
靴下はいずれ擦り切れるものです。どれほど高価な一足であっても、歩いた距離の分だけ確実に物理的な限界へと近づいていく。それは避けることのできない事実です。
しかし、その「役目の終え方」には、驚くほどブランドの個性が表れます。あるものは静かに薄くなり、あるものは形を変えて役目を終える。
私は2017年から、あえてこの「消耗の過程」を記録し続けています。これは実験室のデータではなく、実際に山道を歩き、洗濯を繰り返し、繊維が少しずつ痩せていく様を見つめた、地味で長い観察記録です。
「1日」という単位の定義
まず、比較のための物差しを整えておきましょう。 近所の散歩と北アルプス縦走を同じ「1日」とするわけにはいきません。ここでは便宜上、累積標高差1200メートル前後(丹沢・大倉尾根の登り下り、あるいは高尾山の3往復分)を「使用日数:1日」と換算することにしました。
つまり、以下に出てくる「25日」という数字は、高尾山を75回登り下りした負荷に相当します。
羊毛(ウール)たちの経過報告
対象となった4足の行く末は、以下のようなものでした。
mont-bell メリノウール アルパイン
- 寿命(参考): 25日
- 経過: 踵(かかと)の摩耗による透け
- 所感: 潔い幕引きでした。 履き心地は特筆すべき柔らかさでしたが、その代償として物理的な耐久性は控えめでした。ある日ふと見ると、踵部分の生地が薄くなり、肌が透けていることに気づく。他がまだ綺麗だっただけに惜しまれますが、太く短い「生涯」を選んだとも言えます。

あるとき、踵が擦り切れて、肌が透けて見えることに気づきました。踵以外はまだまだしっかりしているのに勿体ない。

Bridgedale エンデュランス サミット
- 寿命(参考): 23日
- 経過: フェルト化による収縮
- 所感: 穴こそ空きませんでしたが、フィット感が変わってしまいました。 ウールと化繊を半々で混ぜる設計なのですが、使い込むうちに繊維同士が絡まり合い、硬く縮んでしまったのです。「穴が空く」という物理的な限界の前に、「履き心地」という機能的な寿命が尽きた例です。

DARN TOUGH マウンテニアリング
- 寿命(参考): 48日
- 経過: 踵の摩耗
- 所感: 噂に違わぬ頑固さです。 他社製品が引退していく時期を過ぎても、まだ現役を続けました。通常の倍近い期間を耐え抜き、ようやく踵が白っぽく擦り切れてきた時、どこか安堵に近い感情さえ覚えました。「生涯保証」を謳うブランドの自信は、伊達ではないようです。

さらに25日後、さすがに踵が白っぽく擦り切れてきました。でも、まだまだ履けます。

Smartwool トレッキング ヘビークルー
- 寿命(参考): 30日〜
- 状態: 健在
- 備考: 優等生的なバランスの良さを見せました。 30日を超えても目立った型崩れはなく、極端な摩耗も見られません。突出した個性がない代わりに、欠点も見当たらない。長く付き合える道具とは、こういうものを指すのかもしれません。

なぜ、モンベルは早々に透けてしまったのか
「柔らかさ」と「強さ」は、往々にしてトレードオフの関係にあります。
モンベルのソックスが早々に役目を終えた理由は、その設計思想にあります。後の調査で、モンベルのナイロン比率は28%、対してダーンタフなどの海外勢は30〜40%近いことが分かりました。
さらに重要だったのは「編み目の密度」です。モンベルのふわりとした履き心地は、糸と糸の間に空気を含む隙間(ゆとり)を持たせることで実現されています。しかし、登山靴の中という過酷な環境下では、その隙間が摩擦によるダメージを加速させてしまったのでしょう。
モンベルが劣っているわけではありません。「耐久性」よりも「快適性」というパラメーターを優先して振った、というだけの話です。
ダーンタフの頑丈さの正体と、わずかな副作用
ダーンタフが驚異的な寿命(48日、高尾山換算で約150回)を記録した理由は、単純な物理法則に帰結します。「高密度に編む」こと、そして「ナイロンを多めに混ぜる」こと。
彼らは「マーチンデール摩耗試験」という、生地を機械でひたすら擦り合わせるテストにおいて、一般的な基準の数倍にあたる30,000回をクリアしたというデータを持っています。
一般的な家具用ファブリックでさえ「20,000回」で高耐久とされますが、ダーンタフはこの拷問を30,000回耐え抜いたと言われています。(出典: Darn Tough Vermont Testing Data / ASTM D 4966)
メリノウールの品質は「マイクロン(μm)」で語られます。数値が低いほど繊維が細く、肌触りはシルクのように滑らかになります(17.5μm以下のスーパーエクストラファインなど)。
しかし、「細い=弱い」という物理法則からは逃げられません。最高級の肌触りを求めた結果、耐久性は犠牲になります。
登山用ソックスにおいては、少し太めの「ストロングメリノ(23-25μm)」をあえて使うか、あるいは化繊との混紡技術で補うかが、メーカーの腕の見せ所なのです。
まとめ
結局のところ、万人に共通する「最強のソックス」は存在しないのかもしれません。
モンベルの儚(はかな)くも優しい履き心地を愛するか、ダーンタフのような質実剛健な道具としての信頼性を愛するか。それは、我々が山に何を求めるかという問いにも似ています。
私の検証はまだ終わっていません。また新しい一足が擦り切れ、その役割を終える日まで、淡々と山を歩き続けようと思います。





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