甲斐駒ヶ岳の黒戸尾根を登りはじめて30分くらい過ぎたとき、左の踵に何かまとわりつくような違和感をおぼえました。
「木っ端か石ころか、ソールに嵌まったかな」
足に目をやったところ、ガーーーン😱。ソールの踵部分が剥がれてますやん。
ついにきた、登山靴の突然破壊。経年劣化による加水分解です。

LOWAの「チェベダーレGT」。ミッドソールを覆う硬めの外殻に細かいヒビがはいっているのは気づいていました。ランドラバーも傷だらけで、柔軟性を失っている印象でした。ところが、アウトソールはまだまだパターンが残っています。初冬や残雪期にアイゼンを装着して歩く場面が多かったからです。
「ライトアルパインシューズにふさわしい長い岩稜をあと1回歩いて、ソールを減らしてから張り替えに出そう」
と目論んでいました。
我ながら、ソールの張替えを見極めるタイミングは適確でした。が、あと1回、と欲張る貧乏性のせいで、しっぺ返しをくらいました。
昔、あるレジェンドクライマーが、擦れきれたハーネスを装着してクライミングしていたとき、ハーネスが切れて墜死しました。新しいハーネスを注文して、それが届く前に起きた事故だったと伝えられています。その因果にしばらく思いを馳せました。
さて、手持ちのサイドリリースバックル式のストラップを巻き付けて応急処置しました。すこし歩いてみたところ、うん、悪くないじゃないか。
「もしかしたら今回の登山まではこの応急処置でしのげる……?」
そんな甘い考えをいだいた次の瞬間、右足のソールも剥がれました。左足よりも盛大に全体の4分の3以上が剥がれました。
「他に使えそうなストラップ類はあったっけ」
頭の中でバックパックの中身をスキャンしました。適当なモノが見つかりません。テントの張り綱を切って使えそうですが、甲斐駒ヶ岳山頂まであと高度差二千メートルを誤魔化しきれるとは思えません。
「仕方ない。下山だ。もっと上に行ってから壊れなくてよかった」
右足の剥がれたソールを引きずりながら登山口に引き返しました。
ソール剥がれ対策として、結束バンドの携行を推奨する記事を自分で書いておきながら、今回は備えを怠りました。
小淵沢駅で電車に乗ってから、サンダルに履き替えました。

今回はバックパックの大きさに余裕がないので、登山靴を収納できません。両足の靴紐を結び合わせて、おみやげ持ち(造語by自分)して持ち運びます。
右足のソールがぱっくり開いたままだとミットモナイので、スマホ用の赤いネックストラップを巻き付けました。
帰宅後、じっくりミッドソールを観察しました。
修理するとしたら、ポリウレタン製のミッドソール、ランドラバーを含めて全とっかえになるはずです。皮革製の本体はまだ大丈夫に見えますが、ゴアテックスブーティなど、見えない部分が痛んでいるかもしれません。
この靴を買ったのは2016年末。ついこの前の気分でいましたが、もう9年近いじゃありませんか。一般に言われる「5年を目途」をはるかに超えています。
「寿命だな」
そう自分に言い聞かせました。
神妙な顔をしていますが、なぜか嬉しそうです。
新しい靴を求めて、ネットの海に漕ぎ出しました。たどり着いた場所とは……!?
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