登山用レインウェアにおける防水透湿素材の独自研究

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登山用レインウェアに必要な耐水圧と透湿性

「外部からの水の侵入を許さない防水性」≒「耐水圧」については、登山用品店に並んでいるレインウェアならば五十歩百歩……と言ったら言い過ぎかもしれませんが、よほど長時間、強い雨に打たれ続けるのでなければ差を感じにくい部分です。

雨は強くても1,000~1,500㎜くらい。耐水圧20,000㎜以上であれば、よほど過酷な状況以外では違いを実感できない。1,500㎜以上の水圧の雨が降ってきたら、痛くて立っていられないと言われます。

耐水圧と、対応可能な雨の強さはおおよそ以下の通りです。

耐水圧 雨の強さ
20,000mm
10,000mm 大雨
2,000mm 中雨
300mm 小雨

運動強度による発汗量はおおよそ以下の通りです。

運動強度 発汗量
(1時間あたり)
発汗量
(24時間あたり)
大人安静時 50g 1,200g
軽い運動 500g 12,000g
ランニング等の
激しい運動
1,000g 24,000g

本格的な登山では耐水圧20,000mm以上、透湿性能20,000g/m²・24hrs以上の製品をおすすめします。

防水透湿素材の比較表

素材名 メーカー 構造 耐水圧 透湿性(試験方法) 特徴 情報源
GORE-TEX ゴア社(米国) ePTFE / ePE系3レイヤー 不明 不明 世界標準。バランス型の定番素材 GORE公式
eVent BHAテクノロジーズ ePTFE系3レイヤー 30,000mm 約22,000g/m²/24h(ASTM E96 B法) 直接換気構造、高い通気性と防水性 eVent公式
エントラント 東レ(日本) PU系2〜3レイヤー 15,000mm 約25,000g/m²/24h(JIS L 1099 A-1法) 柔らかく快適な着心地、蒸れにくい アメトハレ
ドライテック モンベル PU系2レイヤー 20,000mm以上 約8,000〜15,000g/m²/24h(JIS L 1099 B-1法) 軽量・携帯性。入門モデル向け モンベル公式
スーパードライテック モンベル PU系3レイヤー 20,000mm以上 50,000g/m²/24h(JIS L 1099 B-1法) 高透湿・軽量・ストレッチ性あり モンベル製品
パーテックスシールド パーテックス(英国) PU系2〜3レイヤー 20,000mm 約20,000g/m²/24h(JIS L 1099 A-1法) 軽量、柔軟、耐久性、通気性に優れる Pertex公式
ネオシェル ポーラテック(米国) エレクトロスピニングPU 3レイヤー 10,000mm 通気性:1 CFM 高い通気性と防水性、柔軟で快適な着心地 Polartec公式
ドライQエリート マウンテンハードウェア(米国) ePTFE系3レイヤー 40,000〜45,000mm 28,000〜40,000 g/m²/24h(ASTM E96 B法)

通気性:0.05 CFM

蒸れにくくドライ感が強い マウンテンハードウェア公式
エバーブレス ファイントラック PC-PU系3レイヤー 20,000mm 約10,000g/m²/24h(JIS L 1099 A-1法) 耐久性・ストレッチ・耐加水分解性 finetrack公式
H2No パフォーマンス
・スタンダード
パタゴニア PU系2.5〜3レイヤー 不明 不明 環境配慮型、コストパフォーマンスに優れる Patagonia公式
フューチャーライト ノースフェイス ナノスピニングPU 3レイヤー 不明 不明 高通気性、柔軟性、静音性、PFASフリー TNF公式
ハイベント ノースフェイス PU系2.5レイヤー 20,000mm 約10,000〜15,000g/m²/24h(JIS L 1099 A-1法) 旧DryVent。廉価帯に多く採用 Alpine Trek
ドライエッジ ミレー(仏) PU系3レイヤー 30,000mm 50,000g/m²/24h(JIS L 1099 B-1法) ティフォンモデルは極薄で高性能 ミレー公式

参考までに耐水圧や透湿性の数値を記載しましたが、同じ素材名(たとえば「GORE-TEX」や「DRYEDGE」)であっても、製品によって耐水圧や透湿性のスペックが異なります。製造法や構成レイヤー、表地の組み合わせが製品ごとに調整されているからです。

メンブレン(膜)の種類や厚みが違う

  • たとえばGORE-TEXには「Pro」「Active」「Infinium」など複数のバリエーションがあり、それぞれ膜の構造や厚み、性能が異なります。
  • DRYEDGEにもスタンダードなPU系から、ストレッチ性を強化した高性能版まで複数あります。

表地と裏地の選定が異なる

  • 防水透湿素材は「メンブレン単体」では機能せず、「表地+メンブレン+裏地」のラミネート構造で性能が決まります。
  • 特に表地の素材(ナイロン、ポリエステル、厚み、撥水加工)によって、通気性や蒸れやすさ、強度が変わります。

製造条件やラミネート方式の違い

  • 同じメンブレンでも、どのように生地に貼り付けるか(ラミネート方法)によって、最終的なスペックが変化します。
  • フィルムの張力や温度、接着剤の種類などが性能に影響します。

試験方法や測定基準の違い

  • JIS L 1099 A-1法(カップ法)
    空気層から空気層に透湿した水蒸気量を測定するもので、最も実着用時に近い方法といえる。
  • JIS L 1099 B-1法(水分移動法)
    膜をはさんで水から酢酸カリウム溶液への透湿値を測定するもので、膜が直接水に接するため高い値が出やすい。特に親水性の高いポリウレタン無孔質膜ではかなり有利

    finetrackホームページより引用

  • ASTM E96(US規格)
    北米規格。水蒸気の移動量を測定する。JIS法よりも厳しめ。乾燥剤法(Desiccant Method)と水法(Water Method)がある。

MVTRとは
Moisture Vapor Transmission Rate
(モイスチャー・ヴェイパー・トランスミッション・レート)
「水蒸気がどれだけの速度で素材を通り抜けるか」を表す指標です。

防水透湿素材の独自研究

ゴアテックス(GORE-TEX)

防水透湿素材の代表格ゴアテックスは、耐水圧や透湿性の具体的な数値を公開していません。透湿性については古くから13,500g/m2/24hrsという数値が流通していました。日本ゴア株式会社のサイトではその数値を見つけることができません。

他社の防水透湿素材のほとんどがJIS L-1099B-1法でテストしているのに対して、ゴアテックスはJIS L1099B-2法でテストしていることが、透湿性の比較をより難しくしていました。

しかし、モンベルが2018年春夏カタログで「B-1法による参考値」を公開しました。

2017~2018 Fall & Winter Clothing Catalog
1平方センチメートルに約14億個もの微細な孔(0.2ミクロン)を持つ、世界最高水準の防水透湿素材です。3レイヤー地で耐水圧45,000㎜以上、透湿性13,500g/m2・24hrs(JIS L-1099B-2法)を初期値(参考値)で達成、洗濯20回後もその性能をキープします。
2018 Spring & Summer Clothing Catalog
1平方センチメートルに約14億個もの微細な孔(0.2ミクロン)を持つ、世界最高水準の防水透湿素材(耐水圧50,000㎜以上、透湿性25,000~98,000g/m2・24hrs JIS L-1099B-1法・参考値)です。洗濯20回後もその性能をキープします。

ゴアテックス社の内部情報を無造作にカタログに載せたのか、モンベルが独自にテストした結果なのかは不明です。天下のモンベルがカタログに掲載した数値ですから、信頼性が高いと言えるでしょう。

透湿性の幅が広いのは、ゴアテックスの種類によるちがいです。

製品の例/ゴアテックスの種類 防水透湿性 仕様
ストームクルーザー ジャケット
ゴアテックス C-NITバッカー
耐水圧50,000mm以上
透湿性35,000g/m²・24hrs
【平均重量】254g
(3レイヤー・20デニール)
レインダンサー ジャケット
ゴアテックス ファブリクス3レイヤー
耐水圧50,000mm以上
透湿性25,000g/m²・24hrs
【平均重量】335g
(3レイヤー・50デニール)
トレントフライヤー ジャケット
ゴアテックス パックライトプラス
耐水圧50,000mm以上
透湿性44,000g/m²・24hrs
【平均重量】179g
(2レイヤー・12デニール)
ピーク ドライシェル
ゴアテックス シェイクドライ
※生産終了
耐水圧50,000mm以上
透湿性80,000g/m²・24hrs
【平均重量】185g
(表生地なし・2レイヤー)
サイクル ドライシェル
ゴアテックスシェイクドライ
※生産終了
耐水圧50,000mm以上
透湿性98,000g/m²・24hrs
【平均重量】171g
(表生地なし・2レイヤー)
バーサライト ジャケット
ゴア ウインドストッパー
耐水圧30,000mm以上
透湿性43,000g/m²・24hrs
【平均重量】134g
(2レイヤー・10デニール)
ストリームパーカ
※ハードシェル
ゴアテックス プロ
Panmah Jacket パンマージャケット
※ノースフェイス
ゴアテックス アクティブ C-NITバッカー
Weight:約250g(Lサイズ)
15デニール

2023年、ゴアテックスの素材がePTFE(拡張ポリテトラフルオロエチレン)から、PFCフリーで環境負荷の少ない新素材としてePE(拡張ポリエチレン)に変わりました。

  • モンベルは2024年春夏カタログまでゴアテックスと自社新開発のスーパードライテックを補完的に採用していました。
  • モンベルは2025年春夏カタログでついに主力商品ストームクルーザーの素材をスーパードライテックに切り替えました。ePE版ゴアテックスのレインウエアはハイエンドモデルとして傍流?に追いやられました。

ePE版ゴアテックスの防水透湿性は、紙のカタログには見当たらず、オンラインショップの製品ページでのみ知ることができます(ゴア社に忖度して、いつでも消せるように?)。

製品の例/ゴアテックスの種類 防水透湿性 仕様
テンペスト ジャケット
ゴアテックス C-NITバッカー
耐水圧: 20,000mm以上
透湿性: 20,000g/m²・24hrs
【平均重量】247g
(3レイヤー・20デニール)
※旧ストームクルーザー相当
レイントレッカー ジャケット
ゴアテックス ファブリクス3レイヤー
耐水圧: 20,000mm以上
透湿性: 20,000g/m²・24hrs
【平均重量】301g
(3レイヤー・50デニール)
※旧レインダンサー相当
ピークシェル ジャケット 耐水圧: 20,000mm以上
透湿性: 20,000g/m²・24hrs
【平均重量】185g
(3レイヤー・15デニール)
※3レイヤーでこの軽さは
まるでゴアテックス アクティブ
同じB-1法による性能値が堂々と記載されています。透湿性が下がったのは間違いなく、それを補うかのようにテンペストジャケットでは脇下にピットジップによる換気ファスナーが付きました。

イーベント(eVent)

eVentは、米国で開発された高透湿性能の防水素材で、1999年にBHA Technologies社が開発し、後にGeneral Electric(GE)に買収されました。現在は独立した企業体として展開しています。

  1.  エアパーミアブル構造(Air Permeable)
    eVent最大の特徴は、「空気が通るのに水は通さない」という構造。一般的なPU系素材とは異なり、「常時透湿(Direct Venting)」を可能にする多孔質のePTFE膜を採用しています。汗をかく前から透湿が始まるため、快適性が非常に高いです。
  2. PUコーティングなし
    GORE-TEXはePTFE膜の上に親水性PU層をラミネートして汗の塩分対策をしますが、eVentはPU層を使わず、メンブレンの疎水処理と繊維構造で直接透湿を可能にしています。
  3. その結果:
    → 通気性が高く蒸れにくい
    → 目詰まりしやすくメンテナンスが重要(DWRの維持が必須)
項目 数値(モデルにより異なる)
耐水圧 約20,000〜30,000 mm
透湿性(MVTR) 約20,000〜30,000 g/m²/24h
空気透過性(CFM) 約0.1〜0.5 CFM
RET値(低いほど快適) 4以下

2020年代以降、eVent採用モデルは減少傾向にあります。

エントラント

東レは2017年に、従来の「エントラント(Entrant®)」シリーズに新たなバリエーションとして「高通気タイプ」を開発・発表しました。この新素材は、従来品と比べて約50倍の通気性を実現し、衣服内の蒸れを大幅に軽減することが可能となりました。

通気性の飛躍的向上

従来のエントラント素材は、微多孔構造の疎水性ポリウレタン樹脂を生地にコーティングまたはラミネートすることで、防水性と透湿性を兼ね備えていました。新たに開発された高通気タイプでは、防水透湿層の孔径を従来比3~5倍に拡大し、約50倍の通気性を実現しています。これにより、運動時の衣服内の蒸れを効果的に軽減します。

防水性とストレッチ性の両立

高通気タイプは、耐水圧2000~3000mmの防水性能を維持しつつ、東レ独自の柔軟性の高いポリウレタン系樹脂を採用することで、ソフトなストレッチ性を持たせています。これにより、動きやすさと快適性が向上しています。

幅広い用途への展開

この高通気タイプは、スキーやアウトドアなどの本格的なスポーツ用途だけでなく、トレイルランニングや自転車などの新たなスポーツシーン向けのアイテム、さらにはライフスタイルウェア向けなど、幅広いシーンでの活用が期待されています。

ドライテック(DRYTEC)

ドライテック

モンベルの独自素材「ドライテック」は、耐水圧:20,000㎜以上、透湿性:8,000~20,000g/m²・24hrs(JIS L-1099B-1法)とされています。

正確な登場年は不明ですが、モンベルのレインウェアのフラッグシップモデル「ストームクルーザー」は1982年に誕生し、当初から独自の防水透湿素材が使用されていました。

ブリーズドライテック

ブリーズドライテック」は、メンブレン自体が疎水性(疎脂性)をもつため余分なコーティングが不要で、通気性を確保したと言われています。ウェアではなく、「ブリーズ ドライテック スリーピングバッグカバー」に採用されました。

ブリーズドライテック プラス

「ブリーズドライテックプラス」は、旧ゴアテックスと同じePTFE素材を使用。同じ「ドライテック」を冠しながら、実態はまったく別の構造と性質をもったメンブレンだと言えます。ウェアには採用されず、シングルウォールテント「マイティドーム」に採用されました。このテントはもともとX-TREK(ゴアテックス)を採用していました。X-TREKの製造中止を受けて、独自に素材を調達したと推定されます。

スーパードライテック(SUPER DRYTEC)

モンベルの独自開発による防水透湿素材「スーパードライテック」は、2024年春夏シーズンに登場しました。この素材は、従来の「ドライテック」をさらに進化させたもので、高い透湿性と軽量性を兼ね備えた3レイヤー構造のレインウェアとして開発されました。

  • 優れた透湿性:透湿性は20,000〜60,000g/m²・24hrs(JIS L-1099B-1法)と非常に高く、衣類内の蒸れを効率的に外へ逃がします。
  • 高い防水性:耐水圧は20,000mm以上で、雨や雪の侵入をしっかり防ぎます。
  • 軽量性としなやかさ:3層構造でありながら、軽量で柔らかな着心地を実現しています。
  • 環境への配慮:フッ素化合物を使用せず、裏地には植物由来のナイロンを採用するなど、環境にも配慮した素材です。

特に注目されたのは、2024年春夏に発売された「スーパードライテック ピークシェルジャケット」で、透湿性50,000g/m²・24hrs、耐水圧20,000mm以上という高性能を実現し、モンベル史上最軽量の3レイヤーレインウェアとして話題となりました。

その後、2025年春夏シーズンには、モンベルの代表的なレインウェア「ストームクルーザー」にもスーパードライテックが採用され、従来のGORE-TEX素材に代わる新たな選択肢として注目を集めています。

パーテックスシールド(Pertex Shield)

パーテックス(Pertex)は、英国発の高機能素材ブランドで、防水透湿性と軽量性に優れた素材を展開しています。その中でも「パーテックスシールド(Pertex Shield)」「パーテックスシールドプロ(Pertex Shield Pro)」「パーテックスシールドエア(Pertex Shield Air)」の3種類は、用途や性能に応じて使い分けられています。

パーテックスシールド(Pertex Shield)

  • 特徴:
    軽量性と柔軟性を兼ね備えた防水透湿素材で、主に2.5層構造を採用しています。親水性ポリウレタン無孔膜を使用し、汗などの水蒸気を吸収・拡散・蒸発させることで透湿性を発揮します。軽量でコンパクトに収納できるため、トレイルランニングや登山などのアクティビティに適しています。
  • 耐水圧: 10,000mm
  • 透湿性: 7,000g/m²/24h
  • 参考:「TECHNOLOGY – THE NORTH FACE

 パーテックスシールドプロ(Pertex Shield Pro)

  • 特徴:
    耐久性と防水性を高めた3層構造の素材で、ポリウレタン多孔質ラミネート膜を採用しています。長期間の使用や過酷な環境下でのアクティビティに適しており、耐久性と透湿性のバランスが取れています。
  • 耐水圧: 20,000mm
  • 透湿性: 10,000g/m²/24h(A-1法)、17,000g/m²/24h(B-1法)
  • 参考:「Walker Shell Jacket – Hiker’s Depot

パーテックスシールドエア(Pertex Shield Air)

  • 特徴:
    通気性を重視した3層構造の素材で、ナノファイバーメンブレンを採用しています。ミクロ単位の無数の穴を持つ多層構造膜により、湿気や熱気をダイレクトに排出し、高温多湿な環境でも蒸れにくいのが特徴です。軽量でしなやかな着心地を提供し、トレイルランニングや登山などのアクティビティに適しています。
  • 耐水圧: 10,000mm以上
  • 透湿性: 10,000g/m²/24h(A-1法)、20,000g/m²/24h(B-1法)
  • 通気性: JIS 1096 A法で0.2cc/(cm²·s)
  • 参考:
    通気性がもたらした全天候型ウエアの可能性 – GOLDWIN
    UL All-weather Hoody – 山と道」では、通気性や透湿性についてもっと高い数字が記載されています。

ネオシェル(NeoShell)

ポーラテック社が開発した素材。通気性の高さと、伸縮性の高さを謳っています。耐候性生地についてのページで製造方法に言及しています。

“NeoShell builds on Power Stretch Pro’s pioneering electrospun membrane technology with an innovative approach to weather protection.”

「NeoShellは、Power Stretch Proの先駆的なエレクトロスピニングメンブレン技術を基盤に、革新的な耐候性アプローチを採用しています。」

ポーラテック社は透湿性の具体的な数値を公表していません。アイスランド発のアウトドアブランド「66°North」のサイトで、通気性に言及しているページを発見しました。

Polartec Neoshell - 66°North | 66°North GB
The world's most breathable waterproof fabric technology.

Technical specifications

  • Waterproof (hydrostatic head): 10,000mm
  • Air permeability: Max 1CFM
  • Windproof: Blocks 99% of wind
  • Hydrophobic and microporous PU membrane with a tightly controlled pore size to enhance breathability and air flow
  • Durable, More supple and with a softer, quieter handle than most waterproof fabrics

技術仕様

  • 防水性(耐水圧):10,000mm
  • 通気性:最大1 CFM
  • 防風性:風の99%を遮断
  • 疎水性かつ微細孔性のポリウレタン(PU)メンブレンを採用。孔のサイズを厳密に制御することで、通気性と空気の流れを向上。
  • 耐久性が高く、一般的な防水素材よりもしなやかで、柔らかく静かな質感。

「通気性:最大1 CFM」は、ネオシェルの最大の特徴のひとつであり、他の防水透湿素材(GORE-TEXやeVentなど)と明確に差別化される技術です。

「1 CFM」とは何か?
CFM = Cubic Feet per Minute(立方フィート毎分)
→ 「1分間に1平方フィートあたり、何立方フィートの空気を通すか」という単位。
ネオシェルは、1平方フィートあたり最大1立方フィートの空気を1分間に通すことができるという意味です。
キャラバンの公式ページにも古い情報が見つかります。

独自の構造プロセスで微孔径を厳密に制御し、これまでにない微孔親水ポリウレタン膜を実現したことによります。ポリウレタンフィルムの耐久性と伸縮性に、微孔構造の通気性を兼ね備えたこの独特な構造により、防水性を完全に保ちながら、空気をスムーズに通過させることができるようになりました。☞ POLARTEC® NeoShell – キャラバン

国内ではティートンブロスが、2012年頃より「TBジャケット」シリーズなどでネオシェルを採用し、「ムレにくいハードシェル」として山岳ガイドやプロフェッショナルユーザーに支持されました。

2021年秋、ティートンブロスは東レと共同開発した独自素材「Täsmä」に移行しました。素材説明のページには、ネオシェルと同じ「エレクトロスピニング製法」という記述が見られます。

スペックとしては「Täsmä」になって耐水圧が上がり、撥水性の耐久性も上がっているという。が、体で感じたのは通気性の質が上がっていることだ。ムレ始める前から穏やかに通気が始まっているだけでなく、たとえ体温が上がっても、ウエア内のどの部分にも熱の偏りがない。背中だけがアツい、胸だけ汗をかくといったことがほぼないのだ。

ドライQ(Dry.Q)

マウンテンハードウェア(Mountain Hardwear)の「ドライQ(Dry.Q)」は、同社が展開する防水透湿素材のブランド名称であり、実際には複数の異なるテクノロジーを内包したシリーズ名です。

名称 透湿特性 素材推定 特徴
Dry.Q Elite 常時透湿(直接通気) eVent系(PTFE) 蒸れにくくドライ感が強い
Dry.Q Core 汗で透湿開始(遅延型) PU系 GORE-TEX Performance相当
Dry.Q Active 高通気+伸縮性 PU系ストレッチ膜 トレイルランやファストパッキング向け

ドライQエリート(Dry.Q Elite)とは?

Mountain Hardwearが「Dry.Q」シリーズを発表したのは2010年11月で、2011年秋冬モデルから市場に投入されました。このシリーズの中でも「Dry.Q Elite」は、GE(General Electric)傘下のeVent社のメンブレン技術を採用しつつ、Mountain Hardwear独自のラミネート構造やDWR(耐久撥水)加工を組み合わせた高性能な防水透湿素材です。

  • 常時透湿性: Dry.Q Eliteは、着用直後から透湿が始まる「常時透湿(air-permeable)」構造を採用しており、従来のGORE-TEXのように体温上昇を待つ必要がありません。
  • eVentとの関係: Mountain Hardwearは、GEと協力してeVentのメンブレン技術を自社製品に組み込み、「Dry.Q Elite」として独自ブランド化しました。
  • 性能数値(公称値):
    • 耐水圧:40,000〜45,000mm
    • 透湿性(MVTR):28,000〜40,000 g/m²/24h
    • 空気透過性:0.05 cfm(立方フィート/分)

    これらの数値は、GORE-TEX Pro(耐水圧28,000mm、RET<6)と比較しても優れた性能を示しています。

現在、ドライQエリートを採用した新品製品は、公式オンラインストアや一般的なアウトドアショップでは取り扱いが終了しており、入手が難しい状況です。

ドライQアクティブ(Dry.Q Active)とは?

  • 特徴:伸縮性、軽量性、通気性をアピールしたモデル。動きやすさを重視した「ハイブリッド系」防水透湿素材。「Active」という名称通り、運動量の多いアクティビティを前提に設計。
  • 素材の違い:多くのジャケットでポリウレタン(PU)ベースのメンブレンが採用されている。一部にはメカニカルストレッチ(繊維構造による伸縮)を取り入れた3レイヤー構造。
  • eVentとの関係:「ドライQアクティブ」はeVentとは無関係で、マウンテンハードウェア独自のPU系素材と推測されます。
2020年代に入ってから、Mountain HardwearはDry.Qの展開を縮小し、再び GORE-TEXやPertex Shield など他社素材を採用するようになっています。Dry.Q Coreを使用した新製品は現在ほとんど存在しません。

エバーブレス(EVER BREATH)

ファイントラック(finetrack)の「エバーブレス®(Everbreath®)」は、日本の多雨多湿な気候や登山環境に適した、独自開発の防水透湿素材です。高い防水性と透湿性、優れたストレッチ性、そして耐久性を兼ね備え、快適な着心地を提供します。

高い防水性と透湿性

  • 耐水圧:20,000mm以上(JIS L 1092 B法)
  • 透湿性:10,000g/m²・24h(JIS L 1099 A-1法)

この透湿性の数値は低いかと思いきや、A-1法(実際に着用したときの感覚により近い)によるものであり、原理的にB-1法より低い数値が出ます。

また、濡れた状態でも透湿性の約83%を維持する性能があり、一般的な防水透湿素材が約20%しか維持できないのに対し、優れた透湿性能を発揮します。

優れたストレッチ性

エバーブレスは、メンブレン自体がストレッチ性を持ち、表地や裏地のストレッチ性を損なうことなく、しなやかな風合いと着用感を実現します。例えば、「フォトンジャケット」では、縦方向に約107%、横方向に約117%の伸縮性を持ち、動きやすさを提供します。

高い耐久性

加水分解による劣化が発生しにくいポリカーボネート系ポリウレタン素材の多孔質膜を採用しており、水だけでなく紫外線や高温といった外的要因にも耐久性が高く、経年劣化による防水性の機能低下を抑えます。

表裏両面の耐久撥水加工

エバーブレスは、生地の表側だけでなく、裏側にも強力な撥水加工を施しています。これにより、行動中の汗や蒸れ、外からの雨の浸入でシェルの裏側が濡れてしまう状況でも、裏地の撥水性によって機能低下を及ぼす「水膜」ができず、透湿性を持続することができます。

H2No パフォーマンス・スタンダード

パタゴニア公式サイトでは明示されていないため、以下のような事情に基づく推定値または市販モデルからの参考値にあたります。

✅ どうしてこの数値が流通しているのか?

  • H2No Performance Standardは、パタゴニア独自の防水透湿基準ですが、透湿性の具体的な数値は公式サイト上に掲載されていません。
  • しかし、アウトドア用品販売店やレビューサイト、実際の製品スペック表(タグやカタログ)などでは、次のような記述がしばしば見られます:

「H2No パフォーマンス・スタンダードは、耐水圧20,000mm、透湿性20,000g/m²/24h程度の性能があるとされる」

フューチャーライト(FUTURELIGHT)

THE NORTH FACEが独自開発した防水透湿素材「FUTURELIGHT(フューチャーライト)」は、従来の防水透湿素材とは一線を画す「通気性」を備えた革新的な素材です。

ナノスピニング技術による通気性

FUTURELIGHTは、ナノレベルのポリウレタン繊維をミクロ単位でシート状に吹き重ねる「ナノスピニング」技術によって製造されたメンブレン(防水膜)を採用しています。この構造により、外部からの水分は遮断しつつ、空気や水蒸気を通す微細な孔が形成され、高い通気性と透湿性を実現しています。

高い防水性と透湿性

公式サイトでは言及されていません。透湿性は75,000g/m²/24hとするサイトを発見しました。通気性は1.5CFMと読み取れる記述もあります。

ストレッチ性としなやかな着心地

メンブレン自体に高い伸縮性があり、表地と裏地の選択も自由度が高いため、FUTURELIGHTを使用したウェアは非常にしなやかで柔らかな着心地を提供します。

通気性が高いため、強風下では冷気を感じやすく、寒冷地や厳しい気象条件下では、より防風性の高い素材(例:GORE-TEX)の方が適している場合があります。

ハイベント(HYVENT)

1. 素材構造と種類
HyVentは、ポリウレタン(PU)コーティングを施したナイロン素材で、主に2層または2.5層構造が採用されています。これにより、軽量で柔軟性がありながら、防水性と透湿性を実現しています。耐水圧:20,000㎜、透湿性:20,000g/m²・24hrsくらいの製品が標準的です。

ハイベントもゴアテックスと同様に種類が多く、同じタイプでも製品のコンセプトによって防水透湿性能を調整しています。

ハイベント製品 防水透湿性
ハイベントレインテックス 耐水圧10,000mm
透湿性8,000g/m²・24hrs
ストライクトレイルフーディ 耐水圧20,000mm以上
透湿性40,000g/m²・24hrs

 

ドライエッジ ティフォン50000(TYPHON 50000)

ミレー(MILLET)の「ティフォン(TYPHON)」シリーズは、独自開発の防水透湿素材「ドライエッジ ティフォン 50000」を採用した高機能レインウェアです。このシリーズは、優れた防水性・透湿性・ストレッチ性を兼ね備え、快適な着心地を提供します。

 高い防水性と透湿性

  • 耐水圧:20,000mm以上
  • 透湿性:50,000g/m²/24h

この高い防水性と透湿性により、雨天時の登山やアウトドア活動においても、衣服内をドライに保ちます。特に透湿性50,000g/m²/24hは、一般的なレインウェアの約2倍に相当し、蒸れを効果的に軽減します。

優れたストレッチ性と軽量性

7ミクロンの極薄メンブレンを使用し、しなやかで軽量な生地を実現。これにより、レインウェア特有のゴワつきや突っ張り感がなく、ソフトシェルのような柔らかな着心地を提供します。

快適な着心地

裏地には15デニールのニット素材を採用し、素肌に触れてもサラサラとした快適な肌触りを実現。夏場でも半袖の上から快適に着用できます。

登山用品店で店員さんに「透湿性が高いものが欲しい」と告げると、案内されやすい。標準的な生地の厚さ、デザインで、価格がお手頃なので、すすめやすいのでしょう。

冬季のアウターシェルとして保温性を高めた裏地付きのモデルもあります。

番外編:ウェザータイト(Weathertite)

2017年春夏シーズンに登場したカリマー社の独自素材。耐水圧:15,000㎜、透湿性:50,000g/m²・24hrsを謳っています。パーテックスシールドと同様、製品が薄く仕上がります。透湿性の公称値はより高く、値段がお手頃です。

2025年現在、この素材は姿を消し、WTX(耐水圧:20,000㎜、透湿性:20,000g/m²・24hrs)に切り替わっています。

登山用レインウェアにおける透湿性≒通気性の比較

道具マニアなら「どのメンブレンがいちばん透湿性≒通気性が高いのか」という永遠の課題に心を奪われます。しかし個人ユーザーがB-1法やA-1法を試すのは敷居が高い。レインウェア製品を実際に使って比較実験したYoutube動画を参考にしましょう。

ゴアテックス プロ(Gore-Tex Pro Shell)とゴアテックス アクティブ(Active Shell)には通気性がみとめられません。イーベント(eVENT)とネオシェル(NeoShell)はボコボコと泡を吹き出します。

どうもゴアテックスの分が悪いように思えますが、「バックカントリー穂高」さんのテストではゴアテックスがいちばん湯気を通します。

透湿性と通気性は似て非なるものだと言えるでしょう。

レインウェアの蒸れにくさをレビューした記事において、スペックと体感がしばしば異なる理由がこのへんにありそうです。

素人は「最低限の防水性を確保しつつ透湿する穴を最大化するくらいは、現代科学の粋を集めれば簡単ではないのか」と考えがちですが、穴が大きければよいというものではないらしい。

「エントラント開発、36年の軌跡」(「PEAKS」2015年4月号p.88)で開発者が語っています。

B-1法での数値が低いとウェア内についた水滴をウェア外に発散しにくくなるが、逆に数値が高すぎると水分をウェア外に発散するよりも、防水透湿膜自身が水を含んでしまう結果となり、ジュクジュクの状態となって、湿気(冷たさ)を感じてしまう。
「つまり、ただ数字が大きければよいものではなく、A-1値とB-1値のバランスが取れていることが大事なのです。たとえばアウトドアウェアの場合は、A-1法が8000g以上、B-1法が10000~20000g程度がもっとも快適ではないかと私たちは仮定しました」

なるほど。防水透湿膜自身が水を含んでしまうと、通気性はもちろん透湿性も損なわれるでしょう。空気圧をかけると泡がボコボコ噴き出す実験は見た目に派手ですが、それが安定した透湿性につながるとは限らないわけです。

どんな防水透湿素材も表生地が撥水性を失うと意味がない

登山用レインウェアの撥水性は、防水透湿性能を最大限に発揮するために欠かせない要素です。

防水透湿メンブレンが健全であっても、表地の撥水性が低下すると、生地表面が水で覆われ、透湿性が低下し、内部の湿気がこもりやすくなります。

撥水性の低下を防ぐためには、定期的なメンテナンスが重要です。使用後は、専用の洗剤で洗濯し、汚れを落とした後、乾燥機やアイロンで熱を加えることで、撥水性能を回復させることができます。シャワーをかけたら、ポロポロと水玉が転げ落ちていく状態を維持しましょう。

別記事にて掘り下げました。

登山用レインウェアの撥水性が運命を左右する
レインウェア表面の撥水性が失われて、表地が保水したり、水の膜ができたりすると、どんなに透湿性・通気性が高いメンブレンを採用していても、たちまち蒸れて内側から濡れてしまいます。撥水性は、防水透湿メンブレンではなく、表地の性能に依存します。各社...

防水透湿素材の伸縮性と経年劣化

一日に何万歩も登下降する登山ではウェアの伸縮性が乏しいと疲れやすくなります。特に下半身については伸縮性の高さを優先したくなります。登攀要素が多い登山なら上半身だって動かしやすいほうが良いでしょう。

伸縮性を優先するなら、ポリウレタン系がおすすめです。ePTFE系の素材も立体裁断によって動きやすく工夫されているものの、素材自体が伸縮するポリウレタン系にはかないません。

ただし、伸縮性が高いと、経年劣化しやすいのが宿命です。ザック裏側のポリウレタンコーティングがべとべとしたり、登山靴のポリウレタン製ミッドソールが突然破壊する現象でお馴染みでしょう。メンブレンが劣化すれば、防水性が落ちたり、逆に微細な孔がふさがって透湿性が損なわれることは容易に想像できます。

エバーブレスはポリカーボネート系ポリウレタンを採用し、加水分解による劣化スピードが極めて遅いとされています。

ePTFE系(ゴアテックス、イーベント等)は伸縮性がほとんどなく、ポリウレタン系(パーテックスシールド、ハイベント、エバーブレス、ネオシェル等)は伸縮性が高くなります。

伸縮性に加えて、透湿性、耐久性、価格を勘案しましょう。

素材の系統 伸縮性 透湿性 耐久性 価格
ePTFE
ポリウレタン

いや、透湿性と耐久性がイチバン! と思うなら、ePTFE系を選択しましょう。

店頭で試着するときは、サイズ感だけではなく、必ず立ったり座ったりして伸縮性を確認しましょう。手で引っ張るくらいでは判別できません。ePTFE系とポリウレタン系のちがいは明確です。
〇〇ハックでは読めない登山用レインウェアの選び方
レインウェアは常時着用せず、行動中はザックのなかに収納する。山に出かけて帰宅するまで、一回も使わないことさえあります。そのため軽量コンパクトさが優先される傾向にあります。内側にたくさん着込むことを想定しないため、シルエットは比較的細身です。
登山用品
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