「ジェットボイル 比較」の果てに。いま、あえて幻の『SOL Titanium』を探す理由

記事内に広告が含まれています。

世の中の「ジェットボイル 比較」記事を開いてみると、まるで家電量販店のカタログのような総花的なスペック表ばかりが並んでいます。Flashの爆速沸騰を称え、Stashの軽さに驚く――一般的な登山者なら、それで十分すぎるほど幸せな選択ができるでしょう。

ですが、ソロ登山の泥沼……もとい、ディープな世界に足を踏み入れたマニアたちの視点から見ると、景色は一変します。数多の比較の果てに、ひそかに、そして異様な熱量で語り継がれている「伝説の孤高モデル」が存在します。それが、すでにカタログからきれいさっぱり姿を消した「ジェットボイル SOL Titanium(ソル チタニウム)」です。

現行ジェットボイルを比較すると、どれを選ぶべきか

まずはSOL Titaniumへの偏愛を語る前に、普通の「ジェットボイル比較」をしておきましょう。

細かな仕様は世代や販売時期によって異なりますが、それぞれの性格を大づかみにすると次のようになります。

モデル 特徴 軽量性 調理 一体感 向いている人
Flash 高速湯沸かしの王道 とにかく素早く湯を沸かしたい
Zip シンプルでコンパクト ソロで必要十分を求める
Minimo 低重心・火力調整向き 山でも簡単な調理をしたい
Stash 軽量性を重視 とにかく重量を削りたい
SOL Titanium 軽量・一体型・湯沸かし特化 × 軽量化と機能美に取り憑かれた人

高速湯沸かしならFlash、シンプルさならZip、調理ならMinimo、軽さならStash。普通なら、このあたりで比較は平和に終わります。

ところが私は、こうして並べるほど別の疑問から逃げられなくなります。

ソロ登山で湯を沸かすだけなら、本当に必要なのは何なのか。

Flash――偉大な原点だが、いまの私には少し立派すぎる

私自身、かつてはFlashを溺愛していました。

お湯が沸いてくるにつれてコジーのインジケーターの色が変わる。その様子を見ながら、「お、今日も元気に沸いてるな」と、まるでペットでも眺めるように可愛がったものです。

クッカーとバーナーがひとまとまりになり、フラックスリングが熱を受け止め、風のある場所でも素早く湯が沸く。ジェットボイルらしさは、Flashを見るだけでよくわかります。

だから今でも名機だと思います。

ただしSOL Titaniumを手にしてから、事情が変わりました。

Flashが切り拓いた高速湯沸かしの思想を受け継ぎながら、さらにソロ用へ贅肉を削ぎ落としたSOL Titaniumを知ってしまうと、Flashが少し立派すぎるように見えてきたのです。

「すまない。お前は少し重いんだ……」

そうして、あれほど愛したFlashを手放しました。

道具選びとは、ときとして伊達男も呆れるほど移り気です。


2024年、ツミマと自動点火が一体化したモデルが登場しました。家庭用ガスコンロのようにワンタッチで着火できます。

Zip――お利口すぎるほど優秀なソロ向けモデル

Zipは、実用品としてかなり優秀です。

Flashを小型化し、オートイグナイターまで潔く省き、「どうせライターを持ってくるでしょう」とでも言いたげな割り切りで、重量と価格をきちんと抑えています。

ソロ登山者に勧めるなら、かなり有力な一台でしょう。

「これで十分じゃないか」という声も聞こえてきます。ええ、聞こえています。たぶん正しいのです。

ただ、SOL Titaniumには「なぜそこまでやった」と聞きたくなるようなメーカーの熱気がありました。Zipは宿題を忘れず、テストでは毎回80点以上を取る優等生。SOL Titaniumは、なぜか一教科だけ満点を取るために他を全部捨ててきた生徒です。

道具好きはえてして、万能な優等生より、一点突破の変わり者に惹かれます。


2024年、ツミマが回しくなったモデルが登場しました。自動点火装置が付いていないため、点火にはマッチやライターが必要です。

Minimo――正しい。でも私は山でそんなに料理をしない

Minimoは低く広いクッカーと火力調整を備え、簡単な調理までこなせます。山で食事そのものを楽しみたい人には、とてもよくできたモデルでしょう。

ただ、厳冬期のテント場で風に吹かれ、指をかじかませながら、「今日は弱火でじっくり」などという丁寧な暮らしの精神は、私の場合たいてい登山口に置いてきています。

早く沸かす。早く食べる。早くシュラフへ潜る。私にとってジェットボイルは調理器具というより湯沸かし装置です。

Minimoが悪いのではありません。そもそも競技種目が違います。

Stash――軽い。しかしSOL Titaniumとは別の道へ進んだ

軽量性だけなら、SOL Titanium好きがもっとも気になる現行モデルはStashでしょう。

ただし両者は、同じ「軽量化」でも思想が違います。

Stashはバーナーとクッカーを独立させ、システム全体を簡素化して軽くしました。

一方のSOL Titaniumは、ジェットボイルらしい「クッカーとバーナーがカチッと一体になる構造」を残したまま、重量を削っています。

私は、この違いを大きく感じます。

バーナーを置き、クッカーを載せ、固定した瞬間に一つの湯沸かし装置になる。あの隙のなさこそ、私にとってジェットボイルの魅力だからです。

Stashは軽快です。けれど、軽さはときに風への強さと引き換えになります。SOL Titaniumの一体感を知る身には、その割り切りが少し心許なく映ります。

もちろん、偏愛という名の色眼鏡込みの話です。

SOLチタニウムの重量は340g。スタビライザー27gとゴトク35gを含む重量です。

なぜ「SOLチタニウム」は消えたのか?(技術的ロマンの勝手な推測)

では、なぜこの孤高の名機はひっそりと消えてしまったのでしょうか。少しばかり、私なりの(そしておそらくマニアの妄想全開の)推測をさせてください。

SOLチタニウムの最大の秘密は、「極薄のチタンボディ」に「アルミ製のフラックスリング(熱交換器)」を無理やり溶接するという、メーカーの情熱がちょっと行き過ぎたハイブリッド構造にありました。

しかし金属の世界では、チタンとアルミは熱膨張率も熱伝導率も全く違う、いわば「育ちが違いすぎて絶対に一緒になれないお坊ちゃまとお嬢様」です。そこにユーザーが「おいおい、お湯だけじゃなくてちょっと味噌汁でも作っちゃおうぜ」と気の迷いを起こしたり、うっかり水分不足で空焚きでもしようものなら、耐えきれなくなったアルミリングが「もうやってられませんわ!」とばかりに剥がれ落ちる悲劇が起きたわけです。

「お湯を沸かすこと以外は一切の贅沢を許さない」というストイックすぎる設計を、一般市場の優しさを持ったユーザーに向けて維持しきれなくなった。

これが、このモデルが消えた真相ではないかと勝手に想像しています。

SOL Titaniumはまさに、メーカーの狂気と良心が奇跡のバランスで同居した、賛美と喪失のマスターピースでした。

すでに「廃盤・入手困難」だからこそ、愛おしい

悲しいことに、SOL Titaniumはすでに過去の幻です。

アウトドアショップの棚を見渡しても、もう新品の箱なんてホコリを被っても置いていません。
手に入れるには、オークションサイトの深海を網ですくうような、泥臭いデッドストックの捜索が必要になります。現代のタイパ重視の社会から見れば、すでに廃盤になった古いギアを血眼になって探す行為は、最高に非効率でバカげたことに映るでしょう。

だが、考えてみてください。

「クリック一つで、翌日にはどんな最新のキャンプギアでも届く時代」において、あえて手に入らない名機を執念で探し出し、状態の良い個体を発見してニヤリと笑い、自分のザックにこっそり忍ばせて山に入る高揚感を。

テント場でそのザラッとしたチタンのコジーを取り出した瞬間、知る人ぞ知るその黒歴史的(?)な名機は、周囲のどんな最新ピカピカギアよりも、最高にマニアックで香ばしい物語を語り始めてくれるはずです。

結びにかえて:失われた名機と暮らす、山の日々

ジェットボイルの歴史において、SOL Titaniumは二度と再現できない「美しすぎる例外」でした。

いまや火力調整のツマミはわずかに重く。下手にいじってこの代わりのきかない宝物を毀さぬよう、見て見ぬふりで使い続ける。パッキンの寿命という黒い疑念にそっと蓋をする。反応の鈍くなったオートイグナイターを鳴らして、だましだまし青い炎を灯す。もちろん、シビアな高山帯の夜には確実なフリント式ライターの用意を怠りなく。

すべてはこの孤高の名機が重ねてきた時間の質感そのもの。私は今日も、失われた幻とともに静寂の山へと踏み出していくのです。

ジェットボイルのことは俺に聞け!
ジェットボイルって評判がいいけど、どんな特徴があるの? 長所と短所は? 使いこなすうえで注意点やコツや工夫は? 従来あまり触れられてこなかった斬新な機能や、長年使い倒して気づいた使いこなしについて解説します。
登山用品
スポンサーリンク

コメント