都会の登山者よ、階段を探せ--最強の日常トレーニングは階段歩荷だ

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30年以上暮らしている町で、思いがけない宝物を発見しました。

およそ100段の階段です。

神社の参道でも観光名所でもありません。住宅地の片隅に昔から存在していた、ごく普通の生活階段です。

登山のトレーニングに使える階段を探していた私にとって、まさに理想的な場所でした。

それにしても、こんな場所が近所にあったとは。もっと早くその気になって探していれば、とっくに見つけていたかもしれません。

山登りにも似たような喜びがあります。有名な山の絶景も素晴らしいけれど、誰も情報を発信していないような場所で、自分の足で探し当てた風景には格別の感動があります。

標高3,000mの稜線と住宅地の階段では、ずいぶんスケールが違います。それでも「自分で見つけた!」という喜びは変わりません。

今回は都会の登山者にとって、もっとも実践的な日常トレーニングのひとつである「階段歩荷(ぼっか)」について考えてみます。

学生時代には階段があった

大学の山岳部やワンダーフォーゲル部に所属していた人なら、校舎の階段を使ったトレーニングに覚えがあるかもしれません。

高層の校舎があれば、登山のための立派なトレーニング場になります。部活動で利用できる環境なら、授業の合間や放課後に、何度でも登り降りできます。

ところが、社会人になると事情は一変します。

就職して地元を離れ、都市部で暮らすようになると、そんな恵まれた環境は簡単には手に入りません。

平日は仕事、休日は山へ。山に行けない日は、アスファルトの上を走るか、サーキットトレーニングで汗を流すか。

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ランニングも筋力トレーニングも有効ですが、登山に特有の「自分の体重と荷物をぐいぐいと高みへ運び続ける」運動を再現するなら、階段は実に好都合です。

しかし、都会でまとまった段数の階段を探すのは意外に難しいものです。

マンションの外壁に延びる非常階段を見上げて「あそこを使えたらなあ」と羨ましく思ったこともあります。

もちろん、勝手に立ち入ってトレーニングすれば通報されてしまいます。高層マンションが目の前にそびえていても、指をくわえて眺めるしかありません。

そんな場所にまで目を向けたくなるほど、登山者にとって長い階段は魅力的なのです。

名所の石段より、無名の生活階段

東京には、長い石段で知られる神社や名所がいくつもあります。

ところが、そうした階段は必ずしもトレーニングに適していません。参拝者や観光客が多く、反復して登り降りする運動を禁止している場所もあります。

そもそも神社の参道は、トレーニング施設ではありません。

狙い目は、むしろ無名の生活階段です。

住宅地の高低差をつなぐ階段、公園の外周に設けられた階段、幹線道路に架かる歩道橋などです。

もっとも、階段は長ければよいというものではありません。私が重視する条件は次のとおりです。

  • まとまった段数がある: できれば数十段以上。途中で長い平坦部を挟まず、一定のリズムで登れると理想的です。
  • 反復しやすい: 登り口と降り口に安全な折り返し場所があり、通行人の邪魔になりません。
  • 日常的に通える: 自宅や職場から遠すぎず、思い立ったときに足を運べます。
  • 利用上の問題がない: 立ち入りや運動の禁止事項がなく、周辺住民の迷惑にならない場所です。
  • トレーニング場所として認知されている: 地元では「ときどき誰かがトレーニングしている階段」として受け入れられており、なおかつ利用者が少なければ申し分ありません。

100段の階段が理想ですが、50段でも十分に使い道があります。段数の多さだけでなく、繰り返し利用できることが重要です。

幹線道路の歩道橋は穴場かもしれない

今回、私が100段の階段を発見したのは、実は別の階段を探している最中でした。

目当てにしていたのは、幹線道路に架かる歩道橋です。

歩道橋は数十段程度のものが多いものの、片側の階段を繰り返し往復すれば、まとまった運動量を確保できます。

駅前では人通りが多くても、郊外の幹線道路には利用者の少ない歩道橋が残っています。

こういう場所こそ、都市部の登山者にとって盲点ではないでしょうか。

もちろん、歩道橋は道路を安全に横断するための公共施設です。通行の妨げにならないことが大前提であり、駆け上がったり、狭い踊り場を占拠したりする使い方は避けなければなりません。

歩道橋を探しているうちに、もっと立派な階段を見つけることもあります。

私の場合が、まさにそうでした。

自分だけの階段をどうやって探すか

① 地形図で台地の縁を探す

東京は平坦な都市と思われがちですが、実際には台地と低地が複雑に入り組んでいます。

文京区、港区、新宿区、北区などには、台地の縁に急坂や階段が点在します。

地形図の等高線を眺め、斜面を横切る細道を探します。地図上では単なる路地に見えても、現地では立派な階段だったりします。

国土地理院の地形図や地理院地図、Googleマップの航空写真、ストリートビューなどを組み合わせると、探索の手がかりが増えます。

紙の地図も捨てたものではありません。細い道が階段として描き分けられている場合もあります。ただし、階段の表現は地図の種類や縮尺によって異なるので、最終的には現地での確認が必要です。

② トレイルランナーの情報を追いかける

階段を欲しているのは登山者だけではありません。

トレイルランナーにとっても、登坂力を鍛える階段は魅力的な練習場所です。

個人ブログやSNSでは「階段インターバル」「バーティカル練」「坂道トレーニング」といった名前で、練習場所やメニューが紹介されていることがあります。

Stravaの公開セグメントや活動記録、地域のランニングクラブの練習会情報も手がかりになります。

また、階段そのものを撮影・記録している愛好家の存在も見逃せません。

登山者とは違う視点で町を歩いている人たちの情報に、意外な階段が隠れているかもしれません。

③ 最後は自分の足で歩いてみる

地図やネットの情報は、あくまで手がかりです。

実際に訪れてみると、段数が思ったより少なかったり、途中に長い踊り場があったり、通行人が多すぎたりすることがあります。

反対に、地図では目立たなかった階段が、絶好のトレーニング場所だったということもあるでしょう。

私が30年以上暮らしている町で新しい階段を発見できたのも、普段とは違う視点で歩き回ったからです。

階段探しそのものが、ちょっとした探検になるのです。

山に行けない日でも、階段は裏切らない

使えそうな階段を発見したら、いよいよトレーニングです。

私が階段にこだわる最大の理由は、登山の基本動作を身近な場所で繰り返せることです。

登山では、体重と装備を重力に逆らって持ち上げ続けます。平地のランニングとは運動の性質が異なり、心肺機能に加えて、股関節や膝を伸ばす筋群の持久力が求められます。

階段を使えば、これに近い負荷を短時間で得られます。

100段×10往復で累積標高差170m

たとえば100段の階段なら、10回登るだけで上り1,000段です。

一段の高さを17cmと仮定すると、累積の上昇高度は170mになります。

反復回数 上り段数 累積上昇高度
5回 500段 85m
10回 1,000段 170m
15回 1,500段 255m
20回 2,000段 340m

※100段、一段17cmと仮定した計算例です。

もちろん、階段での170mと山道での170mは同じではありません。路面や段差の不規則さ、勾配、歩行時間が異なります。

それでも、仕事帰りや山へ行けない休日に、これだけの登りを反復できるのは大きな魅力です。

「階段 エベレスト」というキーワードでWEB検索すると、自宅の階段やジムのステップマシンでエベレストの標高を登るマニアックな動画や記事が見つかります。

階段歩荷は、少しずつ負荷を増やす

最初は何も背負わず、自重だけで登って構いません。

たとえば3〜5回程度から始め、翌日以降の疲労や膝の状態を確かめます。余裕が生まれたら、10回、15回と反復回数を増やしていきます。

さらに慣れてきたら、軽いザックを背負う「階段歩荷」に発展させます。

ここで大切なのは、最初から重い荷物を背負わないことです。

階段の登りでは、体重に荷物の重さが加わるぶん、脚への負荷も大きくなります。登山用の筋持久力を鍛えるには好都合ですが、負荷を急に増やせば故障の原因になります。

重量、反復回数、登る速さを一度に増やすのは避け、余裕を残して継続できる強度を探ります。

呼吸が乱れすぎないペースで黙々と登る。登山に向けた持久力づくりなら、必ずしも駆け上がる必要はありません。

ワンゲル野郎、奮闘す~登山のトレーニング
「登山自体が登山の最も良いトレーニングである」とはよく言われる真理です。日常的にどうトレーニングの時間を捻出するか、どうトレーニングするかを悩むよりも、そのエネルギーを一日でも多く実際の登山に出かけることに振り向けたほうが得策です。

「階段歩荷」の良いところは、往復回数やペース配分を調整しやすいところです。 登山だと、それがたとえ人里近い裏山であっても、追い込みすぎて失神するとか、転倒・負傷して動けなくなると困るので、自然とセーブする気持ちが働きます。特に単独でトレーニングするときはそうです。

まだ知らなかった、私の町の階段

30年以上暮らしていても、知らない場所がありました。

それも、登山のトレーニングにうってつけの100段の階段です。

学生時代のように校舎の階段を自由に使えなくなっても、身近な町を探せば、まだまだトレーニングの可能性は眠っています。

地形図を眺め、歩道橋を探し、いつもと違う路地を歩いてみる。

そこには、手つかずのボルダーを探索するときにも似た楽しさがあります。

遠くの山へ向かうことだけが、登山者の冒険ではありません。

あなたの町にも、まだ見ぬ100段の階段が眠っているかもしれません。

私が見つけた階段の場所ですか?

それは、当分のあいだ秘密です。

四方山話
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