槍ヶ岳のマナーと登り優先のパラドックス

槍ヶ岳のマナーと登り優先のパラドックス

槍ヶ岳に久しぶりに登頂した

なんと四半世紀以上ぶりです。

同じ北アルプスでも、後立山方面や穂高方面には行ってたんですけどね。

前回登ったのは1989年の秋。1日目、千天出合にテント泊し、2日目は北鎌尾根の末端から槍ヶ岳を目指しました。ルートファインディングに迷ったり、雪が舞い始めたりしたため、独標の少し手前、天狗の腰掛けと呼ばれる台地でテント泊しました。忘れもしない1989年10月8日、立山で大量遭難(吹雪のなか8名が低体温症で死亡)が発生した日です。

翌朝、テントを撤収する仲間
翌朝、テントを撤収する仲間

北鎌尾根から槍の穂先への最後の登り
北鎌尾根から槍の穂先への最後の登り

頂上に這い上がるポーズで記念撮影。背後の岩に「キタカマ」とペイントされていました。
頂上に這い上がるポーズで記念撮影。背後の岩に「キタカマ」とペイントされていました。

今回久しぶりに登ってみて、印象を新たにした

一般ルート側の最後の鉄梯子がかなり怖い

99パーセントの人がロープ等による確保なしに登下降していますが、手や足を滑らしたら一巻のおしまいです。昔、登ったときには怖いと思った記憶がありません。縦走登山からフリークライミングに鞍替えした長い年月に登攀技術そのものは段違いに向上しているはずなのにどうして? 体力不足の影響で山が大きく見え、岩場が危険に見えるのでしょうか。言い訳としては、特に最近は数メートル規模のボルダリングに傾倒していたため、高度感への慣れを失っているようです。

下山後、槍の肩でくつろいでいると、岩登りのいでたちをした3人パーティーの方達が降りてきました。北鎌尾根を登ってきたようです。その一人が「一般ルート、怖かったよね」とぼやいていました。ですよね。最後の鉄梯子と、北鎌尾根の最後を比較すると、北鎌尾根のほうが登りやすいくらいではないでしょうか。だって、北鎌尾根は自然の岩を掴んで踏んで登れるのに、一般ルートは鉄梯子がないととても登れないんですよ。

ちなみに、上の写真には「キタカマ」と書かれた岩が映っていますが、今回その岩を発見することはできませんでした。似た形の岩が見当たりません。崩落したと思われます。

槍ヶ岳の頂上ってこんなに狭かったっけ

槍ヶ岳の頂上ってこんなに狭かったっけ

昔、夏に訪れた時、頂上でコーヒーを沸かしてのんびり過ごしました。今回もコーヒーセット(テルモスのお湯と、インスタントコーヒーのスティックと、チタン製のマグカップ)を持参しましたが、なんだかえらく頂上が狭く感じられ、落ち着きません。人が多く、風も強かったため、のんびり過ごす雰囲気ではありませんでした。まさか崩落が進行して狭くなったなんてことはないですよね。十五分くらい滞在したでしょうか。結局、コーヒーは下山してから槍ヶ岳山荘のテラスで飲みました。

団体さんには困ったもんだ

頂上には某国の団体さんがいらっしゃいました。ちょうどタイミングが悪かったのでしょうか。団体さんたちが入れ代わり立ち代わり祠の前で「槍ヶ岳」の看板を掲げて記念撮影しているので、単独行者はなかなか割って入ることができません。気後れして、祠の背景に北鎌尾根をいれた写真をさっと撮っただけで引き下がることにしました。さぁて、下山しようか。

そのとき「撮りましょうか」と若い男性に声をかけられました。えっ、私? 山で「シャッター押してもらえませんか」と頼んだことはほとんどありません。ましてや他人様からわざわざ声をかけていただいたのは初めてです。ご厚意に甘えて、撮っていただきました。

槍ヶ岳山頂(2017年10月1日)

もしかすると、その方は山頂の「惨状」を見るに見かねていたのかもしれません。あまり山慣れしていないパートナーの方とご一緒でしたが、下山時は先に下りて、パートナーの方を励ましながら、足場を指示しながら、慎重に行動されています。ペースが速い後続者が来ると、道を譲るように指示を出されます。私も追い抜かせてもらいました。岳人の鑑ですね。

槍の穂先から槍の肩へ下降する。

一方、某国の団体さんは渋滞を引き起こしていました。巻き込まれたくないので、できるだけ時間を置いてから、下山を開始したつもりですが、すぐに追いついてしまいました。槍ヶ岳の登下降は登り専用ルートと下り専用ルートが分かれていますが、上部でしばらく共用ルートとなります。

槍の穂先の上り下り共有区間

団体さんはなかなか後続に道を譲らず、登り優先のマナーも知ってか知らずか。下のほうで控えていた人が思わず「登りますよ~ッ。いいですか~ッ!?」と声をかけても心に響かないようです。団体さんの一人はヘルメットにGoProを付けていました。山慣れして余裕がある方だと思いますが、そうした自己表現用の機器を装着していると、よりいっそう自分たちの世界に入り込んでしまうのか、周囲に気を配る意識が希薄になるように見受けられました。

そう言えば、東鎌尾根でも某国の団体さんが道を譲らずにどんどん降りてきたことを思い出しました。まぁ、こちらは疲れていて、休み休み登りたかったのでいいんですけどね。


槍ヶ岳の登下降路について、「ワンダーフォーゲル」2018年6月号(p.36)で解説されています。

団体vs少人数なら、少人数優先という考え方があってもいい

登り下り関係なく、団体vs少人数なら、少人数優先という考え方があってもいいですね。極端な話、50人と1人がすれちがう場合、50人が延々と通り過ぎるのを1人が待つのは辛いです。1人を優先的に通してあげれば、50人のひとりひとりが足を止めるのは短い時間ですから、パーティー全体が極端に遅れることはありません。

ところが実際には集団心理が働くのか、そこのけそこのけパーティー様のお通りだい、となってはいないでしょうか。

登り優先のパラドックス

登山道でのすれちがいは「登り優先」とされています。そのいちばんの理由は、下りのほうが技術的に難しく、落石を起こしたり、転落したりした場合に、下にいる者を巻き添えにする可能性が高いことです。

一般ルートでも岩稜の登下降が多い欧米から輸入された概念ではないでしょうか。

上にいる者のほうが周辺の状況を把握しやすいとか、登る人のペースを邪魔しない、とかいう理由は日本独自の後付けではないかとさえ思います。北アルプスなら剣岳や槍穂高など一部の岩稜帯を除く、トレッキングポールを突いて歩くような登山道ではあまり神経質になる必要はなくて、近くによけるスペースがあるほうが道を譲ればいい。どちらが道を譲るか迷うような状況では「登り優先」くらいに考えればいいのではないでしょうか。

ところで、槍ヶ岳のように人気が高くて、山頂が狭い山で、律儀に「登り優先」を守ったらどうなるでしょう。理論上、山頂に人があふれて、危険な状態になりかねません。だとすると、むしろ「下り優先」のローカルルールが必要になるかもしれませんね(笑)。

変更履歴

  • 初公開(2017年10月16日)
  • 槍ヶ岳の登下降路について補足しました。(2018年8月28日)
活動記録
Kamiyama Online

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