています。

このハリボテまで到達した選手の中で竹内選手だけが完登しました。クライミングジム「ロッキー」系列店で課題のセットを担当している方なので、このホールドの持ち方を知り尽くしていたのではないでしょうか。

「クリンプが強いクライマーはオープンハンドも強い」が正しいのではないか

オープンハンドを鍛えるほうが、指関節を故障しにくく、保持力全体を底上げするのに適しているという説には納得できます。しかし、クリンプ特有の指パワーはクリンプ特有のトレーニングでしか向上できないのも確かです。

東秀磯さんが「スポーツクライミング教本」で比較されています。

クリンプとオープンハンドのモーメント

指先から指の付け根までの距離が遠くなるほどモーメント(積率)が大きくなります。クリンプでは親指をかぶせてカバーできることを差し引いても、オープンハンドよりも強い保持力を要求されます。力だけでなく、腱鞘の強さも要求されます。

さらに、クリンプでは手首の角度が固定されて、オープンハンドのような自在な動きが制限されやすい。それを補うため、上腕や広背筋を駆使して引き付ける力が要求されます。

クリンプを鍛えるほうがクライミング特有の能力を効率よく伸ばすことができるのではないでしょうか。

クリンプが強いと、引き抜き方向に保持しやすくなる

難しいボルダー課題では、引き抜き方向に保持できると有利であると論じました。

クリンプが強ければ、当然ながら引き抜き方向の保持力が強くなります。湿度やフリクションなどのコンディションに左右されにくくなります。

結論

実践的には少なくともこう言えます。

「スローパーの壁際をカチれないか試せ」
「スローパーのシワをカチれないか試せ」

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