ぬいぐるみが女子高生のカバンにぶら下がるように、サーモコンパスはいつも雨蓋のファスナースライダーにぶら下がっていました。ザックを買い替えるたびに、はたまたザックを使い分けるたびに、こっちの雨蓋からあっちの雨蓋へと居場所を変えて、長年寄り添ってきました。
古いサーモコンパス
古いサーモコンパスのコンパス部分が脱落した
2016年末、雪山登山に復帰しました。帰宅し、荷物をひろげているとき、サーモコンパスのコンパス部分が脱落していることに気づきました。別に激しい登攀で岩角にぶつかけたわけでもなく、普通の雪稜歩きだったのに。
30年以上前に買った品物ですが、アナログなオイルコンパスとアルコール式の温度計なので見た目には何の故障もありませんでした。コンパスは丸いくぼみに接着されており、それが経年劣化と急激な温度変化によって剥がれ落ちたのでしょう。
雪山から「おう、よく戻ってきたな」と手荒く肩を叩かれた気分です。
松田宏也さんのジップオーゲージ
サーモコンパスを買うきっかけは、「ミニヤコンカ奇跡の生還」で知られる松田宏也さんの写真(「足よ手よ、僕はまた登る」の口絵写真)でした。義肢で上高地を散策する松田さんはお仲間から借りた青いパーカとパンツ(モンベルのドロワットシリーズかドリューシリーズ?)を着ています。わずか数年で人間がここまで恢復できるものなのかと驚くと同時に、両胸にナポレオンポケットを備え、要所を黒地に切り替えたパーカのモダンさに目を惹かれました。そして、フロントファスナーのスライダーにぶら下がっているジップオーゲージに目が留まりました。
松田さんがぶら下げているのはジップオーゲージ(温度計のみ)ですが、私はサーモコンパス(温度計+方位磁石)をぶら下げたくなりました。
「ジャケットのファスナーに付けておけば、わざわざポケットから出さなくても、こまめに方位を確認できる」
風雪のなかではこの手軽さがありがたい。温度計も気候の変動を客観的に知るのに役立ちます。「こんな極寒の状況で俺は頑張ってるぜ」と自己満足にひたるのに役立ちます。
山と渓谷2022年10月号で久しぶりにお姿を見せてくれました。
古いサーモコンパスをぶらさげた写真
仲間と伯耆大山に出かけたときの写真です。雪に埋もれた豪円山キャンプ場にテントを設営して、ゲレンデスキーと登山を楽しみました。サーモコンパス以外にもいろいろ興味深いモノが写っています。
ルーマゲージ
モンベルストア(実店舗)で、SUN社のOEMらしい「ルーマゲージ」を購入しました。蓄光タイプです。
ルーマゲージのパッケージ
- サイズ:51mm×28mm
- 重量:10g
- 温度計:-30℃~50℃
- コンパス:オイル入り、蛍光指針
ルーマゲージのクローズアップ
参考までに古いサーモコンパスのクローズアップも掲載します。
方位と温度の精度を比較してみた
方位
方位は本格的なコンパス(SUUNTO A-30)と比較して特に問題ありません。
ただし、
- 躯体の傾きに影響を受けやすい。
- 手にとってパッと見たとき、磁針が小さいので安定しにくい。
- 小さいぶん見にくい。
というデメリットがあります。あくまでも大まかに方位を確認する用途に限定されます。
温度
室温
温度計は大型の温度計と比較して特に問題ありません。古いサーモコンパス、ルーマジップ、温度計、いずれも約24℃(室温)を指しています。
冷凍庫
冷凍庫で一晩寝かせてみたら、いずれも約-6℃を指しました。磁針の動きは滑らかでした。
これまでサーモコンパスを雪山で使ってきた経験では、温度計は-10℃あたり示すことが多かったので、精度はなかなかのものだと思います。
蓄光を確認してみた
蛍光灯の強い光に当てたあと、照明を消す前後の写真です。明るい光のもとでも緑がかっているのがわかります。暗くすると、躯体全体が発光します。
コンパスの東西南北もわずかに光りますが、暗い場所で見極めるのは大変そうです。
プラスアルファを求めてルーマゲージを購入しましたが、今後もし買い足すならサーモコンパスで十分だと思いました。
まとめ
本格的な登山でプレートコンパスの予備として、ザックやジャケットのファスナーにぶら下げるのはもちろん、ゆる登山専門の人でもサーモコンパスくらい携行したいところです。今日は暑い、寒いなんて会話に客観性を提供してくれます。人里近いクライミングやボルダリングのエリアで岩のコンディションを読むのにも役立つでしょう。
こうしたジッパー装着タイプはSUN社が元祖で、日本でもさまざまな販売元がOEM製品を出しています。
国内で長年コンパスを製造するYCMコーポレーションも似た商品を出しています。
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