私がスノーピークのギガパワーストーブ「地」を愛する理由

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世界を変えた「胸ポケットに入るストーブ」

1994年、ある開発者の「胸のポケットに入る小さなストーブが欲しい」という、当時としては少しばかり無謀とも言える願いからプロジェクトは始まりました。

1990年代半ばの登山界において、ガスストーブといえばまだ大きくかさばるものが主流の時代です。そんななかで「世界最小・最軽量・最コンパクト」を目指す道のりは、決して平坦なものではありませんでした。とくに、あの花が開くような独自のゴトクの折りたたみ機構や、極小のバーナーヘッドで風に負けない火力を生み出すための調整には、気の遠くなるような試行錯誤が繰り返されたといいます。

そうして1998年、ついに産声を上げた「地」は、ある一枚の斬新な広告とともに世間の耳目を集めることになります。 それは、パカッと割れた鶏卵の殻のなかから、小さく折りたたまれた「地」がひっそりと顔を覗かせているというビジュアルでした。

「卵の中に収まるほど小さい」。 その直感的で少しばかりユーモラスな広告は、どれだけ言葉を尽くすよりも雄弁に、このストーブの常識外れなコンパクトさを登山者たちに突きつけました。重くかさばるのが当たり前だった火器が、手のひら、いや卵の殻に収まってしまったのです。

その実力は決して奇をてらっただけのものではありませんでした。翌1999年のアメリカのアウトドア展示会において、日本の小さなブースから出品されたこのストーブは、名だたる海外メーカーを差し置いて権威ある賞(EDITOR’S CHOICE)をさらっていきます。新潟の金属加工の町で生まれた「胸ポケットに入るストーブ」が、文字通り世界のアウトドアギアの基準を静かに塗り替えた瞬間でした。

外観

お湯を沸かすだけなら、ジェットボイルを持っていきますが、コッヘルやフライパンで炊事する場合にはスノーピークのギガパワーストーブ「地」を持っていきます。

白を基調としたガスカートリッジとあいまって、外観のデザインの美しさは業界随一だと思います。

自然を模倣したかのような開閉機構

ゴトクが花びらのように開き、コッヘルをのせるとその重力によって、根本のストッパーに押し付けられて、ピタリと固定します。

収納時には花が蕾になるようにゴトクを閉じます。屈曲部が折り重なる姿が見事です。

自然を模倣したかのような開閉機構は合理的で美しい。まさしく機能美です。

シンプルなので耐久性が高い

PRIMUSから乗り換えた

スノーピークの「地」を買う前、PRIMUS EXQUIZA EX-ULT-1Aを持っていました。

ゴトクが水平方向に回転し、閉じると「I」、開くと「X」になる開閉機構になっていました。長年使用するうちに、ゴトクを全開にした位置で固定する突起が摩耗して、「X」が意図せず閉じるようになりました。コッヘルをのせると危なっかしいので使わなくなりました。

ギミック満載の他製品も選択しにくい

PRIMUSの現行製品「P-153や「P-115も同じ機構となっており、3~4本のゴトクが独立して開閉したり、ゴトクの途中が2つに折れたり、よりコンパクトに折りたためるように進化しています。なんだかアイアンマンスーツの装着シーンさながらです。ここまでコンパクト化を追及する必要があるのでしょうか。こうしたギミックが多くなるほど、故障しやすく、重量がかさみます。突起が摩耗すると機能が損なわれる心配があるので、この2製品は私の選択肢から外れます。

同じ理由で、スノーピークのギガパワーマイクロマックスも選択肢から外れます。

SOTOの「ウインドマスター」はシンプルで好みですが、ある日突然、ゴトクが金属疲労でパキッといかないか心配です。

ガスカートリッジといっしょに収納可能なコッヘルが販売されている

「地」に限りませんが、軽量コンパクトなストーブはガスカートリッジといっしょにピッタリと収納可能なコッヘルが各社から販売されています。ジェットボイルを導入するまでは、以下の製品を組み合わせました。

フリークライミングやボルダリングの岩場でコーヒーやカップヌードルのお湯を沸かすのに活躍しました。縦走するわけではないので、荷物を切り詰める必要はなかったのですが、軽量コンパクトに徹していました。

収納例

小型のガスカートリッジ(110g缶)を逆さまに深型Pot 500に入れ、ガスカートリッジの底の湾曲部に「地」を横倒しに置きます。火力調節ツマミは出っ張らないように横に位置させます。

蓋がピタリとしまります。

付属のスタッフサックに収納しました。

えっ、マグカップはどうするんだって? さすがにポットには入りません。

カップヌードルの底にピタリと嵌めて、省スペース。そしてカップヌードルの容器を保護します。

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ゴトクを赤熱させると暖かい

故・新井裕己さんが雪山の生活技術として「青い炎のガスを直接つけているより、金属を赤く赤熱させたほうが暖かい」「スノーピークの場合ゴトク部分を広げないで火をつけるとゴトクが赤熱して暖かい」と指摘されています。

原理はコールマンの「遠赤ヒーターアタッチメント」等と同じです。

テントが風でばたつくと、こうした遠赤ヒーターは転げ落ちる危険がありますが、「地」のゴトクなら大丈夫です。ただし、ガスカートリッジの過熱に要注意。雪山限定でしょう。こうした裏技的な利用法は自己責任となります。

ランタンで照明と暖房を兼ねるのが無難です。

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四半世紀の歩み:変わらないために微調整を重ねた「地」の歴史

1998年の鮮烈なデビュー以来、ギガパワーストーブ「地」の歴史を辿っていくと、ある一つの事実に行き当たります。それは「基本設計が驚くほど変わっていない」ということです。

数年で形状やシステムがガラリと刷新されてしまう最新ギアの世界において、これは極めて異例なことでしょう。しかし、決して思考停止して歩みを止めていたわけではありません。時代や環境の要請に合わせ、その本質を守るための細やかなアップデートを静かに重ねてきました。

チタンモデルが示した「さらなる軽量化」の夢

かつて、このストーブにはゴトクなどにチタン素材を採用したモデル(GS-100Tiなど)が存在していました。ただでさえ軽い「地」を、素材の力で極限まで削ぎ落とそうという試みです。チタン特有の鈍い輝きと焼け色に魅了された方も多かったはずです。現在では惜しまれつつも標準のラインナップからは姿を消してしまいましたが、1グラムの軽量化にしのぎを削るストーブの歴史において、一つの鮮やかな到達点を示した名機でした。

安全基準への適合(R、R2モデルへの変遷)

その後、日本国内におけるガス機器の安全基準(PSLPGマーク等)が厳格化されたことに伴い、型番の末尾に「R」や「R2」を冠するモデルへと移行していきます。

  • GS-100R2: オートイグナイタ無し
  • GS-100AR2: オートイグナイタ有り

バルブの内部構造やOリングの材質、ツマミの微小な形状変更など、パッと見では気づかない部分で着実な改良が施されました。これは「姿を変えた」というよりも、現代の厳しい安全基準のなかでも「変わらずに現場に在り続ける」ための、地道で真摯なアップデートだと言えます。

発売から四半世紀。素材の変更や品番の移行はあれど、あの卵の中に収まる独自の折りたたみ機構も、四本のゴトクの美しい曲線も、初期型の面影をそのまま残しています。

本当に完成されたデザインは、時を超える。

その少しばかり大げさな言葉を、手のひらの上で静かに、そして身をもって証明し続けているストーブなのです。


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