
はじめに|雪山テント泊で一番困るのは「寒さ」ではない
雪山テント泊と聞くと、多くの人はまずこう考えます。
- 寝袋の温度域は足りるか
- マットは十分に暖かいか
- 防寒着は万全か
しかし、初心者が最初につまずく致命的ポイントは、意外にも別のところにあります。
「ガスはあるのに、火がつかない」
雪山テント泊では、ガス・コンロ・ライターを持っていても調理も湯作りもできない状況が本当に起こります。
この記事では、
- 雪山テント泊で「ガス着火」が失敗する理由
- 登山ライターで電子式が危険な理由
- 高所・低温でも確実な着火方法
- 初心者が持つべき着火装備の正解
を、原理から実践まで詳しく解説します。
雪山テント泊初心者が最初にやる失敗とは?
電子式ライター・イグナイターを信用しすぎる

ガスバーナーのオートイグナイター

電子式ライター
平地や夏山では問題ない電子式ライターやコンロ内蔵イグナイター。
しかし雪山テント泊では、これが最初の落とし穴になります。
理由は単純で、雪山は
- 低温
- 低気圧
- 低酸素
- 風
という、着火に不利な条件が同時にそろう環境だからです。
なぜ雪山では「ガスがあるのに着火しない」のか
低気圧で電子式の火花が弱くなる
電子式ライターやイグナイターは、圧電素子による電気スパーク(放電)で着火します。
しかし高所では、
- 空気密度が低下
- 放電エネルギーが分散
- 実効的な火花温度が下がる
結果として、
「火花は見えるが、着火エネルギーが足りない」
状態になります。
酸素が薄く、燃焼条件が厳しい
雪山テント泊は標高2000〜3000m以上になることが多く、酸素分圧が低下します。
- ガスと酸素の混合比が崩れる
- 可燃範囲に入りにくい
これにより、平地では一瞬で着く条件でも失敗します。
低圧=ガスが出やすい、は半分正解
「外気圧が低いなら、ガスは噴き出しやすいのでは?」
これは直感的には正しいです。
しかし実際には、
- ガスが気化
- 気化熱で缶が冷える
- 蒸気圧が急低下
という流れで、
最初は出るが、すぐに弱る
状態になります。

電子式ライター・イグナイターは雪山テント泊に適さない
初心者が選びがちな電子式ライターは、
- 押すだけ
- 軽い
- 安い
というメリットがありますが、雪山では
- 低温
- 湿気
- 低圧
すべてに弱い。
特に危険なのは、バックアップも同じ電子式にしてしまうことです。
これは「同じ失敗を2回できる装備」でしかありません。
雪山テント泊・初心者向け着火装備の正解
原理が違う2系統を携行することをおすすめします。
フリント式ライター(ヤスリ式)
フリント式ライターの外観上の特徴は、親指で回転させるギザギザとした「回転やすり(フリントホイール)」が露出している点にあります。
着火原理は、このホイールを回転させることで、内蔵されたスプリングによって押し上げられた「発火石(フリント)」と強い摩擦を生じさせ、火花を発生させるというものです。
その火花が、レバー操作によって放出されたガスに引火することで火が灯ります。
フリントの火花は、
- フェロセリウム合金の微粒子
- 自己燃焼する「燃えている金属」
- 約3000℃
つまり、
- 気圧に依存しない
- 酸素が多少薄くても燃える
- 風で冷えにくい
電子スパークとは原理が別物です。

ストームマッチ(防水・防風)
普通のマッチは、軸の先端にのみ火薬(頭薬)がついており、摩擦熱で火をつけた後は軸の木が燃えることで火を維持しますが、風や水に非常に弱いのが欠点です。
これに対し「ストームマッチ」は、軸の半分近くまで太く火薬が塗り固められた独特の外観を持っており、この火薬自体が激しく燃焼し続けることで強力な火力を生み出します。
火薬の中に酸化剤が含まれているため、一度着火すれば強風に吹かれても、一瞬水に浸かっても火が消えないという圧倒的な生存能力を持っており、過酷な状況下での着火において普通のマッチより遥かに有利です。
フリント(フェロロッド)
「フェロロッド(メタルマッチ)」は、フェロセリウムという合金を用いた黒色や銀色の金属棒で、ライターの発火石を巨大化させたような無骨な外観が特徴です。
着火原理は、ナイフの背や専用のストライカーでロッド表面を鋭く削り取ることで、摩擦熱によって剥がれた金属粉が空気中で急速に酸化・燃焼(自然発火)し、3,000℃近い大量の火花を放つ仕組みです。
この火花を、あらかじめ用意した麻紐や枯れ草などの「ティンダー(火口)」に飛ばして火種を作ります。
ふつうの登山では荷重になりますが、災害対策アイテムとして持っておいて損はありません。
❌「武骨で頑丈そう」なライターを雪山で選ばない
アウトドアマニアが陥りやすいのが、金属製で重く、いかにもタフそうなオイルライターを信用してしまうことです。
オイルライターは、風に比較的強く、確実に火花が出るという長所を持ちます。ただし、これらは多くの場合、液体燃料を芯に染み込ませ、揮発したガスに着火する方式を採っています。
この構造は、
- 使わなくても燃料が揮発する
- 低温・低気圧で燃料消費が読みにくい
- 残量が外見から分からない
という弱点を抱えています。
平地では許される“燃料管理の甘さ”が、雪山ではそのままリスクになります。短期・残量管理ができる状況に用途を限定する必要があります。
具体的には、
- 日帰りや1泊程度
- 出発直前に注油し、使用回数が把握できている場合
- 他に主となる着火手段を持っている場合
こうした条件下では、オイルライターは補助的な着火道具として有効です。
まとめ:小さな火種が、冬の夜の「安心」を繋いでくれる
便利な道具ほど、過酷な自然の前では繊細な顔を見せます。
スイッチ一つで火がつく便利さは素晴らしいものですが、それに依存しすぎることは、自由を放棄することに似ています。
バックアップという名の「安心」を、二つの火種に託してください。




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