レインウェアについて語るときに僕の語ること【理論編】

基本構造で選ぶ

レインウェアは常時着用せず行動中はザックのなかに収納するのが基本です。山に出かけて帰宅するまで、一度も袖を通さないことさえあります。そのため軽量コンパクトさが優先される傾向にあります。内側にたくさん着込むことを想定しないため、シルエットは比較的細身です。

フードの使い勝手で選ぶ

フード展開時(背面)

フード収納時(背面)

ひと昔前の日本製では、フードをホックで取り外したり、襟の内側に巻き込んで収納したりできるタイプが多数派でした。現在は一体型が主流です。フードを背中側に垂らしておいても、たいして邪魔になりませんし、いちいち襟の中に入れたり出したりするのが面倒くさい、という方向にシフトしました。

むしろレインウェア本体をフードの内側に巻き込んで収納するのが(つう。逆転の発想(ナツカシイ響き)です。

ただし山岳救助隊の皆さんにはフード収納型(あるいは着脱型)の人気が根強いそう。ヘルメット着用が基本なので、フードと干渉しやすいとか、ヘリコプターの爆風にフードが煽られやすいとか、隊員同士のコールが聴き取りにくいとか、様々な理由があるようです。

フードとヘルメットの干渉は一般登山者にとっても悩ましい問題です。

  • ヘルメットを着用できるほど大きなフードを備えたレインウェアが少ない。
  • 一応「ヘルメット対応」を謳っていても大きさが不十分な場合が多い。強引にフードをかぶると、首回りが窮屈で仕方がない。
  • 上下左右を見た拍子に、ヘルメットがフードに押さえつけられて歪み、視界をふさぐので危険である。

これらの問題を解決するには「ヘルメットの内側にフードをかぶる」のが一案。

ヘルメットの外側にフードをかぶる

ヘルメットの内側にフードをかぶる

ヘルメットで押さえつければ、頭の動きにフードが追従するのでむしろ快適です。ヘルメットの通気口から雨粒が侵入しますが、ヘルメット内側のパッドやストラップはさほど水分を含まないので大丈夫です。

「そもそも雨降りの最中に岩稜帯を歩くのか」という疑問がわきますが、いざそんな状況に追い込まれたときの対処法を模擬演習しておいて損はありません。

脇下のベンチレーションの有無で選ぶ

脇下のベンチレーション

ピットジップ(脇下のベンチレーション)があると、オーバーヒートや蒸れを効率よく解消できます。脇下が屋根となるため、開放したままでも雨が降りこみにくい。ファスナーが増えるぶん嵩張るのと、開閉しにくいのが難点です。

ファイントラックのアウターシェルのように胸から両腰に向かって、大きく斜めに開く位置にベンチレーションが付いていると、開閉しやすく、かつ内側に着こんだウェアのポケットにアクセスしやすくなります。

軽量コンパクトを旨とするレインジャケットでは、ピットジップを備えた製品は少数派です。残雪期のシェルとしても使えそうな、やや重厚な製品が多くなります。

ポケットの位置で選ぶ

ひと昔前は、止水ファスナーが存在しなかったため、竪穴式のポケットにフラップを付けて、雨粒の侵入を防ぐタイプが多かったです。ポケットの底がジャケットの裾まで達しているため、固いモノを入れると足上げのたびにコツンコツンと当たり不快でした。ウエストベルトを締めるタイプのザックが普及すると、その不快さは倍増しました。

そこでポケットをやや高い位置に付けるようになりました。普通タイプのファスナーの場合、雨粒の侵入を防ぐためフラップで覆います。「止水ファスナーは手応えが硬く、耐久性に不安を感じる」という人はこのタイプを選ぶことになります。

フラップの一部をベルクロで留めて、ファスナーを全開にすれば、ベンチレーションとして利用できます。ファスナーが万が一故障した場合のバックアップにもなります。ただし、ベルクロが自動的に(勝手に)粘着しやすく、ファスナーを開閉するたびに邪魔しがち。平常時には煩わしいと感じるかもしれません。

ナポレオンポケット(胸ポケット)がひとつ付いたタイプが増えています。スマホやカメラを素早く出し入れするにはいちばんアクセスしやすい「特等席」です。両腰ポケットの底がジャケットの裾よりやや高い位置にあるかどうか、外観だけではわかりにくいので、手を突っ込んだり、裏返したりして確認しましょう。

両胸にナポレオンポケットが付いたタイプがときどき見られます。「特等席」が2つあるわけで、このタイプがいちばんモノを出し入れしやすい。容積に注意。大き目のスマホを入れると一杯になってしまう製品から、腰から肩近くまで広大な収容力をもった製品まであります。左胸ポケットだけかと思ったら、右胸ポケットが内側に付いている場合があるので、フロントファスナーを開けて確認しましょう。

袖口(カフ)の調節機構で選ぶ

袖口はベルクロとゴムのシャーリングを併用するタイプが標準的です。軽量化を優先した製品ではゴムのシャーリングだけになります。前者のほうが手首の締め具合を調整しやすく、雨水の侵入を防ぎやすいですが、横殴りの風雨のなかでは五十歩百歩かもしれません。

特にトレッキングポールを突いて歩く場合、袖口が横から上を向くため、雨水が侵入しやすくなりまりす。岩稜帯で岩をつかむ場合も同様。ジャケットのポケットに「レインカフス」を忍ばせておくと強い味方になります。

フロントファスナーがダブルジッパーかどうかで選ぶ

フロントファスナーが下側からも開くダブルジッパー仕様だと、なにかと便利です。クライミング中にウインドブレイカー代わりに羽織った場合、下側を開いてビレイループを出しやすい。冬季クライミング用の「ビレイパーカ」は100%ダブルジッパー仕様です。休憩中やテント内ですわってくつろぐときにも、下側を少し開いたほうが腰回りが突っ張らず快適です。

男性諸氏なら、用足しの際にも利便性を享受するでしょう。アンダーウェア、トレッキングパンツ、レインパンツ、レインジャケットの裾をかいくぐって、モノを導き出した状態で、「うわっ、飛沫が……」なんてトラブルを回避しやすくなります。

軽量コンパクトを旨とするレインジャケットでは、ダブルジッパーを備えた製品は少数派です。残雪期のシェルとしても使えそうな、やや重厚な製品が多くなります。

アノラック(プルオーバー)タイプをあえて選ぶ

前項の「フロントファスナーのダブルジッパー」で、腰回りがダブつかない、ゴロつかない、という長所を取り上げました。同じ効果を「ファスナーをなくす」という逆の発想で得ることができます。どうせザックのウエストベルトや、登攀用具で腰回りがふさがるのであれば、その部分にファスナーがあっても開くことができません。胸元だけ開けば十分です。ファスナーが短いぶん軽量で、かつ雨が侵入しにくくなるので、一石三鳥です。

レインパンツこそ慎重に選ぶ

レインパンツは頻繁に着脱しづらいので、「着脱のしやすさ」と「着用したままで多様なシチュエーションに対応できること」を重視したいところです。

標準的なレインパンツには裾から膝の高さくらいまでファスナーが付いており、「登山靴を履いたまま着脱しやすい」とされています。しかしゴツい登山靴だと固い靴底がつっかえてしまい、足を通すのは困難です。泥にまみれた登山靴を強引に通せば、レインパンツの内側が汚れて、それがトレッキングパンツに濡れ戻ります。

だからと言って、雨が降りしきる中、わざわざ靴を脱いで足を通すのは面倒くさい。山の中ではどっかり腰をおろして身づくろいできる場所はそうそうありません。「うーむ。レインパンツを着ていたら、あの濡れた岩に腰かけるのになぁ」とボヤいても始まりません。そのレインパンツをこれから履こうとしているのですから。結局、レインパンツを省略したばかりに、下半身がずぶ濡れになった経験はないでしょうか。

登山靴を履いたまま着脱しやすくする裏技

この「レインパンツ着脱問題」を解決するには、20~30㍑くらいのポリ袋が役に立ちます。なんならレジ袋でもOK。登山靴にかぶせると、あら不思議、レインパンツの内側を汚すことなくスムーズに足を通すことができます。

サイドフルオープンという選択肢

せめて足の付け根くらいまでファスナーが欲しい。いや、そこまで行くなら、いっそのことサイドフルオープンにして欲しい。そうすれば登山靴を履いたまま着るのも脱ぐのも自在です。もし暑ければサイドファスナーの上半分を開放したまま歩けば良い。「どんなに透湿性にすぐれた素材もオープンエアにはかなわない」という金言(自作)を実証する瞬間です。ファスナーが長いぶん重量が増えますが、重量をおぎなって余りある利便性を得ることができます。

軽量コンパクトを旨とするレインパンツでは、サイドフルオープンファスナーを備えた製品は少数派です。残雪期のシェルとしても使えそうな、やや重厚な製品が多くなります。

せっかくサイドフルオープンの製品を買っても、スライダーへの挿入口が裾側にしかないと上半分だけ開放する技が使えません。いわゆる「ダブルジッパー」になっている必要があります。

トレッキングパンツがそのままレインウェアになるという選択肢

2017年春夏シーズン、ミレーが「TYPHON(ティフォン)50000 シリーズ」という高透湿防水ウェアを発表しました。まず素材の透湿性が50,000g/m²・24hrsと優れています。それだけでも大注目ですが、「ティフォン 50000 ストレッチ トレック パンツ」が画期的でした。見かけは普通のトレッキングパンツで、裏地がしなやかなニット地になっています。雨が降ってきてもレインパンツを重ね着する必要がなく、軽快に歩くことができます。

真夏の低山ではさすがに蒸れ蒸れになりそうですが、夏の日本アルプスや、春秋の中級山岳では便利に使えるでしょう。ホーボージュンさんは「山と渓谷 2018年6月号」(p.151)で《僕は山だけでなくこのまま街での生活でも着用し、さらに2晩テント泊したときには、これをはいたままシュラフに入ったが、ぜんぜん問題なかった。こんなことができるレインウェアがあるなんて……。》と書かれています。

レインスパッツと併用する前提で選ぶ

レンパンツの裾を泥や砂で汚さないように、「レインスパッツ」を外側に着用する光景をよく見かけます。しかし雨水が靴の中に侵入するのを防ぎたいなら、内側に着用したほうが効果的です。さもないと、スパッツとレインパンツの隙間から雨水がどんどん伝い落ちてしまい、スパッツを付けた意味があまりなくなります。

登山靴の内部は晴天時でも蒸れやすく、その湿気は登山靴の足首周辺から徐々に排出されます。足首まわりの通気に留意しましょう。スパッツの上部を緩めたほうが湿気が抜けやすくなります。もちろんスパッツ自体の透湿性が高いに越したことはありません。

テーパードが強い(足首に向かって細くなった)レインパンツは足元が見やすい代わりに、裾から空気が循環しにくくなります。雨の侵入を防ぐために細いほうが良いのか、換気しやすいように太めが良いのか、選択が難しいところです。

防水透湿メンブレンで選ぶ

耐水圧と透湿性で選ぶ

「外部からの水の侵入を許さない防水性」≒「耐水圧」については、登山用品店に並んでいるレインウェアならば五十歩百歩……と言ったら言い過ぎかもしれませんが、よほど長時間、強い雨に打たれ続けるのでなければ差を感じにくい部分です。

雨は強くても1,000~1,500㎜くらい。耐水圧20,000㎜以上であれば、よほど過酷な状況以外では違いを実感できない。1,500㎜以上の水圧の雨が降ってきたら、痛くて立っていられないと言われます。

耐水圧と、対応可能な雨の強さはおおよそ以下の通りです。

耐水圧 雨の強さ
20,000mm
10,000mm 大雨
2,000mm 中雨
300mm 小雨

運動強度による発汗量はおおよそ以下の通りです。

運動強度 発汗量(1時間あたり) 発汗量(24時間あたり)
大人安静時 50g 1,200g
軽い運動 500g 12,000g
ランニング等の激しい運動 1,000g 24,000g

本格的な登山では耐水圧20,000mm以上、透湿性能20,000g/m²・24hrs以上の製品をおすすめします。

以下、素材(メンブレン)ごとに防水透湿性能を比較します。

ゴアテックス(GORE-TEX)

防水透湿素材の代表格ゴアテックスは、耐水圧や透湿性の具体的な数値を公開していません。透湿性については古くから13,500g/m2/24hrsという数値が定着していますが、日本ゴア株式会社のサイトではその数値を見つけることができません。他社の防水透湿素材のほとんどがJIS L-1099B-1法でテストしているのに対して、ゴアテックスはJIS L1099B-2法でテストしていることが、透湿性の比較をより難しくしていました。

しかし、モンベルが2018年春夏カタログで「B-1法による参考値」を公開しました。

mont-bellのカタログ ゴアテックスの性能についての記載
2017~2018 Fall & Winter Clothing Catalog 1平方センチメートルに約14億個もの微細な孔(0.2ミクロン)を持つ、世界最高水準の防水透湿素材です。3レイヤー地で耐水圧45,000㎜以上、透湿性13,500g/m2・24hrs(JIS L-1099B-2法)を初期値(参考値)で達成、洗濯20回後もその性能をキープします。
2018 Spring & Summer Clothing Catalog 1平方センチメートルに約14億個もの微細な孔(0.2ミクロン)を持つ、世界最高水準の防水透湿素材(耐水圧50,000㎜以上、透湿性25,000~98,000g/m2・24hrs JIS L-1099B-1法・参考値)です。洗濯20回後もその性能をキープします。

ゴアテックス社の内部情報を無造作にカタログに載せたのか、モンベルが独自にテストした結果なのかは不明です。天下のモンベルがカタログに掲載した数値ですから、信頼性が高いと言えるでしょう。

透湿性の幅が広いのは、ゴアテックスの種類によるちがいです。

ゴアテックスの種類 防水透湿性 製品の例
ゴアテックス C-NITバッカー 耐水圧50,000mm以上
透湿性35,000g/m²・24hrs
ストームクルーザー ジャケット
ゴアテックス ファブリクス3レイヤー 耐水圧50,000mm以上
透湿性25,000g/m²・24hrs
レインダンサー ジャケット
ゴアテックス パックライトプラス 耐水圧50,000mm以上
透湿性44,000g/m²・24hrs
トレントフライヤー ジャケット
ゴアテックス シェイクドライ 耐水圧50,000mm以上
透湿性80,000g/m²・24hrs
ピーク ドライシェル
ゴアテックスシェイクドライ 耐水圧50,000mm以上
透湿性98,000g/m²・24hrs
サイクル ドライシェル
ゴア ウインドストッパー 耐水圧30,000mm以上
透湿性43,000g/m²・24hrs
バーサライト ジャケット
ゴアテックス プロ ストリームパーカ
ゴアテックス アクティブ Panmah Jacket パンマージャケット

パーテックスシールド(Pertex Shield)

1979年に英国で誕生した高機能素材。2018年春にラインナップが整理されました。

  • 「パーテックスの生地ラインナップがリニューアル」- PEAKS 2018年4月号(p.176)

レインウェアでは「PERTEX SHIELD」と「PERTEX SHIELD PRO」が使われます。現「PERTEX SHIELD」は旧「PERTEX SHIELD PLUS」に相当し、製品の説明では耐水圧:20,000㎜、透湿性:20,000g/m²・24hrsと記載されます。メンブレンが無孔質で薄くしやすいため、製品が軽量コンパクトに仕上がります。「PERTEX SHIELD PRO」は多孔質でより透湿性が高いとされていますが、実製品をあまり見かけません。

PERTEX SHIELD
PERTEX SHIELD PRO

ハイベント(HYVENT)

THE NORTH FACEの独自素材ハイベントは耐水圧:20,000㎜、透湿性:20,000g/m²・24hrsくらいの製品が標準的です。ハイベントもゴアテックスと同様に種類が多く、同じタイプでも製品のコンセプトによって防水透湿性能を調整しています。

ハイベント製品 防水透湿性
ハイベントレインテックス 耐水圧10,000mm
透湿性8,000g/m²・24hrs
オプティミストジャケット 耐水圧20,000mm以上
透湿性20,000g/m²・24hrs
スパイラルジャケット 耐水圧3,000mm以上
透湿性30,000g/m²・24hrs
ストライクトレイルフーディ 耐水圧20,000mm以上
透湿性40,000g/m²・24hrs

公式サイトでは「優れたPUコーティングによる耐水性と透湿性を持つナイロン素材」と記載されているかと思えば、商品タグには「防水透湿ラミネーション」と記載されていたり、「スパイラルジャケット」には謎の「Breathable HYVENT」を使用していたりと、仕様を把握しづらい。

ノースフェイスは2020年シーズンに独自素材「フューチャーライト」を発表しました。性能は高いようですが、まだまだ普及価格帯にはなっていません。

ドライテック(DRYTEC)

モンベルの独自素材ドライテックは耐水圧:20,000㎜以上、透湿性:8,000~20,000g/m²・24hrs(JIS L-1099B-1法)とされています。

ブリーズドライテックはメンブレン自体が疎水性(疎脂性)をもつため余分なコーティングが不要で、通気性を確保していますが、防水透湿性能はあまり変わりません。

イーベント(eVent)

ゴアテックスと同じePTFE系の素材。ゴアテックスとちがうのは、メンブレン自体が疎水性(疎脂性)をもつため余分なコーティングが不要で、通気性が確保されているところです。

ドライQエリート(Dry.Q Elite)

マウンテンハードウェア社の独自素材。イーベントのライセンス供与のもと製造されているという噂あり。防水透湿性能の具体的な数値は公表されていません。「着た瞬間から始まる防水透湿性」を謳い、伸縮性についての言及がないあたり、たしかにイーベントを彷彿とさせます。同社の「ドライQアクティブ」は伸縮性を謳っており、同じ「ドライQ」を冠していても別素材のポリウレタン系だと推測されます。

メーカーに問い合わせたところ、《ドライQエリート、ドライQコア、ドライQアクティブのメンブレンの素材について、現シーズン展開の製品はポリウレタン系のメンブレン素材を使用している》旨の回答をいただきました。今シーズンからゴアテックスを使用した製品が9年ぶりに復活し、今後は使い分けていくようです。

ネオシェル(NeoShell)

ポーラテック社が開発した素材。国内ではティートンブロスが積極的に採用していました。通気性の高さと、伸縮性の高さを謳っています。具体的な数値は公開されていません。ポリウレタン系の宿命として耐久性が気になりますが、フリース製品で確固とした地位を築いているせいか、なぜか耐久性も高そうな気がするから不思議です。ブランド戦略に見事にはまっているのかもしれません。

2021年秋、ティートンブロスは東レと共同開発した独自素材「Täsmä」に移行しました。素材説明を読む限り、ノースフェイスの「フューチャーライト(FUTURE LIGHT)」に似た素材です。

エバーブレス(EVER BREATH)

ファイントラック社の独自素材。透湿性:10,000g/m²・24hr。これは実際に着用したときの感覚により近いA-1法による数値であり、原理的にB-1法より低い数値が出ます。

ドライエッジ ティフォン50000(TYPHON 50000)

2017年春夏シーズンに登場したミレー社の独自素材。耐水圧:20,000㎜、透湿性:50,000g/m²・24hrsを謳っています。登山用品店で店員さんに「透湿性が高いものが欲しい」と告げると、案内されやすい。標準的な生地の厚さ、デザインで、価格がお手頃なので、すすめやすいのでしょう。

冬季のアウターシェルとして保温性を高めた裏地付きのモデルもあります。

ウェザータイト(Weathertite)

2017年春夏シーズンに登場したカリマー社の独自素材。耐水圧:15,000㎜、透湿性:50,000g/m²・24hrsを謳っています。パーテックスシールドと同様、製品が薄く仕上がります。透湿性の公称値はより高く、値段がお手頃です。

透湿性≒通気性の比較

道具マニアなら「どのメンブレンがいちばん透湿性≒通気性が高いのか」という永遠の課題に心を奪われます。しかし個人ユーザーがB-1法やA-1法を試すのは敷居が高い。製品を使って比較実験したYoutube動画を参考にしましょう。

ゴアテックス プロ(Gore-Tex Pro Shell)とゴアテックス アクティブ(Active Shell)には通気性がみとめられません。イーベント(eVENT)とネオシェル(NeoShell)はボコボコと泡を吹き出します。

どうもゴアテックスの分が悪いように思えますが、「バックカントリー穂高」さんのテストではゴアテックスがいちばん湯気を通します。

透湿性と通気性は似て非なるものだと言えるでしょう。

レインウェアの蒸れにくさをレビューした記事において、スペックと体感がしばしば異なる理由がこのへんにありそうです。

素人は「最低限の防水性を確保しつつ透湿する穴を最大化するくらいは、現代科学の粋を集めれば簡単ではないのか」と考えがちですが、穴が大きければよいというものではないらしい。

「エントラント開発、36年の軌跡」(「PEAKS」2015年4月号p.88)で開発者が語っています。

B-1法での数値が低いとウェア内についた水滴をウェア外に発散しにくくなるが、逆に数値が高すぎると水分をウェア外に発散するよりも、防水透湿膜自身が水を含んでしまう結果となり、ジュクジュクの状態となって、湿気(冷たさ)を感じてしまう。
「つまり、ただ数字が大きければよいものではなく、A-1値とB-1値のバランスが取れていることが大事なのです。たとえばアウトドアウェアの場合は、A-1法が8000g以上、B-1法が10000~20000g程度がもっとも快適ではないかと私たちは仮定しました」

なるほど。防水透湿膜自身が水を含んでしまうと、通気性はもちろん透湿性も損なわれるでしょう。空気圧をかけると泡がボコボコ噴き出す実験は見た目に派手ですが、それが安定した透湿性につながるとは限らないわけです。

撥水性が運命を左右する?

レインウェア表面の撥水性が失われて、表地が保水したり、水の膜ができたりすると、どんなに透湿性・通気性が高いメンブレンであっても、たちまち蒸れて内側から濡れてしまいます。

撥水性はメンブレンではなく表地の性能に依存します。各社、耐久撥水(DWR)を謳っていますが、生地の摩擦や汚れで撥水基が倒れると、いとも簡単に性能を失います。土台となる生地ごと損耗していなければ、洗濯と加熱によって復活します。普段のメンテナンスが肝心。水滴がポロポロ転げ落ちるように手入れしましょう。

ドキュメント 気象遭難/羽根田治」の「夏・台風・トムラウシ山-低体温症」の章にこんな記述があります。

余談だが、弓削の服が濡れずにすんだのは、雨具の手入れがよかったからだという。弓削は山行によって雨具を変え、山行後には必ず防水スプレーを吹きつけてアイロンをかけていた。ほかの三人は、ゴアテックスの雨具を使っていたが、メンテナンスはほとんどしていなかった。その差は歴然で、三人の雨具にはすぐに雨が染みこんできてしまったのに、弓削の雨具はほぼパーフェクトな防水性を発揮したのだった。

3層か2~2.5層かで選ぶ

3層の特徴

メンブレン(防水透湿素材)は単体だと破損しやすい。また、汚れや皮脂が固着すると、保水したり、透湿性を阻害したりする。そのため、標準的なレインウェアでは表地と裏地でサンドイッチされています。

2層あるいは2.5層(裏地なし)の特徴

ゴアテックス パックライトなど2層あるいは2.5層の素材は、「裏地がない」もしくは「特殊なコーティングで代用する」ことによって、生地全体を薄くしています。

  • 薄いぶん透湿性能が向上する。
  • 製品が軽量コンパクトに仕上がる。

と、いいことづくめのようですが、

  • 夏場Tシャツの上に直接羽織るような状況では肌に貼り付いて不快である。
  • 裏地が滑らかだと結露しやすい。
  • 生地が薄いと、外側との温度差が大きく、結露しやすい。

という懸念があります。

裏地がトリコットやニットになっているほうが、生地が厚いぶん外側との温度差が小さく、結露しにくい。加えて、裏地が湿気をいったん吸着して徐々に透湿する、いわば緩衝地帯として機能するため、快適さが増します。

一方、裏地までびしょ濡れになる過酷な状況では、2~2.5層のほうが保水しにくく、速やかに乾くとも言えます。どちらが良いか一概には言えません。

2層あるいは2.5層(表地なし)の特徴

ゴアテックス シェイクドライは、パックライトとは逆に表地をなくした2層です。剥き出しのメンブレンは撥水性が高く、保水しないため、透湿性を阻害する要因が最小限となります。ただし耐摩耗性や耐候性が課題で、重いザックを背負って長時間歩く登山には向きません。現状、軽荷のハイキングやトレイルランニングを想定しています。

シェイクドライと同じ発想で、コロンビアが「アウトドライ エクストリーム」を使用した製品を出しています。透湿性能は未知数(限定的?)です。

両タイプを所有し、山行によって選択する

3層と2~2.5層の両タイプを所有し、

  • 雨が降りそうにない≒たぶん使わないから、軽量コンパクトさを優先して2~2.5層を携行する。
  • 気温が低めで、ウインドブレイカー代わりに多用しそうなら、肌触りが良い3層を携行する。

という選び方が考えられます。

伸縮性と経年劣化のトレードオフで選択する

一日に何万歩も登下降する登山ではウェアの伸縮性が乏しいと疲れやすくなります。特に下半身については伸縮性の高さを優先したくなります。登攀要素が多い登山なら上半身だって動かしやすいほうが良いでしょう。

ePTFE系(ゴアテックス、イーベント等)は伸縮性がほとんどなく、ポリウレタン系(パーテックスシールド、ハイベント、エバーブレス、ネオシェル等)は伸縮性が高くなります。

伸縮性に加えて、透湿性、耐久性、価格を勘案しましょう。

素材の系統 伸縮性 透湿性 耐久性 価格
ePTFE
ポリウレタン

伸縮性を優先するなら、ポリウレタン系がおすすめです。ePTFE系の素材も立体裁断によって動きやすく工夫されているものの、素材自体が伸縮するポリウレタン系にはかないません。

ただし、伸縮性が高いと、経年劣化しやすいのが宿命です。ザック裏側のポリウレタンコーティングがべとべとしたり、登山靴のポリウレタン製ミッドソールが突然破壊する現象でお馴染みでしょう。メンブレンが劣化すれば、防水性が落ちたり、逆に微細な孔がふさがって透湿性が損なわれることは容易に想像できます。

ポリウレタン系であっても、ネオシェルは通気性の高さと伸縮性の高さを両立したとされています。エバーブレスはポリカーボネート系ポリウレタンを採用し、加水分解による劣化スピードが極めて遅いとされています。
では、どんな基準で選択したらよいでしょうか。
  • 下半身は比較的汗をかきにくいから透湿性が低めでも大丈夫だ。
  • 登山中に楽をできるなら耐久性が低くても良い。
  • 比較的安価だし、特にパンツについては消耗品と割り切る。

と思うなら、ポリウレタン系を選択しましょう。

  • いや、透湿性と耐久性がイチバン!

と思うなら、ePTFE系を選択しましょう。

店頭で試着するときは、サイズ感だけではなく、必ず立ったり座ったりして伸縮性を確認しましょう。手で引っ張るくらいでは判別できません。ePTFE系とポリウレタン系のちがいは明確です。

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