
登山靴のメンテナンスは、長く快適に履き続けるために欠かせない作業です。しかし、「毎回完璧にやるのは面倒……」というのが、多くの登山者の本音ではないでしょうか。
今回は、YouTubeチャンネル「バックカントリー穂高」の太田氏が紹介しているノウハウと、靴職人から受け継いだという興味深いエピソードをもとに、私自身が実践している究極にシンプルな「ものぐさメンテナンス術」をご紹介します。
現代の登山靴に「防水スプレー」しか勧められない理由

登山用品店で登山靴を購入すると、お手入れ用品として「防水スプレーだけ」を勧められることが少なくありません。これには、現代の登山靴ならではの事情があります。
昔の登山靴は、分厚い一枚革を使った堅牢な構造が主流でした。そのため、ワックスをしっかりと浸透させながら革を育てるようなメンテナンスが一般的でした。
一方、現在の登山靴は軽量化や機能性を重視し、薄い革や複数の素材を組み合わせた構造が主流になっています。そのため、昔と同じ感覚で大量のワックスを塗り込むと、革が必要以上に油分を吸収し、コシを失って型崩れの原因になることがあります。
お店としても、ユーザーが誤ったメンテナンスで靴を傷めるリスクを避けるため、まずは安全な「防水スプレーのみ」を案内することが多いのでしょう。
型崩れを防ぐプロの裏技は「水」

では、現代の登山靴を型崩れさせずに、レザーケアを行うにはどうすればよいのでしょうか。
太田氏が勧めているのが、ワックスやレザージェルを塗る前に、靴全体を水で濡らすという方法です。
乾いた革に直接塗るのではなく、あらかじめ適度な水分を含ませておくことで、少量のレザーケア用品でも薄く均一に伸ばしやすくなります。結果として、必要以上の油分を革に与えず、革本来の張りを保ちながら保護膜を作ることができます。
「たくさん塗る」のではなく、「必要な量を、薄く均一に伸ばす」。
そのための工夫が、「水を使う」というシンプルな発想なのです。
ルーツは近所の「靴職人」からの教え

実は、この「水を使って伸ばす」というメソッドは、太田氏が若い頃に出会った近所の靴職人――ご本人曰く「ピノキオのゼペット爺さんのようなおじいさん」――から教わった知恵が原点になっています。
靴の手入れについて尋ねたところ、その職人はこう教えてくれたそうです。
「少しタオルを湿らせて、革に水分を与えてからクリームを塗るんだよ。」
革にまず適度な水分を与え、そのあとで必要最小限の油分を補う――。人間の肌も、化粧水をつけてから乳液を塗るのと同じだと太田氏は語ります。
長年革と向き合ってきた職人ならではの知恵が、現代の登山靴にも応用されているというのは、とても興味深い話です。
実践!3点セットで完結する「ものぐさメンテナンス術」

この太田氏のノウハウと靴職人の知恵をヒントに、私は普段のメンテナンスをさらに簡略化しています。
用意するのは、
- 水道水
- コロニルなどのアクティブクリーナー
- レザーワックス
- ブラシ
だけです。
STEP1 帰宅したら、その日のうちに水洗い
登山から帰宅したら、できればその日のうちにソールやアッパーの泥を水で洗い流します。
泥汚れは乾燥すると落ちにくくなるだけでなく、カビや劣化の原因にもなります。ですから、ここだけは先延ばしにしません。
汚れがひどい場合は、靴だけでなくウェアやザックにも使えるアクティブクリーナーでリセットします。
STEP2 乾燥後、「カサカサ箇所」を探す
翌日、靴が乾いたら全体を眺めます。
アルパインルートや岩場を歩いた後は、つま先やコバ周辺などが擦れて白っぽく乾燥していることがあります。
まずは、そのようなダメージを受けた部分を確認します。
STEP3 水で濡らし、ピンポイントから全体へ伸ばす
ここからが、ゼペット爺さん流の応用です。
- まず靴全体を水道水で軽く濡らします。靴に水を直接かけてもよいし、ブラシを濡らして靴全体を撫でまわしてもよいです。いい加減です。
- 続いて、先ほど見つけた乾燥部分にだけレザーワックスを少量置きます。
- あとはブラシを使い、そのスポットを中心に靴全体へ薄く伸ばしていくだけです。
- ブラシを使うことで、レザーワックスを均一に伸ばせるだけでなく、ステッチや細かな凹凸にも自然に行き渡ります。
この方法なら、ダメージが大きい部分にはしっかりとケアを行いながら、状態の良い部分には水で薄まったごく薄い保護膜だけを与えることができます。靴全体に厚く塗り込む必要がなく、手間も少なく済みます。
次に山へ出かける前日、ないしは前々日に、ブラシで磨き上げて艶出しします。
まとめ

登山靴は、使い込むほど味わいが増える道具です。しかし、その味わいは「放置」の結果ではなく、「手を掛け続けた時間」の積み重ねでもあります。
だからといって、毎回完璧を目指す必要はありません。
靴職人の知恵である「水」を味方につけ、必要な場所だけを必要な分だけ手入れする。そんな「ものぐさメンテナンス」なら、ハードな山行から帰ってきた日でも無理なく続けられます。



コメント