【奥義】マルトデキストリンとハイポトニック飲料を混ぜる

記事内に広告が含まれています。

険しい岩稜帯での長丁場や、ボルダリングジムで限界を押し上げるセッション。極限状態の身体と神経を維持するためには、水分とエネルギーの適切な補給が欠かせません。

別記事にて、消耗した中枢神経を最速で回復させる特効薬として「マルトデキストリン」を紹介しました。

神経系を回復せよ!マルトデキストリンのすすめ【登山やクライミングのお供】
ジョギングやHIIT(高強度インターバルトレーニング)で、心肺機能と下半身をしっかりと追い込んだ翌日。意気揚々とボルダリングジムへ赴き、壁のホールドをつかむと、なぜか保持できない。「指先や前腕の筋肉は張っていないのに、どうしても力が入らない...

が、「クエン酸や塩を計量して混ぜることすら煩わしい」という日もあるでしょう。そんな時は、シェイカーにマルトデキストリンだけを放り込んでおき、「イオンウォーター」などの市販のハイポトニック飲料を買って注ぐという手抜きをおすすめします。

ハイポトニック飲料は元から糖分が控えめで浸透圧に余裕があるため、マルトデキストリンを追加しても吸収スピードの阻害を最小限に抑えつつ、必要な成分をまとめて補給できます。

この記事では、この【究極の手抜きメソッド】を完璧に機能させるための、登山やクライミング現場で実用的な「ハイポトニック飲料の比較」と、絶対に知っておくべき「魔法の粉のメカニズム」、そして「シェイカー選びの正解」について解説します。

なぜクライマーにハイポトニック飲料が必要なのか

市販のスポーツ飲料の多くは、人間の体液とほぼ同じ浸透圧(アイソトニック)に調整されています。これは平常時には優れていますが、激しい運動で大量の汗をかいて体液が濃縮された状態や、疲労で胃腸の働きが落ちている極限状態では、吸収が遅れて胃にチャプチャプと溜まってしまうことがあります。

一方、ハイポトニック飲料は糖分を抑えることで浸透圧を低く保っています。「水分を最速で細胞に届ける」ことに特化しているため、行動中の素早いリカバリーに最適なのです。

未知の商品を見分ける「10kcalの法則」と飲料比較表

コンビニの冷蔵庫の前で、未知の商品をベース飲料として選ぶ際に見るべきは、極めてシンプルに「100mlあたりのカロリー」だけです。

  • 0 kcal(ベスト): 浸透圧の「空き容量」が最大。マルトデキストリンの糖質だけを純粋に吸収させるための完璧なベースです。
  • 10 kcal 前後(ベター): 粉を追加しても吸収を阻害しない、ハイポトニック状態を維持できる安全圏です。
  • 20 kcal 以上(粉を追加する用途には不向き): すでに浸透圧が限界に達しているため、ここに粉を足すと胃に滞留しやすくなります。

この基準を踏まえ、定番のハイポトニック飲料と、比較のための「通常のスポーツ飲料(アイソトニック)」をまとめた一覧表がこちらです。人間の体液の浸透圧(約285 mOsm/L)を100%とした場合の割合が低いほど、スッと吸収されます。

■定番のハイポトニック飲料

飲料名(メーカー・容量) 体液比(推定浸透圧) 特徴とマルトデキストリンとの相性 成分目安(100mlあたり) おすすめ度
アクエリアス ゼロ
(コカ・コーラ・500ml)
35%未満(100未満) 【ベスト】液中に糖の粒がなく浸透圧が極めて低い。ベースとして最適。 0kcal / 炭水化物 0.7g / 食塩 0.10g ★★★★★
VAAM スマートフィットウォーター
(明治・500ml)
35%未満(100未満) 【ベスト】ゼロカロリー。脂肪燃焼やアプローチ歩行も意識するならこれ。 0kcal / 炭水化物 0g / 食塩 0.11g ★★★★★
ポカリスエット イオンウォーター
(大塚製薬・500ml)
約53%(約150 mOsm/L) 【ベター】味が崩れにくい定番。ハイポトニック状態を維持できる安全圏。 11kcal / 炭水化物 2.7g / 食塩 0.10g ★★★★☆
スーパーH2O
(アサヒ飲料・600ml)
約53%(約150 mOsm/L) 【ベター】低浸透圧の実力派。ボトルが600mlのためシェイカー容量に注意。 12kcal / 炭水化物 2.9g / 食塩 0.10g ★★★★☆

■通常のスポーツ飲料(アイソトニック)

飲料名(メーカー・容量) 体液比(推定浸透圧) 特徴とマルトデキストリンとの相性 成分目安(100mlあたり) おすすめ度
ポカリスエット
(大塚製薬・500ml)
約100%(約285 mOsm/L) 【NG】アイソトニックの代表。単体なら優秀だが粉の追加には不向き。 25kcal / 炭水化物 6.2g / 食塩 0.12g ★★☆☆☆
アクエリアス
(コカ・コーラ・500ml)
約100%(約285 mOsm/L) 【NG】同じくアイソトニック。ベース液としては浸透圧に余裕がない。 19kcal / 炭水化物 4.7g / 食塩 0.10g ★★☆☆☆

疑問:粉を追加したら「ハイポトニックの強み」が消えるのでは?

ここで、勘の鋭い方は一つの疑問を抱くかもしれません。

「ハイポトニック飲料の浸透圧が低いのは糖分が少ないからだ。それなら、そこにマルトデキストリンを大量に追加したら、結局は浸透圧が高くなり、吸収が遅くなるのではないか?」と。

結論から言えば、その心配はほとんどありません。マルトデキストリンを加えても浸透圧の上昇はごくわずかであり、ハイポトニック飲料が持つ「素早く吸収される」というメリットは十分に維持されます。

その理由は、浸透圧が「溶かした重さ(g)」ではなく、「液中に漂う粒の数」で決まるからです。

普通の砂糖やブドウ糖は、水に溶けると細かな粒としてバラバラに存在するため、少し加えただけでも粒の数が急増し、浸透圧が大きく上昇します。

一方、マルトデキストリンはブドウ糖が数十個〜数百個も数珠つなぎになった巨大な分子です。水に溶けても、この鎖は基本的に切れずにそのまま存在します。そのため、同じ50gの糖質でも液中に存在する粒の数は圧倒的に少なく、浸透圧はほとんど上がりません。

実際に、イオンウォーター(約150mOsm/L)へマルトデキストリン50g(約200kcal)を溶かしても、浸透圧の上昇は約50mOsm/L程度にとどまると考えられます。合計しても約200mOsm/Lであり、人間の体液(約285mOsm/L)を十分下回るため、ハイポトニックとしての特性を維持できます。

これを物流に例えるなら、胃のセンサー(浸透圧を測る門番)は「荷物の重さ」ではなく、「荷物の個数」しか数えていません。

大量の荷物を小包100個に分けて運び込めば、「荷物が多い」と判断されて流れは遅くなります。しかし、同じ荷物を巨大なコンテナ1個にまとめて運び込めば、「荷物は1個」と判断され、そのまま通してしまいます。

マルトデキストリンは、まさにこの巨大なコンテナのような存在です。大量のエネルギーを運びながら、浸透圧をほとんど上げないという、糖質の中でも非常にユニークな性質を持っています。

さらに実用面でも優秀です。マルトデキストリンは非常に溶けやすく、600ml程度のシェイカーであれば50g前後は数回振るだけでほぼ完全に溶けます。甘味もブドウ糖ほど強くないため、市販のハイポトニック飲料の風味を大きく損なうこともありません。

だから私は、マルトデキストリンを「魔法の粉」と呼んでいます。

マルトデキストリンを混ぜるなら「600ml」のシェイカーを選べ

自宅でシェイカーにマルトデキストリンを仕込み、現地で飲料を買って注ぐ。この極めて合理的なシステムを構築する上で、注意したいのは「シェイカーの容量」です。結論から言うと、一般的な500ml用ではなく、「600ml(またはそれ以上)」の容量を持つ広口シェイカーを選ぶべきです。

理由はシンプルかつ物理的なものです。

たとえば、マルトデキストリンを50g(約200kcal)シェイカーに仕込んだとします。粉には体積があるため、そこに500mlのイオンウォーターを全量注ぐと、全体のカサは550ml近くに達します。もし500mlギリギリのシェイカーを使っていた場合、水は溢れ、フタを閉めることすらできません。

600mlサイズであれば、500mlのペットボトルを全量注いでも上部にしっかりと「空洞(シェイクするための空間)」が残ります。この空間があるからこそ、数回振るだけでダマにならず完璧に溶け切るのです。「スーパーH2O」のような600mlペットボトルを買ってしまった日でも、一口飲んでから注げば柔軟に対応できます。

まとめ:システムを最適化し、壁に集中する

岩は待ってくれません。核心部で指が開く理由は、技術だけとは限りません。補給を「根性」から「システム」へ変えるだけで、最後の一手を支える余力は確かに残ります。

シェイカーには前夜のうちにマルトデキストリンを仕込み、コンビニやドラッグストアでは迷わずハイポトニック飲料を手に取る。それだけです。

クライマーが考えるべきなのは、ボトルの中身ではなく、目の前の一手です。

Tips
スポンサーリンク

コメント