日本で独自の進化を遂げた家型(くさび型)のツェルトは計画的露営に適していますが、緊急時露営には必ずしも適しません。雪山で着の身着のままでビバークする場合、膝をかかえ身体を丸めて体温を逃がさないようにします。引っかぶって隙間風を防ぎたい場合、「Bothy Bag」等と呼ばれる半密閉型のシェルターのほうが優れています。
私はライフシステムズ(LIFESYSTEMS)のサバイバルシェルター2(SURVIVAL SHELTER 2)を携行しています。過去のツェルトの使用経験から、サバイバルシェルター2を購入するにいたった経緯や、機能の詳細について解説します。
緊急時露営か計画的露営か
ツェルトの使い勝手を語る際には、
- フォースト・ビバーク(forced bivouac)=緊急時露営
- フォーカスト・ビバーク(forecast bivouac)=計画的露営
を分けて考える必要があります。
ツェルト時代
家型のツェルトは計画的露営に向いている
日本国内の登山、とりわけ「沢登り」という独自の分野で、軽量コンパクト化(今風に言えばウルトラライト)を追及する方達が積極的に家型(切妻型)のツェルトを利用してきました。沢沿いであれば、立ち木から張り綱をとったり、樹木を拾ってきて支柱として利用しやすいので、重くて嵩張るテントポールを背負わなくてすみます。
岩壁登攀では、取り付きの岩小屋や壁の途中のテラスで、豊富なガチャ(ピトン類)やロープ、スリングを利用してツェルトを吊り下げたりします。
これらは計画的露営です。
家型のツェルトは雪山登山でも必須装備とされた
「沢登り」とは対極にある「雪山登山」でもツェルトは必須の装備とされています。
私も昔、モンベルのウルトラライトツェルトを持っていました。初めて買ったモンベル製品です。重量は480gで、価格は9,800円だったと記憶しています。現行品はずっと軽量化されて、なんと半分近い270gになっています。「ウルトラライト」を冠しないスタンダードモデルでさえ460gになっています。
このツェルトをテント代わりに使ったこともありますが、主として強風とガスの山頂で晴れ間を待つあいだ引っかぶったり、岩壁(剣岳のチンネ左稜線!)で雷雨をやり過ごしたりしました。
これらは緊急時露営です。
家型のツェルトは緊急時露営(引っかぶるだけ)には使いにくい
ツェルトの有難みをいちばん感じたのはやはり雪山での緊急時露営です。
このときは隙間風を防ぐのに苦労しました。前後のファスナーは容易に閉めることができましたが、底割れ部分のヒモを正しく結び合わせることができません。なにしろ吹きさらしで生地が激しくバタつくため、どこをどう結び合わせればよいか分からない。ヘッドランプをしていても、頭周辺に生地がまとわりついて視界をふさぐので、全体を見渡すことができません。
引き合いに出して申し訳ないのですが、「山のまこちゃん」さんのYoutube動画「登山 遭難時のツェルトとザックの使い方」を見ていただくと、その状況をおわかりいただけると思います。
比較的ゆるい条件(昼間、さほど風が強くない)でも、ツェルトをかぶるのに苦労される場面があります。雪山の吹きさらしの稜線では、それが一晩中つづきます。ツェルトの裾は尻の下や、荷物の下にたくしこむ必要があります。
家型のツェルトは、寝そべることを前提としたサイズで、タープやシート風に変形させるため底割れするように設計されていることが多い。この汎用性が、緊急時に引っかぶるだけの場合にはアダとなります。余分な生地をたくしこむのが面倒ですし、開口部が多いので隙間風を防ぐのが大変です。
モンベルのウルトラライトツェルトは登山から遠ざかっていた時期に断捨離しました。
ライフシステムズのサバイバルシェルター2
雪山に復帰して、緊急時露営用の装備を買い直しました。過去の経験をもとに家型のツェルトを除外し、引っかぶるだけの用途に特化した製品を探しました。行き着いたのは、ライフシステムズ(LIFESYSTEMS)のサバイバルシェルター2(SURVIVAL SHELTER 2)です。
カラー / オレンジ
サイズ / 収納時:20×10×10cm 使用時:140×90×45cm
重量 / 345g
本家サイトのYoutube動画
いやぁ、UKのギアは緊急時でさえスタイリッシュですね。
捜索時に目立ちやすいオレンジ色がグッド。日本製の家型ツェルトにグリーンが多いのは、やはり緊急時露営よりも計画的露営(中にいる人にとって気分が落ち着きやすい)を優先しているからでしょう。
緊急時露営には、この半密閉型のデザインが適しています。
パッケージの説明書き
防風性と防水性、耐久性の高さをうたっています。透湿性(moisture permeabilityあるいはbreathable)という単語は見当たりません。
商品パッケージには記載されていませんが、本家サイトでは耐水圧(hydrostatic)として5,000mmをうたっています。
スタッフサックに収納した状態
灰色のテープが縦断するように縫い付けられています。強風下では、うかつに吹き飛ばされないようにココを持ちましょう。
スタッフサックの開口部
スタッフサックの奥側
スタッフサックの奥側はメッシュになっています。
スタッフサックから引き出した状態
スタッフサックは本体に縫い付けられており、ベンチレーターを兼ねています。閉じるための黒いドローコードが付いています。
タグ
中国製です。「KEEP AWAY FROM FIRE」と記載されています。一瞬、「火から身を守れるくらい難燃性が高いのか」と思いました。そんなわけありません。「火に近づけるな」という意味です。なかでコンロを使う際には十分注意する必要があります。
表面のロゴ
ロゴにアフリカ大陸の地図があしらわれています。LIFESYSTEMSはイギリスの会社ですが、なにかアフリカとかかわりがあるのでしょうか。
裏面の覗き窓
TPU(熱可塑性ポリウレタン)製の透明な大きな窓が付いています。中にこもっていたら気づかないうちに天候が回復して、行動を再開するのが遅れたなんて事態を避けられます。
反射テープ
夜間でも目立つように、2箇所に銀色の反射テープが縫い付けられています。
ボトムを絞るコード
ボトムは巾着状になっており、黒いコードで引き絞ることができます。
シームテープ
主要な縫い目はシームテープで目止めされています。
収納し直すのは大変
この手の装備のご多分に漏れず、スタッフサック(ベンチレーター)に元通りに収納するのはなかなか大変です。せっかく颯爽とサバイバルシェルターをかぶって風雪から身を守ったのに、いざ行動を再開するとき、収納に手こずると体が冷えてしまいます。
収納のコツは、最初に「ベンチレーター周辺の生地」を最奥まで押し込むことです。これを怠ると、いくら残りの部分を押し込もうとしても、奥がつっかえているので入りきりません。
もっとも、登山の達人なら、いちいち収納するのはやめて、
- ザックの隙間を埋めるように押し込む。
- 平たく畳んでザックの正面側に配置し、緩衝材とする。
と唱えるでしょう。コンパクトさを失うものの、
- 非常時には、さっと取り出して広げることができる。
- 折りジワができにくい。
- ポリウレタンコーティングの劣化を軽減できる。
という利点があります。
サバイバルシェルターを雪山でかぶってみた
連続写真
内部
足元をドローコードで引き絞る
足元をドローコードで引き絞り、裾を尻や荷物の下にたくしこめば、ほとんど隙間風は入りません。
透明な窓から外を覗く
透明な窓から外を覗いてみました。
サイズ感
2人用とされていますが、1人だとゆったり、2人だと狭苦しい感じです。もちろん、寒いときには狭苦しいくらいのほうが暖かい。2人が向かい合わせに座り、足元でコンロに火をつけるのにちょうど良いサイズです。
サバイバルシェルターの購入方法
私は2017年1月に購入しました。楽天で注文したところ、「在庫切れ」のメールが来たので、trekkinnで個人輸入しました。国内で売り切れている場合には選択肢の一つとして有力です。
えーと、日本円に換算するといくらだっけ。trekkinnのサイトで「送り状」の履歴を見るとこうなっていました。
Total net: 5253 JPY
Postnl: 685 JPY
Subtotal: 5938 JPY
商品が5,253円、送料が685円です。国内業者の最安値と同じくらいです。
サバイバルシェルターの新モデル
新モデル「Ultralight Survival Shelter 2」が発売されました。サイズは変わらず、生地が薄くなったことにより、重量が345gから215gに軽量化されています。覗き窓はなくなったようです。
サバイバルシェルターの関連記事
一般的なツェルトを検討している方はこちらの記事をご参照ください。
コメント
英国が好きで英国の山にも登っています。
英国にはツエルトが存在しません。このシェルターが「ボッシー」スペル忘れました、という名称で使われています。
英国の山の多くが地形学的にドラムリンと呼ばれる岩が積み重さなったものです。なので山中で横になれるスペースはなく、ボッシーのような座って被る形に特化したようです。
ん?前にも書いたような・・笑
あまの さん、こんにちは。
「Bothy Bag」と呼ばれるようですね。
着の身着のままビバークで、家型ツェルトとサバイバルシェルターを差し出されたら、迷わずサバイバルシェルターをとります。
日本で流行らないのが不思議です。