テントの張り綱、自在は地面側? テント側?

ありがちな裏技

たいていのテントは出荷時に張り綱(ガイライン)の自在(テンショナー)が地面側に付いています。購入者が張り綱をテントに付ける場合も、自在を地面側にするように解説されていることが多いです。

この方式だと、自在をスライドして張り具合を調節する際にペグがぐらつきます。地面が固くて浅打ちだったり、逆に柔らかい地面だったりすると、せっかく微妙な均衡で地面に刺さっているペグを引き抜いてしまいます。

ましてや雪山で竹ペグなどを雪に埋めて支点(アンカー)とした場合、張り綱の一部が雪に埋まるので、自在をスライドできません。

そこで「自在をテント側に付け替える」という裏技が生まれました。あまりによく知られている方法なので、もはや裏技とは呼べないかもしれません。老舗テントメーカー、アライテントのサイトではこう説明されています。

☞ テントと風(ペグダウンと張り綱について)

積雪期や、埋め込むタイプのペグに張り綱を固定する際には、固定用のペグが回収不能や、調整ができなくなる場合も想定されるので張り綱の取り付け方を無雪期とは逆にしてください。

自在をテント側に設置したほうがオールシーズン便利です。

が、しかし、もう一歩考察を進めると、「地面側か? テント側か?」という設問自体に疑問を抱きます。「両側」が正解ではないでしょうか。

自在を両側に設置する

私は地面側とテント側の両方に自在を作っています。

一般的な自在金具(プラスチック製もある)は使っていません。

ちなみに、この写真の自在は、安価なブリザードステイク(もどき)を入手するために購入したペグセットの同梱品です。

本物のブリザードステイク
ブリザードステイクもどき

私は自在金具を使わずに、スライド可能な結び目を利用しています。この手の結び目では「自在結び」が定番ですが、私は「エバンスノット」を愛用しています。

先日出かけたテント場で、両側の自在が役に立ちました。

張り綱の4方向のうち、1方向に邪魔な岩があります。張り綱を岩の角で屈曲させると張り綱の向きが鉛直に近く、ペグを引き抜く力が強くなります。

地面側のループを石に巻き付け、すっぽ抜けないように絞りました。

テント側の自在で張り具合を調節すれば完成です。

このように、自在を両側に設置すれば、張り綱を変幻自在に調節できます。

「自在結び」ではなく「エバンスノット」を利用する理由

一般的な自在結び

一般的な自在結びはこんな感じ。

支点としてカラビナを使いましたが、テントに縫い付けられたテープや、地面側のペグだと思ってください。

自在結びと言うと、張り綱の元側にぐるぐる巻きにした結び目のことを指すと思いがちですが、実を言うと支点側の「ひと結び」が重要な役割を担っています。この「ひと結び」が適度な摩擦(制動)を生むことにより、「簡単にはスライドしないが、その気になればスライドできる」という機能を実現します。

「元側の結び目」はいわば末端処理であって、ほどきやすさを重視しています。おそらくテントを設営/撤収するたびに、張り綱を付けたり外したりすることを想定しています。規律正しいボーイスカウトや学校の行事で、「テントはこう畳む。張り綱はこう束ねる」とマニュアル通りに実行する光景が目に浮かびます

気象や設営地の条件が厳しい登山では、テントを設営/撤収するたびに、細い張り綱をチマチマと結んだり、ほどいたりしていられません。張り綱はテントに付けっぱなしにし、結び目は解けにくくする必要があります。

そこでエバンスノットの出番です。

エバンスノットの結び方

張り綱の先端を支点に通して折り返します。

ループの根元を束ねるように戻りながら数回巻き付けます。巻きつける回数は決まっていませんが、私は3回くらい巻きます。

折り返して、3回巻きつけた内側を通します。

結び目を締め付けて、形を整えれば完成です。末端は5cmくらい出すと良いでしょう。

結び目の入口と出口が対象形になります。巻く回数や、締め具合で、摩擦(制動)の程度を調整します。

滑りが良いロープだと、スライドしすぎるため、自在結び風に「ひと結び」と併用すると良いでしょう。

エバンスノットの動かし方

エバンスノットで出来たループを大きくしたり小さくするときに気を付けたいことがあります。

ループを小さくする = 張り綱を緩める

ループを小さくする場合には、「張り綱の元側」と「結び目」を指でつまんで引き離します。これは簡単です。

ループを大きくする = 張り綱を締める

ループを大きくする場合には、「結び目」と「支点側の張り綱」を指でつまんで引き離します。「支点側の張り綱」は2つあり、どちらを引くかわかりにくいです。

間違ったほうを引くと、どんなに頑張ってもスライドしません。むしろ結び目が強く締まって、正しいほうでさえスライドしにくくなります。

雨や露で張り綱が濡れると、結び目の摩擦がいっそう強くなるため、

  • 間違ったほうを引いているからスライドしないのか、
  • 正しいほうを引いているけれどスライドしにくいのか、

区別できなくなります。

私の巻き方だと、「根元に巻きつきがある」方は動きません。

もしかすると結び方の癖によって異なるかもしれないので、いざ現地で困らないように事前に確認しておく必要があります。

張り綱をペグに掛ける

自在金具を使うにしろ、エバンスノットを使うにしろ、大きなループをペグに引っ掛けるだけだと、強風に煽られた際に外れやすくなります。

特にエバンスノット単体のループをペグに掛けた場合、そのままだと結び目がスライドしやすいため、張り綱が緩んで外れやすくなります。

ペグを地面に強固に打ち込んだとしても、張り綱がペグから外れてしまったら意味がありません。

エバンスノット単体のループを最小まで絞ってペグに掛け、張り具合はテント側の自在で調節するとよいでしょう。

ただし、いったん最小に絞ったループは緩めるのが大変です。雨露で濡れたり、雪山で凍って固くなったりすると相当に手強い。

お手軽なところで「カウヒッチ」、ちょっと通好みで「クローブヒッチ」を作って引っ掛けるのも一案です。

カウヒッチの結び方

ループの下から親指と人差し指ですくい上げます。

ループの根元をつまんで引っ張り出します。

カウヒッチをペグに掛けます。

クローブヒッチの結び方

小さな輪を2つ作ります。

手前の輪を奥の輪の裏側にまわします。

クローブヒッチをペグに掛けます。

テント側に自在を設置するデメリット

テント側に自在を設置するデメリットについて触れておきます。

張り綱を頻繁にスライドするため、テントに縫い付けられたループの摩耗が激しくなります。テントを設営/撤収するときだけでなく、風に煽られて自在がスライドするたびに張り綱がループをこすります。

気になる人は小さなカラビナで仲介すると良いでしょう。

よりコンパクトな丸いカラビナもあります。

手っ取り早いのは、細引きで小さなループを自作して追加することです。

自在金具の裏技

コードの滑りが良すぎたり、細すぎたりすると、自在がスライドしやすく、張り綱が緩みやすくなります。末端の結び目を反対側から通すと、テコの力が強くなり、張り綱の屈曲が大きくなり、緩みにくくなります。裏技としておぼえておくと良いでしょう。

張り綱と自在の選び方

コードの太さは2mm~4mm

山岳テント用として、太さは2mmだと頼りなく、4mmだと嵩張り過ぎると感じます。

私は切り売りの3mmを利用しています。

張り綱専用の製品なら2mmでもしっかりしています。

金属製の自在は避けたい

強風でガイラインシステムが崩壊したとき自在が跳ね飛んで人体に当たるとケガをするかもしれません。テントに当たって生地を引き裂くかもしれません。耐久性が高いのは金属製ですが、安全面を考慮すると樹脂製(プラスチック製)を選択したいところです。

樹脂製だと強度面から直線的な形状が多くなります。穴は3箇所となり、コードを2箇所で屈曲させることにより摩擦を強くします。

ライペン / プラスチック 自在

登山用品店でよく見かける3mmロープ用です。アライテント製のテントに付属するモノと同じです。

ヒルバーグ / ガイラインライナー

こちらは3穴と同じ原理を立体化した三角形の形状となっています。2mm用もあります。

末端の結び目の通し方に注意。商品説明の写真ではわかりにくいですが、外から内に通すとテコの力が強くなります。内から外に通すと、テコの力が弱くなります。

コードの表面が滑りやすいものは避けたい

安価なパラコードでも良いのですが、表面の滑りが良すぎるモノは自在が動きやすく、張り綱が緩みやすくなります。

コードに適度な摩擦と反射材が欲しい

テントの張り綱用として、自在パーツが付属しているようなコードは表面に適度な摩擦があります。そして、たいてい反射材を縫い込んであります。

ブランド不明 / 反射材入りガイラインセット

ニーモ / ガイラインキット

ガイラインは太さ2mm×長さ12m。自分で切って使います。三角形のテンショナー(自在)が4個付属しています。

☞ ガイラインキット – ニーモ・イクイップメント

ヘリテイジ / リフレクティブ・スーパーガイラインセット

ガイラインは太さ2mm×長さ2.5m×4本。アジャスター(自在)は樹脂製で角が丸いため、ガイラインシステムが崩壊して跳ね飛んだとしてもテントや人体を傷つけにくそうです。

☞ リフレクティブ・スーパーガイラインセット(ツェルト用) – ヘリテイジ

MSR / テントガイライン

ガイライン(張り綱)は太さ1.8mm×長さ2.4m×4本。テンショナー(自在)は「どうせ屈曲させるなら」と言わんばかりに環状(円筒状)になっています。テンションが掛かると、テコの力でガイラインの屈曲が強まります。テンショナーは金属製ですが、跳ね飛んだとしてもテントや人体を傷つけにくそうです。

混んだテント場では特に、不注意な人が夜中に足を引っかけないように反射材入りの張り綱が有効です。なんとも世知辛い話ですが、もっと厳しい孤高の登山でも反射材は役に立ちます。ベースキャンプから山頂を往復し、風雪のなか暗くなって帰着する際に、少しでもテントを発見しやすくなります。そのわずかな差が生死を分けるかもしれません。その意味では、次に紹介する蓄光型の自在も有効です。

蓄光自在も有効

コールマン / 蓄光自在

蓄光自在 – コールマン

キャプテンスタッグ / 蓄光自在

3穴のうち2穴が片寄った近い位置にあり、そちらに張り綱の元側を通せば、より屈曲が強く、緩みにくくなります。

ブランド不明 / カチッと止まる!超軽量1g 蓄光 自在金具

樹脂製(ポリカーボネイト製)なのに屈曲している珍しい商品。Sサイズ(ロープ径φ1.0-2.5mm用)もあります。

ファイントラック / ツエルトガイラインセット

蓄光自在とガイラインのセットです。ガイラインは太さ2mm×長さ5m×2本。ツエルト用に折り返して使う長さになっています。テントに流用するには自分で切る必要があります。

☞ ツエルトガイラインセット – ファイントラック

オクトス / 蓄光張り綱

「もう一工夫」が得意なオクトスによる、張り綱自体に蓄光素材を編み込んだ意欲作です。ガイラインは太さ2mm×長さ200cm×4本。三角形の自在が4個付属します。太さ3mm版もあります。

ガイラインシステムの課題

本題に戻ります。自在をテント側に付けるか、地面側に付けるか。

正解は「両側」と結論付けたいと思います。

ただし、ガイラインシステム(張り綱と自在)の課題は実は別のところにあります。

張り綱は強風に吹かれ続けると、必ず緩みます。「自在」という摩擦を利用した仮固定方式を使う限り、その宿命から逃れることはできません。ですから、登山の教本ではよく「用足しに出たついでに、張り綱を締めなおすこと」なんて書かれています。

長さを調節しやすくて、かつ緩まない、うまい方法はないものでしょうか。私はひとつアイデアを思いつき、準備を整えているのですが、まだ強風下で検証していません。うまくいったら記事にするつもりです。

追記

上記の「アイデア」とはこんな張り綱システムです。強風下ではありませんが、好感触を得ました。

雪山テント泊の張り綱を再発明する
雪山テント泊の張り綱を再発明しました。既成の張り綱システムに不満点をいだいていました。「自在」は摩擦力を利用した「仮留め」なので緩むことがある。モノにしっかり巻き付けて結ぶと撤収時に解きにくい。そこで、こんな風変わりな張り綱システムを考案しました。

雪山テント泊に向いたペグやスノーアンカーについてはこちらの記事をご参照ください。

雪山テント泊のペグとスノーアンカー
雪山縦走であれば、ピッケル、ワカン、スノーシュー、トレッキングポール等、テントの固定に利用できる装備には事欠きません。しかし、テントを張りっぱなしにして、山頂を往復する場合、それらの装備を置き去りにするわけにはいきません。別途しっかりしたペグを用意する必要があります。

ガイラインシステム(張り綱と自在)だけでなく、テント本体を刷新したい人はこちらの記事をご覧ください。

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