
登山において「お湯を沸かすこと」に特化する場合、エバニューのチタンクッカーの右に出るものはありません。その中でも、ソロ〜デュオ(2人)まで対応でき、パッキングの収まりが最も良いとされるのが、この「Ti U.L. Deep pot 900」です。
なぜこのクッカーが多くのハイカーに愛されるのか、その理由をスペックと使用感から深掘りします。
基本スペック
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 製品名 | Ti U.L. Deep pot 900 |
| サイズ(ナベ) | 径110 × 深さ95mm |
| サイズ(フタ) | 径110 × 深さ30mm |
| 容量 | ナベ:900ml(目盛付き)、フタ:250ml |
| 重量 | 125g |
| 素材 | チタン(国内製造・0.3mm厚) |
| 生産国 | 日本 |
特筆すべきは、容量900mlもありながら125gという驚異的な軽さです。一般的なアルミクッカーと比較すると、持った瞬間に「中身入ってる?」と疑うほどの軽さです。

「Ti U.L. Deep pot 900」の外箱

スペックが記載されたシール

タイベック?製のスタッフサックが付属している

実測でナベは83.5g、フタは39g
エバニュー「Ti U.L. Deep pot 900」 の5つの特徴
1. 250g缶(OD缶)との準「シンデレラフィット」

このクッカー最大の特徴は、一般的な250サイズ(中サイズ)のOD缶が収まることです。 110g缶(小サイズ)しか入らないクッカーが多い中、メインで使いやすい250缶をスタッキングできるため、1泊2日以上の縦走や、燃費を気にする冬山でも安心して携行できます。バーナーヘッドやライターも隙間に収納可能です。
実測すると、250缶(直径約11cm)に対し、Ti U.L. Deep pot 900の内径(約11cm)は数値上はギリギリですが、実際に入れると指が入るか入らないか程度の「わずかな隙間(あそび)」が生まれます。
この「シンデレラフィット(吸い付くような密着)」ではない、「数ミリの余裕」こそが、山という過酷な現場では非常に大きなメリットになります。
その実戦的なメリットを5つ解説します。
① 「取り出しやすさ」が段違い(特に冬)
完全に密着していると、逆さにしても缶が出てこなかったり、気圧差や水分の付着で「張り付いて」取れなくなることがあります。 数ミリの隙間があることで、逆さにするだけでスルッと落ちてきますし、かじかんだ手や、グローブをしたままでも缶のリム(縁)に指を掛けて取り出すことができます。
② 「カタカタ音」と「傷」を防げる
隙間があることで、薄い手ぬぐいやバンダナ、あるいはキッチンペーパーを一枚噛ませることができます。
- 静音性: 歩行中に金属同士がぶつかる「カチャカチャ」という不快な音を完全に消せます。
- 保護: チタンは硬いですが、スチール缶と擦れ続けると内側の酸化皮膜が傷ついたり、黒ずんだりします。布を挟むことで、クッカーを綺麗に保てます。
③ 他メーカーの缶や、缶の錆(サビ)に対応できる
OD缶は規格が決まっていますが、メーカー(プリムス、SOTO、EPI、スノーピークなど)によって、あるいは製造ロットによって微妙に直径やリムの形状が異なります。 数ミリの余裕があるおかげで、どのメーカーの缶でも「入らない」というトラブルを回避できます。また、長期遠征で缶の底が少し錆びて膨らんだりしても、問題なく収納できます。
④ クッカーが少し歪んでも使える
UL系のチタンクッカーは薄いため、パッキングの圧力や落下でわずかに楕円形に歪むことがよくあります。 もし完全なシンデレラフィットだと、少しでも歪んだ瞬間に缶が入らなくなりますが、数ミリの余裕があることで、多少の変形(凹み)があってもスタッキング機能を維持できます。
⑤ 「結露」や「吹きこぼれ」の後始末
調理や湯沸かしで吹きこぼれてクッカーの内側が汚れたり、濡れたりしたままパッキングしなければならない時があります。 隙間があれば通気性が確保されやすく、また、万が一缶とクッカーが凍りついて張り付く(凍結固着)リスクも、密着しているより低くなります。
まとめると「現場のための余白」です。一見すると「隙間なくピタッと収まる」方が気持ちよく感じますが、フィールドで使う道具としては、「数ミリの隙間」は設計上の「あそび(余裕)」として機能します。
エバニューがあえてこのサイズ感にしているのは、まさに「どんな状況でも、ストレスなく出し入れできること」を優先した、実戦主義の現れと言えるでしょう。
2. フタの「カチッ」と感が秀逸

フタは内側にはまり込むタイプで、軽く押し込むと「カチッ」とロックされます。
注ぎ口(スパウト)はありません。「注ぎ口なし(スッキリとした円形)」であることには、UL(ウルトラライト)ハイキングにおいて非常に合理的な理由とメリットが4つあります。
① 「強度」が飛躍的に高まる
これが最大のメリットです。 金属の筒において、開口部が完全な円形(リング状)であることは、構造的に最も歪みにくい形状です。 注ぎ口のような加工(凹凸)があると、そこがパッキングの圧力で潰れたり変形したりする「弱点」になりがちですが、完全な円形であれば外からの圧力を均等に受け流せるため、ラフに扱っても変形しにくいという強さがあります。
② 「密閉性」が高く、湯沸かし効率が良い
注ぎ口があると、フタとの間にどうしてもわずかな隙間ができ、そこから蒸気が逃げてしまいます。 注ぎ口がない場合、フタが隙間なくピタリと閉まるため、蒸気を逃さず内圧を保ちやすくなります。これにより、わずかな差ですがお湯が沸くスピードが早くなり、燃料の節約に繋がります。また、蒸らし効果も高まります。
③ どの角度からでも「直飲み」しやすい
クッカーを巨大なマグカップとして使い、コーヒーやスープを直接口をつけて飲む場合、注ぎ口がないほうが快適です。 注ぎ口があると、飲む位置が限定されたり、口当たりが悪かったりしますが、フラットなリム(縁)であれば、360度どこから口をつけても口当たりが良く、飲みやすいです。
④ スタッフサックへの「引っ掛かり」がない

パッキング時、タイトなスタッフサックやバックパックの隙間に押し込む際、注ぎ口の突起が布地に引っかかることがあります。 注ぎ口がなければ、ツルッとした円柱形なので、抵抗なくスルリと収納できます。極薄のスタッフサックを傷つけるリスクも減ります。
3. 「900ml」という絶妙なサイズ感
ソロ用としては少し大きく感じるかもしれませんが、このサイズには理由があります。
- カップヌードル(約300ml)+ コーヒー(約200ml) のお湯を一度に沸かせる(余裕を持って沸騰させられる)。
- 棒ラーメンやパスタを茹でる際、吹きこぼれにくい深さがある。
- 2人分のカップラーメンのお湯(約600〜700ml)をギリギリ一度で賄える。
「大は小を兼ねる」を、重量増なしで実現しているのがこの900サイズです。
4. フライパンとしても使えるフタ
フタは深さが30mmあり、容量250mlのシェラカップ代わりや、小皿として使えます。また、ソーセージを炙る程度の簡易的なフライパンとしても使用可能です(※チタンなので焦げ付きには注意)。
5. 0.3mm厚チタンの極薄設計
エバニューが誇る技術で、通常のチタンクッカー(0.4mmなど)よりも薄い0.3mm厚で作られています。これにより極限の軽さを実現していますが、強度はしっかりと確保されています。手で押すと少しペコペコする柔軟性がありますが、これが変形を防ぐ役割も果たしています。
実際の使用感・メリット

- パッキングが美しい: バックパックの中で場所を取らない円柱形(Deep型)は、サイドポケットや隙間に滑り込ませやすく、パッキングが美しく決まります。
- 赤いチューブが目印: ハンドルには赤いシリコンチューブが付いており、熱くなりにくく、滑り止めにもなります。視認性も高く、山で置き忘れるリスクを減らしてくれます。
- 湯沸かしスピード: チタンは熱伝導率は低いものの、このクッカーは非常に薄いため、火の回りが早くお湯がすぐ沸きます。
【応用編】エバニュー「Ti U.L. Deep pot 900」は「山のフードコンテナ」になる
UL(ウルトラライト)ハイキングでは、バックパックに荷物を詰め込む際、食料が圧力で潰れてしまうのが悩みの種です。 しかし、Ti U.L. Deep pot 900の「11cm径 × 深型」という形状と「チタンの剛性」を活かせば、デリケートな食材を完璧に守るハードケースに変わります。
黄金のスタッキング:「900 Deep + 400FD + カップヌードル」
この組み合わせは、無駄な隙間を極限まで減らしつつ、食事(ラーメン)と食後の楽しみ(コーヒー)をワンセットにできる、非常に美しいシステムです。
- 収納の仕組み(マトリョーシカ方式)
- 外側から順に以下のように収まります。
- Ti U.L. Deep pot 900(外殻)
- Ti 400FD Cup(中間層)

900の中にすっぽりと収まります。隙間にはライターやスティックコーヒーなどを詰められます。 - カップヌードル(核心部)

400FDの中にカップヌードル(レギュラーサイズ)がジャストフィットします。
カップヌードルの高さ(約10.7cm)は、Deep pot 900のナベ深さ(9.5cm)より少し高いですが、「フタの深さ(3cm)」がその飛び出し分を完璧にカバーします。
- このセットのメリット
-
- 「食事」と「お茶」の役割分担: 900でお湯を沸かし、そのお湯でカップヌードルを作る。食後は、汚れていない400FDを使って優雅にコーヒーを飲むことができます。
- カップヌードルが潰れない: バックパックの中でカップヌードルの容器がベコベコに潰れたり、フタに穴が開いて中身が散乱する悲劇を100%防げます。
「潰したくないパン」を守る金庫として

900mlという容量は、カップヌードル以外の「かさばる行動食」を入れるのにも絶妙なサイズです。クッカーの中にガス缶を入れない場合、ここは「絶対に潰したくないもの」の特等席になります。
- おすすめの収納食材
-
- パン類(クリームパン、メロンパン、クロワッサン): これらは通常、パッキングするとぺちゃんこになりますが、Deep pot 900に入れれば、山頂でもふわふわの状態で食べられます。
- おにぎり(2〜3個): コンビニのおにぎりが型崩れせず、海苔も割れずに持ち運べます。
- 柿の種やポテトチップス: 袋のまま無理やり詰め込むか、ジップロックに移し替えて入れれば、粉々にならずに「食感」を楽しめます。
- 卵(エッグホルダー代わり): タオルや緩衝材で包めば、生卵を運ぶハードケースとしても代用可能です。
- 運用のアドバイス
- この「コンテナ運用」をする際のコツは、「隙間を埋めること」です。
- 音鳴り防止: チタン同士や、食材と壁面がぶつかると「カタカタ」と音がします。手ぬぐい、バンダナ、あるいは予備のアルファ米の袋などを緩衝材として隙間に詰めると、静音化とデッドスペースの有効活用が同時にできます。
- フタの固定: 中身を目一杯詰めるとフタが浮きやすくなるため、付属のスタッフサックや、ランチバンド(ゴムバンド)でしっかり固定することをおすすめします。
Ti U.L. Deep pot 900を「湯沸かしができるハードケース」と捉え直すと、パッキングの自由度が劇的に上がります。
「山頂で潰れていないカップヌードルや、ふわふわのパンを食べる」。 そんなささやかな、しかし確実な幸福を守り抜くことができるのも、このクッカーの隠れた実力です。
【応用編】エバニュー「Ti U.L. Deep pot 900」の蓋は「ぬるま湯ブースター」になる

個人的に「ぬるま湯ブースター」と呼んでいる裏技があります。雪を溶かして水を作るときなど、ガスカートリッジがキンキンに冷えて火が衰えたら、ぬるま湯をはったクッカーで温めます。

「Ti U.L. Deep pot 900」の蓋は、最軽量の「ぬるま湯ブースター」です。
デメリットと注意点
完璧に見えるクッカーにも、素材特性上の弱点はあります。
- 「炊飯」や「凝った料理」には不向き: チタンは熱伝導率が悪く、熱が一点に集中しやすいため、お米を炊くと中心だけ焦げて周りは生煮えになりがちです。炒め物もすぐに焦げ付きます。「お湯を沸かす」「煮込む(ラーメンなど)」専用と割り切るのが正解です。
- 価格が高い: 純国産チタン製品のため、アルミやステンレスのクッカーに比べると高価です。しかし、耐久性が高く一生モノとして使えるため、長い目で見ればコスパは悪くありません。
まとめ
どんな人におすすめ?
- 【おすすめできる人】
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- 荷物を1gでも軽くしたいUL志向の人
- 食事はフリーズドライやラーメンが中心の人
- 250g缶(OD缶)をメインで使用している人
- ソロだけでなく、たまに2人分の湯沸かしもしたい人
- 【おすすめしない人】
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- 山で炊飯をしたい、凝った料理を作りたい人(→ アルミ製のクッカーがおすすめ)
- とにかく安く済ませたい人
総評
「Ti U.L. Deep pot 900」は、湯沸かしメインのハイカーにとって「あがりのクッカー」(これ以上買い換える必要がない最終地点)と言える完成度を誇ります。
250缶がすっぽり収まる快感と、持っていることを忘れるほどの軽さ。一度使うと、他の重いクッカーには戻れなくなる魅力が詰まっています。



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