異論あり⁉︎ ピッケルのザックへの取り付け方、持ち方、携行方法

雪山の教則本やインターネットでよく紹介されている「ピッケルのザックへの取り付け方」を私はひと頃採用しませんでした。その理由について、書いてみます。

また、滑落停止とか、ビレイの支点とか、行動中の「利用法」についてはよく言及されますが、「利用しないときの携行法」に言及されることは少ないようです。そちらにもスポットライトを当ててみます。

私が逆T字差しを採用しない理由

ザックの正面にピッケルを取り付ける

教科書ではザックの正面にピッケルを取り付ける逆T字差し(と呼ぶことにします)が推奨されています。ザック下部のループにシャフトを通して、ひっくり返して石突きを上に向け、シャフトの中程をバックル(あるいはテープやゴムのループ)で止める方法です。

私は逆T字刺しをあまり採用しませんでした。

  • 広くて安定した場所でないと、シャフトを通してひっくり返す操作はやりにくい。
  • シャフトを止めるのがバックル式ならまだマシだが、テープを通して折り返す操作が面倒くさい。
  • つまり、頻繁に着脱するには向いていない。
  • 行き帰りの交通機関に限定したとしてもあまり優秀だとは思えない。取り付け具の位置関係や、ザックの丸みにもよるが、ザックから離れて突き出しがちである。

私がT字差しを採用する理由

ザックの横にピッケルを取り付ける

この携行法はこのピッケル(ラプラード・デメゾン)独自の仕様にかなり依存しています。シャフト全体がラバーで覆われているため、サイドに差しても前後にズレにくいです。

私はT字差し(と呼ぶことにします)を採用することが多かったです。単にザックのサイドストラップを通して、石突きを下部のポケットに収めるだけです。

  • 登山中に咄嗟に使いたくなったら、ザックを背負ったまま、忍者が刀を抜くようにピッケルを引き抜くことができる。
  • ザックのサイドにぴったり寄り添うので、行き帰りの電車やバスでも邪魔になりにくい。切っ先(もちろんカバーを付けている)が自分の顔の近くにあるので周囲に配慮しやすい。
  • 行動中以外に石突きが露出する場面はないので、石突きのカバーについては省略するか、ガムテープで覆う程度で大丈夫。

ピッケルを引きずって歩く

「バックカントリー穂高」さんはyoutube「雪山で使えるピッケルリーシュとは?」のなかで、市販のリーシュコードではなく、30cmのスリングをピッケルのヘッドに付ける方法を紹介されています。

滑落する危険のない場所では、手首にぶら下げて引きずるそうです。ヘッドを持たないので手の冷えを軽減できます。必要になったら、すぐにヘッドを持ち直せます。

60cmのスリングをたすき掛けし、さらにもう1本の60cmスリングとカラビナを用いて、ピッケルと連結すれば、肩がけのリーシュコードになります。緊急用の装備として、スリングやカラビナを加えるのであれば、リーシュコードと置き換えてしまえば、無駄がありません。

ピッケルを肩にちょい乗せして歩く「マサカリ持ち」

あまり登下降のない気楽な雪稜で、石突きが雪面に着くか着かないかだと、ピッケルを持ち上げている腕がダルくなります。そんなときは、ピック側を肩に乗せて、両手でシャフトを握ると、とても収まりが良く、腕を休めることができます。

ピックのギザギザで高価なジャケットの肩を傷つけたくないので、ザックのショルダーベルトの上に乗せたりして。昔はやる人が多かったはず。あえて名付けるなら「マサカリ持ち」? 現在はピッケルを使わないときには両手にストックを持つスタイルが定着しているので、もはや忘れられた技術です。

最後に、謎の「アルペン刺し(差し?)」

寡聞にして知りませんでした。一時的に両手を自由にしたいとき背中とザックのあいだにピッケルを差し込みます。

ピオレドール受賞の著名クライマーもアルペン差しを披露されています。

岩場や鉄梯子では中途半端にピックを引っ掛けるより、両手でムンズと握るほうが安定感があります。そのあいだピッケルをハーネスのギアラックなどに侍の刀のように差すと、ぶらぶらして邪魔になる。じゃあ、背中とザックのあいだに、という発想です。ゴツゴツして痛そうですが、一時しのぎで、特別な道具もいらないので、有用な技術です。

ことほど左様に、ピッケルを使わないときの始末に頭を悩ましている人は多いはずです。登山中にザックの横にピッケルを簡単に着脱できて、ぶらぶらさせないようなアタッチメントが欲しい。モンベルあたりがアルパインチーフ(Alpine sheath)なんて名前で開発してくれないでしょうか。
これからピッケルを入手する人はこちらの記事をご参照ください。

コメント

  1. 高橋能久 より:

    ピッケルのアルペン差し、について私はいまでも通用していると思っておりましたが時代の流れで絶滅していたんですね、今でもアルペン差しを行って居りますが、剣豪の佐々木小次郎のように素早く背中から抜けるし、しまう時も歩きながら容易にしまえますので、なぜ廃れてしまったのでしょうか。差し方は簡単、ザックストラップの上の付根がV字になっている所の真ん中から背中に直接当てながらわきの下側にに斜めに差し込むだけです、荷物の重みで背中中央に隙間が出来ますのでそこに斜めに通し、わきの下側方向に斜めに通し、シュピッツェをザックの横に出すのでちょうど佐々木小次郎が剣を背中に差している様になります、ザックと背中の間で差すのですが全く気になりませんし、ピッケルの存在が背中で感じられますのでとても安心感がでます。

    • kamiyama kamiyama より:

      高橋様、コメントありがとうございます。雪山から長いこと遠ざかっているあいだに「アルペン差し」という呼び方が出てきたのかと思っていました。私が知らないだけで、もっと昔からある呼び方でしょうか。「忍者のように」より「佐々木小次郎のように」という表現がカッコいいですね。

  2. 名取 優子 より:

    私も差しますよ。ピッケルのヘッド部分を右手で持ち、左側ショルダーに差して右手をぐるりと頭の後ろに持ってきます。結果は高橋さんと同じです。痛くもなく、敵(難所)が近づいてきたら頭後ろから抜いてやり過ごし、また差して歩く。です。

    • kamiyama kamiyama より:

      名取 様、コメントありがとうございます。特別な器具もいらず、さっと仕舞ってさっと取り出せて良いですよね。登山のノウハウ本でも言及してほしいものです。

  3. より:

    T字差し、ザックを前に抱えて持つ時に前の人にヘッド部分がぶつかる場合があるのでそれだけ注意ですね!
    以前バスで後ろの席に座られた方が膝にザックをドンッと下ろした際、
    前に座っていた私の頭にピック部分が振り落とされる形でぶつかって大変痛い思いをしました。差し方に問題があったのがしれないですが・・

    • kamiyama kamiyama より:

      ず 様、コメントありがとうございます。
      サイドストラップでしっかり締め付けていなかったのでしょうか。
      また、T字差しは大きなザックに取り付けることを前提にしています(説明不足!)。小さなザックだと固定しにくいですし、ピッケルの重心が高いので倒れやすいですね。

  4. 天野 より:

    T字指しで列車の網棚に載せたところピッケルが落ちそうになりました。
    それ以来、逆T字に戻しました。
    しかし、これだけザックが進化しているのに、何故ピッケルだけがループ反転方式なのかは不思議です。

    • kamiyama kamiyama より:

      T字差しはサイドストラップとの摩擦が少ないとヘッドが動きますね。シャフトが全部ゴムのタイプを使っていた頃の独自ノウハウでした。短めのピッケルだとヘッドを丸ごと雨蓋の内側にくるむことができます。