登山のベースレイヤー、メリノウール派? 化繊派?

私は化繊派です。

メリノウールのベースレイヤーも所有しています。ときどき思い出したように着てみるのですが、どうしても馴染めずに、化繊のベースレイヤーに戻ってしまいます。いちばんの理由は、ウールのチクチク感が気になるから。メリノウールは一般のウールより繊維が細く、チクチク感が少ないと言われますが、私みたいにどうしても我慢できない人間がいるということです。

夏も冬もメリノウールです」と満足げに語る人が羨ましくて仕方がありません。メリノウールの「夏涼しく冬暖かい」「汗冷えしにくい」「天然の抗菌効果で臭くなりにくい」といった長所を横目で見ながら、化繊のベースレイヤーに袖を通します。

かくしてメリノウール派へのコンプレックスを抱きながら、山に登り、岩を攀じています。いやいや化繊派だって捨てたものではない。有名な登山家や冒険家の記録を読むと、決して化繊派が少なくないとわかって安心します。

私のベースレイヤー遍歴を振り返りながら、感じたこと考えたことを書いてみます。

登山のベースレイヤー、メリノウール派?化繊派?(体験と考察)

大学ワンダーフォーゲル部時代は綿のパンツ

大学ワンダーフォーゲル部時代、講習会で「下着はウールのほうが濡れても温かい」と説明されました。「ベースレイヤー」なんて上等な用語は誰も使っていませんでした。「下着」ったら「下着」なの!

しかし、ウール理論を忠実に実行した部員がいたとは思えません。みんなトレーニングでも登山でも無頓着に綿のパンツやシャツを着ていました。もちろん、声高に主張しないだけで、こっそり導入しているやつがいたかもしれませんが。

なにせ中間着といえばジャージを着て、雨が降ればゴム引きのカッパを羽織っていたやつらです。冬山は正式な活動に含まれなかったせいもあり、あまり真剣に考えていませんでした。有志で冬山に繰り出す際も気にしたおぼえがありません。

冬山単独行でラクダの肌着

冬山に単独で出かけるようになると、安物のラクダの肌着を身に付けました。祖母山~傾山を縦走して、上畑のバス停へ下山する途中、どうかい谷の林道を経由して観音滝に立ち寄りました。滝の落ち口にある淵を覗き込んでいたら、傾斜した岩の上を登山靴のビブラムがツツーッと滑り出しました。岩の表面は乾いているように見えて、実は薄っすらと凍っていたようです。

どうにも止まらない。「うわ~っ、山で滑落するときってこんな感じなんだな」と考える間もなく、水中に放り出されました。ゆっくり滝の落ち口に流されていきます。落ちたら助からない。無事下山したのに、こんな所でお陀仏になりたくない。キスリングを背負った男が必死で犬かきして岸に泳ぎ戻りました。

全身濡れそぼってバス停まで歩きながら「たしかにウールというやつは濡れても冷え切らない」と実感。一方、「なかなか乾きにくい」ことも実感しました。バスで小一時間、列車に乗り換えて数時間、帰宅するまでずぅーーーっと生乾きの気持ち悪さを引きずりました。

一世を風靡したクロロファイバー

ひと頃、ノースケープ社のクロロファイバー製アンダーウェアを愛用しました。

冬季でも快晴無風の樹林帯では汗をかくことが多く、中間着やシェルなんか着ていられません。しばしばクロロファイバー一枚で行動しました。ミットモナイ感じがしなくもありませんが、男性なら山の中ではおかまいなしにそうしました。女性だって豪の者は……。見て見ぬふりがマナーですが、そんなときのために薄手の半袖Tシャツを1枚、ザックに忍ばせておきましょう。

この貴重な歴史的アイテムは、雪山から遠ざかっているあいだに断捨離しました。

フリークライミングでベースレイヤー選びがシビアになった

フリークライミングに軸足を移すと、人里近いエリアでの活動が多いので、ベースレイヤーに無頓着になるかと思いきや、むしろシビアになりました。と言うのは、フリークライミングでは身体を動かし続けることは少なく、待機時間が長くなるからです。

クライマーが長時間のハングドッグに突入すると、ビレイヤーはほとんど身体を動かすことなく、ロープを繰り出したり止めたりするだけ。身体が冷え切ってしまう。冬のクライミングではビレイヤーのほうが辛いくらいです。こうした事情があるので、登山用品のカタログにビレイパーカというカテゴリが存在します。

激しく登攀したり、じっと待機したり、いわゆるストップ・アンド・ゴーを繰り返すので、ベースレイヤーにはより一層「動きやすく、保温性が高く、汗が乾きやすい」ことが要求されます。岩をつかむ指先が開いたら負けというゲームですから、当然「軽い」ことも要求されます。

これらの条件は雪稜歩きでも同じことなのですが、フリークライミングの世界でよりシビアに実感しました。いざ完登トライでは最軽量のベースレイヤー一枚……だとミットモナイので、薄手の半袖Tシャツを重ね着してカッコつけます。

モンベルのジオライン

モンベルのジオラインを使用した厚手アンダーウェア。保温性は申し分ありません。手首の切り返しがいかにも下着っぽいのが難点です。フリークライミングでは自撮りすることが多く、ギャラリーも多いので、見栄えが気になります。

ノースフェイスの薄手、中厚手、厚手

ノースフェイスのアンダーウェアを3着(薄手、中厚手、厚手)持っており、季節や気温によって使い分けました。手首がすっきりしており、胸のロゴがカッコイイので、一枚だけで着ても下着っぽさが薄い。

2016年末に雪山を再開したとき、厚手の「ロングスリーブホットジップアップ」を購入しました。肌面に水を含まないポリプロピレンを使用しているので、ファイントラックが提唱するドライレイヤーの役割を穏やかに果たしてくれます。

もっと厚い「エクスペディションホットクルー」は毛12%なのでチクチクするかもしれません。実際、下半身用の「エクスペディションホットトラウザーズ」を所有しており、履くとチクチク感があります。これが上半身だと私には我慢できないでしょう。

雪山登山の厚手タイツ、エクスペディションホットトラウザーズ
雪山登山では厚手の裏起毛トレッキングパンツの上にアウターシェルを履くという最低限のレイヤリングで過ごしてきました。ついにタイツを購入することにしました。白羽の矢を立てたのはTHE NORTH FACEの「エクスペディションホットトラウザーズ 」です。

ファッショナブルなベースレイヤーはないものか

何故ベースレイヤーは下着っぽい製品ばかりなのか。もっとファッショナブルにしてくれればTシャツを重ね着しなくて済むのに。かねがねそう考えていた私はひと頃、1枚ですむ「カットソー」タイプを追求しました。

ここで言う「カットソー」とは、プルオーバー型のトップスくらいの意味です。

マーモットのカットソー

2015年秋冬シーズンに購入。マーモットのカットソーは細身で、ベースレイヤーとして着やすい。いかに高機能な吸汗速乾素材を利用していても、肌面と密着しないと効果が薄いからです。特に気に入ったのが胸ポケット付きのアイテム。クライミングやボルダリングで愛用し、気楽な低山ハイキングでは胸ポケットにウォークマンを入れて音楽を聴きながら歩くこともありました。とても気に入ったので全色を揃えたものです。あとで気づいたのですが、肌面はポリプロピレンのメッシュになっています。残念ながら、現在のラインナップには「肌面ポリプロピレン」も「胸ポケット付き」も見当たりません。復活希望。

調子に乗って、「クライムウール ストレッチ ロングスリーブ ジップ」を赤青で揃えました。こちらは現在もラインナップに存在します。より細身で保温力がアップし、これぞ下着っぽくないベースレイヤーの決定版と期待しました。が、「ウール15%」が曲者。身体に密着するシルエットなので、チクチク感が強い。忘れもしない城ヶ崎へボルダリングに出かけたときのこと。往路はそうでもありませんでしたが、一日中登って身体がほてった復路、暖房の利いた電車のなかで襲い来るチクチク感に悶絶しながら東京までの数時間を過ごしました。

フォックスファイヤーの「ゼロドライメッシュ」(2017年3月購入)を下に着ると、なんとか耐えられます。(⇒ 石井スポーツ「Foxfireの隠れた名品♪ ZERO-Dry」)

数年で見かけなくなりましたが、2020-2021年シーズンに「PPメッシュ L/S」としてリニューアルしました。

ミレーのドライナミックメッシュ

2016年1月、ミレーの網々シャツ「ドライナミックメッシュ3/4スリーブクルー」を購入。かの南谷真鈴さんがエベレスト登頂でユニクロのヒートテックの下に着ていたとか何とか、不思議なレイヤリングで知られるアイテムです。

前述したマーモットのチクチクカットソーの下に着てみました。たしかに活動中の汗冷え感が解消される気がします。ただし、山への行き帰りでずっと着ていると違和感が半端ない。肌面がスースーして、暖かいんだか涼しいんだかよくわからない。かなりクセが強いのは間違いありません。

私は一度着たきり、二軍落ちさせたままです。

ワイポウアのメリノウールアンダーシャツ

2016年1月、ついに「メリノウール100%」を打ち出したアンダーシャツを購入。ワイポウアは国産ブランドです。ポリウレタン等の伸縮素材の表示はありませんが、とても伸縮性に富みます。白いラインがアクセントとなって、下着っぽさが薄れています。

わくわくしながら袖を通し、低山ハイキングで試してみたところ……はい、またしても私の敏感なウールセンサーが発動しました。密着度が高いせいか、チクチク感がたまりません。これも二軍落ちしたままです。

ICEBREAKERのオアシス LS クルー

2016年1月、定評のある海外ブランドICEBREAKERの「オアシス LS クルー」を購入。ゆったり目のシルエットなので、ほとんどチクチク感がありません。ついに運命の出会いか?

高尾山のトレーニング山行で何度か使いました。汗だくになると、じっとり濡れたまま、乾きにくいのが難点。沢に落ちてずぶ濡れになった昔を思い出しました。残念ながら、現行モデルにはツートンカラーは見当たりません。

フォックスファイヤーのPPウールハーフジップ

2016年11月に購入。マーモット亡きあと?目を付けたのがフォックスファイヤーの「PPウールハーフジップ 」。2020年秋冬も継続しているモデルです。「肌面ポリプロピレン」「胸ポケット付き」という条件を満たしています。表も裏も毛羽立ちが多く、マーモットの「Climb PP Wool L/S Zip」より保温性が高め。襟が高いので寒いときほっこりします。ただしベースレイヤーとしては胴がやや太め。ショップの店員さんは「この下にゼロドライメッシュを着ると良いですよ」とおっしゃってましたが、それだと肌面ポリプロピレンが二重になってしまいます。胴を細身にしてくれれば、下着っぽくないベースレイヤーの決定版になりそう。

下半身は「パンツ」選びに繊細さが要求される

下半身は「パンツ」選びに繊細さが要求されます。ここで言う「パンツ」とは「ブリーフ」や「ボクサーパンツ」を指します。

いや「モノの収まり具合」ってバカにならないんですよ。ある研究によれば、男は24時間、潜在意識下でストレスを感じ続けているとか。素材の機能性も大事ですが、まずはフィット感を追求したい。

冬だからと言って保温性を追求する必要はないと考えています。重ね着するタイツで調整すれば良いのです。

詳しくはこちらの記事をご覧ください。

登山家の下半身事情~理想のボクサーパンツを求めて
アウトドア雑誌のアンダーウェア(ベースレイヤー)特集において、シャツやタイツはよく取り上げられるのに、パンツ(トランクス)については滅多に言及されません。 パンツ(トランクス)はバラクラバと同様に選び方が難しい。ゴムが緩ければズリ落ちて気持...

まとめ

いろいろなベースレイヤーを着用してきて、現在では化繊派に落ち着きました。

かの山野井泰史さんが「アルピニズムと死」のなかで、チョ・オユー南西壁のソロクライミング(日本人によるヒマラヤ登攀の金字塔!)で使用した下着について言及されています。

マジックマウンテンのサブゼロ。化学繊維でできた厚手のもので、今でも使うことがあります。

栗秋正寿さんの「アラスカ 垂直と水平の旅」にはこんな一節があります。

<衣服上下>
前回と同じく、薄手のポリエステル合成繊維・ジオラインの半袖シャツとブリーフ(どちらもゼロポイント製)をいちばん下に着て(後略)

PEAKS 2018年9月号​の「ウールと化繊、どちらが保温性が高いのか徹底比較!」という企画ではこう結論付けています。

優れた化繊とウールとでは、それほど保温性に差はない

我が意を得たり

メリノウール派の布教に耳をふさぎ、胸を張って化繊派を貫きたい

なんて言いながら、メリノウールと化繊のハイブリッドは良さそうだな、とギアマニアの探究心がやまない今日この頃です。

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