登山用レインウェアの撥水性が運命を左右する

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レインウェア表面の撥水性が失われて、表地が保水したり、水の膜ができたりすると、どんなに透湿性・通気性が高いメンブレンを採用していても、たちまち蒸れて内側から濡れてしまいます。

撥水性は、防水透湿メンブレンではなく、表地の性能に依存します。各社、耐久撥水(DWR)を謳っていますが、生地の摩擦や汚れで撥水基が倒れると、いとも簡単に性能を失います。

撥水性と防水性のちがい

撥水性(はっすいせい)とは

表面で水をはじく性質のことです。

レインウェアや傘などの生地の表面に、フッ素やシリコンなどの撥水加工を施すことで、水を玉状にはじいて転がり落とすようになります。

特徴:傘の表面に水玉がコロコロ転がる感じ

  • 水が染み込まず、生地の表面で水滴となって転がる
  • 空気や水蒸気は通す(通気性あり
  • 時間とともに効果が低下(洗濯や摩擦により撥水加工が劣化)
  • あくまで「水を弾くだけ」であり、強い雨や長時間の雨には弱い

防水性(ぼうすいせい)とは

水を一切通さない性質のことです。

素材そのものや裏地に防水フィルム(メンブレン)を貼り付けたり、縫い目にシームテープを貼ることで、完全に水の侵入を防ぎます。

特徴:ビニール袋のように水を完全に通さない

  • 水を中に通さない(水圧に耐えられる)
  • 通気性はないか、あっても制限される
  • 長時間の豪雨でも水が染み込まない
  • ゴアテックスなどは「防水透湿」の代表例(雨は防ぐが汗の蒸気は出す)

撥水性が運命を左右する

撥水性を失ったレインウェアでは、激しい雨から体を守ることができません。

ドキュメント 気象遭難/羽根田治」の「夏・台風・トムラウシ山-低体温症」の章にこんな一節があります。

余談だが、弓削の服が濡れずにすんだのは、雨具の手入れがよかったからだという。弓削は山行によって雨具を変え、山行後には必ず防水スプレーを吹きつけてアイロンをかけていた。ほかの三人は、ゴアテックスの雨具を使っていたが、メンテナンスはほとんどしていなかった。その差は歴然で、三人の雨具にはすぐに雨が染みこんできてしまったのに、弓削の雨具はほぼパーフェクトな防水性を発揮したのだった。

撥水性の有無だけが生死を分けたわけではありません。が、人生にはいつか撥水性が運命を左右する瞬間が訪れると肝に銘じましょう。

撥水性を維持する

撥水の仕組み

撥水基と呼ばれる「水をはじく性質(水との親和性が低い性質)」をもつ化学基(官能基)が、繊維や素材の表面に存在することで、水を玉のようにはじく撥水性が生まれます。

蓮の葉が水玉をはじくのと似た原理です。
☞「ロータス効果(Lotus Effect)

新品のレインウェアは雨粒をコロコロと弾きますが、メンテナンスせずに使い続けると水がじっとりと染み広がるようになります。

それは何故か。撥水基が寝てしまったり、撥水基のうえに汚れや油分が付着して、水を弾かなくなるからです。

状態 説明
撥水基が「立っている」 撥水基(例:フッ素基など)が素材表面にきちんと整列し、水と接触する面に露出している状態。これにより水を強くはじく。
撥水基が「寝ている」 撥水基が摩耗・汚れ・折れ曲がりなどで内部に倒れ込んだり隠れたりし、表面に出てこない状態。水との接触が弱まり、撥水性が低下する。

撥水性を復活させる

撥水性は洗濯と加熱によって復活します。

  1. まず、土汚れや油汚れを洗濯で除去して、撥水基を露出させる。
  2. 次に、アイロンがけや乾燥機で加熱すると、倒れていた撥水基が立ち上がる。

しかし、この復活劇を永久に繰り返すことはできません。

  • 撥水剤が洗濯や摩擦で物理的に削れる。
  • 撥水剤が紫外線や洗剤成分で化学的に分解される。

といった理由でしだいに神通力を失うことになります。

市販の撥水スプレーや撥水剤を利用すれば、ある程度回復させることができます。

年に一回くらい、専門の業者に撥水処理を依頼してもよいでしょう。

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メンテナンスの副作用に注意

レインウェアの「洗濯」や「加熱処理(アイロン・乾燥機)」が効果的とされている一方で、それによって生じる副作用的なリスクも無視できません。

登山用レインウェアの内部には「シームテープ」と呼ばれる防水処理が施されています。これは縫い目からの浸水を防ぐために貼られたテープであり、防水性を担う生命線ともいえるパーツです。

熱に弱い構造

  • シームテープは熱接着で取り付けられているため、高温(60℃以上)で加熱しすぎると剥がれるリスクがあります。
  • 特に古くなったウェアでは加水分解や接着剤の劣化により、洗濯や乾燥機の熱で剥離が加速する可能性があります。

適切なケア方法と注意点

処理 効果 リスク 対処・推奨方法
洗濯(撥水専用洗剤) 汚れ除去・撥水力回復 洗浄力が強すぎるとコーティングやテープを劣化させる 中性の専用洗剤を使い、すすぎを十分に行う
乾燥機 撥水機能の活性化(熱処理) テープ剥がれや生地の縮み 低温設定(40℃前後)+短時間を厳守
アイロン 撥水性能を高める(再活性化) 焦げ・テープ浮き あて布使用+低温+短時間+縫い目は避ける
撥水スプレー 表面撥水の回復 特になし(ただし塗りムラ注意) 洗濯後の完全乾燥時に均一に噴霧

まとめ

びしょ濡れの犬が勢いよく体を振って水を飛ばす、あの動作を真似できたらいいのに……。

それが叶わぬ私たち人間は、地道に撥水性のメンテナンスにいそしみましょう。

〇〇ハックでは読めない登山用レインウェアの選び方
レインウェアは常時着用せず、行動中はザックのなかに収納する。山に出かけて帰宅するまで、一回も使わないことさえあります。そのため軽量コンパクトさが優先される傾向にあります。内側にたくさん着込むことを想定しないため、シルエットは比較的細身です。
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