雪山登山でゲイター(ロングスパッツ)を素早く装着する方法

雪山登山においてゲイター(ロングスパッツ)は必須装備です。

年がら年中、登山者が入り、よく踏まれたトレースがついている八ヶ岳の赤岳鉱泉であっても、登山口から装着するほうがいい。

靴底のストラップが痛むのが嫌だなぁ。堰堤広場に着いてから装着したいです。

それはそうだ。完全に装着しないまでも、バスや車から降りたら、バックパックから取り出して、ふくらはぎに巻く。靴底のストラップはゲイターの内側に巻き込んでおく。そうすれば、トレースを踏み外して深雪にズボリ! ソックスが雪まみれ、なんて羽目にならない。

なるほど。巻いておくだけでもズボリ対策になりますね。靴底のストラップは、バックルを留めるのが面倒くさいんですよ。

そうくると思った。素早く装着する方法を伝授しよう。この方法は、商品の取扱説明書やメーカーのホームページには記載されていない。

まずは基本的な装着方法をおさらいし、その上で素早く装着する方法を解説します。

ゲイター(ロングスパッツ)の基本的な装着方法

  1. 足の後ろからかぶせて、フロントファスナー(ベルクロ)を閉める。

  2. 靴紐を覆うようにフックを掛ける。
  3. 靴底の土踏まずにストラップ(バンド)をまわしてバックルを留める。

この方法では、最後の「バックルを留める」作業が鬼門となります。

アイゼンを引っかける危険性を極力排除するため、バックルが足の外側に来るようにするのがセオリーです。

登山靴を履いて、足底までの距離が遠くなった状態で、不自然に身体をねじって、両手でバックルをチマチマと操作しなくてはなりません。

穏やかな天候なら気になりませんが……。

この作業は、安定した地面でやっても手間取ります。不安定な雪のなかだと、ちょっとした拷問です。

この悩みを解消するのが、次項の「素早い装着方法」です。

ゲイター(ロングスパッツ)の素早い装着方法

  1. 靴底のストラップ(バンド)をあらかじめ適切な位置で留めておき、土踏まずに掛ける。
  2. フロントファスナー(ベルクロ)を閉める。
  3. 靴紐を覆うようにフックを掛ける。

以上。👍

「バックルを留める」作業を省略するのが肝要です。

ゲイター(ロングスパッツ)の素早い装着方法【応用】

前項の「素早い装着方法」は、ベルクロタイプに適しています。

ファスナータイプの場合、最初に足底のストラップ(バンド)を留めた状態で開始するため、足先までの距離が遠くなるぶん、ファスナーの端を噛み合わせる作業がやりにくくなります。

前項の「素早い装着方法」ではファスナーを上で噛み合わせて引き下ろすタイプのゲイターを利用したので、まだマシでした。

ファスナーを下で噛み合わせて引き上げるタイプのゲイターの場合、次の手順で若干省力化できます。

  1. 高い位置で足の後ろからかぶせて、フロントファスナーを閉める。
  2. フロントファスナーを下側から開いて、ズリ下げて、靴底のストラップ(バンド)を土踏まずに掛ける。
  3. フロントファスナーを引き下ろし、靴紐を覆うようにフックを掛ける。

もちろんダブルファスナー(上下どちら側でも開放できる)である必要があります。

ゲイター(ロングスパッツ)の選び方(メリットとデメリット)

ゲイター(ロングスパッツ)の素早い装着方法は、ここまで書いてきたように、製品の仕様によって微妙にちがいます。使い心地もちがいます。

基本構造、メリットとデメリットを知ったうえで選んでください。

ベルクロかファスナーか

全面ベルクロ式(THE NORTH FACE公式サイトより引用)

ベルクロはどこからでも自在に貼り合わせることができます。単純で故障しにくく、言うことがなさそうです。が、広いベルクロ面を足の曲線に合わせてピッタリ貼り合わせるのが意外と難しいと感じます。

隙間があると雪が侵入し、凍り付き、粘着力を失います。また、毛の手袋で扱うと、ベルクロがくっつきやすくてイライラします。(そんなときこそ防寒テムレスの出番?)

ファスナーとベルクロのハイブリッド構造

ファスナーは機構が複雑なだけに雪が凍り付くと始末に負えません。昔は、雪の圧力を受けにくい足の後ろ側にファスナーが設けられていました。

こんな時代もありました。

昨今ではファスナーとベルクロのハイブリッド構造よって雪を防ぎ、足の前側に設けて着脱しやすくしたタイプが主流です。ファスナーがガイドラインとして機能するため、ベルクロ部分をピッタリ貼り合わせることができます。さらに、末端をホックで留めるようになっています。

ふくらはぎの締め付けは平ゴムか丸ゴムか

ゲイターを長時間装着していると、履き口の締め付けが気になります。下半身の重ね着の程度にもよりますが、丸ゴムは食い込みを感じます。平ゴムのほうがストレスになりにくいです。

平ゴム

丸ゴム

 

靴紐を覆うスカートは広く、伸縮性に富むか

靴紐に雪が付着して凍結するのを防止するため、できるだけつま先寄りの靴紐にフックをかけます。

国産品は多雪でラッセルが多い日本の山を想定して、つま先側のスカートが広く伸縮性に富む傾向にあります。

靴底のストラップ(バンド)はネオプレン製か否か

本格的な雪山登山を想定した製品では、靴底のストラップ(バンド)に丈夫なネオプレンを採用するのが標準的……と書こうとして、あらためて製品の紹介ページを見ると素材については明示されていません。

平べったい樹脂製のストラップ(バンド)に光沢のあるTPUコーティングをほどこすのが主流になっています。

「ライト」なスパッツ

商品名に「ライト」が付くような製品は文字通りライトな雪山ないしは無雪期を想定しています。

靴底のストラップにはショックコード(と補強用のチューブ)が採用されていることが多く、固定するには中のコードを引き出してフックに引っ掛けます。アイゼンでガツガツ氷雪を蹴るような雪山登山では耐久性に不安をおぼえます。

また、「ライト」な製品は本体の生地が薄いため、アイゼンの爪が引っ掛かりやすかったり、貫通しやすかったりします。

雪山登山におすすめのゲイター(ロングスパッツ)

雪山登山に向いたゲイター(ロングスパッツ)は百花繚乱というわけではありません。選択肢はごく限られています。

mont-bell / GORE-TEXアルパインスパッツ

マイチョイス。長い空白期間のあと本格的な雪山登山を再開したとき、最初に購入した製品です。すべての点でソツがありません。

フロントファスナーとベルクロのハイブリッド。ダブルファスナー仕様で、下側を噛み合わせて引き上げます。

前部スカートが広く伸縮性に富み、フックのプルタブが大きめで、最前部の靴紐に引っ掛ける作業がしやすいです。

履き口は平たいストラップとゴムの組み合わせで締めます。

ISUKA / ゴアテックス ロングゲイター

mont-bellの「GORE-TEXアルパインスパッツ」と比較すべき製品です。

フロントファスナーとベルクロのハイブリッド。ダブルファスナー仕様で、上側を噛み合わせて引き下げます。

mont-bell製品と比較すると、同じLサイズでも若干小さく感じます。生地が厚めで、それが前部スカートの伸縮性を限定しているのか、靴紐の最前部にフックをかけにくいです。ズリ上がりを防げさえすればよいと割り切るなら、足首寄りに引っ掛ければよいでしょう。

履き口は丸ゴムで締めます。

OUTDOOR RESEARCH / クロコダイルゲイター

アウトドアリサーチ社の最初の製品はゲイターでした。

同社の「クロコダイルゲイター」が並んでいない登山用品店を見たことがありません。「こんなにたくさん並べる必要あるのか?」と思うほど陳列棚を占有しています。

前面に強力なベルクロを配置し、下部末端はベルクロをもう一枚重ねて剥がれにくく強化しています。

履き口は平たいストラップとゴムの組み合わせで締めます。バックルは長さを調節するだけでなく、左右の生地を連結する役割を兼ねています。着脱の都度ストラップをバックルに通すのは少々面倒ですが、スナップボタンで留めるよりも確実に固定できる安心感があります。

THE NORTH FACE / アルパインロングゲイター

OUTDOOR RESEARCHの「クロコダイルゲイター」と比較すべき製品です。

前面に強力なベルクロを配置しているのは同じですが、全体に生地がすこし薄手です。

履き口のバックルはフィット感の調節専用です。着脱のたびにストラップを通す必要はありません。(旧モデルはたしかサイドリリースバックルで「左右の生地の連結」と「締め具合の調節」を兼ねていた。バックルが嵩張りが多少気になった)

Black Diamond / アルパインゲイター

フロントファスナーとベルクロのハイブリッド。ただし、ダブルファスナーではありません。スカートは短い……と言うより、むしろ手前にくぼんでいるため、ファスナーの噛み合わせ位置は遠くありません。フックを最前部の靴紐に引っ掛けることは想定されていません。

履き口は「クロコダイルゲイター」と同様に「長さの調整」と「左右の連結」を兼ねる仕様です。が、サイドリリースバックルで開閉できるため、着脱のたびにストラップを通し直す必要はありません。

finetrack / アルパインゲイター

日本の気鋭ブランドfinetrackが2023/24シーズンにアルパインゲイターを販売開始しました。

ベルクロ仕様は、OUTDOOR RESEARCHの「クロコダイルゲイター」の系譜につながるものです。

特筆すべきは、靴底ストラップの調節機構をゲイターの内部に収めているところです。外観がすっきりし、氷雪や岩に引っかかりにくくなっています。

この記事で取り上げた「素早い装着方法」(あらかじめストラップの位置を調整し固定して利用する)を基本的な装着方法としています。

HERITAGE / サガルマータ プロ eVent ロングスパッツ

ヘリテイジと言えば、カモシカスポーツからエスパーステントの企画開発を引き継いで誕生したブランドです。

そして、カモシカスポーツと言えば、ヨーロッパアルプスやヒマラヤで名を馳せたカモシカ登山隊の母体とも言える登山用品店です。

石井スポーツで見つからないマニアックな山道具が、カモシカスポーツでは普通に陳列されているという経験を何度もしました。

そんな山屋臭の強いブランドが「サガルマータ」(世界最高峰エベレストのネパール名)を冠したゲイターを販売していると知ったら見過ごすわけにはいきません。

商品名に今時の「ゲイター」じゃなく、昔ながらの「ロングスパッツ」を用いているのが嬉しいじゃありませんか。

最大の特徴は、底バンドのストラップ(ワイヤー製!)を甲の上で留めること。ゲイター着脱の最難関を独自の発想と設計で解決しました。

なので、フロントファスナーは下で噛み合わせて引き上げるだけの変哲のなさ。何か問題でも? 「基本的な装着方法」のままで良し。最後に心ゆくまでワイヤーで締め上げましょう。

足の内側に突起物が多くなるので、アイゼンを引っかけやすくなるのでは?」という素朴な疑問が湧かなくもありません。

  • 初歩的な歩行技術なんぞ、とうの昔に卒業している。
  • 長期のルート工作や氷雪の登攀でへこたれない頑丈な道具がほしい。

そんな山の猛者をターゲットにした製品だと言えます。

 

 

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