
冷静に考えれば、雪山登山などというものは狂気の沙汰と言えるかもしれません。 暖房の効いた快適な部屋を捨て、生命維持に必要なすべてを背負い込み、わざわざ苦しい思いをしに行くわけですから。
アイゼンが雪を噛むたび、鉛のような疲労が足元から静かに澱んでいく。
この重力との不毛な闘争において、バックパックとは実に奇妙な存在です。 分厚いストラップが肩に食い込み、硬いベルトが骨盤を締め上げる。それは文字通り、物理的に肉体の自由を奪う「枷(かせ)」そのものです。 しかし、この不自由な重荷を背負い、カタツムリのように殻と一体化することで初めて、雪上のどこででも眠り、どこまでも歩ける権利を得られるのです。
ですから、「重さを感じさせない」などというメーカーの甘い売り文句は、鼻から信じてはいけません。物理法則は絶対です。25キロの荷物は、エベレストの山頂だろうが近所の裏山だろうが、等しく25キロなのです。
求めるべきは、魔法のような軽さではありません。 その理不尽な重さを、納得できる「愛おしい重荷」へと変換してくれる、ある種の詐術です。背骨に食い込む痛みを快感に変え、この苦行を続けさせてくれる共犯者です。
そんな奇特な「袋」たちについて、少し語らせていただきます。
1. 60L〜80Lが「生存権」の最低ライン
まず、夏のテント泊装備をそのまま雪山に持ち込もうとしているなら、今すぐ回れ右をしてコタツに戻るべきです。
冬の装備はすべてが「デカい」のです。
マイナス対応の厳冬期用シュラフ、嵩張るダウンジャケット、結露で凍りついたテント。これらは圧縮しようとしても、反抗期の中学生のように反発してきます。
「パッキング技術でカバーする」にも限度があります。
極寒の朝、凍傷寸前の指で、ジグソーパズルやテトリスのように緻密なパッキングをしている暇はありません。「何も考えずにガサッと放り込める」余裕こそが、撤収スピードを上げ、あなたの指を守るのです。
最低でも60L、できれば75L〜80L。
「空気が入る隙間がある」ことは、雪山では「心の余裕」と同義です。
2. 「大は小を兼ねる」という真理。ザックそのものが「安全装置」だ

昨今のUL(ウルトラライト)ブームは素晴らしい。しかし、雪山テント泊縦走において、ペラペラの生地で軽量化を追求することは、時に自殺行為となります。
なぜなら、大型で堅牢なバックパックには、収納力以上の「隠された機能」があるからです。
撤収時の「ずぼら」が凍傷を防ぐ
厳冬期の朝、凍りついたテントをきれいに畳もうとして、指先の感覚を失っていませんか?
容量に余裕がある大型ザックなら、テントを几帳面に圧縮する必要はありません。分厚いミトンのまま、ザックの隙間にクシャクシャと押し込む「ずぼら撤収」が許されます。
指先の激痛と格闘することなく、温かいままスピーディーに撤収を終え、快調に一日のスタートを切る。この「精神的な余裕」こそが、大型ザックを選ぶ隠れたメリットです。
ビバーク時の「第二の寝袋」
万が一のビバーク。持っている半身用マットだけでは冷気が防げない時、中身を空にした大型ザックに足を突っ込んでみてください(エレファントフットスタイル)。
厚手の生地と背面パッドが断熱材となり、あなたのつま先を凍結から救います。ペラペラのナイロン一枚では、この芸当はできません。
転倒時の「脊椎プロテクター」
ベースキャンプから山頂への往復。 空に近い大型ザックをベルトでギリギリまで圧縮して背負う姿を、「大げさだ」と笑う人がいるかもしれません。
ですが、雪山や岩場を知り尽くしたベテランほど知っています。 転倒や滑落の衝撃から、唯一背骨を守ってくれるのがこの「厚み」であることを。
「大型ザックを背負う」こと自体が、最強の「脊椎プロテクター」を装着することと同義なのです。 ぺしゃんこに潰したそのシルエットは、不格好どころか、リスクマネジメントができている証(あかし)です。
緊急時の「担架」
パーティーの誰かが動けなくなった時、フレーム入りの大型ザックを連結し、スキー板やポールを通せば、搬送用の簡易担架が完成します。フレームレスのふにゃふにゃザックでは、仲間を運ぶことすらできないのです。
3. 背面メッシュは「製氷機」。スムースな背中を選べ

ここが最大の落とし穴です。
夏山で「涼しくて最高!」と称賛される背面メッシュ(トランポリン構造)のザック。これを雪山に持ち込むのは、自分への「製氷機」を持ち込むのと同じです。
【冷えのメカニズム】
- ラッセル中、舞い上がった粉雪がメッシュの隙間に入り込む。
- あなたの背中の熱で、雪が少し溶ける。
- 休憩でザックを下ろした瞬間、外気で急速冷凍される。
- 完成! 背面にへばりつく「巨大な氷の板」。
この氷の板は、行動中もあなたの背中の体温を奪い続け、低体温症のリスクを高めます。
雪山用ザックの背面は、雪がサラサラと落ちる「成形フォーム」か「共生地(のっぺりした布)」でなければなりません。
通気性? そんなものは忘れてください。どうせ汗冷え対策はベースレイヤーの仕事です。
4. そのバックル、グローブをしたまま外せますか?
お店で試着する時、素手でバックルをカチカチといじっていませんか?
現場では、あなたは「厚手の手袋」あるいは「ミトン」という、拘束具のようなものを装着しています。
もちろん、例外はあります。
世界的クライマーの山野井泰史氏は、著書の中で「自分は不器用だから」と、極寒の中でも素手でアイゼンを装着すると語っています。しかし、それは凍傷のリスクと引き換えにしてもスピードと確実性を優先できる、極限のレベルにある人だからこその選択です。
もしあなたが「自分は山野井さんではない」と思うなら、グローブをしたまま操作できるかを基準にしてください。
- 指先がかじかんでいても掴めるジッパータブか?
- ミトンのままでも締め上げられるウエストベルトか?
- 凍りついた時、力任せに引っ張っても壊れない単純な構造か?
複雑なギミック、繊細なパーツ、細すぎるストラップ。これらは平地でのスペック自慢にはなっても、極限状態ではストレスの種にしかなりません。
「単純(シンプル)」こそが「強さ」なのです。
5. 達人が選ぶ、雪山テント泊縦走バックパック10選
以上の哲学を踏まえ、今回は厳冬期のテント泊縦走という「絶対に失敗できない環境」で輝く10モデルを厳選しました。
ラインナップは、以下の3つの視点で構成しています。
圧倒的な剛性で重荷をねじ伏せる「運搬の王者」。日本の湿った雪と独特の地形に最適化された「日本ブランドの名品」。 そして、最新の素材とギミックで雪山を攻略する「トレンドセッター」。
あなたのスタイルと目指す山頂に合致する、最高の「背中の相棒」を見つけてください。
【質実剛健】絶対的な信頼を誇る「運搬」の王者(3モデル)
「とにかく重い荷物を、いかに楽に、安全に運ぶか」。この一点において、他の追随を許さない海外の大型モデルです。分厚いハーネスと強固なフレームが生む圧倒的な安定感は、文字通り「背中の要塞」となり、あなたを守ります。
Gregory | デナリ 75 / 100
グレゴリーがこのフラッグシップモデルに、北米最高峰の名を冠した理由。それは、これを背負うこと自体が「生きて帰る」という静かなる意志表明になるからでしょう。
カタログスペックの重量を見て、少し怯んでしまうかもしれません。しかし、30kgを超える重装備を飲み込んだ瞬間、その「重さ」は「絶対的な信頼」へと質を変えます。独自のサスペンションシステム「フュージョン・フレックス・プロ」は、重力という物理法則をねじ伏せるかのように荷重を腰へと伝え、暴風雪の中での直立歩行を強力にサポートしてくれます。
特筆すべきは、この「デナリ100」にのみ与えられた大型フロントポケットの存在です。 ここは単なる収納ではありません。内側が高強度素材で徹底的に補強されており、ケースに入れない「裸のアイゼン」や、エッジの鋭いショベルブレードを無造作に放り込んでも、生地が裂けることはありません。雪まみれの鋭利なギアを隔離できるこの「頑丈な土間」の有無は、長期遠征でのストレスを劇的に軽減します。 もしここまでの容量が不要であれば、弟分の「デナリ75」を選ぶことも可能ですが、サイズダウンの代償として75にはこのフロントポケットが存在しない点に留意してください。
また、100リットルという深い闇のような気室へアクセスするために、サイドアクセス・ジッパーが備わっている点も見逃せません。吹雪の中で雨蓋を開け、奥底の装備を手探りする必要はありません。横からスマートに必要なものを取り出せるこの利便性は、巨体を操るための賢い「抜け道」です。
最新の軽量ザックがスポーツカーだとしたら、デナリは間違いなく戦車です。燃費は悪いかもしれませんが、どんな悪路でも必ず目的地へたどり着く、そんな揺るぎない相棒です。
推奨ユーザー:
- 重量の軽さよりも、「絶対に壊れない安心感」と「圧倒的な収納力」を最優先する方
- アイゼンやスノーシューなどの金物を、気兼ねなく外ポケットに放り込みたい方
- 1週間以上の長期縦走や、パーティーの共同装備を一手に引き受ける「歩荷(ボッカ)の鬼」
Macpac | カスケード 75
最新の化学繊維が競って「軽さ」を叫ぶこの時代に、マックパックは沈黙を守ったまま、独自の「強さ」を貫いています。その象徴が、ニュージーランド生まれのこのカスケードです。
最大の特徴は、メイン素材に使われている「アズテック」です。ポリエステルとコットンを混紡し、特殊なワックスで処理したこのアナログな生地は、水に濡れると繊維が膨張して目を塞ぎ、縫い目からの浸水を防ぐという、自然の理にかなった防水機能を持っています。
さらに、岩角や地面と接して最も消耗しやすい底部には、軍隊のタクティカルギアにも採用される高強度な「840デニールナイロン」を配置。濡れに強いアズテックと、物理的な破壊に強い極厚ナイロン。この適材適所のハイブリッド構造が、カスケードを「壊そうと思っても壊れない」領域へと押し上げています。
極寒の朝、バリバリに凍りついたナイロンの音に耳を塞ぎたくなった経験はありませんか? アズテックは凍りついてもその風合いを失わず、しなやかさを保ちます。 「リベレーターハーネス」による腰への荷重分散も秀逸で、重荷を背負っていることを忘れさせるほどのフィット感をもたらします。
「新品の時よりも、クタクタに汚れてからが本番」と言えるザックは、現代において絶滅危惧種です。 数年で加水分解を起こし、内側からボロボロと崩れゆく最新の軽量ザックを横目に、泥と油汚れを吸って凄みを増していくこの無骨な布の塊を背負い続ける。そんな、時代に逆行する偏屈な優越感を噛み締めたいのなら、カスケード以外の選択肢はありません。
推奨ユーザー:
- 道具の劣化や買い替えを嫌い、一つのザックを10年、20年と使い続けたい方
- 藪漕ぎや岩場など、ザックをラフに扱わざるを得ない環境に身を置く方
- 「最新の軽量ギア」よりも、「古き良き堅牢な道具」にロマンを感じる方
Mystery Ranch | テラフレーム 80
もしあなたが、「75リットルの袋には収まりきらない野望」を持っているなら、このザックが最終回答です。 ミステリーランチが誇るこのテラフレームは、一見するとただの頑丈な大型ザックですが、実は「オーバーロード・フィーチャー」という隠し機能を持っています。
背面のフレームと、ザック本体(袋部分)が分離し、その隙間に「荷物を挟み込む」ことができるのです。 この機能を使えば、通常のサイド取り付けではバランスの悪いスノーボードや、極太のファットスキー、あるいは濡れて畳めなくなったテントや焚き火台に至るまで、あらゆる「異物」をフレームと袋の間にサンドイッチして、重心近くでガッチリと固定できます。 「スキー専用のアタッチメントがない?」 そんな細かいことは気にならなくなります。なぜなら、挟んでしまえば何でも運べるからです。
フレームには、ハンティング(狩猟)用ザックの技術を転用した「ガイドライトMTフレーム」を採用。これは獲物の肉塊(50kg以上)を担ぐために設計されているため、雪山装備の30kg程度なら「軽い」と感じるほどの剛性を持っています。 正面には巨大な縦長のツインポケットがあり、ここにショベルの柄やプローブを差し込むことも可能。 「パッキングの美学」を超越した、力技の解決策。現代に蘇ったハイテクな「背負子」です。
推奨ユーザー:
- スノーボードやスノーシュー、パックラフトなど、嵩張る「遊び道具」を無理やりにでも担ぎ上げたい方
- 濡れたテントや汚れたシートを、メイン気室の乾いた着替えと完全に分けて運びたい方
- 「壊れるかもしれない」という不安を道具に対して一切抱きたくない、タフな愛用者
【日本ブランド】日本の雪山を知り尽くした名品(3モデル)
湿った重い雪、樹林帯のラッセル、そして日本人の体型。国内の特異な環境を研究し尽くして作られたバックパックは、やはり使い勝手のレベルが違います。細やかな気配りが光る、質実な信頼のラインナップです。
Paine (石井スポーツ) | ガッシャブルム

最新の人間工学? 通気性の良いメッシュパネル? そんな軟弱な機能は、このザックには一切存在しません。
あるのは「840デニールの分厚いナイロン生地」と「頑丈な縫製」、そして「荷物を入れる空間」だけです。
石井スポーツのオリジナルブランド「パイネ」が送り出すこのガッシャブルムは、80〜100リットルという超大容量でありながら、重量はわずか1.7kgしかありません。これは、快適なフレームやパッドを極限まで削ぎ落とした結果です。
背負い心地は、はっきり言って「過酷」です。荷物の重さはダイレクトに肩と腰にのしかかります。しかし、だからこそ「パッキングの技術」と「背負うための筋力」が問われるのです。中身を隙間なく詰め込み、自分の背中の形に合わせて形を整える。そうして初めて、このザックは身体の一部となります。
特筆すべきは、やはり「日本人の体型を知り尽くした設計」です。
欧米ブランドの大型ザックが「身長180cm以上のガタイの良い白人」を想定しているのに対し、このザックのショルダーハーネスのカーブや取り付け角度は、日本人の肩幅や背中のラインに完璧に沿うように作られています。「最新の海外製ザックより、結局これが一番疲れない」というベテランがいるのは、この圧倒的なフィッティングの良さゆえです。
テントの中で中身を出せば、背面パッドがないためペラペラの布になり、足元のマット代わりやシュラフカバーとしても使えます。
「便利だから」使うのではありません。「強いから」、そして「安いから(税込2万円台)」使うのです。これは道具ではなく、あなたを山男・山女にするための「養成ギプス」と言えるでしょう。
推奨ユーザー:
- 大学山岳部や探検部など、安価で頑丈な装備を求められる組織に属する方
- 「道具に頼るな、身体を鍛えろ」という伝統的なスタイルに共感するストイックな方
- 複雑なギミックを嫌い、針と糸さえあればどこでも修理できる単純さを愛する方
Ripen (アライテント) | マカルー80L
「ライペン(Ripen)」は、日本のテント界の至宝・アライテントが展開するバックパックブランドです。
この「マカルー」シリーズを一言で表すなら、「古き良きフレンチ・スタイルと、日本の職人芸の融合」でしょう。
同じ大容量の国産ザックでも、パイネのガッシャブルムが「運搬」を主眼に置いたズドンとした袋であるのに対し、マカルーはシュッとした縦長のシルエットをしています。これは、背負ったまま岩場を登り、狭い稜線を歩くことを想定した「アルパイン・クライミング」の系譜にあるデザインです。重心が高く、体の軸に近い位置で荷物を背負えるため、80リットルというサイズを感じさせないほどの軽快な操作性を持ちます。
そして何よりの信頼の証は、これが「テント屋の仕事」であることです。
命を守るシェルターを作るのと同じ厳しい基準で選ばれた生地、そして絶対にほつれないと定評のある縫製技術。もし山中で破損しても、アライテントなら確実に修理してくれるという安心感は、何物にも代えがたいスペックです。
背面にはフレームなどの硬いパーツは一切入っていません。あるのは薄いウレタンパッドのみ。 そのため、背負い心地を決めるのは「あなたのパッキング技術」そのものです。銀マットを筒状にして剛性を出したり、荷物を隙間なく詰めることで、初めてザックが背骨のように一本芯の通った道具になります。
「便利な機能」は何もありません。しかし、フレームが折れる心配も、曲がる心配もない。50年後も古びない「道具としての完成形」がここにあります。流行を追うのに疲れた岳人が最後にたどり着くのは、結局このザックなのかもしれません。
推奨ユーザー:
- 単なる「運搬」ではなく、雪稜や岩場を含むテクニカルな大縦走を志向する方
- 「アライテント」の品質に絶対的な信頼を置いており、道具を長く大切に使いたい方
- 最新のゴテゴテしたザックよりも、シンプルで美しいシルエットの「アルパインザック」を好む方
Montbell | アルパインパック 80
「冬山では強風で飛ばされるからザックカバーは使わない」。これは雪山登山者の常識ですが、モンベルはこのアルパインパックで、そのセオリーを夏山にまで拡張しました。 本体内側に独立した防水バッグ「アクアバリアサック」を内蔵しているため、雨の多い日本の夏山でも、面倒なカバーをかける必要がありません。一年を通じて「カバーを携帯しない」という身軽さは、一度味わうと戻れない革命的な体験です。
特筆すべきは、アウターとインナーが独立した「二重構造」ならではの裏技です。 フロントの大きなファスナーを開けると、アウターシェルと防水インナーの間に「隙間」が生まれます。雪まみれのシール、濡れたグローブ、結露したテントのフライシート……。乾いた荷物と一緒に入れたくない「濡れモノ」を、この隙間に放り込むことができるのです。これは、単純な防水生地の一枚仕立てのザックには真似できない、現場を知り尽くした利便性です。
また、サイドにはストレッチメッシュのワンドポケットを備えています。 「雪山用ザックにメッシュポケットは雪が詰まるから不要」という意見もありますが、このモデルのポケットは非常にスリムで、使わない時は本体に密着するため、雪の侵入は最小限です。 保温ボトルなどをサッと差せるこのポケットの存在は、「ガッシャブルム」や「マカルー」といったストイックな国産モデルにはない、現代的な「優しさ」と言えるでしょう。
推奨ユーザー:
- 「夏は雨、冬は雪」という日本の湿潤な気候に対し、一つのザックで完全に対応したい方
- 濡れた装備と乾いた装備を、ザック内部で明確に隔離してパッキングしたい方
- ストイックな「袋」も憧れるが、サイドポケットなどの最低限の利便性は捨てきれない方
【機能美と最新鋭】雪山特化のトレンドセッター(4モデル)
軽量かつ高強度な新素材や、雪山専用のギミックを搭載した次世代モデルたちです。アルパインクライミングやバックカントリーの要素を取り入れ、「軽さ」と「機能」を高い次元で融合させた、今選ぶべき最前線です。
Osprey | イーサープロ 75
「75リットルの大型ザックで、重量2kg前半」。この数字が意味する異常さがわかるでしょうか? 通常、このクラスの剛性を持たせれば3kgを超えるのが物理の法則です。しかし、オスプレーの技術陣は、魔法のような素材「ナノフライ(NanoFly™)」でその法則をねじ曲げました。 この素材は、軍用防弾ベストにも使われる超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)をリップストップに織り込んだもので、驚異的な軽さと、岩角で擦ってもビクともしない耐摩耗性を両立しています。
さらに、この最新モデル「プロ75」には、ストイックな軽量ザックには本来禁じ手であるはずの「サイドアクセスジッパー」が搭載されました(☞YouTube参考動画)。一本締めの寸胴型でありながら、横からガバッと開いて奥底のダウンジャケットを一瞬で取り出せる。これは「軽さ」と「便利さ」の二律背反を打ち破る革命です。
そして、このザックの真骨頂は「トランスフォーム(変形)」にあります。 アタック時には、雨蓋、ヒップベルトポケット、コンプレッションストラップをすべて取り外し、レインカバー代わりの「フラップジャケット」を展開することで、一瞬にしてシンプルかつ軽量なクライミングパックへと姿を変えます。
重荷を背負うアプローチでは要塞のように、核心部では羽のように。状況に合わせてその姿を変えるこのザックは、あなたにこう問いかけます。「今、本当に必要なものは何か?」と。
推奨ユーザー:
- アプローチの快適な運搬と、登攀時の軽快な動きを一つのザックで完結させたい欲張りな岳人
- 「軽いザックは脆い」という常識を捨て、最新マテリアルの恩恵を享受したい方
- パッキングの美学を持ちつつも、雪山での「サイドアクセスの速さ」が安全に繋がると知っている実戦派
Black Diamond | ミッション 75
通常、75リットルクラスの大型ザックと言えば、ガチガチに固められたフレームで「荷物を運搬すること」だけに特化した、ある種の拘束具のような背負い心地になりがちです。しかし、クライミングギアの王者ブラックダイヤモンドが作ると、話は変わります。
このザックの真髄は、独自の「スイングアーム・ショルダーストラップ」にあります。
左右のショルダーベルトが底部でリンクし、あなたの腕の動きに合わせてケーブルが滑らかに動くのです。急登でストックを大きく突いた時、あるいは岩場で手を高く伸ばした時、ザックが体の動きを邪魔せず、まるで皮膚のように追従します。「荷物が暴れない」のではなく、「荷物が一緒に動いてくれる」。この感覚は、大型ザックの常識を覆すでしょう。
背面パネルは、雪の付着を許さない滑らかなサーモフォーム(熱成形)です。メッシュを一切排除したその背中は、吹雪の中でラッセルを続けても、決して氷の板を作らせません。
アイゼンポケットやアックスホルダーの配置も、長年のアルパインクライミングの歴史に裏打ちされた「正解」の配置。余計な装飾を削ぎ落としたその姿は、機能美という言葉が最も似合う一品です。
推奨ユーザー:
- 縦走ルートの中に、鎖場や岩稜帯、ハシゴなどのテクニカルな要素が含まれる方
- 「歩く」だけでなく、全身を使って「登る」感覚を大切にしたい方
- 重荷を背負っていても、上半身の可動域を制限されたくないアクティブな方
Millet | プロライター 60+20
多くの登山者がこのザックを背負った瞬間、「あれ? 腰ベルトの位置が高すぎる」と違和感を覚えるはずです。しかし、それこそがミレーの狙いであり、アルパイニストがこのモデルを選ぶ最大の理由です。
通常のザックは「腰骨」を包み込んで重さを支えます。しかし、雪山の岩壁に挑むクライマーは、その腰骨に「ハーネス(安全帯)」を装着しなければなりません。普通のザックではベルトとハーネスが喧嘩し、腰にぶら下げたカラビナやスクリューが押しつぶされて取り出せなくなってしまいます。
だからこそ、プロライターはあえてベルト位置を上げた「ハイウエストベルト」を採用しました。「腰骨はハーネスに譲り、その上のくびれでザックを固定する」。この棲み分けにより、登攀中でも腰のギアへスムーズにアクセスできるのです。 それでも邪魔だと感じる極限のシーンでは、腰パッド自体を取り外し、ただのストラップ(紐)だけにすることも可能。「快適な運搬」を犠牲にしてでも、「墜落しないための動き」を優先する。これぞプロの道具です。
もちろん、パッキングへの配慮も抜かりありません。メイン開口部には、入り口をガバッと大きく広げる「ダイレクトアクセスジッパー」を搭載。嵩張るロープや凍ったテントも、引っかかることなくスムーズに胃袋へ飲み込んでくれます。
推奨ユーザー:
- 重荷を背負ったアプローチから、ハーネスを装着しての登攀までを一つのザックで完結させたい方
- 「腰で背負う」快適さよりも、足上げの良さやギアの取り出しやすさを最優先するクライマー
- 状況に合わせてパーツを外し、極限まで軽量化できる「可変性」にメリットを感じる方
EXPED | Thunder 70
「70リットルの荷物を入れたい。でもザック自体は軽くしたい。けれど、肩が痛くなるのは絶対に嫌だ」。そんなわがままな願いを叶えるために、スイスの技術者が開発したのが、この「サンダー」です。
最大の特徴は、背面を貫く一本のアルミステー、通称「T-Rex サスペンション」です。 恐竜の背骨のように中央に配置されたこのフレームは、あらゆる方向への身体の動きに追従しながら、荷物の重量をダイレクトに腰ベルトへと伝達します。ザック自体の重量はわずか1.6kgほどですが、耐荷重は驚異の24kg。
そして、雪山でのテント生活を一変させるのが、「フロントフルオープン」のギミックです。 パネルローディングのように前面がガバッと開くため、ザックの底に入れたダウンパンツや食料を、パッキングを崩すことなく一瞬で取り出せます。「寸胴型」のザックが抱える「下の物が取れないストレス」から完全に解放されます。
サイドとフロントには大型のストレッチメッシュポケットを装備。 「雪山でメッシュは雪がつく」と敬遠されがちですが、Expedのメッシュは目が細かく強靭で、スノーシューやワカンを強引にねじ込んだり、濡れたシェルを一時的に放り込んだりと、乱暴に使える実用性があります。
「軽さ」と「剛性」と「便利さ」。本来は共存できないはずの三要素を、スイスの緻密な設計が奇跡的なバランスで融合させています。
推奨ユーザー:
- UL(ウルトラライト)志向はあるが、フレームレスザックの「肩への負担」には耐えられない方
- テント内での整理整頓が苦手で、どこからでも中身にアクセスできる機能を欲している方
- 自分の背面長に合わせて、ミリ単位でフィッティングを調整したい繊細な感覚を持つ方
まとめ:ウェアを着替えるように、ザックも着替えろ

最後に、これから大型バックパックを手に入れようとしているあなたへ。
あなたは冬山に入る時、薄いレインウェアから厚手のハードシェルへと着替えるはずです。
それは単に「寒いから」ではありません。レインウェアでは防ぎきれない強風、滑落時の摩擦、そして氷雪の付着から身を守るために、より強固な「鎧」が必要だからです。
バックパックもまったく同じです。
夏用のザックを冬に使うことは、冬山でペラペラの雨具を着て歩くようなものです。それでは、自然の猛威に対してあまりにも無防備です。
雪山のザックには、分厚い生地、凍らない背面、そしてあなたを包み込む堅牢なフレームという「鎧」の機能が必要です。
夏山の常識を捨て、冬には冬の鎧を纏ってください。








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