靴紐は必ず緩む
どんなにしっかり登山靴の靴紐を結んだつもりでも、しばらく歩くと緩んできます。
登りではそのまま歩き続けたとしても、山頂に着いて、さあこれから下山しようというときにはしっかり締め直します。
無雪期にはいつでも気づいたら締め直せばいい。その行為が気を引き締める儀式となり、行程にある種のリズムを与えてくれます。
雪山で靴紐を締め直すのは難しい
一方、積雪期にはロングスパッツ(ゲイター)で覆った上にアイゼンバンドを締めるので、余程のことがない限り、それらを全部くつろげて靴紐を締め直そうとはしません。
本当は雪山でアイゼンをはいて下山するときほど、足元がぐらつかないよう靴紐をしっかり締めたいにもかかわらずです。
ほどけない結び方の問題ではない
こういう話になると、しばしば「ほどけない結び方」あるいは「ほどけにくい結び方」の問題にすり替えがちです。
しかし、結び目の中を靴紐が自在にスライドして緩むわけではないはずです。
登山口でしっかり締めたはずの靴紐が山頂に着くころには緩んで、靴の中で足が遊ぶようになるのはなぜか。
漠然と「足の甲は強く締めて、足首まわりはやや緩めに締める。歩くうちに足首側の緩みが爪先にまで伝わって全体が緩むのだろう」と考えていました。
これは事実なのか。目に見える形で確かめてみることにしました。
高尾山で観察してみた
登山口でマーキングした
いつもの山幸のオリジナル軽登山靴がモデルです。登山口のベンチにすわって、マジックペンで要所にマーキングしました。
- 爪先の中央1箇所
- D環の金具をまたぐ6箇所
- フックの上側の出口8箇所
- 蝶結びの根本2箇所
稲荷山尾根から山頂へ
赤い夕空を背景にして、雪をまとった富士山を望むことができました。
山頂でマーキングの移動を確認した
爪先側
写真の角度や、光の反射でわかりにくいですが、実際に目視した範囲では両足とも、
- D環の4段目はほとんど動かない
- 2段目と3段目がやや足首側へ移動
という結果となりました。
登山靴の靴紐を締めるとき、D環4段目から出ている紐を少々強く引いたくらいでは、いちばん爪先は締まりにくい。1段ずつたぐって締め付けたほうがよいくらいです。先端の緩みがD環4段全体に伝わって、マーキングの移動となってあらわれたと考えられます。
と言うことは、「爪先側のD環4段分の緩みは足首側とは独立している」ということです。これは意外でした。
足首側
フックの全ての段が爪先側へ動きました。
驚いたのは、蝶結びの根本のマーキングが移動したことです(右足の写真がわかりやすい)。先に「結び目の中を靴紐が自在にスライドして緩むわけではないはず」と書きましたが、まるでスライドしたかのような現象が起こっていました。その移動量がそのままフック部分の移動量となったかに見えます。
おそらく体重(腕力よりもずっと強い力)がかかって結び目が強く締まったのでしょう。
靴紐の緩みはどんどん進行するのか
山頂で緩みを感じましたが、あえて締め直しませんでした。
下山し、電車に乗り、自宅に戻るまで観察したところ、山頂で確認した緩みはそれ以上進行しませんでした。
おそらく歩き始めてしばらくすると、緩むべきところはすべて緩んでしまい、それ以上は進行しないということでしょう。
観察結果の整理
実験前、「足の甲は強く締めて、足首まわりはやや緩めに締める。歩くうちに足首側の緩みが爪先にまで伝わって全体が緩むのだろう」という予見を持っていました。
その予見は一部で当たり、一部で外れました。
- 爪先側の緩みはD環4段内で独立している。
- 靴紐が緩んだと感じるとき、足の甲部(特にフックの下部2段)が緩んでいる。
- 足の甲部が緩む原因(の一部?)は、結び目から5mm~10mm程度靴紐が引っ張り出されることである。
解決方法
最近の靴だと足の甲から足首にかけて屈曲するあたりにストッパーがあって、そこで靴紐のスライドを食い止めます。だから「足の甲と足首とで締め具合を変えることができる」と言われます。が、いくらストッパーがあるとはいえ、靴紐を金具で押さえつけているだけですから、体重がかかると少しずつズレていきます。
靴紐が弛みにくいと言われる平紐を使おうが、足の甲部で1回交差させようが、あくまで「緩みにくい」であって、体重をかけて長時間歩けば「必ず緩む」と言えます。
解決方法は
- 足首まわりを普通考える以上に強く締める
- 「足の甲と足首とで締め具合を変える」という従来の理論を無視する
くらいしか思いつきません。
最初はすこし歩きづらくても、しばらく歩くと丁度良くなり、下山するまで一度も締め直す必要がないのが理想です。特に雪山ではそうしたい。
実験後、また高尾山に登る機会がありました。登山口で足首まわりをきつく締めてみたところ、山頂での緩みはやはり少なかったです。もっともっと強く締め付けて良いと感じました。このあたりの感覚は山行を重ねながら磨いていきたいと思います。
コメント