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私が読んだ本のなかから何点か紹介させていただきます。
スポーツクライミング教本
この手のタイトルの本を読むと、オールドスクールな解説から始まり、「またその話か」と読み飛ばしがちですが、この本は一味違います。
スポーツクライミングの力学面を深く考察。著者の東秀磯さんはPEAKS 2019年1月号「Because it is here …」(p.113)のなかで《この本は純然たる技術だけで成立させたかった》、《僕のなかでのひそかなテーマは、1ページのなかに必ずひとつは、どんな優れたクライマーにも「なるほど」と思わせる内容が入っていること》と述懐されています。
厳選 雪山登山ルート集
雪山登山を始めたい人におすすめのガイド本です。美しい写真を見ていると実際に登ったような気になります。雪山でスナップ写真を取るときに構図を真似したり、モデルのウェアや装備を参考にしたくなります。
入門&ガイド 雪山登山
雪山登山を始めたい人におすすめの技術本です。経験者も基本を復習するつもりで目を通すと、独りよがりな知識をチェックできます。
ビヨンド・リスク
最近マンネリ気味だな~と思ったら、時代を切り開いてきた先達の思考に触れると、背筋が伸びる気がします。
個人的にはヴァルテル・ボナッティの章が好きです。マッターホルン初登頂百周年の1965年(当時34歳)、北壁の冬季単独登攀をやってのけたのち、すっぱりと先鋭的な登山から身を引いたことでレジェンド感が増しました。
登山は私を男にした。美徳と欠点を備えた完全な男にした。
シビレれるお言葉です。
垂直の記憶
ヒマラヤの難峰ギャチュン・カンからの奇跡的な生還劇は下手なハリウッド映画よりもドラマチックです。
単独行
岳人の必読書。無料版も存在しますが、加藤文太郎の文章だけ読んでも、現代人にはその真価を理解しにくい。福島功夫さんによる解説(考証)が貴重です。たとえば《新田次郎の『孤高の人』では、甘納豆とともにメインの食料としてあげられている小魚の干し物は、加藤の書いたものからは確認できなかった。しかし、いかにも漁港・浜坂出身の加藤らしく、合理的でもあり、否定はできない》という具合です。
風雪のビヴァーク
風雪の北鎌尾根で遭難し、死に際まで書き続けた哲学的とも思える手記に感銘を受けます。手が凍えて字をうまく書けなくなったのか、最後のあたりはカタカナ混じりです。
我々が死ンデ 死ガイハ水ニトケ、ヤガテ海ニ入リ、魚ヲ肥ヤシ、又人ノ身体ヲ作ル 個人ハカリノ姿 グルグルマワル
サイゴマデ タゝカフモイノチ、友ノ辺に スツルモイノチ、共ニユク。
遠藤甲太さんは解説のなかで《私の知るかぎり松濤の遺書は、自衛隊員・マラソンランナー円谷幸吉の遺書と並んで、最も衝撃的な文学上の奇蹟である》と評価しています。
フリークライミング日本100岩場
オンラインで公開されている無料版は今ひとつ閲覧しにくいので、電子書籍版を8インチくらいのタブレットに入れておきたい。
クライミングやボルダリングの現場で、紙のトポをチョークや泥で汚れた手でめくると、すぐにボロボロになってしまいます。電子書籍ならそんなことはありません。紙の地図の代わりにスマホでYAMAPを使うのと同じように、紙のトポの代わりにKindleを使うのは意外と相性が良いです。
マッターホルン北壁
小西政継さんの歯切れのいい文章を読むと、モチベーションが上がります。
山岳同志会に入会して半年後、三月の八ヶ岳大門奥壁センター・リッジでアイゼンを岩場の基部に脱ぎ捨てて靴下一枚で赤岳の稜線まで登り切ったとか、ハチャメチャな体験談が披露されます。
冬の間のトレーニングはすべて厳しい風雪の荒れ狂う穂高滝谷で行った。滝谷を部分的なピッチごとに素手で登ったり、意識的に岩壁でのビバーク回数を多くして耐寒テストも行った。都会生活においても僕は冬の間、短パンとランニングシャツという夏のスタイルで静まりかえった冬の街中を走りまわった。
本番のマッターホルンでは、蒼氷におおわれた北壁のただなかでアイゼンを落としてしまうという大きなアクシデントに見舞われながら、それでも登り切ってしまいます。
なんで山登るねん
ストイックな登山に対して斜に構えた視点がいま読んでも楽しい。
かなりハードな内容(遭難した仲間を捜索し、荼毘に付した詳細な描写等)も書かれていますが、登場人物の関西弁(京都弁?)や砕けた文章がそれをやわらげ、それが逆にリアリティを増幅するという文章になっています。
フリークライミングのススメ
著者は山と渓谷社の編集者であり、開拓クライマーでもあります。歴史、技術、道具、メンバーシップ、世界中の有名な岩場、身内のゴシップまで内容は多岐にわたり、フリークライミングについて万遍なく知ることができます。1991年刊行の紙の本と同じタイトルですが、内容的には大幅に改稿・加筆されています。
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